軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71:『不安』を友とせよ

「ミーメ嬢、グレイシア嬢。クラウンベアの収容、完了しました」

「分かりました。ではグレイシア様。続きは歩きながらで」

「了解でございます」

ヘルムス様の言葉を受けて、ワタシたちは再び歩き始める。

目的地まではまだ距離があるので、話す為だけに足を止めている暇までは無いのだ。

「さて、グレイシア様の相談事ですが。戦闘面に限って言えば、今の状態でも問題ないと割り切ってしまえば良いと思います」

「そうでございますか? 相手が自身の守りで不安に覚えている場所へ飛ばしたり、軌道を変える事は我ながら良いとは思いますが、生成物の強度や威力にムラがあるのは良くないと思うのですが……」

ワタシの言葉にグレイシア様は怪訝そうな考えを浮かべている。

だがグレイシア様の懸念点は実戦においてはそこまで問題があるものではないのだ。

「だから割り切ってしまえば良いんです。一度の魔術で仕留められないなら二度の魔術で。威力の下限を引いたら威力不足なら、下限でも問題の無いように。範囲にムラがあるのなら、いっそ相手が少し動いた程度では外れないように。実戦では相手の想定を外れる事は重要な要素になるので、手の打ちようは幾らでもあると思います」

「なるほど」

「そうですね。これは多少極端な話になりますが、その場での傷の治療が出来ない相手なら、主要な血管の一本、内臓の一つ、関節の一つが駄目になっても致命傷なのが実戦です。なので、グレイシア様が気にするべきは、威力が低くなった時よりも、敵味方が入り乱れるような乱戦になった場合かもしれません」

「……」

とまあ、ワタシが述べたような理由で以って、グレイシア様の懸念点は、分かっていれば対処可能な範疇になるのである。

魔術に混ぜて、戦闘に用いるのなら、だが。

「問題は魔道具に用いる場合ですね。グレイシア様が相談したいのも、こちらの割合の方が大きいのでは?」

「……。その通りでございます。魔道具職人であるのに、第二属性を魔道具に生かす事が出来ないのが、わたくしの現状でございますので」

ワタシの言葉にグレイシア様は何処か悔しそうな表情を浮かべている。

その表情にワタシは視界の端でヘルムス様の顔を捉えて、目線だけで「何かあったのか?」と問いかけるのだが、それに対するヘルムス様の返答は笑顔のまま頷くと言う物だった。

どうやら、第二属性を魔道具に生かせない。という点で以って、グレイシア様は色々と突かれているらしい。

「確認ですが。人間の精神への干渉は無しですよね。具体的には八顕現で言う所の生成、還元、付与、抽出ですが」

「無しでございます。宮廷魔術師長様から行わないようにと厳命されていますし、わたくしも行いたくありません。それから、出力の不安定化も望ましくありません。こちらはわたくしの魔道具職人としての矜持として許しがたい物ですので」

「そうですか」

『不安』の付与や抽出は無し。

まあ、これは当然だろう。

洗脳、脅迫、麻薬的な作用に繋がってしまう。

専門家の指導の下で、グレイシア様が直接行使するならばともかく、魔道具として誰でも使える形にするのはあまりにもリスクが高い。

だが、出力の不安定化については使い道がある。

「でもグレイシア様。出力の不安定化については、敢えて不安定で定まらない事を生かして、サイコロのような物にする事も出来ると思いますよ」

「サイコロ……。ミーメ様。わたくし、賭け事は好まないのですが」

「ワタシも賭け事は好みません。ですが、サイコロが使われるのは賭け事や遊戯以外にもあります。王国でしているのかは分かりませんが、図上演習……と言って通じるかは分かりませんが、上手く行くか分からない行動の成否を判定するのに用いる事などにも使えます」

「通じているので大丈夫でございます。ですがなるほど、上手く行くか分からない部分を人が決めるわけにはいかないのですし、その部分にサイコロ、あるいはわたくしの魔術ですか……」

