軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80:『不安』を見る

「それにしてもヘルムス様は置き換え液の事を知らなかったんですね」

「そうですね。ミーメ嬢の薫陶を受けて魔道具作りそのものは始めたのですが、やはり魔術の研鑽の方に重きを置いてしまうので、置き換え液を必要とするような魔道具にまで至ってませんでした」

「単純な時間不足なら仕方がありませんね」

ワタシの魔道具制作の完了後。

ワタシとヘルムス様は魔道具工房の廊下を雑談しつつ歩いていた。

「では、魔法薬そのものについてはどうですか?」

「傷や毒の治療に関わるような物や、混ぜる事で濁った水を綺麗な水にする魔法薬ならば作った事もありますね。手順書をいただければ、水属性の魔法薬ならだいたい作れると思います。『船』を混ぜた魔法薬だと……直ぐには思いつきませんね」

「そうですね。第二属性を混ぜた魔法薬になると、少し難易度は上がると思います。合う素材、合わない素材も変わってくるでしょうし」

「なるほど。分かってはいましたが、魔道具職人の道もまた険しいですね」

「険しいからこそ、研鑽にはもってこいでもありますけどね」

ヘルムス様は四年前にワタシに出会ってから、魔道具作りを嗜んでいる。

ただ、やはり専門家ほどではないらしい。

まだまだ、基本的な魔道具や魔法薬以上の物を作る気にはなっていないようだ。

思えば、希少素材倉庫の件の時も、作ろうとしていたのは『船』の属性を生かした、水の大量生成が出来るだけの魔道具であって、捻った物ではなかったか。

まあ、ゆっくりやっていけばいいのではないかと思う。

「おや?」

と、ここで不意にヘルムス様が立ち止まり、顔を動かして、周囲を確認する。

「ヘルムス様、どうかしましたか?」

「いえ、何処からか見られたような感覚が……無くなりましたね」

「そうですか。でも代わりに今度はワタシが見られているようです」

ヘルムス様が何に反応していたのかは、ワタシにもすぐに分かった。

何処かからか見られていると言うか、探られている感じがある。

「……」

敵意は無い。悪意は無い。

ただ見られて、何かを……不安に思っている事を探られている?

うん、どうしてだか、そんな感想を抱いた。

そして、視線の出元は……工房の一室のようだ。

ワタシがそこまで理解したところで、見られている気配は無くなった。

「ミーメ嬢」

「そうですね。出元は分かりましたので、行ってみましょう。たぶん、アチラもそれを望んでいると思いますので」

「分かりました。向かいましょう」

と言うわけで移動開始。

ワタシたちは工房の一室の扉前まで歩き、扉をノック。

中から返事があったところで中に入る。

「お邪魔させていただきます。グレイシア様。少々尋ねたい事があったので、来させてもらいました」

「失礼、グレイシア嬢」

「お待ちしていました。ミーメ様、ヘルムス様。まずはお二人のお邪魔をしてしまったことへの謝罪をさせていただきます。申し訳ございませんでした」

ワタシたちが中に入ると、まず最初にグレイシア様が頭を下げて謝罪してくれる。

同様に、手伝いであるらしい部屋の中に居る何人かが同じように頭を下げてくれる。

「お気になさらず。グレイシア様の事ですから、何かしらの意図があっての事だと言うのは分かりますので」

「そうですね。ただ、説明はお願いします」

「勿論でございます」

では、机の上に置かれている大きな魔道具についての説明をしてもらうとしよう。

「こちらの魔道具はわたくしが現在開発中の魔道具です。正式な名称はまだ決まっていませんが、仮の名前として『イーリィマップ』と呼んでいます」

「ふむふむ」

魔道具の外見としては、布部分が透明なテント。あるいは、面が透明なピラミッド。と言う所だろうか。

底の部分には紙……いや、王城の地図が敷かれている。

そして頂点部分からは細い紐のような物が垂らされている。

うーん、占いの道具のようにも見える。

ちなみに、この世界だと占いの魔術は九割デタラメ、一割何かしらの魔術でそれっぽく見せていると言うか、実際に魔術で何かを感知しているものだと考えていい。

ワタシには使えない魔術の一つだ。

「この『イーリィマップ』。機能的には魔道具と言うより杖に近そうですね」

「ミーメ様の言う通りでございます。最終的には誰でも使えるようにしたいとは思っていますが、現状ではわたくしのとある魔術の行使を補助するための半杖、半魔道具のような状態となっております」

