軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

635話:赤炉の進化5

音楽祭は後輩に任せる形で進めてもらってたけど、結局僕は何度か呼び出された。

音楽科からのご指名で、悪魔的な魔法の演出に駆り出されることになったんだ。

しかも一人に意見を聞かれてる間に、順番待ちの音楽科の学生に囲まれて中々逃げ出せない状況。

僕はクラスメイトしかいない空間で溜め息を吐いた。

「いや、普通に舞台を火の海にするだけで十分だと思うよ?」

工房で赤炉を改造しつつぼやくと、ラトラスが笑う。

「けどあの走って消えるの、簡単なのに本当に消えたみたいで採用するもわかるよ。そこからさらに聞けば答えるし、他にも案出るし」

「飛び出す仕掛けも、あの勢いは面白いと思うわ。そうして出すから呼ばれるのよ、アズは。結局は自分もあれこれやりたいことが浮かぶんでしょう?」

イルメが言う飛び出す仕掛けとは、元からあった奈落という舞台装置を改良したもの。

舞台下の穴と、そこからせり上がる床の仕かけは最初からあったんだ。

元は教会だった建物を、音楽堂にして、さらに演劇やオペラもするようになる中で改造されたんだとか。

教会に詳しい新入生のマクス曰く、教会内部には床下に埋葬用の地下があるからそこに手を入れたんじゃないかって。

罰当たりな気がするのは、どうも前世のある僕だけの感覚らしく、音楽科もノリノリで地下を改造してたよ。

元からある人力での巻き上げ昇降では勢いがないから、巻き上げの仕掛けを改良して、勢いよく上がるようにした。

同時に舞台にせり上がり切る直前で止まるように安全装置もつけてる。

そうすることで、乗っていた人間は上に勢いよく飛び出し、そのまま舞台に躍り出るような登場を演出できた。

しかも、ヒーローが飛び込んでくるっていう見せ場に合うと採用されてる。

「けどアズ、怪我するかもしれないって止めてたよな。あの飛び出す仕掛けの何がそんなに危ないんだ? ちょっと転ぶくらいじゃ平気だろ?」

ネヴロフが手を動かしながら言うけど、たぶんあれくらいじゃ怪我しないってニュアンスだ。

けどそれは防御力ばっちりな被毛の獣人だからこそで、人間はけっこう柔なんだよ。

着地しくじれば足捻るし、何処かに挟むと骨折れるし。

ウー・ヤーとエフィも思い出すように言い合う。

「まぁ、他にも煙を焚いて小雷ランプで怪しい影を映し出すなんてこともしたしな。あれに比べれば危険があるにはあるか」

「よくもまぁ、それだけ出てくる。こちらのことも考えつつなんて、普通できないぞ。内部機構はほぼ一手に引き受けているのに」

赤炉を前に呆れられた。

「僕は午前も手伝えないから、できるだけのことはしようと思ったんだよ」

最初はウィーリャ相手に案を出してたんだけど、その内音楽科まで僕に案を出すよう直接求めてくるようになった。

もしくは理想の演出を熱く語って、実現のために何か仕掛けを考えろというんだ。

「さすがに手を広げ過ぎて全部は作れないし。作業する錬金術科としても、時間と人員的に無理だって言うのに、際限ないんだから」

だから案を出すのを止めて、今日はあえて手伝いに行かず、採用決定した仕かけの制作と点検を言いつけてある。

ウィーリャ他後輩には、きちんと音楽科の暴走を止めるようにも言っておいた。

新入生には、できないことはできないと声を上げるようにとも言い聞かせてる。

「結局当日も調整や組み込める物は組み込んでいく方向だから、アズは忙しいでしょうね」

イルメは女子会やってるせいか、錬金術科の女子同士、情報共有してて詳しい。

きっとウィーリャあたりから音楽科の動向を聞いてるんだろう。

その情報を僕にも流すのは、赤炉の改良に使える時間に関わるから。

舞台は装置製作以外に興味のないネヴロフが、手を止めて話に入って来た。

「よし、空気漏れなしだぜ」

「こちらも確認は終わった」

ウー・ヤーも改良した赤炉から離れてこちらに来る。

そうして、みんなで改めて赤炉を見ると、ラトラスが困ったように言った。

「うん…………、大きすぎない?」

目の前には前世の軽自動車並みに進化した赤炉がある。

これじゃもう、荷車に乗せて学園に持ち運ぶなんてことはできない。

ただ蒸気機関車を想定してる僕からすると、まだまだ小さい。

いや、炉の部分だけでこれだけ大きくなってしまったのはどうなんだろう?

