軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55:デートではあるが

「お待たせしました。ミーメ嬢」

「時間通りですから大丈夫ですよ。ヘルムス様」

検討会から数日後。

本日はヘルムス様と二人でお出かけである。

と言うわけで、ワタシの自宅前にトレガレー公爵家の馬車が止まり、ワタシはヘルムス様にエスコートされて乗り込んだ。

「さてミーメ嬢。今日の目的は分かっていますね」

「はい。正妃殿下と側妃殿下の連名で招かれたお茶会に参加するための準備……の前段階。でしたね」

「その通りです」

二人きりと言われると、デートのようなものを思い浮かべたくはなるし、実際、普通のデートで行くような場所にも行く予定はあると聞いている。

が、まずやるべき事は、王族主催のお茶会に出るのに相応しい衣装や装飾品を確保する事である。

これについてはワタシにはまるで知識が無いので、ヘルムス様がサポートしてくれるのは本当に助かる話である。

「緊張しなくても大丈夫ですよ、ミーメ嬢。今日行く所はどこもトレガレー公爵家が出資していたり、長年にわたる付き合いがあるなど、こちら側と断言できる商家ばかりです。どうか安心してください」

「はい。ただ……それにしては、トレガレー公爵家の屋敷に招くような事はしなかったのですね」

「そうですね。招く事も出来ました。ただ、色々と事情がありまして、今回は店の方にこちらから出向く事にしたのです」

「なるほど」

事情……。

ワタシは少し考える。

まず単純に、ワタシに関する記録が店の方に無いと言うのがあるか。

これは身体面のデータだけではなく、どのような素材やデザインが好みであるのかと言う話でもある。

今回は時間の都合上、完全なオーダーメイドではなく、既製品のサイズなどを調整して仕立てる事になっていたはずだが、まったくデータがない状態で、持ち込める素材やデザインに限りがあるであろう公爵家内への持ち込みで全てを済ませるのは無理がある。

と言う事なのだろう。

だがそれに加えて……。

「何かあったのですね」

「流石はミーメ嬢。察しが良くて助かります」

別の事情もあるのだろう。

貴族にしろ、王城にしろ、一つの行動で複数の成果を上げられる機会があるのなら、それを積極的に活用するもの。

今回のワタシとヘルムス様の行動も、出来るだけ上の人間にとって利益になるように調整されているのは当然の事だろう。

「実を申しますと。ここ数日、王都内の一部の令嬢に不審な声かけがあるようです。また、不審な魔道具の売買をしている者が居ると言う話もあります。つまり、不穏な気配をもたらしている何者かが、王都に潜んでいるようなのです」

「なるほど。それでワタシたちが必要な物を買いに行くついでに見回りをし、宮廷魔術師の目があるのを見せる事で、その何者かを牽制しよう。と言うわけですね」

「そういう事です」

うん、実に宮廷魔術師らしい仕事だと思う。

要するに治安維持のための見回りだ。

仕事ついでに買い物をしても良いのだから、ワタシとしても望んで止まない類の仕事だ。

「少しばかり不便をおかけする場面もあるかもしれません。ですが、その代わりに今日の行動は業務として扱われて給料が出ますし、ミーメ嬢が必要な物を買うための費用についても、通常より予算を貰えています。ミーメ嬢に支払いが及ぶ可能性はまずないでしょう」

「それは良い事ですね」

それなのに給料も出ると言うのだから、本当に良い事である。

なお、お金なら沢山持っているであろうヘルムス様も喜ばしそうにしている辺りからして、たぶんだがヘルムス様とワタシの仲を、ジャーレン様のような人間に見せつけると言う目的もあるのではないかなと思う所ではある。

まあ、二人での行動を見せつけられた程度で諦めるような人たちなら、諦めた方が幸せだろうし、これで諦めない人間はどうせ諦めないだろうから、少しでも面倒事を減らせると考えたのなら、ワタシとしても望むところである。

