軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1:転生平民魔術師

ワタシは転生者である。

2歳の時、自我の目覚めと共に前世の記憶をどうしてか得た。

5歳で魔力に目覚め、『闇』の属性を得た。

9歳で魔術師として生きる事を決意して、家を出た。

そして今は16歳。魔術師として王都近くの魔境に一人で赴き、魔物を狩っては魔道具に加工し、王都の露店でそれを売り捌くことによって生計を立てている。

少々血生臭くはあるものの素敵で自由な異世界生活ライフ。

好きな時に好きな物を食べれて、貯蓄もそれなりにあって、ちょっと贅沢をするつもりで財布の口を開けば劇場でも有名スイーツ店でも問題なく行ける。

近所の人だって少々のお駄賃と共にワタシに頼みごとをしてくれる。

魔境の探索者たちも困ればワタシに頼って来る。

王都の極々普通の平民家庭で生まれ育ったワタシとしては、後望めるのは闇属性に忌避感がない上に悪用も考えていない素敵な旦那様くらいなものだろう。

「ふんふふ~ん♪」

とまあ、そんな事を考えつつ、ワタシは自作の魔道具を路上に敷いた敷物の上に置いていき、魔道具の値段と説明を置いた看板を脇に添えておく。

これで露店の準備は完了。

後は商品を盗まれないように魔術で警戒をしつつ、本屋で買った娯楽本を読んで客が来るのを待てばいい。

なお、隣近所の露店の店主と挨拶を交わしたりはしない。

顔見知りでも何でもないし、闇属性の人間が隣に居るだけで若干嫌そうな顔をしているので、此処で話しかけて更に気分を悪くさせる必要もないからだ。

これはこの世界で16年生きてきたからこその処世術と言うものである。

断じてワタシがコミュ障だからではない。

「「「ーーーーー~~~~~……」」」

「ん?」

そうして本を読みながら待つこと暫く。

時々商品が売れる中で、周囲の流れが少し変わったのを感じた。

「何かあった?」

ここは王都の市民街の中でも下級よりの露店市だ。

なので治安の良し悪しを言えば、多少悪い方になる。

それこそ日に数度は万引き、スリ、ひったくり、喧嘩が起きては騒ぎになり、数日に一度くらいは 刃傷沙汰(にんじょうざた) が起きて、周囲の人間一同で犯人をボコって物理的に黙らせるくらいには治安が良くないところだ。

ただ……今起きている流れの変化は、それらの日常な事件とはなんだか違うようだった。

騒ぎにならず、ただざわついている。

まるで本来そこに居るはずがないものが居るような……サボテン型の魔物が沼地に居るような気配を感じる。

ワタシは少しだけ集中し、耳を澄ませる。

「なんだアイツら。いつもの見回りの兵士さんたちじゃねえぞ」

「裏の連中ってわけでもなさそうだ……」

「貴族なのは間違いないとして、こんな所に本人が来るなんてどういうこった?」

「魔術師か。着けている物をうっぱらえば、幾らになんのかねぇ」

「狙う気か? よしておけよ、骨も残らねえかもしれねえぞ」

「はー、キラキラしてるわ。目の保養だねぇ」

聞こえてきたのは流れの変化の中心に居る誰かについて噂する声。

どうやら貴族の魔術師が、その出自を隠さないような恰好でご来場されているようだ。

「貴族か。正直いい思い出が無いのよね……」

この国(国の名前は興味が無いのでワタシは知らない)には王が居て、貴族が居る。

王都の中心には王城があって、そこでは沢山の貴族が国の為に働いているし、王都の外には各土地を治める貴族たちも沢山居る。

貴族は……全員が全員そうでない事は知っているのだけれども、中には横暴な者も居て、ワタシも何度か嫌な目に遭わされた事がある。

特に多いのは魔境での獲物の横取りで、次は商品を全部タダで寄越せと言うものであり、その次は誰かを呪って欲しいと言う犯罪そのもののお願い事か。

ああ、連中を跡形もなく消し去ってやる事で完全犯罪を成立させてやろうかと何度思った事か……。

いや、今は恨みつらみを思い浮かべている場合ではないか。

貴族がやって来ているのなら、目を付けられないように対策は施すべきだ。

貴族である事を隠しもしないような恰好で来るような連中がマトモな連中とは考えづらいし。

「闇よ。我が身、我が店を隠せ」

ワタシは隠蔽の闇属性魔術を使用して、ワタシ自身とワタシの店をそこに在るのは分かるけれど認識はされず、違和感を持たれないようにする。と言う効果をこの場に付与する。

構築が面倒だったので『闇』から『隠蔽』の概念を適当に抽出して付与しただけだが、これで問題なくやり過ごせるはず。

ワタシがそう思った時だった。

ざわめきが近づいてくる。

「どうかされましたか?」

「魔術が行使された気配がした」

そこに居たのは二人の男。

騎士と魔術師だ。

「魔術をですか? 周囲には魔術師は居ないように見えますが」

一人は顔以外を鎧で守り、腰に剣を挿した騎士で、鎧の輝き具合と金のかかり方からして貴族なのは間違いない。

「そうだな。目の色を見る限りでは……」

もう一人は船のオールに似たシルエットの杖を背負い、ローブに身を包んだ魔術師で、身に着けている物の豪華さとかかっている魔術の質からして、この男も貴族。

そして、こちらの方が主人と言うか上司と言うか……とりあえず騎士より上役なのは確実だろう。

「いや待て、そこに居るな」

「は?」

「っ!?」

気づかれた!?

魔術師の方がワタシの店がある方へと近づいてくる。

近づいてきて、ワタシの事をはっきりと見ている。

「……!?」

そうして何故だか驚く。

後、胸に目を向けられた。

案外分かる物だからな、それ。

ワタシの場合はとある事情で凄く分かり易いのもあるが。

まあいい、気が付かれた以上は隠蔽をしていても魔力の無駄である。

ワタシは隠蔽の魔術を解除する。

「何の御用でしょうか。魔術師様」

その上でワタシは出来る限りの笑みを浮かべて、目の前の魔術師に語り掛ける。

言外に「営業妨害だから、はよ買うもの買って去れや」と言う気持ちを滲ませながら。

それに対する魔術師の反応はワタシが予想だにしないものだった。

「「「!?」」」

周囲もざわつかずにはいられないものだった。

騎士に至っては信じられないものを見たと言う言葉そのままのような顔をしていた。

「お久しぶりです師匠。貴方をお迎えに参りました」

魔術師は膝を着いていた。

目線を座っているチビのワタシよりも更に下の高さになるように、土埃で高価そうな衣服が汚れるのも厭わずに膝を着いていた。

しかもワタシでも知っているような上位の礼……自身の胸に片手を当てると言うポーズを取って、ワタシに微笑みかけていた。

貴族の魔術師が、平民であるはずのワタシに向かって、明らかに上位者に対してするべきポーズを取っていた。

「はいっ?」

そんな理解しがたい光景にワタシが出来たのは、辛うじて疑問の意を込めた返事をして、首を傾げる事だけだった。