軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話13:ウェアレル

「…………できて、しまった」

私は部屋で一人、呻くように呟く。

『うぁ、あ!? 声が、き、こえ、る!?』

確かにここは私一人しか住まない帝都の一室であるのに、他人の声がした。

発生元は私の目の前に置かれた水晶だ。

中には連結させて起動状態にある魔法陣が光り四角を描いている。

「ちょっと調整するから集中しろ。音声がだいぶ乱れてる」

これは私が作った、魔術によって音声を伝達する道具だ。

この時点でもう色々問題はわかっているが、それでも確かに起動し、こうして音声は通じている。

だからこそこれでも実験は成功と言えた。

「はぁぁぁああ…………」

『おい、どうした、聞こえてないか? ウェアレル・カウリオ?』

「あぁ、聞こえてる」

『いや、だったらこれだけの発明しておいてなんだそのでっかい溜め息は?』

これは同じ魔術を込めた水晶を使って双方向から同時に同質の魔力を注ぐ必要がある。

そのため片割れの水晶を預けて実験に協力してもらっている。

その相手が水晶越しに音声で不審そうだ。

手紙はやり取りしていたが、声は久々だった。

実際聞くよりずっと音質は悪く別の声のようにも聞こえるが、喋り方の癖や抑揚がそのままなので本人だと判別できる。

「…………お前は今、ルキウサリアの学園で錬金術科の教師だ。そんなお前からでも、これは再現できると思えないか?」

気心の知れた相手だからこそ、私は直球で聞いた。

『…………この間、突然小雷ランプ送って来たよな』

何故か別の話を持ち出してくる。

『で、お前はあの錬金術と魔法の複合体を半分丸々解き明かした』

長い付き合いだからこそわかる。

これはこいつが答えに迫る時の間だ。

『これも錬金術が関係しているのか?』

「そう、言うわけではない、が。まぁ、あの小雷ランプのことがきっかけではある」

もっと言えばきっかけはアーシャさまだ。

私が仕える皇子であり、家庭教師という立場だが、あの方に足りないのは経験と情報であって正直私の及ぶところではないと思っている方。

そして情報の点では、セフィラ・セフィロトというとんでもない情報収集能力を獲得した知性体がいる。

あれもアーシャさまの非凡さがわかっているのか、主人には従順だ。

話しかければ応じるが、私たち周囲をあまり気にかける様子はない。

『おい、俺を忘れて考え込むな。その癖まだ治ってないのか』

「悪い。えっとだな、これは一応魔術を刻印することで起動する魔術道具なんだが」

私は簡単に説明をした。

『ただの風魔法で声なんて再現できないってのに、本質である振動を再現すればこうして音声として伝えられるのか』

水晶の向こうからは強く感心している感情さえ通じるのだが、これは私の手柄ではない。

学園で自らの力で才人と呼ばれる栄誉を得たからこそ言いたい。

私を越える才人がいる。

一を聞いて十を知ることをまだ十歳の皇子がなしているのだと。

「はぁぁぁああ…………」

『だからなんで溜め息なんだよ』

呆れた声が水晶から放たれた。

「こうして繋いでいるからこそわかるだろう? これは現状、私とお前の間でしか使えない。安定性が悪い上に、風属性を使えること、そして魔力が同質で対面でなくても同調させるだけの相性がある者同士しか使えないんだ」

『確かに汎用性は低いな。だが、まずできると示す第一歩が肝心だろう。いつものお前ならもっと誇らしげに…………あぁ、そういうことか』

何か納得された。

『また例の皇子さまが関わってるな』

図星を突かれて私はすぐには応じられず黙り込んでしまう。

『沈黙が雄弁だぞ。だいたい、あんな詳しい解説付きの小雷ランプ送られて、俺が気づかないと思ってんのか? あれ、例の皇子さまが解明したから、俺に回したんだろ? ふざけろよ。他人の功績横取りするような真似ができるか』

