軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇と剣王祭【九】

『冷気』を操るシドーさんと『毒』を操る幻影学院が副将――ラーム=ライオットさんの戦いは 熾烈(しれつ) を極めた。

「――< 氷結槍(ひょうけつそう) >ッ!」

シドーさんがまるで雨のような氷の槍を降らすと、

「はっ、甘ぇよ! ――< 魔蛇の蜷局(スネイク・コイル) >ッ!」

ラームさんは毒で作られた紫色の盾で、それを難なく防いだ。

「今度はこっちの番だ――< 魔蛇の波(スネイク・ウェイブ) >ッ!」

反撃に彼が剣を振るうと――毒で作られた百を超える蛇が、一斉にシドーさんを襲う。

「しょっぱい技だなぁ、えぇ? ――< 天氷柱(てんひょうちゅう) >ッ!」

天まで届かんとする巨大な氷柱が舞台から生え、押し寄せる蛇を一掃した。

(……凄いっ!)

まさに一進一退の攻防戦。

戦況は完全に五分五分だった。

しかし、戦いが一分二分と経過したところで――その 趨勢(すうせい) は、徐々にはっきりとしていった。

「どぉしたどぉした……そんなものかよ、副将様はぁっ!?」

「ぐっ……。一年坊主、が……っ!」

『準備運動』を終えたシドーさんの動きは、みるみるうちに冴え渡り――その反面、ラームさんの動きは徐々に鈍っていった。

見れば彼の手足は薄い紫色へ変色しており、低体温症の兆候が見られた。

(以前よりも遥かに 早い(・・) ……っ!)

まだ二人が戦ってから、ほんの二分程度しか経っていない。

おそらく< 孤高の氷狼(ヴァナルガンド) >が発する冷気が、とてつもなく強化されているのだろう。

(まさか……ここまでとは……っ)

ラームさんは、決して未熟な剣士ではない。

研ぎ澄まされた剣術に優れた身体能力――それに加えて、応用の利く強力な魂装。

剣王祭本戦の場にふさわしい、一流の剣士だ。

しかし、シドーさんはそれを大きく上回る『超一流の剣士』だった。

天賦の才である圧倒的な身体能力。

そこへ完璧に噛み合わさった強力無比な魂装――<孤高の氷狼>。

(やっぱりシドーさんは、とてつもなく強い……っ)

その後、試合の天秤は大きくシドーさんの方へと傾き――そしてついに彼の放った氷結槍が、ラームさんの右足を射抜いた。

「ぐ、が……っ!?」

彼は右足を抱え込み、その場でうずくまった。

(これで機動力が大きく削がれた……勝負あり、だな……)

誰の目にも明らかな決着がつき、シドーさんは凶悪な笑みを浮かべた。

その瞬間。

「馬鹿め、油断したな! ――< 魔蛇の大噛み(スネイク・バイト) >ぉおおおおッ!」

突如跳ね起きたラームさんは、大量の毒で練り上げられた超巨大な蛇を凄まじい速度で放った。

しかし、

「―― 永劫(えいごう) の時を閉ざせ< 氷瀑壁(ひょうばくへき) >ッ!」

薄い氷が何層も折り重なった巨大な壁が、その行く手を阻む。

これ以上無い完璧なタイミングと超至近距離で放たれた 毒蛇(どくじゃ) の一撃は――冷たい氷の壁を前に敗れ去った。

「嘘、だろ……っ!?」

あまりにも隔絶とした力の差に――ラームさんは言葉を失った。

「おぃおぃ……。最後の一撃が不意打ちったぁ、みっともねぇなぁ? え゛ぇ?」

シドーさんが指を鳴らした次の瞬間。

氷瀑壁は無数の氷塊に変わり――凄まじい勢いでラームさんへ一斉掃射された。

「あ、が……っ」

右足を射抜かれ、渾身の一撃も軽く防がれた。

肉体的にも精神的にも満身創痍の彼は――吹雪のような氷塊に全身を撃たれた。

そして完全に戦闘不能になった彼は、ゆっくりと倒れ伏したのだった。

「な、ななな、なんということでしょうか!? 期せずして発生した場外乱闘! 『先鋒』対『副将』の結果は――氷王学院、シドー=ユークリウス選手の勝利ですっ!」

実況解説が場を盛り上げるためにそう言うと、

「やるじゃねぇか、氷王学院!」

「まさか先鋒が副将に勝つとはなぁ……っ!」

「こりゃ、来年の剣王祭は期待できるんじゃねぇか!?」

観客たちにも予想外の『好ゲーム』に興奮を隠せないようだった。

戦いは終わった――誰も彼もがそう思っている中、俺は強い焦りを感じていた。

(いや、 まだだ(・・・) ……っ)

俺は知っている。

一度火の付いたシドーさんは―― この程度(・・・・) では、決して止まらないということを……っ。

すると俺の予想通り――彼は動けなくなったラームさんの元へ歩み寄り、< 孤高の氷狼(ヴァナルガンド) >を構えた。

(この構えは……< 氷狼の一裂(ヴァナル・スラスト) >……っ!?)

