軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(第4話)今こそスカイ王国への反撃の時!って本気か?~クラウド王国~

「ふわぁ。お腹いっぱいです」

リリーが用意した食事を食べ終わった聖女は、そう言って満足そうに笑った。

その時にはもう食堂中が聖白百合で溢れていた。

「うん……。色々聞きたいことはあるが、腹が膨れたなら何よりだ」

「隊長さま。セバス眼鏡様。食堂のおばちゃんリリー様。ありがとうございます」

んっ? あれっ? なんだこれは? 聖女から向けられた純粋な笑顔が可愛すぎて、胸がムズムズする……。

「聖女様。眼鏡は僕の敬称ではございません」

「おばちゃんは余計だよ!」

俺の生まれて初めての胸のムズムズを無視して、セバスとリリーは聖女に物申していた。

「すみません。それではセバス様とリリー様とお呼びさせていただきますね」

うわっ。また笑った! やっぱり笑顔めっちゃ可愛いなぁ。……いやいや、落ち着け俺!

笑顔がめっちゃ可愛い件はどうでも……良くはないが、今は置いておくんだ俺!

深呼吸して心を落ち着けた俺は、国境警備隊の隊長としての職務を全うするために聖女に質問をした。

「それでは君のことを教えてほしい。まずは……君のことは、なんと呼べば良いかな?」

「申し遅れました。私はシエナと申します。平民なので家名はございません。スカイ王国でも使用人含め全員から『シエナ』と呼び捨てにされておりました」

……はっ? さらりと真顔で伝えられた聖女の言葉に、俺達は三人共固まってしまった。

「……あのっ? どうされましたか?」

「いや、だって君はスカイ王国の聖女であり、王太子の婚約者だろう? それなのに使用人からも呼び捨てにされていただなんて……」

「……皆様はご存じないかもしれませんが……あの国は、国王陛下含めて全員おかしいんです」

「うん。それは知ってる。なぁ、セバス?」

「はい。あの国は頭おかしいですね」

「食堂のお姉様である私には国のことは分からないけどね、あの国の衛兵の態度が悪いことは若い子達から聞いて知ってるよ」

俺達三人からの一瞬での賛同に聖女は驚いた顔をした後で、それはもう楽しそうに笑った。

「あははっ。そうですよね! やっぱりあの国はおかしいですよね!」

おいっ! ちょっ! 待てよ! なんだ、これは!? この可愛い生き物は!? 笑顔の破壊力えぐすぎだろっ!!

静まれ! 静まれ、俺の心臓!! 持ちこたえてくれ!!

「私は、お母さんと引き離されて無理やりあの国の王宮に連れていかれ、勝手に第一王子の婚約者にさせられました。そして何の奇跡も起こさなかったので『平民の偽聖女』と王宮中から蔑まれていました。そんな中でも王太子妃に必要な教育は嫌がらせのように詰め込まれました」

うんっ? なんかさらりと言ってるけど、かなり酷い境遇じゃないか?

突っ込みたいが、流れるように紡がれる彼女の言葉に口をはさむ隙間がなかった。

「クラウド王国のことは、『スカイ王国としか国境が繋がっていないので我が国に逆らうことなど出来ない国である。つまり我が国の言いなりになるしかない格下の国だ』と学びました」

「はぁ!? そんなこと普通、王太子妃教育で学ばせるか!? やっぱりあの国は頭おかしいな!」

あまりのことに俺は思わず激高した。リリーも怒髪天を衝きそうな顔をしていた。

「このクラウド王国は、その国土のほとんどを海で囲まれています。陸地で続いているのはスカイ王国と帝国だけですが、帝国との国境へ通じる街道には魔物をおびき寄せる穢れ沼があり魔物が頻出するため実質使用出来ません。そのためクラウド王国から帝国や他国に行くためには必ずスカイ王国を通過する必要があります。そのことを利用して、スカイ王国はクラウド王国との物流のやりとりにありえない率の取引税をかけ、商人等の一般人がクラウド王国からスカイ王国に入国するための通行料もぼったくっている状況です」

一人冷静なセバスが補足した。

「スカイ王国は国の中枢がそんなんだから、国境付近の衛兵だって質が悪いんだ」

スカイ王国の衛兵のこちらを見下すような態度の悪さを思い出して、俺はため息を吐いた。

「……っと、すまん。そんなこと君に聞かせる話ではなかったな。……さすがに呼び捨ては出来ないから……『シエナ嬢』と呼んでも良いだろうか?」

「はいっ。もちろんです」

「その……随分幼く見えるが、シエナ嬢はいくつなんだ?」

「今年十六になります」

そうか! 五歳しか違わないのか! 良かったー。幼く見えるから十歳とか言われたらどうしようかと思ったが、一安心だな。

んっ? 俺は何を安心しているんだ? 別にシエナ嬢の年齢が十歳だとしたって問題なんてないはずなのに……。

いやいや、十歳の幼女の笑顔を見て心臓をズキュズキュさせてたら大問題か……。

うん。落ち着け、俺! 五歳も年下の女性の笑顔でズキュズキュさせているのも、もしかしたら大問題かもしれないじゃないか……。

……なんか……へこむな……。

「おやまぁ! 十六なんてこの国境警備隊の寮にいる若い子と同じくらいの年じゃないか! それなのにそんなに痩せて小さくて! とてもあの子らと同じ年ごろとは思えないよ! いいかい! これからは毎食私の満腹美味しい大満足な定食をモリモリ食べて大きくなるんだよ! ここは大浴場もあるし、設備は整っているからね! スカイ王国のことなんて忘れて、いつまでものんびり過ごしなよ!」

