軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90:強襲するもの

「裏で作ってもらった爆発の魔道具。一つ一つは大した威力を持たない物ですが、数と拙者の魔術を組み合わせれば御覧の通り。特に強化もされていない家一軒ぐらいは容易に吹き飛ばせますし、対策をしていない人間なら木っ端微塵なのですが……」

煙の向こうから男の声がする。

以前に見かけた、魔道具売りの店主の声だ。

「そう容易くは無いようで」

「当然でしょう。この程度も防げないようでは宮廷魔術師は名乗れない」

「……」

煙が晴れ、ヘルムス様が咄嗟に張った、船底型の水の壁の向こうに男の姿が見えた。

右目は紅色の肉体属性。

そして左目は紫色の虹彩に、時計の針を模した瞳孔……いや、あの瞳孔、壊れた時計の針のように動いているな。同じ場所を行ったり来たりしている。

とりあえず、第二属性持ちなのは確かか。

「さてノスタ・ルージア。容疑については改めて述べるまでもないな?」

「そうですね。殺人、傷害、器物破損、放火、窃盗……他にも色々とありますが、思えば随分と罪を重ねたものです。ああ、王国への反逆罪もありますか? 捕まえたければどうぞ。ただ、拙者を捕まえたところで、王都を襲っている拙者の魔物たちが止まるような事はありませんが」

「でしょうね」

ヘルムス様の言葉にノスタはなんて事もない様子で己の罪を認める。

さて、罪を認めて、相手が第二属性持ちなら、何もさせないようにするべきだな。

「そして、大人しく捕まる気も……っ!?」

「暗黒支配」

と言うわけで、暗黒支配を発動。

ノスタ体内の闇を支配し、物理的に掌握する事によって、ワタシが許さなければ呼吸も瞬きも出来ないようにしてやる。

勿論、『 わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ) 』の維持を優先しているので、以前使った時よりも多少出力は落ちているが、それでもトリニティアイの魔術である。

相手が人間で、体内に闇がある限り、抗えるようなものではない。

「見事です、ミーメ嬢。そのまま気絶させてしまいましょう」

「そうで……」

ワタシは顔を青褪めさせつつあるノスタの意識を奪うべく、慎重に力を込め始める。

「っ!?」

「ミーメ嬢!?」

が、十分な力が入る前に暗黒支配が解除された。

しかしそれはノスタの力が上回ったわけではない。

「ふぅ。危ない危ない。事前に知って、対策をしていなければ、会話する機会すら無いとは。全くもって傲慢な魔術だ。しかし、だからこそ貴様らの立場と言う物がよく出ている。拙者のような辺境の有象無象は黙って死ね、まるでそう言っているようだ」

いつの間にかノスタの身体が内側から輝いていた。

体内から闇が取り払われていた。

なるほど、暗黒支配は体内の闇が無ければ制圧できない魔術。

だから、特別な魔道具……恐らくは光属性の闇払いとでも言うべき魔道具を用いる事で、ワタシの暗黒支配から脱して見せた、と。

「事前に知っていただと?」

「ええ。以前使っていた所を見せてもらいましたよ。いやはや、彼女たちの献身が無ければ、拙者は此処で終わっていた」

「あの時ですか」

どうやらノスタはワタシとジャーレンたちが戦っている現場を覗いていたらしい。

教会内に他の人間の気配はなかったと思うので、壁の壊れた場所からか、魔道具を使って覗いていたか……いや、第二属性が『郷愁』なら、過去視も出来るのかもしれない。

だったら、何処でどう情報が漏れていても不思議ではないか。

「あの時の戦いは拙者にとって、とても重要な物でした。拙者の作品で宮廷魔術師を倒せるか否か。それを判断する格好の機会でした。アレで倒せるならば、拙者の計画はそのまま進めればよい。そうでないなら修正が必要でしたからね。結果は無念と言う他ないもの。細かいやり取りまでは見えませんでしたが、まさかあれほど簡単に退けられる事になるとは思いませんでした。そのため、拙者は必死に考えました。どうすれば貴方方を殺せるかを」

「「……」」

ノスタは流暢に、あるいは自分に酔っているかのように、語り続ける。

その上でワタシたちに対する殺意を向けて来る。

しかし、いったいどうするつもりなのだろうか?

ジャーレンとの戦いを見ていたなら、ただのドラゴンくらいではワタシをどうにかする事が出来ない事ぐらいは分かっていると思うのだが……。

「ペラペラとよく喋る。目的はなんだ?」

「目的? 決まっている。王都を滅ぼすのですよ。スデニルイン辺境伯領が、ルージア村が、拙者の故郷がそうなったように! 人間の土地から魔境へと! 沈めてあげるのですよ! そうなるのが当然でしょう! だって拙者の故郷はそうなったのだから!」

ノスタが吠える。

その表情は憤怒と言って差支えがないもの。

だが、その主張は……全くもって理解できない物だった。

自分の故郷が滅び、魔境に沈んだから、王都もそうなるべき。

どういう理屈で行けばそうなるのか……ワタシにはまるで理解できそうになかった。

「ああ、ああっ! 待っていろ! そうだ。もう少し待っていてくれ。大丈夫だ、よく覚えている。拙者たちの村が、家が、畑がどうやって壊れたのかも。お前たちがどうやって死んだのかも。分かっているとも。同じようにしてやる。それで、それでようやく対等だ。今度は見捨ててやれる!」

