軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45:参加要請続々

「と。そうでした。私の方からもミーメ嬢にお話ししておかなければならない事がありました」

不意にヘルムス様が何かを思い出したように口を開く。

どうやらヘルムス様の方からも何かあるらしい。

ワタシは茶菓子の甘味を打ち消すように、茶を口に含む。

「ミーメ嬢。貴方に正妃殿下と側妃殿下から連名にてお茶会への招待状が届いています」

「ごほっ!?」

咽(むせ) た。

「ごほっ、げほっ、ごほっ……は? あ、いえ、失礼しました」

「ミーメ様大丈夫ですか?」

「あ、はい。何とか。すぅー……はぁー……」

ちょっと信じられない呼称がヘルムス様の言葉の中に混ざっていて、思わず咽た。

咳き込むワタシの背中をグレイシア様がさすってくれるのを感じつつ、ワタシは呼吸を整えて、背筋を正す。

「はい、大丈夫です。ヘルムス様、改めてお願いします」

「分かりました。では改めて、ミーメ嬢。貴方に正妃殿下と側妃殿下から連名にてお茶会への招待状が届いています。時期はしばらく先となりますが、準備のほどをお願いいたします。こちらが招待状の現物です」

「はい」

ワタシはヘルムス様から招待状を受け取る。

手に取っただけで分かるほどに上質な紙に豪華な装飾と封蝋が施された封筒で、中に招待状本体が入っているのだろう。

いやしかし……。

「ヘルムス様。正妃殿下と側妃殿下と言う事は……陛下の奥方たち。と言う事でいいのですよね?」

「ええ。それで合っています」

「そうですか……」

何故ワタシに招待状が?

そう疑問に思わずにはいられなかった。

今更な話だが、『グロリアブレイド王国』は一夫一妻制の国である。

貴族や裕福な平民の男性などは家の外に愛人を囲っている事もあるけれど、愛人の子は爵位の継承権を持たないなど、はっきりと差が付けられているし、正妻を疎かにする者は非難されるのが当然の社会でもある。

これは魔境の開拓や魔物との闘争を考えた時に、内々の揉め事を少しでも少なくするべく、このような方向性でまとまっていったそうだ。

そんな中で、唯一正式に複数の相手を同時に娶る事が許されているのがグロリアブレイド王家である。

ただそこに在るのは王家の特権と言うよりは、何としてでも血を継がなければいけないと言う事情だったり、政治的なバランスを考慮した結果だったり、子供たちを様々な貴族に嫁がせることで支配を強める為だったりと、どこまでも実務と実利に偏った結果である。

愛も情も勿論あるのだろうけど、それより先に国の為と言う大義がある。

間違っても、周囲が羨むような甘い関係ではない。

なお、そんな事情から正妃と側妃になっただけあって、現在の正妃と側妃の仲は良いらしい。

だからこそ、今回も連名と言う形で招待状を送れたようだ。

閑話休題。

「ヘルムス様。何故ワタシが招待されたのですか?」

「理由としてはミーメ嬢との顔合わせがまずはあるでしょう。女性の宮廷魔術師と言うのは、正妃様たちにとっては何かと相談しやすい相手になります。今後の為にも出来る限り早く会っておきたかったのでしょう」

「なるほど」

「他にもミーメ嬢の属性と役割を考えると、王家の私室に入る可能性もありますので、その人柄を知りたかったと言うのもあるでしょう。単純にミーメ嬢に興味があったと言うのもあり得ます。他の貴族たちが呼ぶ前に王家に仕える者なのだと周囲に示しておきたかった。これもありますか」

「多いですね……」

「王家と言うのはそういう物ですから」

どうやらワタシがお茶会に招待されたのは、様々な要素が絡み合った結果ではあるらしい。

ただ一番は最初に言われた通り、顔合わせなのだろう。

それならワタシとしても分かるところだ。

ワタシが宮廷魔術師として王城に仕え続けるのであれば、ワタシの歳からして今後四十年以上付き合う可能性があるのだし、早めに顔を合わせておいた方が何かと都合が良いのは当然の事なのだから。

「それでミーメ嬢。一応お聞きいたしますが、お茶会に参加するためのドレスや装飾品のご用意はありますか?」

「宮廷魔術師の正装では駄目なのですか?」

「今回は駄目ですね。呼ばれた理由は新たな宮廷魔術師であるから。なのですが、招待状には他の一般的な貴族の装いに合わせて欲しいと書いてありますので。確認して見て下さい」