僕が考えてると、エフィが別にしておいてある機構に顔を向けた。

「これからさらに、蒸気を回転に変える機構も一つにするのか」

まだ大きくなるという予想に、クラスメイトは困り顔。

僕からすると、さらに運転する人たち、石炭車や客車もあるんだけどね。

前世に近いのは、赤炉の下に車輪がつけられたこと。

これは回転を見るためにつけた。

同時に、赤炉を乗せて走ることを想定して、重みに耐えられる形を作ろうとしてる。

もちろん暴走防止に赤炉の下にはレンガの土台を置いて、空回りするようにしてあった。

「へへへ、温度の上がり具合はどうだろうな。けっこう術式安定してると思うぜ」

ネヴロフが楽しそうに言うと、僕も気になる。

何せ赤炉を改良する上で、錬金法を会得してるのが僕だけなんだ。

ウー・ヤーも技師からある程度は教わってるけど、種族的な属性の偏りがあるから僕が担当ということでやって来た。

「色々試したけど、まさか死と再生のテーマで安定するなんてね」

感慨深く言う僕に、エフィは不服そうに同意する。

「全くだ。魔法ではありえない。一度死という消失の上で、再生で即座に復活なんて、どうなってるんだ。普通なら死で終わり、生で始まりだろう」

「けれど、錬金炉の中に想像される、全く理の違う世界では、死が始まりになり、生が終わりになるという理屈の再現が可能だったわね」

イルメも呆れぎみなのは、僕が想定した輪廻転生の、生と死は巡るっていう考えが馴染まないからだろう。

その辺りのことにこだわりはないウー・ヤーとラトラスは、もっと赤炉の形に対して感想を上げる。

「温度の安定と、炉を開くと言う形に落ち着けるのが難しかったな」

「いや、一番は目を離すとすぐ火力だ回転数だって遊びだすことだよ」

安定よりも高みを目指してしまうのを、宥め続けたラトラスはもしかしたら一番の功労者かもしれない。

「よし、それじゃ赤炉も暖まったし…………え?」

僕はセフィラのお知らせで、実験の再開を告げようとした。

けど、赤炉を改めて見た僕は、一点に目を止めて固まる。

その視線を追って、クラスメイトたちも見ているものに気づくと固まった。

いつの間にか、改良した赤炉の上に、手のひらサイズの青いトカゲがいる。

「青トカゲ? え、なんでいるの? 誰か連れてきた?」

思わず聞くと、揃ってみんな首を横に振る。

そうなると、青トカゲは自力でここまで来たことになる。

つまり、錬金炉から遠くまで離れられたの?

聞きたいけど、言葉のない青トカゲと意思疎通をするには必要な道具がある。

「す、すぐに文字、文字書かないと」

僕が慌てて言うと、すぐにエフィとイルメがこっちの世界で言うあいうえお表のようなものを作った。

その間も青トカゲは、上機嫌にペタペタと熱した赤炉の上を歩く。

僕は表を受け取ると、熱いけど赤炉の横に机を持ってきて、その上に置きながら聞いた。

「青トカゲ、君はどうしてここに来たの? いや、目的があって来たの?」

答えるために、青トカゲは赤炉から離れず顔を向けるだけ。

けど、表の肯定を示す文字の上に、青トカゲと同じ色をした灯火のような火が浮き上がった。

消えたのを確認して触ってみても、紙は燃えてない。

「…………そこから離れないってことは、赤炉、気に入った?」

探りつつ聞けば、また肯定の言葉の上に青い炎が灯る。

「何処が気に入ったのかな? 今の形にする前は来てなかったよね?」

青トカゲが先に肯定したのは来てないことだろうか、それとも気に入ったこと?

ただ続く言葉に、僕は意味を捉えかねた。

「新たな、世界、はらから、生ず」

はらからって、同胞?

「つまり…………精霊が生まれそうなの? 赤炉に?」

思わず聞くと、イルメが電子音と聞き間違うほどの高音を喉から絞り出して、両手で頬を覆う。

興奮して赤炉に駆け寄ろうとしたのは、ウー・ヤーとネヴロフが止めた。

青トカゲは平気で乗ってるけど、すでに火も入れて高温にしてるから、人が触ったら火傷どころじゃない。

そして青トカゲは肯定以外の答えを続けた。

「場が整った。育ちは、未知。…………だから生まれたんじゃなくて、生じたなのか」

まだ生まれたとは言えない。

けど、精霊が生じる余地が赤炉に生じた。

そこの条件とか色々詰めたいけど、今はそれどころじゃない。

「ちょっとイルメを落ち着けよう。これじゃ怪我するよ」

青トカゲから意識を戻した僕に、クラスメイトは揃って頷く。

イルメ本人も、胸を抑えて息を荒くしながら、自分が正気でないことを悟って頷いてた。

そんな僕たちの混乱をよそに、青トカゲは気にせず赤炉の上を歩く。

確実に気に入ってるし、今までいろんなものを与えて様子を見て来たからわかった。

青トカゲの上機嫌は、どうやら赤炉が今までより進化した証拠らしい。