軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アレン細胞と政略結婚【五十】

ローズがセバスさんの話題を口にした瞬間、

「「「「「……」」」」」

なんとも言えない空気が流れ、沈黙が場を支配した。

(……今思い返して見れば、『兆候』らしきものはあった)

初めて違和感を覚えたのは、この幻霊研究所へスポットを探しに行ったときだ。

何故かセバスさんは、 俺が(・・) ここの(・・・) 構造に(・・・) 明るい(・・・) ことを知っていた。

冷静になって考えれば、これは絶対にあり得ない。

(そのことを知っているのは、リアの誘拐事件にかかわったごく少数の人たちだけだ。当然、その中に彼は含まれない……)

セバスさんはあのとき、ブラッドダイヤを採掘するために神聖ローネリア帝国へいたはずだ。

しかも皇国へ戻ってからは、聖騎士協会の地下牢にずっと閉じこもっていた。

(彼がリアの誘拐事件を知るタイミングは、どこにも存在しない……)

つまり――俺が幻霊研究所の構造に詳しいという情報を、セバスさんは絶対に知らないはずなのだ。

そして『何かがおかしい』という確信を得たのは、グレガを倒した直後のことだ。

(俺はあのとき、『神託の十三騎士を倒した』としか言っていない……)

それにもかかわらず、セバスさんは『グレガ』という名前をはっきり口にした。

(絶対に知り得ないはずの二つの情報……。彼はそれを無意識のうちに口走った)

そのときは差し迫った状況だったから、そのまま流してしまったけど……怪しい兆候は確かに存在していたのだ。

俺がそんなことを思い返していると、

「そう言えば、会長は何か知っているような感じでしたよね……?」

リアがそんな質問を投げ掛けた。

(確か、そんなこともあったな……)

セバスさんが正体を明かしたあの瞬間――予想外の事態に俺たちが言葉を失っている中、会長だけは一人素早く剣を抜いていた。

アレは明らかに、何かを知っている反応だ。

すると彼女は、少し難しい表情を浮かべながら口を開く。

「実はね……。今年の頭頃に一度、こっそりセバスのことを調べたのよ」

「セバスさんのことを……ですか?」

「えぇ、そうよ。――ここ数年、黒の組織が皇国のあちこちで事件を起こしているのは知っているわよね?」

会長の問い掛けに対し、全員が首を縦に振った。

新聞やラジオでアレだけ頻繁に報道されれば、さすがにほぼ全ての国民が知っているだろう。

「あの頃――国防を担当するアークストリア家は、事件の解決と今後の予防策を講じることに目を回していたわ。私もお父さんや使用人たちと一緒に、いろいろな事件を調べて回ったものよ。そうしてたくさんの捜査情報に触れているうちに、気付いてしまったの。現場周辺には、必ずと言っていいほど『千刃学院の生徒』がいたことに……」

会長は一拍置いてから話を続ける。

「私はすぐに全校生徒の出席記録を取り寄せ、事件の発生日とそれを照らし合わせていったわ。その結果、たった一人だけ該当者がいたの。事件のあった日に限って、必ず授業を欠席している生徒――それがセバス=チャンドラーよ」

「なるほど……。それで調べてみたところ、黒の組織との繋がりがあったということですか……」

リアが納得したとばかりにそう呟くと、

「いいえ、どれだけ調べても結果は真っ白……。セバスと黒の組織には、なんの繋がりも見つからなかったわ。でもその代わり、とても奇妙なことがわかったの」

会長は静かに首を横へ振り、その『奇妙なこと』について聞かせてくれた。

「国に登録されている彼の情報は、ものの見事に嘘だらけだったわ。住所・家族構成・出生地――どれもこれもみんなデタラメばかり。そもそも『チャンドラー家』なんて存在しなかったのよ」

「「「「「……」」」」」

彼女の口から次々に語られる情報を、俺たちは静かに聞き入った。

「不審に思った私は『罰ゲーム』と称して、セバスにブラッドダイヤを採りに行かせてみたの。その結果――今まで毎日のように起きた事件は、一気に激減したわ。これで彼と黒の組織の間になんらかの関係があることが、はっきりわかったの。そうね、ちょうどアレンくんたちが入学する二、三か月前のことかしら……?」

どうやら噂に聞くあのふざけた罰ゲームには、ちゃんとした『意味』があったようだ。

「ここから先の話は、みんなが知っている通りよ。剣王祭のときに帰国したセバスは、そのまま聖騎士協会の地下牢へ幽閉され――私はあえて彼を迎えに行かず、そのままの状態で放置したというわけ」

そうして会長が説明を終えたところで、

「まさかそこまで考えていたなんて……。というか、セバスさんの存在を忘れていたわけじゃなかったんですね……」

リアがしみじみとそう呟いた。

会長が想像以上に思案を巡らせていたことに対し、舌を巻いている様子だ。

「あはは。私とリリム・フェリス・セバスの四人は、十年にもなる長い付き合いよ? うっかり忘れたりなんかしないわ」

「「……」」

十年来の幼馴染をすっかり忘れていたリリム先輩とフェリス先輩は、サッと視線を逸らして口をつぐんだ。

「まぁそういうわけでセバスが『黒』と判明したあのとき、私はそんなに驚かなかったのよ。でもまさか『皇帝直属の四騎士』――あそこまでの超大物だとは、夢にも思ってなかったけどね……」

そうして会長は話を終え、俺たちは小さく息を吐き出した。

予想を大きく上回る情報量に、少し圧倒されてしまったのだ。

「――かなり疲労も溜まっていますし、今日のところは一度帰りませんか?」

俺がそんなごく真っ当な提案を口にすると、

「なっ!? あのアレンくんが『疲れた』、だと……!?」

「め、珍しい……。まるで人間のような発言なんですけど……!?」

リリム先輩とフェリス先輩は、心底驚いた表情でそう言った。

「いや、二人して俺を何だと思っているんですか……」

「なにって……化物だろ?」

「人外なんですけど……?」

「……そうですか」

霊力切れを起こしたこの状態で、二人の誤解を解くのは大変だ。

そう判断した俺は特に反論をせず、苦笑いを返しておくだけに留めた。

その後、全員で屋外へ移動を始めたそのとき、

「あっ」

「なっ!?」

白装束に身を包んだロディスさんと、偶然ばったり出くわした。

この様子だと……どうやら彼もここのスポットを利用するつもりだったようだ。

「お前たち、どうしてここ、に……っ!?」

ロディスさんは俺たちを睨み付けた後、とある一点で石像のようにピタリと固まった。

「し、シィ、なのか……!?」

そうして大事な愛娘の名前を喉の奥から絞り出した彼は、その 厳(いか) めしい目元から一筋の涙を流したのだった。