軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アレン細胞と政略結婚【二十二】

俺はガラスを一枚 隔(へだ) てたまま、パイプベッドに腰掛けたレインへ声を掛けた。

「――久しぶりだな、レイン」

すると彼はすぐに立ち上がり、こちらへ向かって歩いてきた。

「あぁ、もう二か月になるのか……。その節は本当に感謝しているぞ。お前が『雨の呪い』を解いてくれたおかげで、セレナは人並みの生活が送れるようになった」

セレナ=グラッド。

かつてレインが開いていた孤児院の唯一の生き残りであり、レインの養子だ。

数年前、魔獣に襲われた彼女は雨の呪いを 患(わずら) った。

それは雨が降っている場所でしか生きられないというとても恐ろしいものだ。

レインはそんな彼女を守るため、晴れの国ダグリオに止まない雨を降らした。

(それは決して正しい行いではないけれど……)

彼は彼なりの正義の元、心を痛めながら動いていた。

「そう言えば……セレナは元気でやっているのか?」

あの事件以来、彼女のことはずっと気掛かりだった。

「あぁ、今はクラウンの 計(はか) らいで、オーレストの孤児院へ通っている。月に数回面会もあってな。――ほら見てくれ、こうして手紙を持って来てくれるんだ!」

レインはそう言って、机の引き出しからたくさんの手紙を取り出した。

その顔は本当に嬉しそうで、どこか 憑(つ) き物が落ちたようだった。

「そうか、それはよかった」

「それもこれも全て、アレンのおかげだ。お前には感謝しても仕切れん……本当にありがとう」

彼はそう言って、深く頭を下げた。

「あぁ、気にするな」

そうしてレインから感謝の言葉を受け取った俺は、そろそろ本題へ入ることにした。

「レイン、実はお前にどうしても聞きたいことがあるんだ」

「俺に……?」

「あぁ、黒の組織についてだ」

「なるほど、そういうことか……。もちろん、構わないぞ。他でもないアレンの頼みだ。なんでも聞いてくれ。俺が知っている限りのことを全て話そう」

彼は真剣な表情で、心強いことを言ってくれた。

「ありがとう、助かるよ……!」

それから俺は、とりあえずこちらの現状を全て話した。

大事な友達が、わずかな時間稼ぎのために政略結婚をさせられること。

その相手は、神聖ローネリア帝国の大貴族ヌメロ=ドーランだということ。

俺たちはそれを阻止すべく、帝国へ乗り込むことを決め、現在はドドリエルの作ったスポットを探していること。

そうして説明を終えると、

「なるほどな……。相変わらず、人助けに奔走しているというわけか……」

レインは納得したとばかりに何度も頷いた。

「事情はわかった。――だが、すまないな。いくら神託の十三騎士といえど、さすがに他国のスポットの位置までは知らされていない」

彼はとても申し訳なさそうに、静かに首を横へ振った。

「そ、そんな……っ」

視界が大きくグラリと揺れ、足元が沈み込むような錯覚を覚えた。

そうして俺が顔を青ざめさせていると、

「まぁ、落ち着け。正確な位置こそ知らされていないが、一か所だけ『確実に』スポットのある場所に心当たりがある」

レインはとんでもない情報を口にした。

「ほ、本当か!? それはいったいどこにあるんだ!?」

「『幻霊研究所リーンガード支部』だ」

「幻霊、研究所……?」

「あぁ、そうだ。あまり公にはなっていないが、黒の組織は『幻霊』と呼ばれる特別な霊核を集めている。各国に散らばる『宿主』を捕獲した後、即座に研究を開始できるよう作られたそうだ。あそこには高額な精密機器と優秀な研究員が動員されていてな。ドドリエルが『影渡り』を習得してからすぐ、全ての研究所に帝国直通のスポットが設置された」

「そ、その研究所はどこにあるんだ!?」

「悪いが、さすがにそこまでは知らされていない。――だが、これはむしろアレンたちの方が知っているんじゃないか?」

レインはそう言って、何故かリアの方へ視線を向けた。

「去年の八月頃だったか……。部下から連絡があったぞ? ザク=ボンバールとトール=サモンズの両名がリア=ヴェステリアの捕獲に成功した、とな。すぐに研究を始めるため、幻霊研究所オーレスト支部に連れ込んだとも言っていたな」

その瞬間、俺とリアとローズの三人は顔を見合わせた。

「幻霊研究所って、もしかして あそこ(・・・) のことか……!?」

「えぇ、間違いないわ! 私が監禁されたあの場所には、たくさん変な機械があったし……何より研究者のような人も山ほどいたわ!」

「あそこは確か、『商人の街』ドレスティア付近にある林の中だったな……!」

こうしてようやくスポットの位置を掴んだ俺たちは、会長奪還に向けてとても大きな一歩を踏み出したのだった。