軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32:『闇軍の魔女』

王国歴516年、春。

穏やかなれど冷える冬が終わり、草木が芽生え始めた頃。

我らが偉大なるグロリアブレイド王国が誇る宮廷魔術師の列に新たな魔術師が並ぶ事となった。

名はミーメ・アンカーズ。

その瞳、右は『闇』そのものであるかのように、あらゆる物を飲み込んで返さぬ黒。

左は『人間』の血と心が混ざり合ったが如き、美しく輝く赤紫。

胸元に輝くは灰色の宝珠。

身の丈は貴族院に未だ通えぬ幼子のようであれど、齢は十六。

手に持つは魔物の骨より作られた杖。

身に纏うは上質な法衣。

飾りは宝珠とそれに繋がる鎖のみなれど、そこに在るのが道理であると思えるほどに沿うもの。

態度は落ち着き払いつつも、身に纏う物に慣れぬ様子を見せる微笑ましきもの。

少女が宮廷魔術師に叙されるべきと判断された事柄は二つ。

一つは異なる瞳をその身に宿し、次なる属性に目覚めた事。

もう一つは王国を狙うべく、王都に隣接するグロリベス森林に忍び潜んだドラゴンを発見し、討伐。その後、討ち取ったドラゴンを王国へと献上した事となる。

特に後者は少女が圧倒的な力を有する証明であると同時に、王国への忠誠心と貢献を示すものであり、称賛されて然るべきものである。

よって、今日この日……穏やかなる晴れの日に宮廷魔術師として叙任されるに至った。

陛下より宮廷魔術師ミーメ・アンカーズに授けられし二つ名は『 闇軍(あんぐん) の魔女』。

陛下より『闇軍の魔女』へ向けられし問いは、我らが偉大なるグロリアブレイド王国の発展と守護を如何にして為さんとするか。

『闇軍の魔女』の答えは……。

『狩人として魔の物を狩りましょう。魔術にて死なずの兵を駆りて盾となりましょう。魔を込めし道具にて安寧をもたらしましょう。王国の民の為に……ワタシは全力を尽くしましょう』

民が為に魔術を行使すると言うもの。

その答えに陛下は笑みを浮かべ、新たな宮廷魔術師の誕生を言祝ぎされた。

同日。

宮廷魔術師にしてトレガレー公爵の三男である『船の魔術師』ヘルムス・フォン・トレガレーと、新たな宮廷魔術師である『闇軍の魔女』ミーメ・アンカーズの婚約が発表された。

この婚約はグロリアブレイド王家、トレガレー公爵家、アンカーズ子爵家のいずれも認めるものである。

婚約の発表に際して。

『船の魔術師』は誰の目から見ても心の底より喜んでいる姿を露わにした。

対して『闇軍の魔女』は理解が及ばず、何処か混乱した様子を浮かべつつも、それでも決まった事であると背筋を正す姿が見られた。

両者の姿にどちらが婚約を望んだのかは明らかであったが、居合わせた者は皆、この婚約を祝福した。

『船の魔術師』が自らの師を慕っている事は周知の事実であり、師の正体が誰であるのかは『船の魔術師』の言動から明らかであったからである。

此度の事は師として慕う心が少し変わり、男女の仲として慕う心になっただけの事として、周囲は捉えたのだった。

■■■■■

「ヘルムス様。正直な意見を申し上げてもいいでしょうか」

「どうぞ、ミーメ嬢」

宮廷魔術師の叙任式は無事に終わった。

そして、叙任式でのワタシとヘルムス様の婚約発表も無事に済んだ。

これでワタシに手出しできるような人間は非常に限られた者だけとなるが、その者たちはワタシの実力も知っているため、手出しをしてくるような事はないだろう。

で、残るのは精々が嫉妬に駆られた変なのによる嫌がらせぐらいだろうと言われているが……はっきり言って嫌がらせ程度でどうにか出来るようなワタシではないし、何度か派手に対処してやれば止むとも思っているので、これもまた問題は無いだろう。

ただその上で一つ言いたい事がある。

「どうしてこうなったのでしょうか?」

「さあ? 私にも分かりませんね」

ワタシは何故、ヘルムス様に抱きかかえられる形で、衆目に晒されているのだろうか。

ワタシは何故、どちらかと言えば、憐みに近いような視線を向けられているのだろうか。

ワタシは何故、多少、崇められているような気を覚えているのだろうか。

分からない事だらけだった。

だが、何か重要な情報が欠けていると言うか、溺れるしかないような激流に呑まれた感覚があると言うか……。

そんな不穏な雰囲気を感じずにはいられなかった。

「ですが師匠。いいえ、ミーメ嬢。これだけは言っておきましょう」

「なんでしょうか?」

「何があっても私がミーメ嬢を守って見せますので、安心してください」

「……。政治面はお任せしますが、物理的な話に限れば、むしろワタシの方がヘルムス様を守る側だと思いますので、それは覚えておいてください」

正にどうしてこうなったのか、としか言いようがない状況だった。

しかし、それでもだ。

「なにせ魔術に限れば、ワタシはどんな人間よりも強いと自負していますので」

「そうでしたね。ミーメ嬢はそうでした」

まあ、何とかはなる事だろう。

ワタシにはそれだけの力がある。

「ではそのようにお願いします。ミーメ嬢」

「それと、あくまでもワタシとヘルムス様の関係は仮のものです。それを忘れないでください」

「ええ、分かっています。分かっていますから……」

ただ……。

「必ず、貴方の全ての目を私に向けさせてみせます」

「……っ!? そう、ですか」

ヘルムス様にこうして見つめられるのに慣れるのは、まだまだ先の事になりそうだ。