軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7)正体

側近候補のことで再度、ルーファスは国王と相談をした。

ルーファスは父から「二人の家に理由はなんと伝えたいのだ?」と尋ねられた。

理由は自分で考えるべきだとルーファスもわかっていた。

「彼ら二人は生徒会を解任されました。規則を破りすぎるので。そんな側近は要りません」

「生徒会か。学園の規則を破ったわけではないのだな」

国王が渋い顔をする。

「それはそうですが」

「理由としては弱いな」

「信頼できない人間など、側近は務められないでしょう」

「たかが生徒会だ」

国王に冷淡に告げられ、ルーファスは一瞬押し黙った。だが、あの二人はもう斬り捨てたかった。

「ジャニスのことは理由にしてはいけないのでしょうか」

父の答えはおおよそわかっていたが確かめずにはいられなかった。

国王は「あの娘は王妃の気に入りだったからな」と更に気難しい顔をした。王妃が気に入っていたから信用してカイトたちは付き合っていた。

カイトとキリアンは幼い頃からルーファスの取り巻きだった。その二人にジャニスが絡んできた。三人は幼なじみなのだ。

それなのにジャニスを理由に断れるだろうか、とルーファスも思っていたが。やはり駄目なのだろう。

国王は「まさかその歳で女が絡んでくるとはな」と力の抜けた苦笑をする。

「女、というか、そういう色っぽいものでは、決して」

ルーファスは口籠った。

王家はカイトとキリアンを切り捨てたとしても、二人の実家である家については関係悪化を望んでいなかった。

カイトとキリアンは表向き大きな失態はない。

ルーファスは、王子としての教育で心理学や閨の知識も学んでいる。異性が絡むと厄介だということくらい理解している。色仕掛けに惑わされないようにその辺りは念入りに習う。

ルーファスたちはもうすでに色事は気遣うべき年齢だった。

「あの二人がジャニスに夢中な様子なのは知っている。報告は来ていた。彼らの家に女絡みの理由だと言えば大事になる。ジャニスが王妃のお気に入りだったのも問題だ。王家が彼らとジャニスを取り持ったようなものなのだ。恨まれる理由にはしたくないだろう」

「あの二人は公爵令息のセオドア殿の信頼も損ねていました。生徒会の規則を繰り返し破ったからですが。ジャニスを生徒会室に連れてくるからです」

「なにをやっている。入れなければいいだろう」

国王に呆れて睨まれ、ルーファスは「もちろんそうなんですが」と急ぎ、説明の言葉を探した。

「カイトたちとは十年前からの付き合いですが、ずっと母の、王妃のルールの中に私たちはおりました。その中ではあの三人のやることはすべて許されていました。それが抜けないんです。私が近衛にでも命じなければ彼らは生徒会室に居座り続けたでしょう。だから、セオドアはカイトたちを役員から追い出したんです」

「馬鹿な」

国王の顔が歪んだ。

「ジャニスは図々しすぎて、会長が部外者には見せたくない資料まで覗き見ようとするので会長と副会長からの評判が悪かったんです。それに大事な書類に茶を零したこともありました」

「あぁ、書類の復元を王宮に持ち込んでやったという?」

学園の書類に王宮の技術を使ったことは国王に報告があった。

「あれは、ジャニスが会長の書類を覗き見ようとして会長が資料で隠したときにジャニスが零したんです。端から見れば私の友人がやったことですから、私が責任を取りました。そんな者をいくら注意しても生徒会室に連れてくる側近は要らないです」

「なるほどな」

面倒だなと国王は思った。

どうしても「王妃のお気に入りだった娘」が原因のようだ。

国王と王子が考え込んでいると、王の側近がそっと口を挟んだ。

「二人の側近候補の目を覚まさせるという方法もありますね」

「目を覚まさせる?」

国王が片眉を上げた。

「以前に殿下が疑問を持たれていた件です。一応、調べはしていたのです。きっちりとした証拠などはございませんが」

「私が?」

ルーファスが首を傾げる。

「王妃様がジャニス殿をお気に入りになられたあの件です。庭師の子たちが手を荒らすので、見習いにも庭師用の手袋を支給するようにしましたね」

「ああ、そんなことがあったな」

国王が答え、ルーファスも思い出した。

側近の言う通りだ。庭師の見習いたちは手のありさまが酷かった。傷だらけで手荒れだらけが当たり前だった。

ジャニスがそれに気付いて手荒れの薬を渡し、そのうちに見習いにも小さめの手袋が支給されるようになった。王妃がそれを知って感心し、ジャニスを見直したという出来事があった。