簡単に言えば乱数発生装置として使えるのだ。

まあ、『不安』の属性が関わっているので、ここぞと言う時にこそ、『不安』に思いつつもあり得ないとしていた現象を呼び込む乱数発生装置になりそうで怖いけれども。

ああ、ファンブルと言う謎の単語がどうしてか脳裏に……。

「コホン……。後もう一つ思いついたのは、グレイシア様が感知している『不安』の可視化でしょうか」

「可視化でございますか?」

「そうです。現状ではグレイシア様だけが感知している『不安』を覚えた箇所に、氷を発生させたり、色を付けるなどして、誰の目にも分かるようにすると言うのはどうでしょうか? 誰の『不安』を感知するのか、などの問題はあるでしょうが」

「……」

それはさておき。

案はもう一つある。

それは可視化による『不安』の共有だ。

これが出来るのなら、例えば機器の設計や点検において、強度面などで不安がある場所を簡単に共有して、対策や修理をスムーズに行えるようになるのではないか。

可能かどうかはグレイシア様当人で無いと判断が出来ないが、挑む価値自体はあると思う。

それこそ、魔道具には出来なくても、魔術として成立させることに成功しただけでも、有用性は破格なはずだ。

「ミーメ様。わたくしの相談に乗っていただきありがとうございます。いただいた案が可能かどうか検証させていただきます」

「分かりました。頑張ってください。グレイシア様」

ワタシの言葉にグレイシア様は微笑んで頷く。

うん、これで上手く行くようなら、何よりと言う物である。

さて、これでグレイシア様の相談については大丈夫だろう。

「ところでヘルムス様」

「なんでしょうミーメ嬢」

なのでワタシはどうしてか先ほどから微笑みっぱなしなヘルムス様の方へと顔を向ける。

「どうしてそんなに楽しそうにしているのですか?」

「ミーメ嬢が魔術について楽しく語っているところを見て、私が嬉しくないはずがないではありませんか。やはりミーメ嬢の考え方や話は参考になる部分が多くて素晴らしいですね」

ワタシの言葉にヘルムス様は輝かんばかりの笑みを向けて来る。

まあうん、ヘルムス様が嬉しいなら、それでいいか。

「しかしミーメ嬢は図上演習の存在について知っているのですね。ただの盤上競技ならばともかく、サイコロを使う物となれば、騎士団や魔術師団の中でも指揮官候補になるべく、日々研鑽を積んでいる者ぐらいしか縁がない物と思っていたのですが」

「何処かの大衆小説で偶々見かけたのを覚えていただけです。ワタシはどういう決まりで進行するのかなどは全く知りませんよ」

嘘である。実際は前世知識の一環だ。

しかも存在を知っているだけで、ルールの類については本当に何も知らないので、これ以上は答えようがない。

「そうですか。では、私と一局するような事は……」

「少なくとも今すぐは無理ですね。盤上競技も単純な物しか知りませんし」

なお、言うまでもない事だが、この手の図上演習でワタシを扱うのは色々と無理がある。

使える魔術の内容を考えると、一騎当千どころではないからだ。

と言うか、『暗黒支配』があるので、対策なしだと対人間はサイコロすら振らせずに終わってしまう。

また、こちらは余談になるのだが、この世界にもチェスや将棋のような盤上競技は存在している。

サイコロを使わず、純粋に知略を駆使するものであるが、兵士、騎士と並ぶように魔術師が居て、事前に選んだ属性ごとに出来る事が少々違う仕様になっているものだ。

嗜んでいる貴族も少なくなく、貴族院ではこの競技をやるためだけの集まりもあるのだとか。

この盤上競技の名前は……ちょっと憶えていない。

まあ、閑話休題で。

「……。音が聞こえてきますか」

それよりも、ワタシの耳が捉えてしまっている音の方が問題だ。

魔術で強化されているワタシの耳は、硬いもの同士がぶつかり合い、殴り合っているかのような音を微かにだが聞き取っている。

この音には聞き覚えがある。

どうやら争っているようだ。

「ミーメ嬢。厄介事ですか?」

「まあ、ある意味ではそうですね。何が起きているかは、見れば分かると思います」

「かしこまりました。付いて行かせていただきます」

ワタシたちは音がする方に……目的地に向かって歩を進めた。