軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106:滞留する魔力

「さて……」

「……」

王族の居住区画に入ったワタシは、今日は役目の都合で感度も上げていた事で、それには直ぐに気付いた。

ディム様も当然感じ取っているだろう。

「うっ……」

グレイシア様もたぶん感じ取った。

『不安』属性に近い物だとは思うので、これは当然の事だろう。

「ふむ?」

「んー?」

ヘルムス様とジャン様は感じ取れていなさそうだ。

ただ、感じ取れていない理由はたぶん全く別で、ヘルムス様は公爵家の三男としてこれくらいの空気には慣れてしまっているからで、ジャン様は単純にこっち方面の感知が苦手なのだろう。

こればっかりは本人の気質のような物であり、一種の才能だと思うので、仕方が無いと思う。

「ミーメの嬢ちゃん、グレイシアの嬢ちゃんは感じ取ったようじゃの。逆にヘルムスの坊主とジャン坊は分からん、と」

そう、ワタシの視界には、黒く、見ているだけで不快になりそうな魔力が薄靄のように滞留しているのが見えてしまっていたし、ピリピリとした嫌な感覚を肌で覚えてもいた。

この分では、遅くとも数日以内には何かしらの対処をした方がいいだろう。

少なくとも、ワタシが平民時代に王都内では感じた事が無いくらいには嫌な気配だ。

「ディム様。その、わたくしも感じ取ったと言うよりは、何か、不安を掻き立てられるものが漂っていると感じただけでございますが……」

「その感じ取ったと言うのが重要なんじゃよ」

そんな空気の中、ワタシたちは王族の居住区画、その入り口に留まって話を続ける。

親衛隊の方も周囲を警戒しつつ、学ぶ機会と考えてか、真剣に耳を傾けているようだ。

ただ、彼の目にはきっとこの場は普段通りに見えている事だろう。

真剣ではあるが、警戒感が足りていないように思える。

「此処には、人々が強い感情……特に怒り、悲しみ、嘆き、苦しみ、恐怖、恨み、そう言った負の感情と呼ばれるものを覚えるに伴って放った魔力が集まっておる。感じ取れていなくても、それはある。それは良いな?」

「んー? 感情に伴って魔力が放出されるのはまだ分かるけれど、どうして負の感情限定? それに、どうして陛下たち王族に向けられるんだ? そこがちょっと俺っちには分からないんだが」

「そこについては、儂個人の論としては、負の感情に伴う魔力は、正の感情に伴う魔力と比較して、指向性が強い傾向にある。だから、集まるのを阻害する仕掛けがあってもなお、こうして集まってしまうんじゃ」

「なるほど」

「そして王族に向けられるのは……。理不尽に伴う感情と言うのは、それを起こした者だけでなく、管理者にも向けられるものじゃからなぁ。雇用主、領主、王族……人の上に立つ者にはどうしても集中してしまうんじゃ。だからこそ、儂のような者が対処するわけじゃが」

「ふむふむ」

ディム様の言葉にジャン様とヘルムス様が頷いている。

ワタシもディム様の言葉に否は無い。

実際の所、平民にしろ貴族にしろ、自分の身に理不尽な何か起きた時に何処へ感情を向けるかを並べていったなら、王族と言う名の頂点はどうしても入ってしまう事だろう。

あるいは、不遜かつ理不尽にも、一方的かつ逆恨み的に王族を憎む。と言う場合もありそうだが。

ただ、どちらももう大昔の事からであり、ディム様も対処する仕掛けがあると言っているぐらいにはいつもの事。人間の業のような物だ。

だから気にするべきは何故集まってしまうかよりも、こちらだろう。

「ディム様。この滞留している魔力はどれぐらいで集まった物ですか?」

「一か月。と言う所じゃな。普段は三か月前後に一度くらいの間隔で不定期に調査しては払っておるんじゃが、先日のノスタの件があったじゃろ? アレで何か影響が出ると思って繰り上げて……まあ、この感じだと正解だったようじゃな」