冷気を一気に噴出し、爆発的な加速を得た必殺の突き。

もはや指一本動かせないラームさんが、あんな一撃を受けたら……文字通りバラバラになってしまう。

「なっ!? し、シドー選手!? これ以上は、いけません! 大会の規定に反しますよ!?」

実況解説が早口で警告を発したが……もう遅い。

「――<氷狼の一裂>ッ!」

凄まじい冷気が吹き荒れ、絶大な威力を誇る突きが放たれた。

「駄目だ、シドーさんっ!」

俺が大声で叫んだその瞬間。

「「「「――< 四門重力方陣(しもんじゅうりょくほうじん) >ッ!」」」」

身の丈ほどもある透明な緑色の板が――四方からシドーさんを押さえつけた。

「んだよ……これは……っ!?」

四方から圧迫されて身動きの取れなくなった彼は、苛立った様子で大きく舌打ちをした。

(い、いったい誰が……っ!?)

声のした方へ視線を向けるとそこには――四人の上級聖騎士の姿があった。

彼らは魂装と思われる緑色の長剣を胸の前に掲げながら舞台へ上がる。

(上級聖騎士か……。よかった……)

こういった不測の事態に備えて、配備されていたのだろう。

「ふー……っ。ギリギリだったな」

「噂には聞いていたが……。まさに狂犬だな、こいつは……」

「シドー=ユークリウス。今の一撃は明らかな規定違反だ」

「――悪いが、聖騎士協会まで連行させてもらおうか」

手錠を持った上級聖騎士が、シドーさんに近寄ったその瞬間。

彼を押さえつけていた緑色の板は、みるみるうちに凍り付き、

「……気ん持ち悪いものを……なすり付けてんじゃねぇぞっ!」

シドーさんの怒号と共に砕け散った。

「ば、馬鹿な!?」

「高重力による四重拘束だぞ!?」

予想外の事態に目を白黒させる上級聖騎士たちへ、<孤高の氷狼>が突き付けられた。

「誰だ、てめぇら……? 邪魔するってんなら……殺すぞ?」

「「「「……っ」」」」

一睨みで上級聖騎士を竦み上がらせたシドーさんは、眼下で倒れ伏すラームさんへと視線を向けた。

「た、助け……っ」

彼はガチガチと歯を鳴らしながら、震える手で幻影学院の仲間の方へ手を伸ばした。

しかし、彼らはシドーさんの凄まじい殺気に身動き一つ取れず、その場で固まっていた。

「はぁ……。てめぇはさっさと死んどけよ……」

シドーさんが何の躊躇いもなく、剣を振り下ろしたそのとき。

「――やめや、シドー」

北訛(きたなま) りの女性の声が響き――彼の手がピタリと止まった。

「お、お嬢……っ!?」

舞台の上にはいつの間にか、氷王学院の理事長――フェリス=ドーラハインの姿があった。

「はぁ……。相変わらず、加減を知らん子やなぁ……。それ以上やったら、その子ほんまに死んでまうやろ?」

「お、お嬢……っ。だけど、このドカスは……っ!」

「うちの言うこと、聞いてくれへんのか……?」

もの悲しそうな表情でフェリスさんがそう言うと、

「ちっ……わかったよ」

なんと彼は自ら矛を収め――<孤高の氷狼>を消した。

すると、

「か、確保……っ!」

シドーさんの殺意が消えたところで、十人を超える上級聖騎士が一斉に捕縛へ動いた。

「痛ぇな……。もっと丁重に扱いやがれ……っ!」

シドーさんは全く物怖じすることなく、『相変わらず』の態度で連行されていった。

会場中がシンと静まり返る中、会長がポツリと呟いた。

「上級聖騎士四人の魂装を破るなんて……末恐ろしい子ね……」

「うんうん、夏合宿のときからずいぶん育ったなーっ! 一回全力で戦ってみたいぞ!」

「いや、どう考えてもリリムじゃ勝てないと思うんですけど……」

「な、なにをーっ!?」

先輩たちがそんな話を交わす中、俺には一つ心配事があった。

「シドーさん、大丈夫でしょうか……」

彼が問題を起こすのは、大五聖祭に続いてこれが『二度目』だ。

(確か前回は、俺と同じ停学一か月だという話だったけど……)

もしかすると今回は、さらに重い処分が下されるかもしれない。

すると、

「当然、何らかの処分はあるでしょうけど……。まず間違いなく、退学にはならないでしょうね」

会長は、はっきりとそう断言した。

「なんと言ってもシドーさんの後ろには――いえ『フェリスさんの後ろ』には、 あの(・・) リゼ=ドーラハインさんがいるもの……。誰も好き好んで『狐金融』に、手を出そうとしないわ。おそらく、前回同様に少しの停学で済むでしょうね……」

「そうですか、それはよかった……」

そうして俺がホッと胸を撫で下ろしていると、

「さ、さぁ! 予想外の乱闘がありましたが……。気を取り直して、第三回戦の抽選を行いたいと思います!」

会場のざわめきを吹き飛ばすような大きな声で、実況解説が剣王祭本戦を再開させたのだった。

その後、他の五学院は順当に勝ち上がり、いよいよベスト8の試合が始まろうとしていた。

ベスト8、一回戦の一番手は――またしても千刃学院だった。

「ふーっ……」

ついに来た。

ベスト16では六花学院が棄権したため、これが剣王祭本戦での初勝負となる。

(これまで積み重ねてきた修業の全てを――ここでぶつけるんだ……っ!)

