軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4-28話 騎士と魔術師

イグニはユーリを見届けると同時に、走って坑道へと戻った。赤子の姿をした人の澱みが消えた瞬間、あそこにはもう一つの人の気配があった。隠しきれていない、というよりも隠す必要が無いと思っている気配。

だからこそ、イグニは事の顛末をその場で理解した。

後をエリーナたちに後を任せた。ハウエルは確かに強いだろう。だが、ある程度の言葉は通じるはずだし、何よりも3:1だ。戦闘が起きたとしても、一方的にはならないだろう……という見込みだった。

だから坑道の奥深くから激しい金属同士の激突音が聞こえてきた時は背筋に冷たいものが走った。

そして、ただ何も無いことを祈って。

だが、それはすぐに裏切られた。イグニの目の前には、地を這うエリーナとそれに向かって中規模魔術を使おうとしているハウエル。イグニはすぐに魔術を起動すると、宙に浮かび続ける魔術を撃ち落とした。

そして、向かい合った。

「む。やっぱりイグニ君か!」

「……何やってるんだ」

「うむ。少し面倒なことになったからな! 記憶を少しだけ弄ろうと思ったのだ! まずはそのために無力化をだな」

「だから、傷つけたのか」

イグニの後ろでは必至に治癒を行うエリーナが苦しそうに身体を動かした。ニエは折れた足を引きずるようにしてラニアの元に近づく。ラニアはひゅうひゅうと浅く胸で呼吸をしていた。

「傷をつけたと言っても、治癒ポーションを飲めばすぐに治るような傷だ! 問題はない! だから、これを飲ませたらすぐにでも治癒に取り掛かろう! 安心したまえ!!」

「それは?」

「一時的に記憶を混濁させるポーションだな! これを飲めばここであったことや見たことを忘れるのだ」

「そのあと、アンタは何するんだ」

「うむ。こうして弱ってしまった『赤子』をどうにかして元に戻してやらねならん。しばらくここで餌でもやるさ」

「……『 装焔(イグニッション) 』」

イグニはその言葉を聞いた瞬間に、頭の思考回路をオフにした。

これはもう、会話でどうにかなる相手ではない。

だから、ここで倒す。

「なんと、君もそうか。戦うのか。いや、 こ(・) こ(・) で(・) は(・) 戦いたくはないのだがな」

ハウエルが笑顔で言う。

「 君(・) と(・) は(・) 戦ってみたいのだ! イグニ君!!」

刹那、イグニは上体を大きくひねると、イグニの頭があった場所を、音速を超えた速度で岩の塊が通り抜けた。

「無詠唱のこれを避けるのか! イグニ君!!」

「『 発射(ファイア) 』ッ!!」

「ふんッ!!」

イグニの 火炎弾(ファイアボール) が2発。凄まじい速度で撃ちだされると、ハウエルが張った壁を撃ち抜いて彼の身体に接触――爆破。

「『 装焔(イグニッション) : 徹甲弾(ピアス) 』」

きゅるきゅると生成されたファイボールに魔力が込められて、密度と熱量を押し上げられると楕円形になるほどに高速回転。そして、爆炎の中から岩の鎧を着たハウエルが見えた瞬間、

「『 発射(ファイア) 』」

撃ち込んだ。

ズドッ!!! と、鉱山が揺れたのではないかと錯覚するほどの衝撃波と轟音。そして、莫大な熱が吹き荒れる。

「……ッ!?」

刹那、イグニはバックステップ。遅れてそこに無数の岩の牙が叩きこまれた。

「凄いぞ! イグニ君!! 君は、 見(・) え(・) て(・) いるな!!」

「『 装焔(イグニッション) : 狙撃弾(スナイプ) 』」

いつの間にか天井に張り付くように動いているハウエルに向かって、イグニは狙いを研ぎ澄ます。鎧をいつの間にか脱ぎ捨て、その巨漢に似合わぬ速度でもって移動しつづけるハウエルの狙うべきはその膝。

関節を一撃で砕いて、地面に落とす。

「『 発射(ファイア) 』」

キュドッ!

