軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26:グロリベス森林の実態

「ヘルムス様。一応お聞きしますが、あの木の向こうで何を見ましたか?」

「……。ただの森だけです。木の周りを半周しても、反対側から周ってきているはずのグレイシア嬢たちの姿は見えませんでした。それどころか、更に四半分周って、ミーメ嬢が居るはずの場所を見ても誰の姿も見えずに、森が広がっているだけでした」

「グレイシア様はどうでしたか?」

「ヘルムス様と同じでございます。なるほど、これは確かに異常ですね」

ヘルムス様もグレイシア様も青褪めている。

当然だろう。

傍目には……何なら魔力的にも、よほど注意深く探らない限りは異常など感じないだろうから。

なのに、気が付けばおかしな空間に入ってしまっているのだから、恐くないはずがない。

「それでミーメ嬢。空間がおかしくなっている、と先ほど仰っていましたが」

「はい。多少長めの話になると思いますし、落ち着くためにもここで小休憩としましょうか。周囲の警戒はワタシの方でやっておきますので安心してください」

ワタシは闇人間を数体生み出して周囲に立たせると共に、隠蔽と休息に特化した『闇』をこの場に付与して魔物に気づかれないようにする。

その上で、闇で作ったクッションを出現させて、そこへワタシは腰掛ける。

ワタシが腰を下ろしたのを見たからか、ヘルムス様たちもその場に腰を下ろしていき、心身を整えていく。

「さて、グロリベス森林の空間がおかしくなっていると言う話ですが……。まず先に、話を通じやすくするためにも、ワタシたちが今居る空間がおかしくなっていない範囲を浅層、あちら側のおかしくなっている側を深層と、便宜上呼んでいます」

「浅層と深層ですか」

「ワタシが数年かけて調べた限りでは、浅層の広さが王都を一回りか二回りほど小さくした程度の大きさであるのに対して、深層はこちら側の面積で見れば直径1キロメートル未満であるのに、中に入れば少なくとも王都数個分の広さがあって、ワタシも把握しきれていません」

「「……」」

「「「!?」」」

ワタシの説明に宮廷魔術師であるヘルムス様とグレイシア様は真剣な顔つきで悩んでいる。

恐らくだが、どうやればそんな広さを実現できるのかを考えているのだろう。

騎士たちは信じられない物を見るような目をワタシと深層の両方へと交互に向けている。

「浅層と深層は植生こそ似ていますが、実態としてはまるで別物です。生息している魔物の種類と強靭さは明らかに深層の方が危険ですし、だからこそ質も良くなっています。ワタシも深層の動植物を全て把握しているわけではありませんが、この傾向に間違いは無いはずです」

「なるほど」

「地形についてもだいぶ違います。浅層では泉や沼は魔物が生息できないような小さなものしかありませんが、深層には人を丸のみに出来るサイズの魚型の魔物が生息している湖と沼が少なくとも一つずつは確実にあります」

「ミーメ様がグロリベス森林内で狩った魚やウナギはそこからでございますね」

グレイシア様の言葉にワタシは頷く。

なお、深層には他にも洞窟はあるし、崖もあるし、どうしてか雑草一本生えていない広場があったりもする。

最後は怖かったので近づいてすらいないが。

「しかしミーメ嬢。どうして深層はこのような状態に?」

「詳細はワタシには分かりません。恐らくは何者かの魔術によって深層の空間は拡張されているのだとは思っていますが。そして、拡張された状態がとても長い事維持されたためなのか、深層の空間は少なくとも浅層との境界線付近については安定しています。なので、いきなり空間を拡張していた魔術が解除されてグシャリなんて事にはならないでしょう」

「そうですか。それは安心材料ですね」

実際、深層の空間は安定している。

ワタシが全力で魔術を放って、森の魔物たちが恐慌状態になる事はあっても、空間そのものは揺るがないから。

「ワタシとしては、むしろヘルムス様たちが何か知らないかと問いたいところですね。グロリベス森林に関する噂話、逸話、伝説などはありませんか? 元凶が分かっていない状態はワタシとしても怖い所なので」