そうして俺がグッと拳を握り締めていると、

「ふふっ、ちょっと緊張するわね……っ!」

「さぁ、どこだっ! かかってこーいっ!」

「できれば五学院は避けたいんですけど……」

さすがの会長たちも落ち着かない様子で、少しソワソワとしていた。

「さぁ、千刃学院と雌雄を決するのは、いったいどこの剣術学院でしょうか!?」

実況解説はそう言って、表面に『剣王祭』と記された大きな箱に右手を入れた。

ベスト8からは、一位突破も二位突破も関係なし――対戦相手は完全なランダムによって決定される。

そして――、

「これは……出ました! 五学院が一つ、『 白百合(しらゆり) 女学院』でございます!」

俺たちはついに『五学院』が一つ、白百合女学院と戦うことになった。

(……きたっ! 氷王学院以来の『五学院』との戦いだ……っ!)

俺が心の中で闘志を燃え上がらせていると、

「お、終わった……っ」

「こ、これはちょっとキツイかも……っ」

「いや……どう考えても『詰み』なんですけど……」

会長たちはがっくりと肩を落としていた。

いつもポジティブなあのリリム先輩ですら、苦笑いを浮かべている。

「そ、そんなに強いところなんですか……!?」

五学院についてあまりよく知らない俺がそう問い掛けると――会長はコクリと頷いた。

「強いどころの騒ぎじゃないわ……。白百合女学院は、直近の剣王祭で五大会連続『準優勝』の超強豪校よ……っ」

「うんうん、それに今年は『神童』と呼ばれる最強の一年生――イドラ=ルクスマリアが加入したしね……。アレンくん……がんばだよ……っ!」

「いや、頑張らなくてもいいんですけど……。精々殺されないようにだけ、頑張ってほしいんですけど……」

フェリス先輩はそう言って、割と真剣に俺の身を気遣っていた。

(そ、そこまでの相手なのか……っ!?)

驚愕に目を見開いていると、

「さぁ、それでは恒例の選手紹介へ参りましょう!」

実況解説が選手紹介を始めた。

「千刃学院が先鋒は――アレン=ロードル選手! 流派・魂装ともにありませんが、特筆すべきはその圧倒的な身体能力と研ぎ澄まされた剣術! Aグループの予選では無傷で全勝を飾り、今大会のダークホース的な存在です!」

紹介を受けた俺が舞台へ上がると、

「アレーンっ! 頑張ってーっ!」

「気負うな! 私たちがついているぞ!」

「 一年生(おれたち) の代表なんだ、負けんじゃねぇよ!」

観客席からリアにローズ、それからテッサの心強い声援が背中を押してくれた。

「そしてそして白百合女学院が先鋒は、みなさんご存知――『神童』イドラ=ルクスマリア選手! もはやこの剣士について、詳しく語る必要はないでしょう! 私たちは静かに『一年生最強』と呼ばれる彼女の絶技を――この目に焼き付けましょう!」

壮麗な女剣士が舞台へ上がったその瞬間、凄まじい歓声が巻き起こった。

「きたきたきたーっ! 俺はこいつを見に来たんだぜ!」

「きゃぁー、イドラ様ーっ! こっち向いてくださーいっ!」

イドラ=ルクスマリア。

透き通るような 紺碧(こんぺき) の瞳。

ハーフアップにされた、長く美しい真っ白な髪。

まるで作られたかのような端正な顔立ち。

雪のように白い肌。

身長は百六十センチ半ばほど、十五歳の女性にしては高身長と言えるだろう。

白地に青色のアクセントが施された――白百合女学院の制服に身を包む彼女は、『品格』のようなものを感じさせた。

(それにしても……凄い人気だな……)

男女問わず、割れんばかりの歓声と声援がイドラさんに送られていた。

舞台へ上がった彼女は、特に何も口にすることは無く――ジッと俺の目を見つめた。

すると、

「両者、準備はよろしいでしょうか!? それでは先鋒戦――はじめ!」

実況解説の声が会場中に響いた。

それと同時に俺は剣を抜き放ち、正眼の構えを取る。

(『神童』『一年最強』と称される女剣士――イドラ=ルクスマリアさん……っ!)

相手にとって不足はない……っ!

こうして俺とイドラさんの戦いの 火蓋(ひぶた) が、切って落とされたのだった。