空気が圧縮され、解放される音とともに放たれた一発の炎弾は移動し続けるハウエルの膝に吸い込まれるように動くと、しかしそれは防がれる。だが、イグニも一撃で決められるなどとは考えていない。

初弾が駄目ならば、次を撃つだけだからだ。

「君が羨ましいよ! イグニくん!」

「…………」

天井からイグニを執拗に狙い続けるハウエルは、しかしイグニに全弾避けられてなお歌うように紡ぐ。

「君は魔力の熾りが見えている!」

「……あぁ」

そう、ハウエルの言うようにイグニには魔術を使う始点となる魔力を熾す瞬間が見えている。それは2年間にもわたるルクスとの特訓で磨き上げた技術。そして、魔術とは魔力を使うものであるからこそ、魔力の熾りからは逃れられない。

だからこそ、【極光】の属性を持つフレイとの戦いであってもイグニは魔術を避けることができた。そして、フレイの魔術が光速に対してハウエルの魔術は、たかだが 音(・) 速(・) を(・) 超(・) え(・) た(・) 程(・) 度(・) 。

イグニには、遅すぎる。

「だから、どうした」

「こんなに強い相手と戦うのは久しぶりだ! 胸が躍るぞ、イグニ君!!」

イグニは頭の中でハウエルをどこまで損傷させるかを思考。

拘束はユーリかニエの魔術で良いだろう。

それは、余裕の表れだった。ハウエルは強いのだろう。

だが、それは遠く“極点”に及んでいない。

ルクス、セリア、フローリア、クララ、アビス。

その誰もが“強者”だった。

誰も彼もが油断のならない相手だった。

だが、ハウエルは違う。

所詮は才能に恵まれただけの、若者に過ぎない。

だから、イグニは油断した。

「『 強磁力(テツラ・マグネティカ) 』」

ここに来て、初めての詠唱。バジッ! と、短い音とともにハウエルが 目(・) の(・) 前(・) に移動!

「ふんッ!!」

ハウエルが短く叫ぶと同時に拳をイグニに振るう。

「『 熾転(イグナイト) 』ッ!!」

咄嗟(とっさ) に身体の魔力を回して、防御を高める。遅れて、イグニの身体が数十メートル離れた壁に叩きつけられ、それでも勢いを殺しきれず壁を突き破って奥の坑道に飛び出た。

「『 強磁力(テツラ・マグネティカ) 』」

そして、それを追いかける様にしてハウエルの巨体がイグニの身体にドロップキック。数十メートルという加速炉を活かした一撃を、イグニは腕をクロスしてガード。動かないが故に、魔力の回転はここに来て最高回転の毎秒150回転!

ズン、とイグニの脚が一瞬地面に沈み込む。

それに対して目を丸くするハウエルに、イグニは牙を見せる様に口角を釣り上げた。

「『 装焔(イグニッション) : 砲弾(キャノン) 』ッ!」

ぎゅるっ、と回転を伴うようにして空中にいるハウエルの真下に生み出されたのは巨大なファイアーボール。

「『 砲撃(ファイア) 』」

ドンッツツ!!!

イグニの詠唱とともに真上へと打ち上げられる一撃を食らったハウエルの身体は天井を貫いて、上に上に吹き飛ばされる。

そして、完全に天井を突き破って鉱山の外に出るとファイアーボールが爆発。

イグニは追いかける様にして、『 装焔機動(アクセル・ブート) 』。

ぽかりと開いた天井から外に出る。

外に出ると、巨大な月がこちらをまっすぐ見下ろしていた。

そして、イグニは地面に横たわったまま笑い続けるハウエルを見る。

「ふははは! 凄まじい! 凄まじいぞ!! イグニ君!」

「そうか。じゃあ、すぐに終わらせてやるよ」

「いーや。まだだ! まだ戦えるとも!!」

場所を仕切り直して、両者が対敵。

「 戦場(フィールド) が広くなった。これからは、俺のターンだ。イグニ君」