それまでも王妃は朗らかに懐いてくるジャニスをそれなりに気に入ってはいたが、ジャニスには「ご機嫌取りが上手い」という以外には取り立てて目立つ美点はない。それが、この庭師見習いの件からジャニスのあつかいが変わった。ルーファスにジャニスのエスコートをさせるようになったのもこのときからだ。

けれど、ルーファスは「庭師見習いとジャニスに接点などないだろう?」と不思議でならなかった。

ジャニスは母親について王宮に来るとずっとルーファスに纏い付いているか、側近候補のキリアンやカイトと一緒だった。勝手に王宮内をふらつくこともできない。

そんなルーファスの疑問を王の側近は気にかけてくれていたのだ。

「状況証拠だけなのです。ジャニス殿の姉は王宮総務部で備品係をしています。それで、忙しい時に王宮の通用門のところで彼女の弟が手伝いをすることがあったのです。仲の良い姉弟で、通用門のところだけですから周りも見逃していたのですね。数を数えたり、バラけた品物を揃えたり。その時によく彼は備品を取りに来た庭師見習いと親しくしているのを見られています。庭師見習いの仕事用手袋で安いものを探したのは備品係の姉ですね。そこにはジャニス殿は絡んでいないのです。ですが、ジャニス殿が庭師見習いのためにやったと思われています」

「なるほど」

国王の眉間に皺がよった。

それが本当なら、ジャニスは自分の姉弟の手柄を取ったことになる。

「あのジャニスという娘は思うよりも危険人物かもしれないな」

国王が呟き、側近は静かに頷いた。

ルーファスは背筋がぞわりと震えた。そんな娘だとは知らなかった。

側近の彼は、この情報はセリーナ夫人が王妃の親友のままなら話せなかっただろう。状況証拠だけで王妃の相談役の貴族夫人を疑うわけにいかない。わざわざ口に出すのは憚られる。

下手したらずっと知らないままでいただろう。ジャニスは幼いころから鬱陶しいとは思っていたが性悪だとは気付いていなかった。

本当に見る目がなかった。いつから彼女はそんな人間だったんだろう。

鬱陶しいと思い始めたのはかなり昔のことだ。彼女はなにかとしつこかった。他の友人と話そうとしていても割り込んでくる。母の手前、拒絶しにくいこともルーファスを苛立たせていた。

その苛立ちが悪化したのは婚約者を決めるころからだった。ジャニスが婚約の候補になるなど許せるはずもない。条件的にもジャニスでは無理だ。

もしもルーファスが望めば、彼女をどこかに養女にするという方法はあったが、望むはずもない。

ルーファスの兄である第一王子アドニスはあまり身体が丈夫ではない。胸に持病を持っている。王家の血筋にはたまにそういう症状を持つものがいる。遺伝的なものなので極秘にされている。

アドニスの病状は執務をこなすのに支障はなく、周りが無理をさせないように気遣えば問題ない。

ルーファスは兄の補佐をするように義務づけられている。将来は兄の片腕として働く。つまり、ルーファスの妻は王妃のような役割も求められる。

兄の婚約者はその辺りもきっちり理解している聡明な女性が選ばれた。二人は政略的な結婚でありながら相思相愛だった。ルーファスは二人のようになりたかった。

兄の妻リズベラ妃は一見、大人しい女性だが芯は強くて人前では微笑みを絶やさない人だ。いつも控えめに兄を支えている。

比べて、ジャニスはなにかと甘えてくるし涙をこぼす。それで自分の我を通そうとする。自分の欲求を叶えるために、か弱い女であることを使う。

今までジャニスの本性は隠れて見えなかった。もしもシンシアのことがなかったら、今もきっと隠れていただろう。