「さて、着いたようですね」

「そうみたいですね」

「ではミーメ嬢、御手を」

「はい」

そうして話をしている間に馬車は目的地……貴族街の大通りで店を開いている商家の前に到達。

ワタシは乗る時と同じようにヘルムス様にエスコートされて馬車を降りると、周囲からの視線を浴びつつ入店する。

「いらっしゃいませ。ヘルムス・フォン・トレガレー様。ミーメ・アンカーズ様。本日は当店に赴いていただき、誠にありがとうございます」

「今日はよろしく頼む。私の婚約者の為だから。金に糸目をつける気は無い」

「本日はよろしくお願いいたします」

店に入ると、当然のように従業員一同と言った空気でお出迎えをされて、店の奥の方へと案内される。

そうして案内されつつワタシは店内を見て回るのだが……。

なるほど。この店は……糸や生地の段階から顧客が選んで、服やドレスを仕立てる事が出来る店のようだ。

ただ、既製品と言うべきか、サンプルと言うべきか、出来上がった状態の衣服も並べられている。

そして、女性だけでなく男性も客らしく、一部の製品には革製の部品も用いられているようだ。

で、そうして並べられている品々のどれを見ても……質が良い。

魔力はともかくとして、それ以外の質が本当に良く、それらを衣服に仕立てる仕事も丁寧で、本当に質が良い。

流石はトレガレー公爵家御用達と言うべきか、平民のままだったら絶対に縁がない店だ。

「あ……」

「ミーメ嬢。どうかされましたか?」

「いえ、魔物素材の布を見つけて、思わず声が出てしまっただけです。服に使いたいと言うわけではなく、本当にただ気づいて気になってしまっただけです。魔道具を作るのに使えそうだな、と」

「ははは、魔道具職人によくあると言うそれですね」

「そうですね」

今更な話だが、この世界の人間が身に纏う衣服は、素材の質と加工の質から、様々に分けられる。

例えば平民であっても。

下層の平民ならば染色されていない亜麻、羊毛、木綿と言ったよくある素材の生地に簡単な加工を施した物。

中層の平民ならば生地などに染色がされて、時には刺繍が施された物。

上層の平民ならば染色も仕立てもしっかりとしていて、作りも相応に複雑な物で、一張羅なら絹が用いられる事もあるだろう。

と言った具合に、生活水準に応じて自然と分かれていってしまうのである。

そして、素材の質の差は、前世知識にある以上に大きい。

魔物素材があるからだ。

「あのライトシープの糸など、風属性ならば重量の軽減。光属性なら暗所で光らせたりできそうです」

例えばライトシープ。

ワタシは実物を見た事が無いが、風に乗って空を飛ぶほどに羊毛が軽いと共に、暗所で蓄えた光を発する性質を持つ魔物らしい。

「こちらはアイアンスパイダーですね。防具にも使える頑丈な糸ですね」

例えばアイアンスパイダー。

その名前が示すように、鉄で出来ているのではないかと言うくらいに硬質な糸を吐く魔物だそうだ。

「この辺りは……名前も聞いたことが無い植物系の魔物の繊維から作られた生地ですね」

「異国から持ち込まれた物もありますね。流石の品揃えです」

他にも、目に着いただけでも数十種類の魔物素材で出来た生地や糸がある。

そのいずれも、魔物とされない普通の動植物から得られた物とは比較にならないくらいに優れた生地ばかりだ。

なお、当然のことながら、お値段も相応。

最も安い魔物素材の生地でも、絹より少し安いくらいである。

……。

うんまあ、簡単に狩れる魔物とアレコレ手間がかかる蚕なら、蚕の方が厄介か。

量や質、評価基準の問題もあるだろうけど。

「と、興味深そうなところ申し訳ないのですが、今回は普通の生地でお願いします。王族主催のお茶会ではありますが、どちらかと言えば気軽な場ですので。あまり気合いを入れすぎても、次回以降にミーメ嬢が困る事になります」

「分かりました」

まあ、それはそれとして、まずは採寸。

それからデザイン決めである。

怪しげな魔道具があるわけでもないので、やるべき事を素直にこなしていこう。