軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117:トレガレーとイストフィフス

「ふむ。大丈夫そうですね」

王城に帰ってきたワタシは、とりあえずヘルムス様たちが呪いを受けていないか再チェックした。

結果、ヘルムス様は少しだけ精神干渉を受けていたので解除。

ジャン様とグレイシア様はワタシが調べられる限りでは異常なしだった。

「ありがとうございます、ミーメ嬢。油断……とは少し違うかもしれませんが、まるで気が付いていませんでした」

「お構いなく。今日はワタシがどうにかすると先に言っていましたから。ただ、これで分かったと思いますが、呪いに関わるのであれば、自己感知魔術はやはり必須だと思います。呪い以外にも色々と応用出来る魔術ですし、そう言う意味でも、開発は急いだ方が良いと思います」

「そうですね。急ごうと思います」

ワタシの言葉にヘルムス様だけでなくジャン様とグレイシア様も頷く。

後はどうやってその魔術を作るかだが……まあ、ヘルムス様とジャン様なら、それぞれ『船』と『槍』を整備する要領で出来なくはないかなと思う。

グレイシア様は……『不安』だからなぁ。自分が普段抱いていない不安は検知できるかもしれないけれど……。

まあ、いずれにしても、ヘルムス様たちが困っていたら助言するようにしておこう。

そして、今はそれよりも優先しておきたい事がある。

「それでヘルムス様。あれほどに敵意をむき出しにしていた以上、呪いによる影響を抜きにしても、何かがあると思うのですが……何があったのですか?」

「……」

ヘルムス様とサキさんの間に何があるのか。それの確認だ。

「私とサキ嬢個人の間には特に何もありません。貴族院では一年先輩でしたが、そこでも関わりを持たないようにしていましたから」

「関わりを持たないように。ですか」

個人的な関係性はないらしい。

裏を返せば、個人ではなく、集団や家での関係性はあると言う事だ。

ヘルムス様はトレガレー公爵家の三男で、宮廷魔術師。

サキさんは姓からしてイストフィフスと言う家の方で、二年前までは王城の魔術師団に居た精鋭であり、今はトリニア教の修道女。

うん、貴族、宗教、歴史、色々な物が関わって来る臭いが既にしている。

「ですが、サキ嬢の家……イストフィフス侯爵家と我がトレガレー公爵家には浅からぬ因縁があります。そうですね、少々長く、どちらかと言えばミーメ嬢が好まないような話になるでしょうが、少々お付き合いいただけるでしょうか」

「分かりました」

そんなワタシの推測を裏付けるように、ヘルムス様は語り始めた。

「まずは地理関係から述べておきましょう。ミーメ嬢も知っての通り、トレガレー公爵家の領地は王都の南西、海辺に在り、グロリアブレイド王国の開拓は、聖地トリニアから派遣された開拓団がこの地にやってきたところから始まりました」

「はい」

「そして、イストフィフス侯爵家ですが、その領地はトレガレー公爵領すぐ北です」

「あ……あー……」

「そうですね。ミーメ嬢も既にお察しの通り、この二つの領地の間では多くの問題が発生してきましたし、これからも発生する事でしょう。これについては隣の領地である以上は仕方がありません」

うん、確かに問題だらけだろう。

領地の境界線、商売のやり取り、魔境の取り扱い、住民の移動、魔物や犯罪者の越境、ざっと考えただけでもこれぐらいは直ぐに思いついた。

ただ、こう言っては何だが、この程度ならば、ヘルムス様があそこまで影響を受けないと思う。

つまり、他にもあるのだ。

「ところでヘルムス様。イストフィフスなのに、王都から見て西に在るのですか? イストと言うのは、普通に考えれば東と言う意味になりそうな気がするのですけど……」

「いい着眼点です、ミーメ嬢。そして、その答えは簡単です。イストフィフス……現代の言葉に訳すなら、東五番目とも訳せる言葉ですが、これは聖地トリニアから見て、東にある五番目の開拓地と言う意味なのです」

「ん?」

「加えて、イストフィフス侯爵領にはグロリアブレイド王国の国内に存在するトリニア教の本部が存在しています」

「うわぁ……」

「ええそうです。この点……つまりは歴史の初め部分を見ても、トレガレー公爵家とイストフィフス侯爵家の仲が悪い原因があるわけです」

そうしてお出しされたのは……うん、そりゃあ、仲が悪くなるよねとしか言いようのない話だった。

つまり、イストフィフス侯爵領はトリニア教ととても親密な土地なのだ。

それこそ聖地トリニアから見た場合の名前を今でも名乗り、トリニア教の本部が置かれているくらいには。

だが、ワタシの記憶が確かなら、グロリアブレイド王国は、聖地トリニアが滅んで少し経った後に成立した国である。

トレガレー公爵家が公爵と言う地位を得ていて、イストフィフス侯爵家が侯爵に甘んじている以上、建国当時に、トレガレー公爵家がグロリアブレイド王家の味方をしたのは間違いないだろう。