「リリー。勝手に聖女様の処遇を決めないでください。隊長。これからどうされますか?」

さすが冷静眼鏡のセバス。いつもありがとう。

「そうだな。陛下にはもちろん報告するが、返信が来るまではここにいてもらうしかないだろうな。シエナ嬢はそれで良いかな? その間に何か望みがあれば教えてほしい」

「ありがとうございます。……あの、図々しいのですが二つお願いが……」

「何だい? こちらで叶えられることなら手配するが」

「髪を……。髪を切っていただきたいのです」

その予想外の望みに、俺達三人はまた面食らってしまった。

「髪? 確かに長いが……」

「スカイ王国で侍女に散髪をお願いするとわざとハサミを頭に当てられて……。一度出血してからは怖くてお願い出来なくて。伸ばしっぱなしにしてあまりに伸びすぎたら自分でジョキジョキ切っていたんです。……長ければいびつでもそれほど目立たないので……。だけど本当はずっと長い髪がうっとおしくて、ショートカットにしたかったんです」

ほろり。いかん。あまりの境遇に思わず泣きそうになってしまった。

「セバス! すぐにジョンを呼べ!」

「すでに向かっております」

その言葉通り、すでに入り口に向かって駆け出していたセバスはそのまま食堂を出ていった。さすが仕事最速眼鏡!

「あの……ジョン様というのは?」

「ここは城下町からは離れているから、不自由がないように散髪出来る者も常駐しているんだ。ジョンは器用だからすぐにシエナ嬢の望む髪型にしてくれるさ。もちろん痛いことなんて起こらない」

「そうだよ! 私の髪もいつもジョンに切ってもらってるんだ。シエナちゃんも可愛くしてもらいなよ!」

「隊長。ジョンを連れてきました」

おおうっ! いくらなんでも早すぎセバスじゃないか!? えっ? まだ二分も経ってなくないか?

驚く俺を無視したままセバスとジョンの連携プレーであっという間に準備が整って、シエナ嬢の髪はサクサク小気味よく切られていった。

「ジョン様。ありがとうございます」

「シエナ様はお顔が小さいので、ショートカットが良くお似合いですよ」

ジョンは今まで見たこともないくらいに満足そうだった。

いつもむさくるしい男共か食堂や清掃のおばちゃん達の髪ばかり切っているから、若くて、か……可愛い女性の髪を切れてジョンも嬉しかったのだろう。

「あの長くてうっとおしい髪から解放されて、さっぱりしました!」

そう言って鏡を見たシエナ嬢は、今日一番の特大の笑顔だった。

そしてシエナ嬢が笑った瞬間、外から悲鳴が聞こえた。

「どうした!?」

慌てて悲鳴が聞こえた方の窓に駆け寄った俺の目に飛び込んできたのは、中庭にある訓練場の隣のスペースに現れた聖白百合の花畑だった。

「隊長―!! とっ、突然中庭に、は、は、花畑が! 出現しました!!」

窓を開けると、庭師が泡を吹いて今にも倒れそうに驚いていた。

俺はシエナ嬢を振り向いた。

「えっと……。嬉しすぎて……。てへっ」

てへっ、って! てへっ、て! 可愛すぎるだろー!!!!

とりあえず俺の心臓と庭師を落ち着けた後で、俺とセバスはシエナ嬢と向き合っていた。

「シエナ嬢は、なぜスカイ王国で『偽聖女』などと呼ばれて甘んじていたんだ? たった少し一緒に過ごしただけの俺でも分かる。どう考えたって君は、本物の聖女だろう?」

「……隊長さま。……まずは私の望みの二つ目を聞いていただけますか?」

「あぁ。それはもちろんだ。シエナ嬢の二つ目の望みは何だい?」

「私を国王陛下に会わせてください。国王陛下でなくとも、許可をいただける方であればどなたでも結構です」

「君の力を報告すれば、国王陛下はもちろん君との対話を望むだろうが、許可とは……?」

「クラウド王国と帝国を繋ぐ街道にある穢れ沼を浄化する許可です」

「「……はっ……?」」

シエナ嬢と出会ってから驚きっぱなしだが、さすがにこれには俺もセバスも揃ってマヌケな声を出してしまった。

セバスのこんなマヌケな声初めて聞いた! ってそんなことはマジでどうでも良いわ!

ケガレヌマヲジョウカ??

えっ? そんなこと出来るの? 聖女様(思わずまた様付け)って、いくらなんでも凄すぎないか?

そんなマヌケ声で多分マヌケ面をしている俺達に向かって、シエナ嬢は頼もしすぎる笑顔を向けた。

「隊長さま! セバス様! 今こそスカイ王国への反撃の時です!」

その瞬間遠くから悲鳴が聞こえたので、またどこかに花畑が出来たのだろう。