軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4-14話 友と魔術師

エリーナとイグニは2人で山登りをしていた。エリーナがイグニを誘って、あたりを一望できる場所に連れていくと言ったのだ。女の子に誘われれば絶対にNOが出ないイグニは秒で頷いて2人で山を登っていく。

登ること数十分。頂上について、辺りを見ると本当に周囲を一望できた。

「見てくれ、イグニ。これが私たちの土地だ」

「凄いな」

眼下にアウライト邸を見ることができた。アウライト邸の周囲はちらほらと建物がいくつも建っているものの、街というよりも村という方が近いような感じがする。アウライト領はその土地の広さのわりに、人口はかなり少ない。すぐ近くには広大な畑が広がっていた。

王国の中でも端の端、辺境の土地だからだ。

鉱物資源が多く眠っていると言われているが、他の貴族と土地のことでもめることは少ない。アウライト家が辺境を任されているのは国防を任されているからだ。

「この畑は、なんの畑なんだ?」

「うん? これらは果物だな。ちょっとだけなら他の領にも売ったりしている」

「アウライト家の果物か。こういったら失礼かもだが……そんなに有名ではないな」

「仕方ない。ウチはミスリルの方が有名だからな」

エリーナはそう言ってほほ笑んだ。

「水、飲むか? イグニ」

「貰えるとありがたい」

【水】属性魔法が使えないイグニはエリーナから水を出してもらうと、それを飲み干した。

「美味い」

「うむ。そうだろう。山登りは良いものだ」

「好きなのか?」

「小さいころは兄さんたちと一緒に良く登ったんだ。この山に」

どこか遠くを見るようにして、エリーナはそう言った。

「あの時はまだ……家族の仲は良かったんだ」

「まだ……?」

触れて良いところか分からず、けれどイグニは問うた。エリーナから喋り始めたということは、聞いて欲しい話かも知れないからだ。

「ああ。私と家族の仲が違えたのは……やっぱり、次席を取った時だったよ」

「結構最近なんだな」

「うむ。やっぱり、それだけ首席であることが 普(・) 通(・) だったんだと思う」

「……普通、か」

イグニもかつての父から寄せられた期待とやらを思い返しながら呟いた。普通という言葉に言外に込められた意味を感じ取って、鼻で笑う。普通なんてものは、個々人の中でしか通用しないというのに。

「なら、エリーナ。見返してやろうぜ」

だからイグニも、エリーナと同じ場所を見ながらそう言った。

「見返す……?」

「ああ。圧倒的な結果を出せば、誰もがエリーナを認める」

「で、でも私は次席を取ったし……。それに、2つ目の名前もないし……」

「俺にも無いよ」

イグニはエリーナの目を覗きこんだ。

「俺はエリーナが頑張ってるのを誰よりも知ってる。エリーナが一番凄いんだってことをよく知ってる。だから、エリーナ。今度は俺を頼ってくれ」

「イグニを……?」

モテの作法その13。――“困った時はちゃんと相手を頼るべし”が、序文であるならば。

「そうだ。 試験(テスト) の時、エリーナは俺を助けてくれただろ? だから、今度は俺がエリーナを助けたい」

――“そして、頼られる相手となるべし”だ。

「エリーナも知ってると思うが、俺は 強(・) い(・) 」

「あ、ああ。知ってるとも」

「だから俺の全部をエリーナに伝えたら、エリーナはもっと強くなれる」

「そ、それは……!」

エリーナはイグニの戦い方を知っているわけではない。彼がどれだけ強いのかを実際に見たのは『魔術闘技大会』での戦いに過ぎない。『黄金の世代』で最強と 謳(うた) われていたフレイを『ファイアボール』だけで倒したということしか知らない。

だが、噂には聞いている。

公国で極点たちを相手に戦ったという噂を、エリーナが魔力のキャパオーバーで気絶したあのビーチで“闇の極点”を相手取って勝利したという噂を。

「で、でも良いのか……? 私なんかが……イグニに教えてもらっても……」

「何言ってるんだ。エリーナ だ(・) か(・) ら(・) だよ」

「私……だから……」

ぽつりとエリーナが繰り返す。

イグニはエリーナから目をそらさない。

「そうだ。だから、いつでも俺を頼ってくれ。俺はエリーナに助けられた。俺もエリーナを助けたい」

「……うん」

エリーナは顔を赤くして頷いた。可愛い。

「よし。イグニ。そろそろ降りようか。昼食の時間になってしまう」

「そうだな。そうしよう」

かくて2人の距離は少しだけ縮まって、屋敷へと戻った。

その日はエリーナにセッタから鉱山に関係することが伝えられて、翌日の早朝出発ということに決まった。しかしイグニは絶対に起きれないことが目に見えているのでエリーナに起こしてもらうように頼むと爆睡。