王都含めて各地にトリニア教の教会はあるし、布教も許しているぐらいなのだから、そこまで王国とトリニア教の仲が悪いわけではないとは思う。

しかし、仲が良かったとしても、聖地トリニアが滅んで生じたゴダゴダの最中に建国したとイストフィフス侯爵家側が捉えているのであれば……王家及びトレガレー公爵家に対して、何か思うところがあるのはあって当然かもしれない。

「こうなってきますと、当然ながら領地は様々な面で競う事になります。領地の発展具合、領民の数、王国への影響力、他の国との交易、兵の質と数、後継者の出来。と言った具合ですね」

「わ、わぁ……」

「そうして競い合い、比べ合う事を続けてきた結果として、我がトレガレー公爵家とイストフィフス侯爵家の仲は、少なくとも良好とは言い難い状態になっていったわけです」

そして、そんな関係性だから……うん、色々とあったようだ。

でも争いとは言っても、健全な争いではあるのだろう。

そうでなければ、とっくの昔にどちらかの領地が潰れているだろうし。

「ただそうですね。問題が大きく、より強固になったのは、現侯爵が当主になってからです。正直に言って、現侯爵は問題が多い人物なのです」

「と言いますと?」

「一例としては、現イストフィフス侯爵の息子が第二属性を得て宮廷魔術師になった時などは、これまでの鬱憤を晴らすかのように侯爵当人が父へ自慢してきましたね。まあ、その数年後には私が第二属性を得たので、その時には大いに歯噛みする事になっていましたが」

「……」

問題が多いと言われて出された例に、ワタシは首を傾げる。

確かに大人げないとは思うが、その程度で問題が多い? と思ったからだ。

だが、続くヘルムス様の言葉を聞いたら、そんな思いは直ぐに吹っ飛んだ。

「女性関係はふしだらで、トレガレー公爵家で確認できているだけでも手を出した女性は十人以上。相手が人妻であったり、まだ貴族院に通っているような子供でもお構いなしです。そうですね、子供の数は最低でも四人以上なのは確定しています」

「あ……」

「税を重くし、冤罪を領民に掛けて財産を没収し、その上で王国に払う税を誤魔化している疑惑もあります。ああ、『ブラックハート』のような非合法の犯罪組織との協力関係も取り沙汰されていますね。そして、今のトリニア教上層部との癒着関係も疑われています」

「うわぁ……」

「その上で、先ほどの例で挙げたように我がトレガレー公爵家に精神的優位を取ろうとするだけでなく、他の伯爵家や辺境伯家に圧力をかけるような振る舞い。子飼いの子爵家や男爵家への何らかの指示。と言った行動も確認されているわけですね。ああ、当然のように権力欲も強く、普通なら引退する60歳を超えてなお侯爵の地位にしがみついています」

「問題だらけじゃないですか……」

なんかもう、即座に当主交代と言うか、家ごと潰した方が良いんじゃないかって話が出て来てしまった気がする。

いやまあ、トレガレー公爵家とイストフィフス侯爵家の仲が悪いと言う話が本当なら、この話には補正が掛かっている可能性も否めないわけだけど。

ああでも、ジャン様とグレイシア様が同意するように頷いている辺り、本当の話っぽい。

「捕まえたり、当主交代を促したりは出来ないのですか?」

「その辺りはそれぞれの家の自治権とでも言うべき話が関わってきますので、そう簡単ではありませんね。おまけに、イストフィフス侯爵領の場合、トリニア教も関わってきますから。なかなか難しいようです」

「なるほど……」

しかも、そう簡単に解決できる問題でもない。と。

いやでも、それはそうか。

この世界で人同士が戦争のような行動を起こしたら、これ見よがしに魔物たちも襲い掛かってくるわけだし……武力一辺倒での解決を無理やりするわけにもいかないのか。

うーん、これは大変そうだ。

「とまあ、このようなわけでトレガレー公爵家とイストフィフス侯爵家の仲は現在、王国の歴史上、最も冷え込んでいると言っても過言ではない状態なわけです。申し訳ありません、我が家がこのような状況で」

「いえ、気にしないでください。ワタシが知りたくなったから聞いたわけですし。それに、ワタシがヘルムス様の婚約者である以上、無関係な訳ではありませんから」

「ありがとうございます。ミーメ嬢」

まあでも、トレガレー公爵家が抱えている問題の一つを知れるいい機会だったとは思っておこう。

知らずにトラブルに遭遇するよりかは、はるかにいい。

ただこうなると、逆に気になる事がある。

「しかし、そうなると……サキさんはどういう人物で、どうして教会に? 此処までの話を聞いている限り、権力欲があるイストフィフス侯爵なら、サキさんを王城の魔術師団に置き続けそうなものですが」

「そこについては私は詳しくありません。知っているとしたらジャンですが……」

ワタシとヘルムス様の視線がジャン様に向く。

それに対してジャン様は、あまり思い出したくないと言わんばかりの表情で口を開いた。

「『顔に傷が残っただと。ならば教会に入れ。顔に傷がある女に価値などない』だとさ」

「は?」

「そう言われて、サキは王城の魔術師団を辞めさせられ、教会にぶち込まれたんだよ。二年前のドラゴン討伐の功労者の一人だったのにな」

そう言うジャン様の表情は、本当に苦々しいものだった。