軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109:『ブラックハート』

「じゃ、まずは俺っちからの報告な」

「はい。よろしくお願いします」

翌日の午後。

ジャン様、ワタシ、ヘルムス様、グレイシア様の四人は王城内のワタシの部屋でお茶を飲みながら、昨日のディム様の呪い返しの件以降に分かった事を共有する事になった。

「昨日のディム爺さんの呪い返しだが、王都内、西の方の平民街の中でも外れの方の住居に落ちた。で、そこに俺っちと騎士、兵士たちで踏み込んだところ、住民であろう闇属性魔術師一名が変死していた。状況から見て、この闇属性魔術師が呪い返しを喰らった当人だろうな」

とりあえず、あのスープ皿に呪いを仕込んだ闇属性の魔術師は死んだらしい。

流石はディム様である。

「んで、問題は此処からでな。その家には他に二人、変死した奴とは血縁関係がない闇属性魔術師が二名居た。そいつらは俺っちたちの姿を見ると片方は逃亡を図り、もう片方は小型焼却炉とでも言うべき箱型の魔道具を起動しようとしたんだ」

「まるで自分たちが怪しいと自白するような動きですね」

「本当にな。ま、当然だがそれらは阻止して、制圧。ついさっきまでこの二人を尋問していたんだが……まあ、色々と情報が出てきたな」

「これが、供述調書でございますね」

ジャン様が数枚の資料を机の上に出す。

そこには現時点で分かっている事……闇属性魔術師の名前、凡その年齢、出身地などの個人情報だけでなく、彼らが住んでいた場所から押収された品々や、部屋の様子も書かれている。

なるほど、それぞれに個室があって、個室の中は床に魔物の血で魔法陣のような物が書かれていて、天井からは魔物死体が吊り下げられ、窓は陽の光が差さないように目張りされ、明かりは蝋燭のみ……。

うん、凄く分かり易いくらいに……それこそ、知らない人間へのアピールのためだけに、実際の効果が無いのを知った上で飾り立てているように思える。

ただ、彼らはそうするのが都合が良かったのだろう。

「なるほど。焼かれずに済んだ書類も合わせて考えるなら、彼らの仕事は 呪(のろ) い屋と言ったところですか」

「だな。上から指示と僅かばかりの金を受け取って、標的を呪い殺す。そんな碌でもない生業をしていたみたいだぜ。ただ、上が何処の誰から依頼を受けたとかは一切知らなさそうでな……ま、トカゲの尻尾って奴だ」

だって彼らは人を呪う事でお金を得ていたロクデナシであり、自分たちを大きく、恐ろしく見せた方が、諸々都合が良かったのだろうから。

ただ、彼らは指示を受けて呪うだけの人間だった。

言ってしまえば、最後の最後に起爆スイッチを押すだけの人間。

彼らの上には、彼らに指示をした人間、呪うための仕込みをした人間、窓口になった人間、これらをまとめ上げる人間、それに……依頼をした人間までは居るはずだ。

ワタシたちと言うか、王城が本当に仕留めないといけないのは、こちらの人間の方だろう。

「上は……彼らでしょうか?」

「だろうな。てか、他に居ないだろ」

「彼ら?」

「『ブラックハート』と言う非合法の魔術師組織でございます。ミーメ様」

ヘルムス様たちも同じ考えに至っていると言うか、前々からその存在を知っているのだろう。

グレイシア様が聞き慣れない名前を出す。

「どのような組織ですか?」

「そうですね……」

ヘルムス様たち曰く。

・『ブラックハート』は一年半ほど前から、王都の裏側で台頭してきた非合法の魔術師組織である。

・主な犯罪内容は窃盗、住居不法侵入、恐喝、脅迫、呪いによる殺人、詐欺、高利貸、抜け荷、違法な魔道具の製造と流通など、人身売買以外は一通り行っていると思われる。

・特徴的なのはメンバーの大半が第一属性に目覚めていて、犯罪行為に魔術を積極的に用いている事。また、この手の犯罪組織に多い闇・精神属性以外のメンバーも多い。

・活動内容が広範な事や、摘発しても、重要メンバーが逃げ延びている事から、貴族の誰かが裏で手を引いているか、協力者になっている。

との事だった。

「ミーメ嬢。ちなみにですが、先日捕まって処分されたヤーラカス子爵家たちや、ノスタもこの組織を利用していた事が分かっています。具体的なところでは隠蔽の魔術がかかっていた袋や、体から闇を消す魔道具などが、此処から入手した品だと思われます」

「なるほど」

どうやら、この『ブラックハート』と言う組織の連中は、ワタシが五年ほど前に絡まれてボッコボコにしてやった上に王城前の広場に放置した連中とはまるで別物のようだ。

なんというか、だいぶ規模が大きいし、組織立っている。

「しかし、どうしてこんな組織がこれほどの規模に?」

「そこはもう王都だからとしか言えねえな。俺っちの把握している限り、だいたい四年か五年に一度くらいの頻度で、周りを上手くまとめ上げて、こうして大型化させる奴が出て来るんだよ。前回は……五年前だったか?」

「そうですね。ただあの時は、突如として組織の長と幹部たちが全身に殴打痕を付けられた状態で王城の前に放置されていて。そう言えば彼らは……いえ、何でもありません。今は関係ない事ですね」

ソウデスネー。今ハ関係ナイ事デスネー。

ワタシはとりあえずヘルムス様から視線を逸らしておく。

「そうでございますね。わたくしから言える事としては、彼らに対しては気遣いは一切不要と言う事でしょうか。彼らは魔物ではなく同族に暴力を向ける事を選んだ人間としか言えませんので」

