軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4-31話 最強の魔法使い

ハウエルはその時、不思議なものを見た。

それは、全てが静止した空間である。

物体を超磁力により前方へと射出する『 極磁砲(コイルガン) 』の魔術は、ハウエルの理論の中にあり、そして絶対的な魔力量不足で成し遂げられなかった魔術である。

故にミイラとなった胎児を飲み込んだときに、直感で理解した。

これは、行けると。

その極地に立てたのだと、理解した。

だから、使った。

それと同時に 赤髪の少年(イグニ) が使った魔術――いや、魔法が発動した瞬間に、射出した金属体が目の前で静止していることに気が付いた。

静止しているのはそれだけではない。周囲に舞っている砂鉄。岩や、瓦礫。その全てが静止していて、ハウエルはそれを自分の極限が見せるスーパースローの世界だと思った。

これまでに数えきれないくらいの死線を乗り越えてきて、そのほとんどで見て来たその世界だと。

だが、それが1秒たって2秒たって。全くもって静止した空間が動きはじめないものだから、 時(・) 間(・) が(・) 止(・) ま(・) っ(・) た(・) のかと思った。

「何が起きたって、顔だな」

全く動かない身体に力を込めた瞬間、目の前の少年がそう言った。

その手元には煌々と小さな『ファイアボール』がある。

ハウエルは喋ろうとして口を動かそうとしたが……動かない。

がっちりと万力で固定されてしまったかのように、口が動かないのだ。

「いま、アンタは俺の世界にいる。言っている意味は分かんねぇと思うから、そこは理解しなくてもいい」

その場における 絶対者(イグニ) がハウエルを見下ろしながら告げる。

「大事なのは、俺の世界ということは俺が中にあるものの時間を自由に操作できるということだ。だから、いまは俺とアンタの精神時間だけを無限遠点まで加速させている。その結果、相対的に周囲の時間が止まって見えるってわけだ」

ハウエルは動かない。いや、動けない。

「これが 魔(・) 法(・) だ」

ただ、ありのままをイグニはハウエルに伝える。

「動けないだろ? 動けないさ。今はお前の精神だけがここに届いているんだから」

「…………」

「俺は正直、お前の研究なんてどうでも良い」

男2人となったこの空間で、イグニはただハウエルに自分の本音を 吐露(とろ) する。

「ここで好きにやってくれれば良いと思う。だが、お前は2つの禁忌を犯した。1つは、ユーリに目を付けたこと」

「…………」

ハウエルは一切動かないが、何かを言いたげにこちらを見る。

いや、姿勢は変わらないからイグニがそう感じただけだ。

ハウエルは動機を教えてくれた。

だからイグニも伝えることで、 平等(フェア) になる。

「俺の友達に手を出そうとしたことが、1つ目の理由だ」

「………………」

「そして、2つ目はエリーナたちに手をあげたことだ」

イグニはそう言って掌をハウエルに向けた。

「だから、お前には同じ目に合ってもらう」

宣告。

イグニは魔法の出力を 最(・) 小(・) 限(・) まで絞ってそれと同時に光の速度で撃ちだされたエネルギーの奔流がハウエルの両腕を撃ち抜いて、削り取った。両の腕を無くしたハウエルが立ち尽くす。

イグニは心の中でため息をついた。

やはり駄目だ。この魔法は強すぎる。

「身体だけなら、動かしても良いぞ」

イグニがそう言った瞬間、ハウエルの脳内に腕を焼き融かされた痛みが走る。だが、それをぐっとこらえてハウエルは口を開いた。

「……イグニ、君。君なら、分かるはずだ」

「まだ弁明をするのか?」

この状況でまだ語りたがるハウエルにイグニは首を傾げた。

既に話は終わったのだ。イグニとハウエルは互いに分かり合えず、ここで衝突した。ならば、もう魔術師として力の優劣で決めるしかない。

「こんな……チャンスは、もう無いんだ。人の澱みがここまで集まって、指向性を持った恨みを持つ空間なんて……どこにも」

「 地下監獄(ラビリンス) にでも行けば良いだろ」

「……っ。あ、あそこは……あそこは、駄目だ」

『魔法使い』どもの監獄。それが、 地下監獄(ラビリンス) 。

“極点”とは魔法使いの呼び名でもあるが、全ての魔法使いが“極点”の名を冠するわけではない。魔法使いの中でも、人を殺し多くの犯罪に手を染めた人でなし共がいる。それらを確保し、収監しておくための監獄こそが 地下監獄(ラビリンス) だ。

「何故?」

「人の澱みが 濃(・) す(・) ぎ(・) る(・) 。あの犯罪者たちの澱みは……使えない」

「そうか」

イグニはそれだけ言うと、ハウエルの右足を撃ち抜いた。彼の右足が蒸発する。

「はっきり言おう。俺は研究に興味が無いんだ。だから、どうでも良い」

「そ、んな……」

「俺はセッタさんから頼まれ、エリーナと協力し、この鉱山を使えなくした元凶を封じ込める。エリーナの後を継いだ俺が行うのは、元凶の排除だけだ」

「……こ、殺すのか」

「殺さない。お前は俺が 殺(・) す(・) ほ(・) ど(・) 強(・) く(・) な(・) い(・) 」

その言葉はハウエルのプライドを著しく傷つけて、

「アンタはニエの腕と足を折り、ラニアの肺を傷つけて、エリーナの四肢を損傷させた。だから、今からアンタには全く同じだけの傷を負ってもらう。それが、償いだ」

「償う!? 俺が何をしたって」

「女の子を傷つけただろ」

そして、最後に残る左足を光が削り取って。

「肺は……この出力でやったら死んじまうから、今回は許してやるよ」

イグニはそう言うと、魔法を消した。次の瞬間、ハウエルの撃った『 極磁砲(コイルガン) 』の砲弾が空の 彼方(かなた) へと消えていく。

そして、山の中腹には四肢を削がれて黙りこくったままのハウエルとイグニだけが残された。イグニはハウエルの服を掴んで彼の身体を持ち上げると、『 装焔機動(アクセル・ブート) 』で、飛び上がった穴の中に戻った。

下ではエリーナが“ 白夜(しろくろ) 姉妹”の治療をしているところで、

「ニエちゃん。ハウエルを拘束したい。もう魔術は使える?」

「はい! 使えますよ」

ニエはエリーナに治してもらった腕と足をさすって、痛みが無いことを確かめると立ち上がって詠唱。対人拘束魔術が発動して、イグニの足元にどろりとした闇が広がる。

「そこに入れておいてください」

イグニは掴んでいるハウエルから手を放すと、どぷんと音を立ててハウエルの身体が闇の底へ沈んで行った。

何かを言うと思っていたのだが、ハウエルはよほど衝撃が大きかったのか何も言わずにただ黙ったまま闇に沈んだ。

「イグニ、怪我はないか?」

エリーナが心配そうに近寄ってくる。

それにイグニは笑顔で頷いた。

「ああ、大丈夫だ。どこにも怪我はないよ」

それにエリーナは安心したようにうなずいた。

「それは良かった。それにしても……ハウエル兄さんに勝つとはな」

「ああ」

イグニはエリーナからの賞賛を真正面から受け取って、

「俺は、最強だからな」

そう言って、ほほ笑んだ。