軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

102:判断基準

「それで、何故、あれほどの数のワタシがやる必要のない仕事が混じっていたのでしょうか?」

ワタシはだいぶすっきりとした机の上を見る。

だが、資料を除いても、まだ残っている書類もある。

それはつまり、取り除かれたのはワタシがやる必要がない仕事で、残っているのはワタシがやる必要がある仕事と言う事であり、さっきまでは両者が何故か入り混じっていたと言う事だ。

「簡単に言えば、私を抜きにして、ミーメ嬢との個人的な縁を紡ぎたいと考えた人間が居た。と言う事です」

「ヘルムス様を介さずにですか? それは……」

「まあ、トレガレー公爵家を良く思わない人間も居ますし、私個人と仲が良くない人間も居ますから。機会があるなら、狙う事自体は分からなくはありません。迂闊ですが」

そう言うとヘルムス様は微笑むが……うん、怖い。

ヘルムス様も貴族も怖い。

それはそれとして。

理屈としては、ワタシが送られてきた書類や質問状を見て、普通に対処……書類や質問状を行くべき場所へと渡したとなれば、そこで縁が出来る。

そうして出来た縁を切っ掛けとして、少しずつ親交を深めよう。

親交が深まれば、その縁を通じて色々と頼みごとが出来たりするかもしれない。

と言う事らしい。

うん、話としては確かに理解できる。

平民出身の宮廷魔術師で、公爵家の三男であるヘルムス様の婚約者だから、縁を繋ぎたい人間が沢山居るのは理解できるし。

ただ、ヘルムス様を無視して声をかけてきた辺りに……やっぱり不誠実さは感じる。

「一部論外のも混じっていたけどな」

「ジャン様。それは黙っておいた方が良いのでは?」

「論外ですか?」

「……」

なお、ジャン様の言葉からして、不誠実どころではない物も混ざっていた模様。

なるほど、ヘルムス様が怖い笑みを浮かべているのは、その辺りが原因か。

「言っておいた方が良いだろ。ミーメ嬢、簡単に言えば、王城ではなくトリニア教に属しませんかと言う勧誘とか、ヘルムスじゃなくて自分と付き合いませんかと言うお見合いの申し出とかが混ざってた」

「ええー……」

ワタシとしては唖然とするほかない。

うん、不誠実どころではないので、そちらについては追求しないでおこう。

ヘルムス様の陰が濃くなっているようにも思える。

「あー、ヘルムス様。今後同じような事があった時にはどのような判断基準で分ければいいでしょうか? 書類だけでなく、仕事全般の仕分けと言う意味でですが」

「そうですね……」

とりあえず話題を変えよう。

過ぎた事ではなく、これからの事だ。

「まず、ミーメ嬢の利益になるかどうか。次に国にとって利益となるか。この二つでしょうか」

「ワタシと国ですか。ヘルムス様やトレガレー公爵家の利益は?」

「考えてもらえると嬉しいですが、ミーメ嬢と国にとって益がある話なら、少なくとも公爵家にとって致命的な不利益な話になる事はあり得ませんので、ご心配なさらず」

「なるほど」

仕事の判断基準はワタシと国にとって利益があるか否か。

いや、それだけじゃなくて、国にとって害になる物を放置しておかない。と言うのも、宮廷魔術師としてはやるべき事だと思う。

ただ、国にとって害になるかの見極めは難しいから、今ここでは話に出していないのだろうけど。

「その上で、ミーメ嬢にしか出来ない事を優先してやるべきですね。他の者……普通の魔術師や魔道具職人でも出来る事は、そちらに任せるべきです」

「ワタシにしか出来ない事ですか」

「ええ、そうです。例えばこれですね」

ヘルムス様はそう言うと、机の上に残されている書類を何枚か、ワタシが読める位置にまで持って来てくれる。

えーと……。

・ユフィール様からの依頼で、時間がある時で構わないから、ワタシの治療魔術を見せて欲しい。可能なら魔法薬にする事も試して欲しい。と言うお誘い。

・ディム様からの依頼で、呪いに関する資料を見せると共に、王族のプライベート空間での実地訓練や、親衛隊との顔合わせをしておきたいと言うお誘い。

・グロリベス森林の深層探索で案内をして欲しい。それが無理なら、深層に関する資料を把握している範囲で書いて欲しいと言う依頼。

ああなるほど。

ユフィール様のお誘いは『人間』属性を使う前提。

ディム様のお誘いは闇属性かつ書類上はディム様の娘になっているワタシだからこそ。

グロリベス森林深層の話はワタシ以外に知る人間が殆ど居ない話。

これらは確かにワタシでないと出来ない話だ。

「とは言え、何がミーメ嬢にだけ出来る仕事なのか、何がミーメ嬢にとって利益になる仕事なのか、これらの判断については経験と知識が無ければ分からない事ですからね。まずは勉強……特に法律、地理、歴史周りを優先して学んだ方が、後々、ミーメ嬢にとっては役に立つかもしれません」

