軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10:ミーメの魔道具技術

「触る。魔力を通す。どちらも大丈夫ですか?」

「勿論だとも。わざと汚したり、壊したりしなければ何をしてもいいぞ」

ワタシはトギー様から許可を得た上で、机の上に広げられた魔道具に触り、軽く魔力を流すことで状態を確認する。

込められている魔術は遮光……指定した範囲内に入る光を遮って、内側に光が差さない空間を作り出す魔術だ。

起動条件は表面の精緻な刺繍がきちんと成立するように正しく配置し、垂らす事。

となると用途としては天蓋付きのベッドに設置する事で、ベッド上に暗闇をもたらし、心地よい眠りを提供する事になるだろう。

刺繍のレベルからして貴族……場合によっては王族が使う物で、そう言う立場の人なら日が差す時間帯に無理してでも眠らなければならない状況もあるだろうから、こう言う魔道具も必要になるわけか。

で、肝心の魔道具の状態は……経年劣化は感じ取れるけども、機能面での問題は無し。

闇属性の魔力を貯め込む部分もしっかりとしたものだ。

これなら、ただ闇属性の魔力を流し込めばいいだろう。

「では、補給します」

ワタシは遮光の魔道具に闇属性の魔力を流し込んでいく。

で、ただ流し込むのも暇なので、この遮光の魔道具の改良案を少し考えてみるが……。

防御関係は設置される場所に既にあるその手の魔道具や、護衛の人たちとのすり合わせが必須なので、今のワタシが出来るような事ではないだろう。

反撃も論外。

改良をするなら……補給をしやすくする方向だろうか。

闇属性以外の魔力でも補給が成立するようにすれば、色々と楽になりそうではある。

この魔道具、容量がかなりあるようで、ワタシの魔力量だとかなり時間と負荷がかかりそうだし。

「……。終わりました」

まあ、この場では案を考えるだけで、実行に移したりはしないが。

ワタシが考えをまとめた頃、遮光の魔道具にも十分な量の闇属性の魔力が補給されたので、ワタシは手を放す。

そして直ぐにトギー様が確認を始める。

「うむ。確かに闇属性の魔力が込められているな。魔術の破損もない。文句なしの合格だ。ただ……時間のかかり具合からして、やっぱり単純に魔力量を求める仕事はアンタには向いていなさそうだな」

「そうですね。ワタシの魔力量は昨日の検査によれば120ぐらいしかないそうなので、闇属性の貴族の方々より不向きだと思います」

「120……確かにすくねえな……。アンタが使い捨ての魔道具ばかり作っていたのも、その辺が理由か」

「その通りです。使った魔道具への魔力補給を一々求められても困る。と言うのもありますが」

「なるほど。アンタはそう言うタイプか。まあ、素材の回収から加工まで自分一人で出来るってんなら、そっちの方が楽か」

トギー様の言葉にワタシは素直に頷く。

ワタシの魔力量が少ないのはただの事実なので。

「よし。それじゃあ次だ。此処にある素材で、好きな魔道具を作って欲しい」

トギー様は遮光の魔道具を片付けると、様々な素材……魔物の骨、毛皮、香木、草、果実と言った物を机の上に並べていく。

また、釘や軟膏、蜜蝋、木の粉と言った、あると便利な副素材も並べられていく。

質は……ワタシ基準だと、いずれもあまり良くないように感じる。

「好きな魔道具ですか? ……。リクエストがある方がワタシとしては楽なのですが……」

「ん? そうか? じゃあ、アンタが街で作っていた休息の魔術が込められた香を作ってくれ。それなら俺たちとしても比較がしやすくて助かる」

「分かりました。ではそれで」

トギー様の言葉に応えた私は改めて素材を見る。

目的は休息の香。

そうなると、この場にある素材で適しているのは……香木だろう。

後はサブの素材として、木の粉も必要そうか。

理論の構築は問題なし。

なので、ワタシは使わない素材は片付けておく。

「では……展開」

「んっ!?」

「ふむふむ」

ワタシは香木を闇魔術で作った球体の中へと入れる。

これはワタシにとってはいつも通りなのだが、トギー様は驚いた顔をしていて、ヘルムス様は興味深そうな顔をしている。

うーん……説明をしつつ作業をするか。

「この闇は隔壁のようなものですね。中にある物が加工の際に飛散するのを防ぎつつ、中を闇で満たすことによってワタシが詳細を知れるようになっています」

「なるほど。魔術師の基本、自分の属性の感知を利用した把握技術と言う事ですね。ミーメ嬢」

「そう言う事です」

ワタシは闇球の中で香木の状態を確認していく。

香木が保有している魔力については、きちんと保存されていたようなので問題なし。

だが、香木の表面や内部には運んでくる際に付いた物なのか、処理すべき傷が結構ある。

また、採取に当たって何人もの人間が魔術を使って関わったのか、ノイズのような残留魔力も少なくない。

うん、このまま作業すると、ワタシが普段作っていた香よりも品質が下がり、それでは比較された時にあーだこーだと言われそうなので、傷と残留魔力の処理をしてから作業だな。