「よろしいでしょうか」

「どうぞ」

ワタシからも質問をしてみる。

すると、少し悩んだ後に、騎士の一人が片手を上げたので、喋る事を促す。

「その、実は以前からグロリベス森林の奥には何かが潜んでおり、安易に近づいてはならないと言う口伝は騎士団内の平民出身者や男爵家出身者の間にはございました。なので、もしかしたら……」

「なるほど。確かにありそうですね」

やはりと言うべきか、前々から話自体はあったらしい。

ただ、この分だと、王都の狩人たちの間に伝わっている、欲深い者がグロリベス森林の奥へ行ってしまうと帰ってこれない。と言う話と、そこまで変わらなさそうだ。

高位貴族にこの口伝が伝わっていないのは……まあ、そもそもとして、その地位にある人間がグロリベス森林の奥へ行くような事がないからだろう。

ちなみにワタシは最初、この手の話を全く知らずに深層へと入り込んで、酷い目に遭ったことがある。

まあ、ワタシはいざとなれば、野生生活を送れるだけの魔術の腕前と精神性があったので、何とかなったが。

「……。ミーメ嬢。グロリベス森林の深層に関係があるかは分かりませんが、公爵家に伝わる書物の中に、グロリベス森林に関係するものはあります」

「どのようなものですか? ヘルムス様」

「建国神話の開拓王。その開拓王が『豊穣』の属性を授かった後、グロリベス森林でその力を解き放った。と言う話です。その結果としてグロリベス森林は草木が生い茂り、魔物を含む数多の生命を支えられるようになった。とか」

「ふむふむ。確かにありそうですね」

ヘルムス様の言葉でワタシの中で一つの筋道が立った。

開拓王の属性は確か『光』『剣』『豊穣』で、ドラゴンを倒した開拓王はそこで開拓の歩みを一度止めていたはず。

だからこそ『豊穣』と言う開拓に使える属性を選んだのだろうから。

で、魔術師と言うものは、そこに在るならばどうしたって一度くらいは全力で魔術を放ってみたくなる物なので……全力の『豊穣』をグロリベス森林の深層になった場所で放ったのではなかろうか。

そうなると、放たれたその場所では草木が急成長するはず。

それこそ、急成長しあった草木がお互いを潰し合おうとするほどに。

そんな環境に追いやられたなら、どんな魔物も必死に抗おうとするはずで、その抗いの過程で空間を操れるような第二属性に目覚めたっておかしくはない。

結果、今のグロリベス森林の深層のような状態になったのではなかろうか?

うん、無くは無いと思う。

「しかしミーメ嬢。こうなると……本日の狩りはどうしましょうか?」

「と言いますと?」

「まず、ミーメ嬢の情報によって、深層の危険性は大きく上方修正されました。この情報を王城では把握しておらず、持ち帰る事は国益上、非常に重要な事となります」

ふむふむ。

本当に王城が深層の事を把握していないのなら、ヘルムス様の言う通りではある。

あり得ない事だが、もしもワタシたちが誰も帰らなかったら、この情報は失われてしまうわけだし。

「ですので、此処で戻るのも一つの手だと思うのですが……」

「ワタシの魔術の腕前が見せられていないので、出来れば帰りたくないですね」

「そうですね。ミーメ嬢としてはそうなるでしょう」

ただ、今回の行動の目的が全く果たせていないのは、ワタシとしては困る話になる。

ワタシは魔物を狩る姿を見せに来たのであって、グロリベス森林の深層の危険性を伝えに来たわけではないので。

「では折衷案でございますね。ミーメ様曰く、浅層と深層の境界は安定している。ならば、境界となるこの場で魔物を狩る事を狙うのは如何でしょうか? それならば、何かがあっても直ぐに浅層へ逃げる事が可能です」

「……。そうですね。グレイシア様の案で行きましょうか」

うん、グレイシア様の案でいいだろう。

深層の魔物の多さと習性に、アレらの存在を考えれば、ちょっと境界の辺りで待っていれば、魔物の数匹くらいは寄ってくるはずだ。

「では、小休憩を終わらせて、狩りの時間にしましょう」

ワタシは立ち上がると、意気揚々と深層へと近づき、足を踏み入れる。

そんなワタシに続くように、ヘルムス様たちも改めて深層へと足を踏み入れた。