作品タイトル不明
桜の国チェリンと七聖剣【六十三】
とにもかくにも、なんとかリアからの信頼を勝ち得た俺は――『最終関門』シィ=アークストリアへ目を向ける。
(会長は強敵だぞ……)
ローズはバッカスさんが極度の女好きで、のぞきの前科があることを知っていた。
リアは嘘を見抜く力を使って、話の 真贋(しんがん) を見極めることができた。
二人には『俺を信じられる根拠』があるのだ。
(でも、会長にはそれがない……)
いったいどうやって、この難攻不落のお姉さんを攻略すればいいんだろうか。
俺と彼女の間には、なんとも言えない難しい空気が流れている。
(……まずは会話の糸口を掴もう)
お互いに黙ったままじゃ、事態は一向に好転しない。
こちらからアクションを起こし、この 膠着(こうちゃく) した盤面を動かすべきだ。
「あ、あの……会長?」
勇気を振り絞ってそう声を掛ければ、
「はい。なんですか、アレンさん?」
彼女は柔和な笑みを浮かべたまま、可愛らしく小首をかしげた。
(あ、アレン さん(・・) ……っ)
これまでずっとアレン くん(・・) と呼んでくれていたのに……。
どうやらこの一件で、好感度が地の底にまで落ちてしまったらしい。
「え、えっとその……さっき話した通り、俺は決してのぞきを働いたわけでは――」
「――でも、私の裸は見たんですよね?」
会長は柔らかく微笑みながら、鋭い指摘を飛ばした。
「そ、それは……っ」
確かに、これ以上ないほどはっきりと見てしまった。
(あれから何度も頭を振って、必死に忘れようとしたけれど……)
あんな強烈な記憶、忘れろという方が無理だ。
「お姉さん、えっちなことはいけないと思います。三人の女の子を 辱(はずかし) めたアレンさんは、聖騎士協会の地下牢で罪を 償(つぐな) うべきです」
彼女はそう言って、プイと明後日の方向を向いてしまった。
(ま、マズいぞ……っ)
会長は政府の重鎮『アークストリア家』のご令嬢だ。
その顔は驚くほどに広く、聖騎士協会とも深い繋がりがある。
そんな彼女がこの一件を協会へ報告すれば……俺はすぐさま拘束されてしまうだろう。
「会長、あなたのその……胸とかいろいろと見てしまったことについては、とても悪いと思っています。だけど、本当にわざとじゃないんです! だから、今回だけは許してもらえないでしょうか……? 俺にできることなら、なんでもしますから……っ」
両手を顔の前で合わせて、必死に頼み込んだそのとき、
「…… なんでも(・・・・) ? 今、なんでもって言ったわよね?」
彼女はその言葉を待っていたとばかりに、口角をニヤリと吊り上げたのだった。