軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138:闇人間特急みずふね

「おはようございます。ミーメ嬢」

「おはようございます。ヘルムス様」

オルッカ様が謁見の間で懺悔した時から一夜明けて。

夜明けと共に、いつものようにワタシの家にヘルムス様がやってきた。

で、普段ならば二人で馬車に乗って王城へと出勤するのだが……今日は違うらしい。

ヘルムス様が一枚の地図を差し出してくる。

「ミーメ嬢。私、ミーメ嬢、騎士16人、魔術師4人、装備品を含む各種物資を乗せた私の船を、ミーメ嬢の闇人間たちで運ぶ事は可能ですか? 仮に可能ならば、地図に示されたその場所まで、どれぐらいの速さと時間で着けますか?」

「前者についてはヘルムス様が水の船を維持できるのなら問題ないです。後者については少し待ってください」

地図は……グロリアブレイド王国全体を現した地図であり、行く道を示すように赤い線が書かれている。

えーと、出発地点は王都の南門。向かう先はトレガレー公爵領の端の方にあるメクセルと言う村。

距離としては、普通に歩いたり、馬車で向かうなら三日か四日と言うところか。

「そうですね。半日から一日と言う所でしょうか。ヘルムス様が水の船を維持できるのなら、ですが」

「素晴らしいですね。流石はミーメ嬢です。船の維持については……努力いたします」

「頑張ってください。必要なら、何処か落ち着いた時に助言の一つでもしますので」

「ありがとうございます。では早速行きましょう。詳しい事情は道中で話します」

「分かりました」

ワタシは嬉しそうなヘルムス様と共に馬車へと乗り込む。

そして、馬車は王城ではなく王都の南門に向かって走り始める。

その動きは通常よりも少し速めだ。

うん、この時点でだいたいの事情は察した。

察したが、後できちんとした説明は貰おう。

こういう時に情報の齟齬があるのは、最悪、致命傷になりかねない。

「着きましたね。では、水よ。水よ。浩々と湧き出して、船の形を為せ。我らを乗せて運ぶ船となれ。『アクアガレオン』」

と言うわけで王都の南門、その外に到着。

そこには既に先にヘルムス様が述べた通りの人員が揃っていて、最終確認のようなものをしているようだった。

なので、その確認が終わると共に、荷物を飲み込み浮かせるようにヘルムス様が水の船を生み出す。

以前……グロリベス森林の中を移動するために出してもらった物よりも、一回り大きめなものだ。

そこへ、人も次々に乗っていき、用意された座椅子に着席していく。

「それではミーメ嬢」

「はい。来い、闇人間たち」

そうして人も物も揃ったところで、ワタシが闇人間たちを生み出す。

その数30体。

サイズや当たり判定なども調整した闇人間たちは水の船の底部に手を伸ばし、力を合わせて船をゆっくりと担ぎ上げる。

「出発します」

「はい」

「「「ーーーーー!?」」」

そして、ワタシとヘルムス様以外の人員が僅かに悲鳴を漏らしながら、闇人間たちに担がれた水の船は馬よりも速く駆け出した。

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「それではヘルムス様。事情説明の方をお願いします」

「かしこまりました、ミーメ嬢」

闇人間たちは事前に指示された街道を走っている。

とは言え、すれ違う馬車や旅人を驚かせてはいけないし、万が一の接触事故が起きてもいけないと言う事で、正確には街道の横、草地・畦道・岩場・藪と言った部分を状況に合わせた速さで走っている。