「ちなみに精度はどれぐらいのものですか?」

「中に入っている物なら、髪の毛一本分の太さや傷までは感知出来ますね。勿論、この特別製の球体だからですよ」

ヘルムス様の言葉に応じつつ作業開始。

闇が保有する概念の中から、適切なものへと特化をさせる事で下処理を行う。

具体的には髪の毛ほどの細さにした魔力を香木の細胞を出来る限り傷つけないようにしつつ全体へと浸透させ、その上で『死』によって殺菌を行い、『侵食』によって傷の周りを少し溶かした上で『曖昧』と『隠蔽』で傷を消し、これまた『侵食』からの『消失』によって残留魔力を飲み込んで闇属性に還元。

その上で香木自身が保有している属性にも少しだけ『侵食』し、闇属性となだらかに繋げる事によってお互いの親和性を高める。

最後に現在香木内に染み込ませたワタシの闇属性魔力を基に休息の魔術……闇の安寧によって安心して休息する事が出来る環境を生み出す魔術……を構築し、熱せられる事を条件に起動するようにした上で、香木へと魔術を付与する。

なお、この時点で香木は既に魔道具化していて、目的を達成しているとも言えるが、この後の作業も品質に影響するので続行。

「なんか重低音がし始めたな……」

「中で表面をヤスリ状にした影を回転させて、香木を削っています。こう言うのですね」

「魔術を工具にしているのか!? そんな……いや、闇ならそれが出来るのか……なるほど……」

「ふむふむ。なるほど。流石はミーメ嬢」

ワタシは魔道具化した香木をヤスリで削って粉にしていく。

なお、ヤスリは『影』の性質を強めた闇の表面を硬くザラザラにしたものであり、ワタシの魔力さえあれば何時でも何処でも自由自在に削れる便利な代物である。

また、今回は使っていないが、ワタシはこのヤスリ以外にも、素人が思いつくような工具は前世知識も活用して一通り再現してある。

この工具魔術とでも言うべき魔術の精度はワタシの魔術の技量が直結しているので極めて高く、魔力以外のコストはかからないし、属性との相性も良いので、本当に……本当に便利なのだ。

傍目には何をしているのか分からないので、属性検査などで見せるには不向きな魔術ではあるけども。

ちなみに熱については『衰弱』の性質の応用で以って熱を素早く奪い取っているので、削る際の熱で香木にかかっている魔術が発動するような間抜けな事はしていない。

「同じような事は土属性や氷属性、なんなら水属性も応用の仕方次第で出来るとは思いますけどね」

「いやいや、んな事ねえから。そもそも魔術を工具にするって発想自体が中々ねえよ……」

「なるほど。私も後で練習をしてみましょうか。便利そうです」

「こっちはこっちで真似する気満々なのかよ……」

で、最後に香木に対する作業をする裏で、木の粉と水を練り合わせて香として固めるための物体を準備しておいたので、その粉と削った香木を混ぜ合わせて、練り上げて、一回分ごとに分けていく。

「これで後は適度に乾燥させれば完成ですね」

と言うわけで完成。

ワタシは工具魔術と闇球の魔術を解除して、その中で作っていた物……使い捨ての休息の魔道具たちをトギー様に見せる。

「お、おーう。マジで加工された状態で出て来た。なんだか魔術とは別次元の何かを……あるいは魔物に幻でも見せられたような気分だな……」

「そうですね。ですが、これがミーメ嬢の実力です」

「みたいだな。いや、ヘルムスの坊主が師匠師匠と慕うのもよく分かる腕前だな……」

「……」

呆れた様子のトギー様から、ワタシがヘルムス様の師匠と言う言葉が当たり前のように出て来て、ワタシは少しだけ表情を歪める。

これ、一刻も早く、ヘルムス様に何処までワタシの事を師匠として話していたかを確認しておいた方が良い状況な気がする。

どれだけの頻度と熱意で広めていたのかは分からないが、かなり広がっている予感が……。

いや、この場ではこれ以上は考えないでおこう。

今この場でやるべき事ではない。

「トギー様。ワタシは実力を示せましたか?」

「と、そうだったな。勿論文句なしだ。王城の魔道具職人たちはアンタの実力を改めて認めるよ。今後、魔道具職人の力が必要なら、何時だって相談に来てくれ。それと、もしも一部の訳分らん連中に追われた時は工房に逃げ込むといい。そう言う連中は此処へは近づこうとしないからな」

「分かりました。ありがとうございます」

そんなわけで、ワタシは王城の魔道具職人たちに認められたのだった。

なお、本日作った香は王城内で適切に消費されるとの事。

まあ、ワタシとしては好きに使ってくれとしか言えない話である。