軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

177:効率と安全の改良

「ミーメ嬢。折角ですので、改良がなぜ必要なのかから話していただけますか? その方がストリン嬢としても必要性が分かり易く、今後の私の魔術の参考になるかもしれませんので」

「分かりました。ではそのようにしましょうか。ストリンさんもそれでいいですか?」

「むしろ、よろしくお願いします」

ヘルムス様に指摘をされたので、ストリンさんの素材の糸化魔術の改良点については、なぜ必要なのかから話し始める事にした。

「ではストリンさん。まずは手を見せてもらえますか?」

「手ですか?」

ストリンさんの手は、糸紡ぎをし続けた人間の手と言うべきか、荒れている箇所やマメが出来ている箇所が多い。

貴族令嬢の手では断じてないのだろうが、これはストリンさんがどれだけ真摯に仕事を続けてきたかを示し、どれだけ技量を高めてきたのかを示すものでもある。

ただ、これが出来てしまうからこそ、改良しなければいけない。

「ストリンさんの手を見る限り。ストリンさんは糸から闇を引き剥がす時に、紡いでいる糸に直接触れています。そうする事で糸の品質が上がっている面もあるのでしょうが、今後の事を考えると、この点については早急な改良が必要です」

「んー? それはどういう事ですか?」

「魔物素材の中には有毒性の物、高温の物、極低温の物など、触れるだけでも危険な物も時折あります。また、単純に硬い素材が糸となり、細くなった上で、糸車に引かれれば、刃物のように触れた物を切り裂く可能性があります」

「っ!? そ、それは勘弁してもらいたいです」

「でしょうね。なので、安全性を高めるための改良がまず必須です」

ワタシの言葉にストリンさんと侍女たちが軽く怯える。

ヘルムス様とペスティア様は、ワタシの挙げた素材に心当たりがあるのか、怯えるストリンさんを落ち着かせるように頷いている。

「やり方としては単純です。直接触れると危険なのですから、手と同じだけの精度や感覚を持つ闇を纏うか、手の形に作ってしまえばいいんです」

「おおっ……」

ワタシは自分の右手に闇を纏いつつ、闇人間を腕の先だけ出して、両者を見せる。

ちなみに、この手の危険物を取り扱えるようになる魔術の需要は高いので、使えるようになっておくと何かと便利である。

そうワタシは思っているのだが……どうしてか、この手の魔術を習得している人はあまり見かけない。

何だったら、攻撃用の魔術にだって転用可能だと思うのだが……謎である。

「それで詠唱はどんなものですか?」

「あー、詠唱は……ワタシはあまり詠唱はしないんですよね」

「ストリン。詠唱については、後でアタシと一緒に考えよう。詠唱抜きで新規魔術を作れちまう魔術師に詠唱を尋ねても、それはアンタに公爵の仕事を尋ねるような物。分野違いって奴だよ」