「ふむふむ」

ワタシはヘルムス様の言葉に頷く。

ワタシでないと出来ない話か否かを見極める。

誰にとって利益であるかや、違法性が無いかを認識する。

そう言った部分を理解するためには、確かに勉強は必要そうだ。

「ですので、写本……は、する必要はなさそうですが、写本された物を読むのは必要でしょう」

「分かりました」

「まあ、私たちは宮廷魔術師です。魔術以外の事柄については、概要だけ知っておき、何処に資料があるのかや、誰が詳しく知っているかを理解しておくぐらいでも問題はありません。詳しい話については専門家に任せるのが適材適所と言うものですから」

「それは確かにそうですね」

魔術以外については概要だけでも構わないと言うのは、助かる話である。

その、覚えられない事は無いと思うのだが、専門的に学ぼうと思ったら、魔術の研鑽が疎かになりそうなくらいには多かったので。

で、ヘルムス様が先述していた三つ……法律、地理、歴史が優先されるのは、宮廷魔術師の仕事内容を考えた時に、この三つについては関わる事が多く、知っておいた方が何かと便利だからなのだろう。

ちなみに闇人間たちによる写本は、今この時点でも続いている。

さっきまで来ていた一部の文官などは、闇人間の事を欲しそうな目もしていたが、写本をする人間の仕事が無くなるので、他の人に貸す予定はない。

「そもそも、ミーメ嬢はまだ16歳。対して貴族院の卒業年齢は18歳です。そこにミーメ嬢の経歴まで合わせて考えれば、ミーメ嬢はよく勉強出来ている方ですので、ゆっくりと学んで行っていただければ、それで大丈夫でしょう」

「だな。それについては俺っちも同意」

「わたくしも賛同でございます」

「そうですか。ありがとうございます」

なるほど確かに。

そうなると、この分野についてはワタシは二年くらいの猶予期間があるのかもしれない。

いや、猶予はあるかもしれないけれど、甘えないでおこう。

貴族院なら猶予に甘えていいかもしれないけれど、ここは王城であり、ワタシは既に宮廷魔術師として仕事をしている身なのだから。

「ヘルムス様。他の書類についても確認していいですか?」

「構いませんよ」

ちなみに、他の書類や質問状については、八顕現を宮廷魔術師以外に教える話の進捗具合の通達、魔物素材の糸化についての質問状、何でもいいから魔道具を作ってくれと言う依頼書、他の宮廷魔術師からの質問状や書類、貴族院の見学や講演会などをしませんか。と言う感じだ。

うん、この辺は知っているだけで良かったり、余裕がある時に応じればいい感じだ。

急いでいる感じもないし。

と、ここで一つの書類に気づく。

「王都の区画整理に伴う非合法組織の逮捕作業?」

「あ、それ。ミーメ嬢の所にも来たのか。近々やるんだよ。余裕があるなら来てくれると、俺っちも兵士たちも助かる」

「なるほど。分かりました」

どうやらノスタによって破壊された王都を復興するついでに区画整理をするのだが、それに合わせて王都の闇に潜む連中を一掃しようと言う話があるらしい。

うん、これは受けてもいい話だ。

王都の治安が良くなるのはワタシとしても願ったり叶ったりだ。

とは言え、何もなければ、もう少し先の話になるようなので、今は漏らさないように気を付けておこう。

「さてミーメ嬢。これでどうすればいいかは分かりましたか?」

「はい大丈夫です。ありがとうございます、ヘルムス様」

とりあえず判断基準は分かった。

今のところは、顔見知りからの話か、国や陛下からの正式な命令があった上に、ワタシにしか出来ないか、ワタシにとって利益がある話を優先してやっていけばいいようだ。

そして、そう言う話ならばだ。

「では、ワタシがまずやるべき事はコレですね」

ワタシはディム様からの話が書かれた書類を見る。

内容はアンカーズ子爵家が保有している呪いに関する資料を見せての勉強会の上に、王城内にある王族のプライベート空間での実地訓練が出来て、顔をお互いに知っておくべき相手と会う機会まで得られる。

話を持ってきたのもディム様であるし、これは最も優先してやるべき話だろう。

「折角ですので、ヘルムス様たちが同行できるかも含めて、尋ねてみましょう」

「それは嬉しいですね。是非」

と言うわけで、ワタシはディム様に返事を出した。

ディム様からの返しは……宮廷魔術師なら何人来てくれても構わないと言う心良いものだった。