「ミーメ嬢、これは……」

「もしかしたら、第二属性が妙なものを見せているのかもしれません。それこそ故郷が滅びる様などを」

「なるほど……」

少なくともノスタが正気でない事だけは確かだ。

ワタシたちに見えていない誰かに語り掛けているようだし、左目の瞳孔が激しく行ったり来たりを繰り返している。

正確なところは分からないが、もしかしたらノスタは自分の第二属性を制御しきれておらず、何かしらの干渉をされているのかもしれない。

あるいは……依存症か?

「ヘルムス様。とにかく捕縛か排除を直ぐにするべきだと思います。何かを隠し持っているのは確かな以上、狂人のフリによる時間稼ぎと言うのも考えられますので」

「そうですね。では」

ヘルムス様が杖の先をノスタに向けると共に、水の球を自身の周囲に複数個生み出す。

そして、それを縄か網に変えて放とうとした時だった。

「煩わしければ殴って黙らせる。ああ、貴族など所詮はそんな物ですよねぇ。だから拙者もそうするのですが」

「闇がっ!?」

「なっ!?」

地面の下に唐突に闇が出来た。

出来た闇は口のように広がって、ワタシとヘルムス様を飲み込めるように地上へと現れてくる。

それは何か巨大な生物の口だった。

だが、普通の生物の歯が口の外と内を分ける門のように一列に生えているのに対して、この生物の歯は口の中に含んだものをとにかく逃さずに噛み砕けるように上下両方ともにおろし金のような歯が並んでいた。

そんな口の中にワタシたちは既に居て、気が付けば地面は消え失せて空中に居た。

「ヘルムス様!」

「ミーメ嬢!」

故にワタシは二体の闇人間を生み出して、ワタシ自身とヘルムス様の体を抱えさせる。

ヘルムス様は二体の闇人間の足元に、水の甲板を作り出して足場にした。

そして脱出。

一気に距離を取る。

「おやおや、これでも駄目とは。本当に宮廷魔術師と言うのは厄介ですね。ですが、避けた。避けましたねぇ。避けなくてはいけなかったんですねぇ! はははははっ! 宮廷魔術師でも、これは避けないといけなかったのですねぇ!!」

「「……」」

ワタシとヘルムス様は地面から出てきたそれに目を向ける。

それはドラゴンだった。

瓦礫で体が出来た、ノスタの魔道具によって復活させられたドラゴンだった。

ただ、普通のドラゴンと違って、その頭部……脳に突き刺さるように、先ほどまでワタシたちと会話をしていたノスタの身体があり、上半身だけを頭の外に出しているような姿になった。

「それが私たちを殺すための手段か? だとしたら、随分と甘く見られたものだ。それでは駄目だったことは以前に証明されただろう。ノスタ」

「以前と同じ。そう見えているのなら、貴様の目は節穴だなぁ。『船の魔術師』ヘルムス・フォン・トレガレー」

ヘルムス様が構える。

ノスタも人間部分はドラゴンの頭で腕を組んでいるが、ドラゴン部分は何時でも飛び掛かれるように構えている。

ワタシは暗黒支配が出来るかを試してみるが……やはり駄目そうだ。

闇消しの魔道具の影響もあるが、単純に『人間』属性がもうノスタの事を人間なのかを怪しむような感じになっていて、上手く感知出来ていない。

「ミーメ嬢。ヨモツシコメの維持を続けてください。ここは私が相手をします」

「よいのですか?」

「むしろお願いします。結局のところ、ノスタは一人であり、ノスタ自身が出せる被害はたかが知れていますので」

「分かりました」

暗黒支配が駄目ならば他の魔術を、と言う事になるが、対ドラゴンで通じる魔術となると『 わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ) 』を維持しながらでは厳しい。

『 わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ) 』を解除するのは、ヘルムス様の言った理由で以って、まだ早い。

となれば、この場はヘルムス様に任せるしかないか。

「ヘルムス様。頑張ってください」

「ええ、お任せを」

ワタシは闇人間に自分を抱えさせて、ゆっくりと退き始める。

ノスタは私の事を追いかけてこない。

「くくくくく、別れの挨拶は終わりましたか?」

「待っていてくれたのか。それは悪い事をしたな」

「何。拙者もまだ慣れていなかったものでして。ええそう、ちょうどいいくらいだったのですよ。では、始めようか。我が郷愁を知れ! 宮廷魔術師!」

「ええそうですね」

ノスタは人間部分でもドラゴン部分でも舌なめずりをしている。

もしかして、ノスタの思考はドラゴン部分の影響をそれなりに受けているのか?

対するヘルムス様は少しだけ杖の先を下げた。

その動作にワタシはもしやと思って、少しだけ視線を動かし……理解した。

「では終わらせましょうか。『フォールオブアクアガレオン』」

「!?」

巨大な水の船がノスタの頭に直撃したのは、その直後の事だった。