「え、あ、はい。ごめんなさい。『闇軍の魔女』様」

「いえいえ。あ、助かりました。ペスティア様」

「気にしなくていいよ。そこはアタシの仕事ってだけさ」

新規詠唱については、考えるのが結構大変なので、ペスティア様の申し出は素直に助かる。

ただ、何も手がかりが無いのでは、ストリンさんもペスティア様も困るところだろう。

「そうですね……。頭の中で魔術を思い描くのなら、手袋を付ける。手に油を塗る。そう言った想像をすると、やり易いと思います」

「なるほどぉ……」

「そう言う事なら、後で侍女に泥か炭でも準備して貰おうかね。一度体験してみた方が、分かり易いだろうさ」

「分かりました。では、私の方で準備しておきましょう」

と言うわけで、ワタシがイメージするところを話したところ、簡単に話が進んだ。

うん、こういう時には公爵家の力は本当に助かる。

必要な物が簡単に準備できるので。

「さて、もう一つの改良点ですね」

「えっ!?」

「ワタシは一つだけと言った覚えはないですよ。此処までは安全面での改良で、此処からは効率面での改良です」

「ほへー……」

「あのクソガキが本当に立派になったもんだ……」

ワタシの言葉にストリンさんが驚きを露わにしている横で、ワタシは極普通の闇を集めただけの球体を脇に浮かべる。

「さて、効率面での改良ですが、やり方としては簡単です。糸から闇を引き剥がす際に、引き剥がした闇の一部を回収、自分の魔力に還元してしまう事です」

「還元……」

「魔力から闇を作り出す事の逆ですね。慣れれば、色々な場所で役目を終えた闇を吸い取って、自分の魔力に出来ます」

そうして浮かべた闇を、ワタシは魔力に変える事で消し去って見せる。

八顕現の還元そのままだが、ストリンさんのように知らない人にとっては信じがたい現象だろう。

「これについては、あくまでも効率を良くするだけなので出来なくても問題ないですが、あの量の素材の糸化で疲れが見えるのなら、出来るようになっておいた方が良いと思います」

「なるほど……」

「……」

なので、ストリンさんと侍女の方々が驚いているのは良いとして……。

ペスティア様が苦虫を噛み潰したかのような表情になっているので、補足事項と言うか、注意事項は速めに述べておいた方がよさそうだ。

「先に言っておきます。この還元と言う技術は非常に危険な物でもあります。使い方によっては、良からぬ道に引き込まれる可能性だってあります。ですので……」

「ですので?」

ワタシは一度深呼吸をし、ストリンさんと侍女の方の目をしっかりと見る。

その上で……ワタシがペスティア様にかつてされたように、魔力と殺気を手加減して叩きつける。

「万が一にも貴方たちが道を違えた時には、ワタシがシメて、責任を取らせる。と言う事をよく覚えておいてください」

「「「!?」」」

「ふん。言うようになったじゃないか」

「流石はミーメ嬢ですね」

気絶させないように、怯え過ぎないように調整した魔力に、ストリンさんも侍女の二人も竦み上がる。

だが、還元の技術は、迂闊に使うと恐怖心や自制心と言った物まで魔力に変えてしまい、犯罪行為に走り易くなってしまうと言う副作用が存在する疑惑がある。

それを考えたら、このくらいの脅しはして当然だった。

と言うか、明かす対象が限られている八顕現にも関わる話なので、そう言う意味でも脅すのは当然だった。

なお、ペスティア様が動じていないのは想定通りだが、ヘルムス様がどこ吹く風と言った様子なのはちょっとどうかと思う。

仮にも殺気なので、ちゃんと反応するべきだと思うのだけど……まあいいか。

「ストリンさんはペスティア様に既に言われている事と思いますが。魔術は力です。道具です。使い方次第で、善にも悪にもなり得ます。ですので、使い方を誤らないように気を付けてください。いいですね?」

「わ、分かりましただ!」

「「か、かしこまりました!」」

ワタシの言葉にストリンさんも侍女も元気よく返事をする。

うん、この様子なら大丈夫だろう。

「ワタシから今の段階で出せる改良点はこんな所ですね。ヘルムス様とペスティア様からは何かありますか?」

「私からは何も。ペスティア殿はどうですか?」

「最後の脅しが無かったら、アタシからクソガキに雷を落としているところだった。だが、そうはならなかったわけだしね。だったら、アタシからは何もないよ」

ペスティア様の言葉にワタシは内心で安堵する。

うん、ワタシの方がペスティア様より強いのは間違いないけれど、こう言う場面で重要なのは実力ではなく論理や道徳なので、問題なかったようで何よりである。

「では、まずは安全対策の練習から。それが出来たら、効率改良の練習をしましょうか」

「はい! 分かりました!」

その後、ストリンさんはどうにか、安全対策の闇指サックとでも言うべき魔術は習得できたのだった。

これで、一先ずは安心だろう。