翌朝、まだ太陽も登りきっていないうちに起こされて馬車に乗って出発となった。

「ふぁ……。今日は馬車なんだな」

イグニはまだ眠いので 欠伸(あくび) をしながらエリーナに尋ねると、彼女はこくりと頷いた。

「竜車は道が安定している場所じゃないと危ないからな。これから私たちが向かうのは、アウライト領の中でもさらに端。街道が整備されていない場所も通るんだ。そんなところを竜車で走ったら、危険なのだよ」

「なるほど。そういうことか」

「とは言っても、今日の夜にはつくだろう」

「夜、ね……」

イグニからすれば飛んだ方が速いのだが、アウライト家が自ら対処に乗り出した……という安心感が鉱山労働者と、その付近の住民には大切なんだろうというくらいの判断は出来るので、それには何も言わない。

「でも、まさか学校の制服を着て行け……って言われるとは思わなかったよ」

イグニはロルモッド魔術学校の制服を指でつまみながらそう言った。彼も正装ということで、念のために持ってきていたのだがまさかこんなところで活躍することになるとは思っていなかった。

「うむ。アウライト家という安心感と、ロルモッド魔術学校の生徒たちという安心感は大きいからな」

「……ま、そうだよな」

ロルモッド魔術学校の制服は白を基調とした色の明るい制服である。制服は当然、防刃防魔素材で作られているが、白である理由は 目(・) 立(・) つ(・) ためでもある。

魔術は攻撃範囲が広く仲間を巻き込むこともしばしばあるし、何よりも派遣された魔術師が目立ったほうが国民の安心につながる。そういう意図も込められて、ロルモッド魔術学校の制服は練られているのである。

さて、そんなこんなで馬車に揺られること数時間。

日が沈みかけているころに小さな村が遠くに見えてきた。

「……腰が痛い」

「お疲れ様です。エリーナ様、イグニ様。今日の宿泊はあちらです」

ここまでほとんど休みなく御者をしていたエラが顔色1つ変えずにそういうので、イグニも少しだけ腰の痛みを忘れるようにして村を見た。

「小さな村ですね」

「ええ。ですが、ここが鉱山に一番近い村ですので、明日から鉱山に向かえます」

馬車が村に近づくと、慌てた様子で白髪の老人が飛び出してきた。

「これはこれは、アウライト家の方々。遠路はるばるようこそおいでくださいました」

「村長。我々が休める場所を」

「用意してあります。おい、案内しなさい」

「はい」

そう言って前に出てきたのは白髪の少女。村民らしく格好は質素だったが、明らかに女の子の服を着ていたのでイグニは感心。服1つ取っても微細な部分で男女違うのだなぁ……と専門家みたいに唸る。

「こちらです」

と、エラさんに頭を下げて先導する。案内されたのは村の中心部。

他の家と比べてかなり立派なつくりをしている家だった。

恐らく、こういった時のためにアウライト家が泊まる専用の家なんだろう。

エリーナが先に降りて、イグニがその後ろに続くと先導していた女の子が「あっ」と声を上げた。

「イグニ! 久しぶり! エリーナさんも!」

「……?」

イグニは首を傾げる。こんな村に女の子の知り合いなんていたっけ……?

とか考えていたら、エリーナの方が先に気が付いた。

「ユーリか! 久しぶりだな!!」

「え? ユーリ!?」

イグニは驚愕。

「あ、そっか。こんな格好してるから、イグニにはちょっと分かりづらかったかな」

「こんな格好って……別におかしくないじゃないか。ユーリ。むしろ君はこういう女の子の服を着るのが当たり前で……」

と言いかけているエリーナの服をちょいちょいと引くイグニ。

多分、あの勘違いをしているだろうからイグニは伝えることにした。

「む? なんだ、イグニ」

「あのな。エリーナ」

「どうした」

「ユーリは男だぞ」

エリーナは膝から崩れ落ちた。