軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90話: 提婆達多

何者かを兄と呼ぶ、銀髪少女の唐突な来訪。

ある男子生徒はこの状況を、冷静に分析する。

“銀髪外国人……ということは、普通に考えて クリス(・・・) の親戚”

また別の男子生徒は論理的に情報を整理する。

“だが彼女は 兄さん(・・・) と言った”

また別の男子生徒は客観的に考察する。

“ということは、クリスティーナさんの親戚という線は薄い。となると……”

そして最終的に、皆はある結論にたどり着いた。

「「「やあ、どうしたんだ妹よ」」」

絶句するほど全員バカ。

「なんだよ父さん、再婚してたなら言ってくれよな。まあいいけどさ」

「実は俺、ヨーロッパの血が混じってる気がしてたんだ」

「私の……キャラが……消えてく……」

リリーの登場から5秒足らずで、見事に教室はカオス状態。

元凶であるリリーはというと、「どうしたんですか?」っとでも言うように白々しく笑みを浮かべて静観していた。

こいつ、面白がってやがるな。

幸か不幸か、リリーの兄が俺であることはまだ気づかれていない。

ばれてしまえばどうなるかは火を見るより明らか。しれっとリリーを回収して穏便に済ませたいところだ。

しかしここで、1人の男子生徒がつかつかとリリーの前に歩み出た。

「やあ初めまして、僕は高原。高原翼だ。翼でいいよ」

高原だ。

初登場と勘違いする奴がいるかもしれないから補足だが、既出である。

この学年で総司と双璧を成すイケメン枠だ。

さらさらの髪に甘いフェイス。

どこぞの勇者様かと思えるほどに溢れる正義感。しかし溢れすぎて被害が出ることもあったりなかったり。

突然現れた高原に若干驚きつつも、リリーは自己紹介を返そうと口を開いた。

「あ、どうもリリーです。リリー・こっk……」

「よろしくリリー。お兄さんを探しているのかい? 見た感じドイツあたりの出身かな。残念だけど、このクラスの男子に外国人はいないんだ。この学校にいるかも怪しいけど……、ひとまず一緒に職員室に行って聞いてみよう」

そうこのように、ぐいぐい善行を押し付ける。

それにこいつ、俺がアメリカ人になったことを覚えてないらしい。

去年も同じクラスだっただろ。俺ってそんなに影薄いか?

「いえ、兄はこのクラスに……」

「気にしなくていいよ。乗りかかった船だし、最後までお兄さん探しを手伝うよ」

「え、無理やり乗船されても困ります……」

高原の強引具合に、さすがのリリーも引き気味だ。

これはそろそろ、穏便にとかなんとか言ってられないな。

「おい高原」

俺は二人の会話を遮るようにして、後ろからイケメンの名前を呼ぶ。

「鏡か。悪いけど、今取り込み中なんだ。後にしてくれないか」

しかし高原は、一瞬だけこちらに目を向けるも、すぐに関係がないと見切りをつけリリーに向き直った。

悪気はないのかもしれないが、俺はその言動に少しイラっとくる。

「おい、俺は鏡じゃなくてコックスなんだが」

「今はそんなこと関係ないだろ」

「いや、関係あるんだけど」

周りの奴らはこの会話を聞いて、「そういえばあいつ日本人じゃないんだった……」とか、「まあ、俺なわけないか……」とか、徐々に感付きはじめている。

だがここは高原クオリティ。

しかたないなぁ……っとでも言うように、ふうと小さく息を吐くと、やっと体ごとこちらを向いた。

「いいかい? 彼女は入学初日で、とても不安なんだ。わかるだろう? だから僕は先輩として助けてあげたいんだ。だから今は、別の用事は我慢してくれるかい?」

お人好しで自分の信じた道を突き進むヒーロー属性……と言えば聞こえはいいのかもしれないが、これはただの正義狂い、自分妄信者だな。

無理やりにでも「俺が兄だ」と一言言ってしまえば話は進むのかもしれない。

だがこいつには恥をかいて……もとい、自らの失敗に気付いてもらわにゃなならんだろ。

「わかったわかった。そういう事なら、リリーさんだっけ? 高原にしっっっかり職員室に連れて行ってもらうといい。言葉の壁もあるかもしれないから、先生に聞く時もか・な・ら・ず・隣にいてもらうんだぞ!」