「……。確かにそう書いてありますね。そうなると……無いですね。当然ですが」

ヘルムス様に促されてワタシは封筒の封を切り、招待状を見てみる。

未だ勉強中の貴族特有の言い回しで書かれた文章の中には、宮廷魔術師就任に対する祝いの言葉、しばらく先に設定されたお茶会の日取り、男子禁制である事などが記されている。

で、これらの文章に混ざって、他の貴族の子女に混ざっても違和感がない装いで来て欲しいと言う旨が確かに記されている。

しかし、狩り、魔道具制作、お出かけ、日常生活のいずれにも必要のない衣装を買う機会などこれまでに無かったので、ワタシはお茶会に合うような品は持っていない。

となると、買うしか無いわけだが……。

お金はともかく、何処で買えるのかが分からないと言うか、そういう物を取り扱っている店との縁が無いな。

そこまで考えたところで、ワタシはヘルムス様の方を向く。

「勿論助けさせていただきます。ミーメ嬢へドレスと装飾品の一式を贈る事ぐらい、婚約者として当然の事ですから」

「お金は支払いますが?」

「払わなくても大丈夫です。むしろ払わないでください。今回の事はトレガレー公爵家としても、力を入れたいところですので」

「そうですか。ならばお願いします」

どうやら今回はヘルムス様とトレガレー公爵家が贈ってくれるらしい。

トレガレー公爵家の面子と言うのもあるだろうし、今回は素直に乗せてもらおう。

「ただそうですね。装飾品や小物に関しては一度ミーメ嬢の家にある物を確認させてもらっても良いでしょうか?」

「構いませんが……何かあるのですか?」

「いえ、単純にミーメ嬢ならば一般的な店では出回らないような何かを持ち合わせていてもおかしくないなと思いまして……」

「ああなるほど」

「その考えには同意でございます」

ただ、ワタシが素材を出すくらいはしてもいいらしい。

まあ確かに、ワタシの家なら、動物系の魔物の骨や植物系の魔物の枝や鉱石系の魔物の体の一部くらいはあるので、そう言うのを装飾品や小物に使うのは有りか。

いやいっそのこと、追加でグロリベス森林の深層で何かを探してくるぐらいは考えてもいいのかも。

お茶会に出向くのなら、手土産になるような物を何か用意しておくべきとは、習った覚えがある。

「そういう訳ですのでミーメ嬢。明後日のお披露目会が終わった後、一日時間を作りまして、ドレスの準備などを致しましょう。私が案内します」

「分かりました。よろしくお願いします」

とりあえず、お披露目会が終わった後に買い物をする事は決定したようだ。

今後の為にも必要だろうし、否はない。

それはそれとしてだ。

「しかし……お披露目会にお茶会、その準備と、一気に忙しくなりそうですね。通常業務もありますし、これだとお披露目会の後に検討会や勉強会のような物を催すのは難しそうですか?」

「「!?」」

宮廷魔術師と言うのは、通常業務の他にこんなイベントもこなさないとなると、中々に忙しそうだ。

これでは魔術の研鑽に費やす時間など碌に取れないのではなかろうか。

ワタシとしては記憶が鮮明である内に……それこそお披露目会の翌日にでも、お披露目会で使った魔術について話し合う場を設けたりする方が、成長に繋がると思うのだが……。

「ミーメ嬢」

「なんでしょうか、ヘルムス様」

「その検討会と言うのは是非とも行いましょう。他の業務は何とでもなります。お披露目会に参加する事を嫌がった同僚たちに押し付ければ問題ありませんので」

「は、はぁ……」

なんか気が付いたらヘルムス様が凄く嬉しそうな顔でワタシの横にまでやって来て、手を掴んでいた。

ワタシの考えや教えを知れるいい機会だと思っているのだろうか。

いや思っているのだろうな。

ワタシの事を師匠と慕っているのは変わらずのようだし。

「そうでございます。わたくしも協力しますので、その検討会は行いましょう。検討会では、魔術について様々な事を話し合うのでしょう? わたくしは最初の話し合いに参加できず、苦い思いをしたのでございます。相談したい事もありますので、何卒よろしくお願いいたします」

「そ、そうですか……」

そして、どうしてだかグレイシア様も食いついた。

ヘルムス様ほどではないが、中々の熱量で寄って来ている。

相談したい事とやらは気になるが……まあ、検討会の時に聞けばいいか。

「では明日はお披露目会の準備。明後日はお披露目会。明々後日は検討会と言う流れで良いですか? ヘルムス様、グレイシア様」

「ええ、それでお願いします」

「ようございます」

とりあえず、明日から三日間の予定は無事に決まったので、それで良しとしておこう。

こうして、この日のお茶会は終わったのだった。