軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5-1話 帝国と魔術師

夏も夏。ど真ん中とくれば暑さも佳境にさしかかり、イグニたちは寮の中で涼んでいた。

「涼しい……」

技師の手によって完全に修復された冷房の涼しさを全身に受けながら、ベッドの上で眠るサラの頭をそっとイグニは撫でた。サラの頭はイグニの膝の上。今は彼が枕だ。

先ほどまでイグニとユーリとサラの3人で川に遊びに行っていたのだ。とは言っても、ユーリは泳ぐのが苦手。なので、水辺で遊んでいただけだが、それでサラは疲れ切って眠りこけている。

「サラちゃんも、共通語が上手くなったよね」

「だな」

透き通るような紫の髪の毛がイグニの膝の上に広がっている。

ユーリもそれを見ながら、そっとほほ笑む。

「何があったのか、そろそろ聞いても良いんじゃないかな」

「……ん」

サラは『魔王領』の中心で結晶の中に閉じ込められる形で眠らされていた。

アビスの言っていた魔王の娘だということが本当なのだとすれば、サラの身柄は国がきっと拘束する。

その事実を知っているのはイグニとアビス、そしてサラの3人だけ。

だが、サラはアビスとの事件などなかったかのように振る舞う上に、アビスはあれから『 地下監獄(ラビリンス) 』で妄言をまき散らしているので、サラが『魔王の娘』だと言ったとしても誰も信じないだろう。