「そうですね、わかりました。高原先輩、宜しくお願いします」

リリーも高原の言動には辟易していたのか、ニッコニコでその提案を受けた。

これで高原は、「ああ、お兄さんはコックス・伊織くんですね」と言われ、自分の行いに気付くだろう。

ふっ、俺も悪くなったもんだ。

この謀略っぷりには総司もにっこり……、

「あ〜おまえら、ちょっと待った」

「え、どうした総司?」

「なあ、職員室には高原1人で行ってきた方がいいんじゃないか?」

しかしなんと、総司からさらなる提案が出された。

「どうしてだい、清水?」

「ま、リリーさんはこの容姿だ。それで、入学初日に先輩と職員室なんて行ってみろ。たちの悪いゴシップの温床になるぞ」

確かに、リリーは銀髪という途方もなく人目を 惹く(・・) 容姿をしている。

総司の言う通り、何かしら邪推する連中が現れる可能性は大いにあるだろう。

高原もその言い分に納得したのか、

「なるほど、清水の言う通りだな。リリー、悪いけど、少しここで待っててくれ。聞いてくるよ」

そう言って、教室を出て行った。

その姿を、さきほどから空気に甘んじていた宮本がほへ~っと見送る。

「清水くんって、優しい気配りできるんだね。正直意外」

「確かに、総司にしては気が利いてたよな」

「お前ら馬鹿か。高原自身の口から真実を言わせる方が、屈辱的で面白いだろうが。それに職員室で完結しちまったら、俺たちは奴の反省の顔が見れねえだろ」

……、

「鬼! 悪魔! この提婆達多!!」

「おいおい、伊織も同じようなこと考えてたじゃねえか」

「お前の足元にもおよばんわ!」

な~にが「ふっ、俺も悪くなったもんだ」だ!

清らかだわ! こいつに比べたら、川魚が幸せになれるくらいの清流だわ!

「え、何、どゆこと!?」

「だいじょぶ。アカリは、理解しなくていいから」

若干1名取り残された幼女を、チーナがなだめる。

当事者のリリーはというと、まるで師を見つけたかのような憧憬の眼差しを総司に向けていた。

そして数分後、ぴっぽぉ。

ガラララ!

高原、帰還。

その表情は、羞恥と怒りとでリンゴのように真っ赤っか。

「ひどいじゃないか鏡!」

そして扉のすぐそばで待機していた俺に、羞恥を紛らわすかのように食って掛かった。

「先生に聞いたら、君がリリーの義理の兄だって話じゃないか……。どうして言ってくれなかったんだ!」

「えぇ……、これ俺のせいか?」

「おいおい、それはないだろう高原。こいつもリリーさんも伝えようとしてた。聞く耳持たなかったのはお前の方だ」

「そ、そんなことはない」

第三者である総司からの意見に若干よどみながらも、なお過ちを認めない高原。

そこへ総司は、

「おまえらはどう思う?」

野次馬として聞いていた教室の生徒に、意見を求めた。

「いやまあ、確かに高原が突っ走ってた……感じはあるな」

「ていうか、途中で俺は気付いたけどな、いろいろ」

「清水えげつないな」

若干異物が混入しつつも、概ね肯定の声が上がる。

それを聞いた高原は、ようやく身に覚えを感じ始めたのか、

「いや、僕は、そんな……」

っと、みるみる声が小さくなっていった。

「リリーさんの自己紹介、お前遮ってたぞ」

「……」

「伊織が申し出ようとしてたのに、随分ととんちんかんな説教をしてたな」

「うっ……」

総司の追い打ちは続く。

先ほどまで義憤が混じっていた高原の表情は、今や羞恥のみとなり、耳まで赤く染まっている。

「謝っとくべきなんじゃないか、2人に」

そしてダメ押しとばかりに、総司は けじめ(・・・) を要求した。

とうとう高原も、完全に自分の暴走を理解したらしい。

しおらしい声で伏し目がちに、謝罪の言葉を口にした。

「う……。その……、すまない、リリー、鏡」

「俺、鏡じゃないんだけど」