作品タイトル不明
第4-9話 再確認の魔術師
「ここがイグニの部屋だ。好きに使ってくれ」
「ありがとう。助かる」
父親とのやり取りを終えて少しほっとした様子のエリーナはイグニを客室まで案内してくれた。
流石は一流貴族の客室というべきか、客室は広くベッドも天蓋付きのものである。掃除も行き届いており、埃は一つとして落ちていない。昔のウチもこうだったのかなぁ、と思いながらイグニは部屋の中を見渡した。
「そうだ。イグニ。これから、修練場の方に行くんだが来ないか?」
「修練場?」
「学校での模擬戦場のような場所だ。アウライト家は剣術を教えているから、その練習をする場所があるんだ」
「面白そうだな。行っても良いか?」
「もちろんだ」
ということでエリーナに続いてイグニは外に出た。綺麗に手入れの整っている庭園を抜けて、端の方に向かっていくと木剣と木剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「もう誰かがいるみたいだな」
「人気なのか? 道場」
「ああ。それなりに生徒はいる」
そういって、エリーナとともに角を曲がった瞬間、修練場が見えてきた。大きさはロルモッド魔術学校の模擬戦場よりもわずかに小さいほどか。男の子も女の子も関係なく子供たちが木剣をぶつけ合っている。
「女の子がちょっと多いな」
「魔術も教えているからな。魔術学校に通えない子供たちは、ここで勉強するんだ」
「……凄いな」
エリーナに対する扱いに対しては思うところもあったものの、あの 当主(セッタ) がこうして子供たちをちゃんと育てているのは予想外だった。
「優秀な子は アウライト家(ウチ) のお抱えになるんだ。裕福じゃなくても、ここで優秀な成績を残せばそれなりの生活が保障される。私たちにも、あの子たちにもメリットばかりなんだ」
そう言って、エリーナは少しだけ 儚(はかな) げに笑った。
だが、そういう風な顔を浮かべてしまう理由もイグニにはよく分かる。
エリーナは危惧しているのだ。自分より優秀な子供が出たときに、切り捨てられるかも知れないということを。そして、当主はそれだけのことをやりかねないということを知っている。
イグニはわずかに会話を交わしただけなので、エリーナの父親であるセッタという人物がどういう人間なのかを知ったわけでは無い。だが、噂で聞いているだけでどんな人間かは分かる。
彼は成果を最重要視する人間だ。結果さえ出せれば、家柄も素性も問わない。だが成果が出せなければ簡単に切り捨てる。例えそれが、自分の家族でも。
「エリーナ……」
イグニはエリーナを励まそうとして、口ごもった。
……ダメだ。
いま励ましても、エリーナには届かない。
イグニは自分を振り返って考えた。もし自分が『 術式極化型(スペル・ワン) 』だと知らなかったときに励まされたらどう思っただろう? 余計な気を回してと怒ったかも知れない。
だから、今のエリーナに必要なのは。
『……よ』
遠く、イグニの脳に声が聞こえる。
『イグニよ』
(じいちゃんッ!!)
――――――――――――
『イグニよ。モテる男とは何じゃとおもう?』
『え? イケメンな男??』
『考えが浅いッ!!』
バァン!!
と、祖父の叫び声に魔力が込められてイグニが吹き飛ばされる。
『イケメンがモテるならそれでも良いだろう。では、 何(・) 故(・) イケメンがモテるのか!!』
『な、なぜ……?』
地面を3回転半転がって、イグニは地面にひっくり返ったままルクスを見た。ちなみに、先ほどまでワイバーンを狩っていたのだが話が急に変わったので取り逃してしまった。
しかしルクスと一緒に居ればよくあることである。
イグニはしばし考えて、起き上がると口を開いた。
『かっこいいから……?』
パァン!!
と、乾いたビンタの音が響いた。
『変わっておらん!』
『ぐへぇ!!』
……そりゃそうだ。
と、思いながらイグニはビンタを受け入れた。
『良いか、イグニ。イケメンがモテるのは、他の何でもない。一緒に居て楽しくなれるから。元気になれるからじゃッ!』
『げ、元気に……!?』
『男に置き換えてみたら分かりやすいッ! イグニ、胸の大きい女と一緒にいたらどうなるッ!! 話が面白い女と一緒にいたらどうなる!!』
『げ、元気になる……。……ッ!? ま、まさか……!』
『そうじゃッ! 元気になれる! 明るくなれる!! そんな人間がモテるのは……必然ッ!』
『ひ、必然……!』
イグニはその時、思考の幅が広がる気がした。
『じゃからこそ、モテの極意のその6――“喋りの上手い男はモテる”ッ! 何よりも、“一緒にいて楽しい男はさらにモテる”ッ!』
『――“喋りの上手い男はモテる。一緒にいて楽しい男はさらにモテる”』
イグニがぽつりと呟く。
『イグニよ』
そしてイグニが何かを掴もうとした瞬間、ルクスが静かに宣告した。
『――視点を、 上(・) に持つんじゃ』
『かっけぇ……』
イグニは本心からそう言った。
――――――――――――
そうだ……! 一緒にいて楽しい男がモテる……!!
当たり前すぎて……忘れていた……!!!
俺は……。
俺は……何をやっているんだ……ッ!
イグニは自分を殴りつけんばかりに叱咤する。
一緒にいて、楽しくない男は……モテないッ!!
「エリーナも修練場で技を磨いたのか?」
「……うん」
「そっか。見てみたかったな」
イグニは修練場を見ながら、そう言った。
「わ、私の修練なんて見ても何も楽しくないぞ……」
「だって、エリーナは俺の中で 一(・) 番(・) だったから」
ぴく、とエリーナがわずかに反応した。
「今まで戦った中で 一(・) 番(・) 強かったエリーナが、戦ってるところ見てみたかったよ」
「い、一番……! 私が……!」
「ああ。もちろん」
「そ、そうか……。むふふ……」
先ほどとは打って変わって、ちょっとだけもじもじし始めるエリーナ。
ちなみにイグニはこの状況について深く考えていない。
とにかく今はエリーナの暗い気分を払拭するのが一番だ。
「うん。そうか! そうだよな!! 私が一番だもんな!!」
そして、急に胸を張って元気になるエリーナ。
「よし、イグニ! 模擬戦だ! 模擬戦をするぞ!!」
「な、なんで……」
元気になったエリーナはイグニを引っ張って修練場に。
なされるがままに、修練場まで引っ張られるイグニは疑問で返した。
「だって、私が一番だから!」
それにどや顔で返すエリーナ。
駄目だ。話が通じなくなっちゃった。
そういえばエリーナってこうだったなぁ、と思いながらイグニは続けた。
「エリーナは一番だから、戦う必要は無いんじゃないか?」
「……む?」
エリーナの動きが止まる。
「でもイグニは私の戦う姿が見たかったんだろう?」
「うん。でも、今はエリーナが一番って知ってるし」
もはや自分で何を言っているのかイグニは意味不明のまま喋った。
「そうか。イグニがそういうなら、辞めておこう」
そして、なぜかイグニの道理が通ってエリーナはイグニから手を離す。
「でも、今度戦うからその時は見てくれよ」
「ああ。もちろんだ」
イグニはとびっきりの笑顔でそう返した。
深く考えたら、負けだと思った。