「ありがとうございます。ディム様」

ワタシの感覚では、これほど濃くなるには半年から一年以上かかると言うくらいには濃い魔力が漂っているのだけど……。

なるほど、ノスタの件で被害を被った人たちの魔力が集まったからこそ、この濃さなのか。

だったら仕方が無いのかもしれない。

ワタシの想定は結局のところ、庶民が想像できる範疇でしかないし。

「ちなみに、この滞留している魔力を放置していると、先ほどの座学でジャンの坊主が挙げたような、立ち入っただけで気が狂ってしまうような土地や場所が生まれる」

「うえっ……」

「そして、この滞留している魔力に火種が加わればミーメの嬢ちゃんが挙げたような事態が起きるし、悪意を以って干渉をすればヘルムスの坊主が挙げたような不幸が生じる」

「……。なるほど。放置は出来ない訳ですね」

ディム様の言葉に再びジャン様とヘルムス様が頷く。

ちなみに、ワタシはこの滞留している魔力を自分の魔力として利用する事も出来る。

『闇』と相性のいい感情ばかりなので、『闇』で飲み込んで、個の要素を壊した上で、還元するのは簡単なのだ。

「ま、とりあえず払ってしまうかの」

ここでディム様が何処からともなく、ワタシが以前作った呪い払いの人形を取り出して使用。

人形に仕込んだ魔術が発動して、滞留している魔力……軽微な呪いにもなり得るそれを素早く吸い取っていく。

「いやー、ミーメの嬢ちゃんが作ってくれたこれのおかげで、儂の仕事もだいぶやりやすくなったわい。前は地道に追い出すか、色々と面倒な手順を踏んでおったからのう。その点、これは最終処分の方法まで決まっていて便利じゃ」

「そうですか。役立ててもらっているようで、良かったです」

「ちなみにミーメの嬢ちゃん。これをもっと強力にする事などは出来るかの?」

「出来るかもしれませんが、吸い取った後の処分やワタシが居ない時まで考えると、この大きさと効果ぐらいに留めるべきかと」

「ま、そうじゃよな」

とりあえずこの場については吸引完了。

空気がだいぶスッキリとした。

心なしかグレイシア様はホッとした様子で、ジャン様も感心した様子を見せている。

ヘルムス様は……やはり気にした感じはない。

やっぱり、公爵家の三男と言う事で、慣れ過ぎてしまっているのではないだろうか?

ちなみに、呪いと言うのは積み重なるほどに効力が飛躍的に高まっていく傾向にある。

そして、ワタシの人形を構築している藁は、呪いを吸い切った後は呪いの塊と言ってもいい物体である。

今は付随させてある魔術で、特定の手順に従って処分する事で安全に処理できるようにしているが……悪用しようと思えば幾らでも悪用出来るし、サイズを大きくすればそれだけ処分が難しくなる。

なので、現時点が誰でも使える限界ラインではないかと思う。

「さて、そろそろ中を見て回ろうかの」

ディム様がそう言いだして、ワタシたちの顔を見回す。

「ただ、ヘルムスの坊主以外は初めて入るじゃろうから、先に注意しておく。此処は王族の居住区画と言う事もあって、ある物の大半は一級品であり高級品じゃ。じゃから、怪しい物を見つけても迂闊に触らんように。呪いではなく金額的な意味で責任が取れなくなりかねんからの」

「そうですね。確かに非常な高価な物も少なくはないでしょう」

「「「……」」」

ディム様とヘルムス様の言葉にワタシたちは揃って硬直する。

うん、そっちの方がワタシとしては怖いかもしれない。

呪いと違って本当に即物的な脅威なので。

「では出発じゃ」

ワタシは自分の背筋が呪いとは別方向の恐怖によって少し凍えているのを感じつつ、ディム様の後に続いて歩き始める。

居住区画の玄関、従者たちの活動している範囲、倉庫、王族の方々が利用する居間、風呂場、個人の部屋、寝室、と言った具合にくまなく回っていく。

途中で正妃殿下、側妃殿下、陛下の御子たちにも遭遇して、挨拶もした。

ちなみに陛下の御子で一番大きな子は、今年で10歳になるらしい。

そして、そうやって見回っていく中で怪しい品を見つける度に、ディム様の指示と親衛隊の監視の下で、ワタシの闇人間が回収、区画の外、庭にまで運び出す。

「さて、これで一通りじゃな。いやー、ミーメの嬢ちゃんの闇人間のおかげで楽だったわい」

そうして一通りのチェックと滞留している魔力の処理が完了。

居住区画の外に出たワタシたちは、喜んでいるディム様の横で、運び出された品に視線を向けていた。

今回見つかった怪しい品は全部で五つ。

・侍女が使っていた掃除用の雑巾

・木製の人を象った形の置物

・白い陶器製のスープ皿

・第三王子殿下(3歳男子)お気に入りのクマのぬいぐるみ

・綺麗な装飾の施された花瓶

この内四つは不審だが薄い魔力を帯びていて、一つは明確な害意を持った魔術が込められているようだった。

「では、実地訓練じゃな」

「そうですね」

さて、問題は此処からである。

ワタシは五つの品を睨みつけ、ヘルムス様たちも考え始めた。