怒りを滲ませてまたも言い当てる。

だがこれは訂正しなければいけないだろう。

「いや、本当にお前ならばと思って、最初は手をつけずに送るつもりだったんだ。ただ、その、アーシャさまと一緒に構造を見ていたら、楽しくなってきて、つい」

『…………なぁ、皇子さまって錬金術師の家庭教師募集してないのか?』

「錬金術科唯一の教師が学園を離れるという話なら、あの方は頷かないだろうな」

『くそぉ、そっち楽しそうなのに。絶対お前、まだ俺に言ってない研究成果隠してるだろ?』

「答えは差し控えさせてもらう」

だが想像してみる。

一緒にアーシャさまを教える、それは確かに楽しそうだ。

かつて学園で共に学んだ頃の、好奇心だけで突き進んでいた日々に近いようなことになると思える。

それにセフィラ・セフィロトを見たら、こいつはどんな反応をするだろう。

『…………なぁ、本当に皇子さまは学園入学できないのか?』

「現状は無理だというのがご本人の推測だな。説明されればいちいち尤もで、政治的にどうにかしないと難しいのが現状だ」

『弟皇子が成人して、皇太子になって、足場を固めて、警戒されなくなって…………はぁ。成人後に入れる大学もあるが、そっちには錬金術科ないしなぁ』

問題点の多さと解決の目途の遠さに、水晶からも溜め息が漏れた。

私も同じ気持ちだ。

今もアーシャさまは我慢をしている。

幼少から見ているからこそ、その成長と共にやりたいこともできることも広がっているのはわかる。

そしてそれを抑え込んでいることも、わかってしまう。

一番誰とも争わず、穏便に済む解決はテリー殿下が立太子して、成婚し、嫡男を得られること。

それでようやくアーシャさまは危険視されなくなり、やりたいことをやれるようになるだろう。

だが、その未来はまだ十年以上先のこと。

「お前が言うように、待っていては時間ばかりかかるだろうな」

『何か方策はないのか、緑尾の才人?』

「あるなら教えてほしいくらいだ、赤尾の才人」

お互いに讃えられた名を口にするが虚しくなるだけで、溜め息が同時に零れた。

『錬金術を学びたいと言ってくれる子供のためにできることが何もないなんて、自分の無力さが嫌になる』

「それでもお前が錬金術科を維持してくれてるだけで、アーシャさまは嬉しそうだぞ。何より、最初に器具をくれたことに今も感謝されてる。小雷ランプは錬金術科存続のためもあるが、お前への礼もあるんだ」

『わかってる、わかってるが、情けないなぁ』

その思いは私も同じだ、いや、もっと強いと言ってもいい。

何せ赤ん坊の時から見ていた方だ。

賢さはなんとなく察していたが、三歳の頃には私たちの話を理解している節があった。

成長とともに腐ることなく、同時に知識を求める以外に娯楽もない宮殿の端に押し込められ、時間を無駄にすることもなく過ごされる前向きさは素晴らしい。

品行方正に振る舞い、けっして帝位への欲など見せず、排除を目論む者たちに付け入る隙を見せない。

時には愚者を装いながら、敵の隙を突いてすり抜けるような芸当さえ身につけられた。

それは一種、この宮殿という政治の場で正しく使えば何よりの武器だろう。

だというのにアーシャさまは争わないことを選んだ。

「いずれあの方は望めば自らの力で、望むものを得るだろう。そうとわかってはいるんだが、何かできることはないかと考えてしまう」

『…………お前、教師やめてニフタス伯爵の所行く時、伯爵家踏み台にして帝国魔導士目指してたはずだろ』

帝国魔導士は魔法使いの最高峰の称号だ。

魔法を操る実力はもちろん、知識や国への貢献、貴族からの推薦などが必要となる。

才人と呼ばれるからには頂点を目指す、そんな若い志で私は帝都へやって来た…………はずだった。

皇帝に直接雇われているというのは一つのステータスだが、それよりも今は、アーシャさまに少しでも力になれないかと考え行動している。

知は荷にならないのだから、いずれ宮殿を出ることになっても持っていける、私が持たせてやれるものはそれくらいだ。

あの方が独り立ちする時に役立てればと思っているが、それでもまだ、力不足を感じずにはいられない。

「帝国魔導士を目指していたら、きっとこの魔術による音声伝達は考えつかなかったな」

『あぁ、そうかもな。しかしこれ、魔力の消費がエグイな。ちょっとさすがに疲れて来た』

「確かに。私たちの魔力量でこの短時間となると、やはり実用は難しいか」

『例の皇子さまに聞いてみろ。また大発見するかもしれないぞ』

冗談めかして言われ、互いにまたと約束して通話を切る。

途端に魔力の大量消費による疲れが襲うが、私はこれをアーシャさまにどう伝えるべきかを考え始めていた。