それはまあ、そうだろう。

王国では領地内から魔境が完全に無くなった土地など殆ど無い。

素材採取用の魔境に立ち入る人員の募集が尽きる事は無い。

魔境が無くても、魔物は普通に存在している。

辺境と言う、開拓の最前線であるために魔物だらけの場所だってある。

力を振るいたければ、力を振るえる場は幾らでもあるはずで、それは王都だって例外ではない。

そんな中で、他人へ積極的に暴力を向ける事を選んだのだから、それは蔑まれても当然としか言えないだろう。

「そろそろ話を戻すか。とりあえず、今のところの話としては、あのスープ皿を呪った奴は『ブラックハート』の末端構成員である。そう考えていいと俺っちは判断した。でだ、奴らが処分しようとしていた物の中に、魔道具の一種だと思うんだが、妙な物があった」

「妙な物?」

「これだ」

ジャン様が薄めの紙のような物を取り出して、机の上に置く。

紙には魔術がかかっているようなので、この紙は魔道具らしい。

「ジャン。これはどう使うんだ?」

「分からねぇ。喋らせようとはしているんだが、喋る事が出来ないように精神属性の魔術で暗示を掛けられているみたいでな。この紙や魔術の発想に関わる話については、とにかく口が堅い」

「なるほど」

「ミーメ様。何か分かりましたか?」

「そうですね。たぶんですが、呪いを仕込むための魔道具です」

ワタシは紙の魔道具をもう少し詳しく見た上に、効果が発動しないように慎重に魔力で探っていく事で、どういう魔術がかかっているかを分析していく。

そうする事で分かった事だが、この魔道具は闇属性の魔力にだけ反応し、込められた闇属性の魔力……いや、魔術を貼られた対象へと少しずつ浸透させていく。湿布のような働きを持った魔道具のようだ。

ちなみに属性的には闇だけでなく、水か土もあるように感じる。

「なるほど。そのような物があれば、幾つかの疑問点が解消されますね」

ワタシの言葉にヘルムス様が納得したように声を上げる。

また、ワタシとグレイシア様も頷き、ジャン様だけが首を傾げる。

「どういうことだ?」

「ジャン。順に説明する」

さて、此処からはワタシたちがスープ皿と花瓶について調べた結果である。

「まだ調査途中なんだが、スープ皿と花瓶は、原材料の回収から王族の居住区画に運び込まれるまで、一切の共通項が無かった。なのに、呪いを仕込むための準備を整える方法は一緒だったんだ」

「あー、それは……色々とおかしいな」

もう少し詳細に述べるのなら。

スープ皿も花瓶も、まず第一段階として周囲に滞留している魔力をかき集めるための魔術が仕込まれているようだった。

そして、十分な魔力が集まると、第二段階として術者に知らせを飛ばし、知らせを飛ばした魔術を基点として別の魔術を行使できるようにする。

で、第三段階として、術者は本命となる呪いを行使していたようだった。

特筆すべきは第一段階の発想で、これはただの闇ではなく『引き込み』や『穴』と言った八顕現の特化に似た発想を用いた魔術であり、こう言っては何だが、ノーヒントで複数の人間が同じ答えに行き着くようなものではなかった。

それなのに、スープ皿と花瓶では流通経路の何処にも重なりそうな点が無くて困っていたわけだが……。

ジャン様が見つけてきた、湿布の魔道具があれば、話は変わってくる。

「なるほどな。窃盗の要領で流通経路の何処かで忍び込み、この魔道具を仕込んだ。効果を発揮した後は何の変哲もない紙一枚が残るだけ。魔術を移された道具にしても、最初は滞留している魔力を少しずつ吸い込んでいるだけで怪しいとは思われない。だから、問題なく売買されて、普通なら弾かれるところにまで入り込める。悪党ながら、よく考えたもんだ」

「そう言う事ですね」

だって、真っ当に商売している店や工房に忍び込んで、金目の物をいただく事で目を眩ませつつ、本命として何処へ運び込まれるのかが既に決まっているところへ湿布を仕込んでおけばいいのだから。

全くもって悪質である。

「しかし、そうなると……『ブラックハート』には、この紙を作っている魔術師と、闇属性魔術師たちに手口を教えた魔術師が居る事になってしまいますね」

「ミーメ嬢の言う通りですね。となると、『ブラックハート』の一斉摘発は急いだほうがよさそうですか」

「同意でございます。可能性の話でございますが、第二属性持ちの犯罪者が現れる可能性も出て来てしまいました」

「はー……トリニア神ももうちょっと第二属性に目覚める人間を選んで欲しい物だな。俺っちとしてはそう思わずにはいられない」

だが何よりも悪質なのは、『ブラックハート』には、この手法を広めた魔術師が居ると言う事。

全く同じ発想を正確に伝えている事も考えれば、精神属性魔術を利用した可能性もあるだろう。

そして、八顕現の特化らしき物を扱っている以上、グレイシア様の懸念通り、第二属性持ちが相手である可能性は考えておいた方が良い。

聞くところによれば、『ブラックハート』の一斉捕縛についてはもうじき行われる予定ではあるらしい。

少し前に目にした、王都の区画整理に伴う非合法組織の逮捕作業とやらが、そうらしいので。

そうであるなら……その時はワタシも協力して、一人たりとも逃さないようにするべきだろう。

彼らは力である魔術を無辜の民に向けている、宮廷魔術師として許すべきでない相手なのだから。