「その魔術と言うのは?」

「簡単に言えば、対象とした方の不安を読み取る魔術でございます。こちらに対象とする方の魔力を含んだ魔道具を置きまして、魔道具の下に地図などの図式を設置して魔術を使いますと、その図の範囲内で対象が不安に思った場所へ氷の粒を降らせます」

どうやら、この『イーリィマップ』と言う魔術は、グレイシア様が自身の二つの属性『氷』と『不安』を掛け合わせて作った魔術をベースに、足りない部分を魔道具によって補う事で実用的なレベルで効果を発揮できるようにした魔術のようだ。

今はグレイシア様自身の不安を可視化しているようで、王城の地図の上に氷の粒を降らしている。

見た限りでは……人通りや日当たりの都合で、何かが起きやすそうな場所が、不安に思う場所として示されているようだ。

「なるほど。興味深いですね」

「そうですね。それに使い方も色々とあると思います」

使い方は……幾らでもあるだろう。

今のように地図を敷けば、誰かが不安に思っている場所を可視化出来ると言う時点で、有効性は十分。

図として使える物に生物のスケッチも使えるのなら、体の何処に痛みと言う名の不安があるかの共有をしたり、魔物の弱点を探る事にも使えるかもしれない。

あるいはそう、逃走中の犯罪者の不安を探る事が出来れば、その分布から、何処に潜んでいるかを探る事ももしかしたら出来るかもしれない。

「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが、この魔術には現状幾つもの問題がございます」

グレイシア様の言う問題点。

ワタシもヘルムス様もその問題点が何かは直ぐに分かったので頷く。

「先ほど私とミーメ嬢が感じた視線の事ですね」

「一つはその通りでございます。原因は分かりませんが、どうやらこの魔術で誰かに不安を探ると、探られている事が伝わってしまうようなのです」

「なるほど。それでワタシたちに視線が来たのですね。突然見られてもなお探られていると言う感覚が来るのであれば、視線の実在を証明する証拠になりますから」

「その通りでございます。何重にも安全である事は先に確認してありましたが、迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。改めて謝罪させていただきます」

ワタシの言葉にグレイシア様が改めて頭を下げる。

なので、ワタシもヘルムス様も直ぐに気にしなくていいと返しておく。

今回のこれはどうしても何も知らない第三者を一度は対象にしておかないといけない確認事項だからだ。

もしも、視線が来るのを気のせいだと誤った判断を下して、それで逃走している犯罪者のように、使っている事を伝えるはずもない相手を最初に選んで、実戦運用していたら、とんでも無い事になっていたに違いない。

ちなみに、グレイシア様の何重にも行った安全確認と言うのは、自分たちだけでなく、犯罪者相手に用いた場合も含まれているとの事。

そこで、見られている感覚がある事自体はほぼ間違いなくある事。見られることそのものによる悪影響はない事。事前の通達無しに、この魔術で長時間見られているのは、かなりのストレスになる可能性が高い事が判明。

ただ、犯罪者の言葉では、見られている感覚については信憑性が無いと言う事で、この魔術の事を知らない人間何人かを対象に、数秒だけやってみる事を陛下と宮廷魔術師長が認めたらしい。

なお、正妃殿下にユフィール様他数名……少し見られたくらいなら気にもしないであろう人間に対しても、既に通達無しでやっているとの事で、もう直ぐこちらに報告が来るだろうとの事だった。

「なるほど。相手に見られていることが分かってしまうのは問題ですね」

「そうですね。それにワタシには何処から探っているかも分かってしまいましたので、その部分でも問題だと思います」

「そうでございますか。やはり問題は多そうですね」

解決策は……まあ、無くはない。

が、それよりも先に尋ねておくべき事がある。

「それでグレイシア様。他にも問題はあるようですが、何があったのですか?」

「説明させていただきます。ミーメ様」

『イーリィマップ』の他の問題についてだ。