「言いたくなったら、サラが言ってくれるよ」

イグニは自分の膝の上で眠り続ける少女を案じる様に、そう言った。

そこにはきっと並々ならぬ過去があるのだろう。それを語らないのは、聞かれて無いからなのか、それとも語りたくないのか。

どちらか分からないけれど、モテの極意のその8。

――“女性を受け入れられる男はモテる”。

サラにどんな過去があろうとも、イグニはただそれを受け入れるだけなのだ。

「ユーリ。多分、そろそろ 来(・) る(・) から荷物の確認しておこう」

「うん。そうだね。でも、必要なものって着替えだけでしょ?」

「ああ。他の必要なものは向こうで買ってもらえれば」

そういった瞬間、扉がノックされた。

「はーい」

ユーリがドアを開けると、そこには白髪の老人が居て。

「む? お主は大会におったの」

「は、はい! ユーリと言います! よろしくお願いします!!」

ぺこり、と凄い勢いで頭を下げるユーリ。

それも当然。目の前にいるのは“光の極点”。

全ての魔術師の憧れる存在である。

それが目の前にいるのだから、ユーリのように固くなってしまうのが普通なのだ。

「イグニ。今回の同行者は2人かの?」

「ああ。ユーリと、サラ……この子だよ」

「ふむ。噂には聞いておる。その身に有り余る魔力を持つ……とな」

「今は帝国の魔導具で制御してるからな。問題ない」

いざという時はイグニが魔力を使えばサラから余剰分が流れてくるので、なるべく側についておく必要があるのだが。

「うむ。分かった。ならばさっそく行くかの」

ルクスは何でもないように言うので、イグニはそっとサラを抱きかかえる。

「どこから飛ぶんだ?」

「外じゃ。ちょうどよく、それなりの広場もあるしの」

そういってルクスが指さしたのは寮の前にある広間。

つい数か月前にイグニとセリアが戦いを繰り広げた場所だ。

「と、飛ぶって?」

いまいち分かっていないユーリが不思議そうに首を傾げる。

「じいちゃんの魔術だ。一瞬で移動できるんだよ」

「て、転移魔術!?」

「いや、そんなたいそうなものじゃない」

「ほれ、早く来んかい」

部屋の中でぶつぶつ言っているイグニたちを急かすようにルクスが言う。2人は荷物を持って、ルクスの後ろを追いかけるようにして、広場に出た。

「よし。ワシの服を握れ」

「サラは?」

いまだに眠っているサラを抱きかかえながらイグニが尋ねると、

「お前が抱きかかえておれ。絶対に離すなよ」

「……ん」

イグニは短く返事をすると、ルクスの服を握り締めた。

同じように緊張している様子のユーリがルクスの服を握り締める。

「飛ぶぞ」

ぎゅる、と視界が反転すると、気が付けば遥か眼下に寮が見えた。そして、その寮は瞬きする間に見えなくなるのと、景色が凄まじい勢いで後方へと流れていく。

「……す、すごい。これって」

隣にいるであろうユーリがそう言うが、その姿は見えない。

ただ声だけが聞こえてくる。

それもそのはず。この魔術はルクスに触れているものを粒子化し、高速移動を行っているのだから。

「ワシの移動魔術じゃ。かなり速度を落としておるから、 遅(・) い(・) がの」

だが、すぐにアウライト領が見えた。

少なくとも、馬車ならここまで数日かかる。

けれど、一瞬にしてそれも後方に流れていく。

「光は早いが……その速度で移動しても人は捉えきれん。故にあえて落としておるのじゃ」

「歳なんじゃねえの?」

「落とすぞ」

軽口を叩きながらも、あっという間に『王国』を後にして『帝国』の辺境が見えてくる。

陸路から帝都まではぐるりと遠回りになる。王都と帝都の最短距離は海を挟んでいるので、船での移動が普通となる。現にアリシアがセリアに連れ去られそうになったときには、船で移動と言っていた気がするが……。

「……あれ?」

「どうしたんじゃ」

「なぁ、じいちゃん。帝都に行くんだろ?」

「うむ。行き先は帝都じゃな」

「なら、なんで海を渡らないんだ?」

「今は通れぬ」

「なんで」

「まあ、色々とあるのじゃ」

変にぼかすルクスに首を傾げるイグニ。

だがルクスは、それから何も言わなかった。

しばらくして、急速に景色の移動速度が低速になったかと思うと……。

「見えてきたぞ」

ルクスがそう言った。

イグニが進行方向を見ると、目の前に広がる巨大な円形を描く都市が見えてきた。中心に城を置き、それを守るように無数の建物が立っている。王国と比べて、高層建築物が多いように思えるのは気のせいだろうか。

くん、と斜め下に進路が変わると帝都の入り口に向かっていく。一瞬で地面に到着すると、激突する瞬間にふわりと浮かび上がり、そして4人が実体化した。

「……あれ? ここ、どこ?」

「おはよう、サラ。ちょうど着いたよ」

タイミング良く目を覚ましたサラが、目を丸くしてあちこちを見る。

目を覚ましたら寮の部屋から見たことも無い場所に移動していたなど、驚くのも当然だろう。

「こっちじゃ。ついて来い」

そう言ってルクスについて門をくぐる。

門兵が居たが、ルクスを見た瞬間に引いた。

流石は“光の極点”だ。

「宿はもうとっておる。帝都におる間はそこに泊まれ」

「分かった。場所は?」

「案内するわい」

そう言ってルクスとともに街中を歩いていて、ふとイグニは人の様子が王国と違うことに気が付いた。

「……ね、イグニ」

「……ああ。凄いな」

周りを見ると、人間 以(・) 外(・) の種族が多いのだ。

ドワーフ、竜人、そして……獣人。

(え? えっ!? あれ本物のケモ耳!? 猫耳!!? 本物!!!??)

獣人を見た瞬間にイグニのテンションはうなぎのぼり。

本物の獣耳娘を見れるのではないかと心が沸き立つ。

「ここじゃ。これを見せれば部屋まで案内してもらえるじゃろう」

ルクスはそういってイグニに手形を渡した。

「すまんがワシはこれから仕事があっての。しばらく離れる。金は渡すからしばらく遊んでおってくれ」

「仕事? じいちゃんが??」

「ワシをなんじゃと思っておるんじゃ」

「年中暇人」

「…………たまには仕事もするわい」

ルクスはため息をつきながらイグニとユーリにお金を手渡した。

「その子の金はお前が払うんじゃぞ」

「分かってる」

そういってルクスは人混みに混ざるようにして消えていった。

「い、イグニ。どうする?」

「荷物を預けて……観光だ」

何を決まったことを……と、言わんばかりにイグニは言った。

(本物のケモ耳を見れるチャンスだぞ!!)

と、心の中で思ってもそれを顔に出さないのがモテる男である。