この辺は自動で調整できるように設定してあるので、ワタシはそこまで注意しなくてもいいようになっている。

「はや、速い!?」

「お、俺の生まれた村がこんなあっという間に……」

「すげぇ。こんな景色初めて見た……」

後、最初は騒いでいる人も居た騎士たちだが。

ある程度時間が経ったおかげか、全員落ち着いたし、中には船の外の様子を楽しむ余裕がある人間も出てきたようだった。

素晴らしい順応能力の高さである。

「ビフィ!?」

「おい!? 今なんか轢いたぞ!?」

「あー……猪系の魔物っぽいか?」

「なあ、当然のように死体を担いだ闇人間が合流して、収納されたんだが……」

なお、魔物についてはもっと気にしなくていい。

こんな見るからにヤバいものに近づく魔物はそうは居ないので。

もしも接触したら、持っていく物資がちょっと増えるだけの事だ。

「まず昨日の謁見後にオルッカ殿に対する事情聴取が行われました」

「ふむふむ」

そんな船周りの情報はさておいて。

ヘルムス様が話し始め、ワタシを含めた他の人員もヘルムス様の話に耳を傾ける。

「そこで得た相手の戦力や戦術の情報や、そこから検討された内容については、また落ち着いた時に話すのですが……。我々が優先して知っておくべき事項が二つ」

「はい」

「一つ、既にイストフィフス侯爵の手の者が動き始めている可能性があります。オルッカ殿曰く、私は囮であり、時間稼ぎに利用されている可能性が高い。との事でした」

「なるほど」

それは普通にある事だろう。

なにせ一応は王家の使者として寄越された人間を殺してしまうような侯爵だ。

王都に寄越したオルッカ様は死んでも構わない人間であり、オルッカ様が自身の延命のために王都でのらりくらりとしている間に、侯爵たちは準備を整え、先に動くぐらいはあり得る。

まあ実際にはオルッカ様が覚悟の下で土下座をし、全てをぶちまけたから、時間は殆ど稼がれていないのだろうけど。

「もう一つ。イストフィフス侯爵の手の者が、トレガレー公爵領に攻め入る可能性があります」

「……。仲が悪い相手なら、殺して奪って見せしめにするのが一番。と言う事ですか」

ヘルムス様の言葉に船内の空気が少しだけピリ付く。

トレガレー公爵領とイストフィフス侯爵領の仲の悪さは、貴族の間では良く知られたものである。

そして、トレガレー公爵家は公爵家であるが故に、イストフィフス侯爵家と絶対に敵対する。

イストフィフス侯爵領の周囲に他にどんな領地があるのかは知らないが、少なくともトレガレー公爵家よりは味方になったり、脅しや交渉が成功したりする可能性は高い。

であるなら、恐怖によって脅しや交渉の成功確率を上げるのなら……トレガレー公爵領に襲い掛かって、イストフィフス侯爵家に敵対したらどうなるかを知らしめる。

と言うのは、一つの手ではあるのだろう。

「そして、だからこそのメクセル村ですか」

「その通りです。まだ何処の村が襲われたという話もありませんが、最初に襲われるとしたら此処です」

それを踏まえて、ワタシたちは地図を見る。

メクセル村はトレガレー公爵領の端の方に在り、イストフィフス侯爵領にも近い。

それなりの太さの街道も各所に繋がっている。

周囲に大きかったり、危険だったりする魔境は無く、となれば防備もそこまでではないだろう。

そして、此処を襲って占領できれば、公爵領各地を蚕食する事も……出来るかもしれない。

うん、確かに狙い目ではある。

「しかしミーメ嬢、お詳しいですね。王城でもこの結論に辿り着くには、多少の時間がかかったのですが」

「ワタシはメクセル村と言う答えをもう知っていますから。後は……きっとどこかの娯楽小説で似たような展開を見たのでしょう」

「なるほど」

ただ、ここまでのそれは前世知識だけで考えた場合の話だ。

この世界には魔境、魔物、魔術と言った物がある。

そこまで考えると……もしもイストフィフス侯爵の手の者がメクセル村にやって来ていたら、王城側にとってはむしろ好都合な展開かもしれない。

「ただ、現実は娯楽小説程上手くはいきません。それを知らずに侯爵が動き出しているのだとしたら、ワタシたちは侯爵を過大評価していた事になりそうですね」

「ミーメ嬢、何か心当たりでも?」

「村の外と中では、戦える人間の条件が大きく違う。と言うだけの話です。なので、仮に村が襲われていたとしても、まだ間に合うとは思っています。急げる範囲で急ぎはしますが」

「ありがとうございます。ミーメ嬢」

気が付けば船の外の光景は王都近くのそれとは大きく異なる、森や藪が多めのものに変わりつつあった。

この分なら……日が暮れる前には着く事も出来そうだ。