軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

633話:赤炉の進化3

赤炉を使って蒸気機関車を作る。

それが入学当初は考えもしなかった僕の卒業制作の目標だ。

ただやっぱり難しいし、それを数日の実験で目途を立てるほどに進められるとも思ってない。

「よし、回転数は安定してきたな。やっぱり蒸気を回す機構は三つくらいか」

「増やしすぎても力分散しちまうなんてな。こう、ぎゅっとしたいんだけどな」

ウー・ヤーが記録しながら言えば、ネヴロフは感覚で擬音を口にする。

やってるのは蒸気機関の蒸気を、効率的に回転の運動に変換するための機構の試作。

二人は鍛冶もやってるし、技師として錬金術の技も教えられてる。

ただ問題は錬金法を使えないことで、錬金法は基本的に全属性が使える人間の理論だ。

種族によって属性の偏りがあると難しい

けどウー・ヤーの水属性なら、蒸気を逃がさない術式を金属部品の内部に魔法で構築できた時には、正直驚いた。

「ウー・ヤー、水蒸気になっても水ならさ、こっち側に流れるようにできねぇ?」

「方向を限定か。流れを補助する程度ならできそうだ。そうすればより多く流れるな」

僕としては精密な部品作りとか、緻密な機構の組み立てもなく、魔法で解決したことに目から鱗なんだけど、ネヴロフと一緒になってどんどん改良してく。

この辺り、前世があるからこそ、想定にブレーキがかかってるのを感じるな。

やっぱり他人と一緒にやることで、新境地に至ることもあるらしい。

次々に案を試そうとする様子に、イルメは別のところにも手を貸してほしいという。

「それも大事でしょうけど、赤炉の中を見られる形にはできないかしら? もっと精霊の靄がどういう反応を示しているかが見たいわ」

イルメは相変わらず精霊重視。

でも、蒸気機関を作るっていう方向性は理解して取り組んでるし、精霊の靄の反応で、より高温を維持できる方向性を探り当ててもいた。

「そうすればもっといいタイミングで赤炉に空気を送り込んで、火が弱まることを抑えられると思うわ」

それには火の属性が得意で、錬金術は火に関して学んだエフィが声を上げる。

「赤炉自体の耐久性の問題になるから、ガラスは使えない。この場合は、できるだけ中の温度が下がらない金属の引き上げ窓でもつけるか?」

炉の温度を下げないことが、水蒸気の発生には不可欠だ。

また、水蒸気の量が増えれば、それだけ力にできるけど、力を受ける蒸気機関全体の強度も忘れちゃいけない。

だからエフィは、より効率的に赤炉の内部で赤い靄が炎を生む環境を、イルメと調べてる。

赤い靄の性質でわかったのは、炉内の高温を維持することでより力を発揮すること。

けど密閉したら炎の勢いが減衰するから、空気は定期的に入れないといけない。

その上で魔力も一緒に送り込む必要があるそうだ。

うん、僕の知ってる蒸気機関とはまた離れて来てる気がする。

「この靄も予想外に、激しく燃えるほど長くもつ性質がわかった。薪なんかとは全く違うものだな」

エフィが言うことは僕も驚いたし、科学じゃなく魔法の存在だと再認した。

時間を見つけて、一度エフィと青トカゲに質問しに行ってるくらいだ。

だから熱を消費する性質ではなく、靄は熱を与えると強まる性質だっていう回答を得てる。

エフィに隠れて、セフィラみたいな意思はあるか聞いたら、まだないって。

まだってなんだろうね…………。

蒸気機関車作ろうとしてるのに、僕だけ別の実験してるようなドキドキがあるのは秘密だ。

「あ、まずい! 赤炉の接合部分が赤熱してる!」

ラトラスの声に、僕たちは揃って赤炉の熱を下げるために空気を止めて、周囲に水を撒いて気休め程度の冷却を行う。

一度赤炉自体に水を撒いて、高温の水蒸気が発生して大変なことになったこともあった。

咄嗟にセフィラが、魔法で水を張って防御壁にしてくれて、僕たちは軽傷で済んだけど。

手探りで、この実験に関しては禁止事項も記録して増やしてる。

この赤熱に対しての放熱させるっていう対処も、失敗からわかったことだ。

赤くなってるのって、赤炉の材料にしてる金属が溶けてるらしいんだよね。

「温度上げ過ぎるのは駄目だよ。あくまで安定的に維持する方向。これ以上を耐えられる、加工に向く金属ないんだから」

ラトラスが燃焼時間や温度を確認して記録しつつ駄目出しをする。

けどもっと回転数を上げたいウー・ヤーとネヴロフ、もっと高温に挑戦したいイルメとエフィは生返事だ。

ラトラスも注意を聞き流されたとわかって、不機嫌に耳を下げる。

「なんだかなぁ。俺記録ばっかりやってるだけで、あんまり役立ってる気もしないんだけど。それでも忠告はちゃんと聞いてくれないと怪我の元だよ」

記録係を一緒にしてた僕は、ラトラスを慰めるために声をかける。

「記録して、目に見える形で結果と推移を見られる冷静な人は必要だよ。実際今、近くにいるけど熱中してた四人は、赤熱に気づけなかったんだし」

炉が溶けてしまうと、中の高温の空気が溢れることになる。

そうなると、呼吸をするだけで火傷するくらいの危険があった。

以前の失敗では、運良くというか、悪くというか、穴が開いて噴き出した熱気に当たったのは、ネヴロフの尻尾の毛先だけ。

けど熱気が数秒当たっただけで、毛はチリチリ。

皮膚に当たればただでは済まなかったのは、見るも明らかだった。

「やりたいことやってると、楽しくて周り見えなくなるのはよくあることだし」

僕が言ったら、聞いてないかに見えた四人が揃って頷く。

それを見て、ラトラスは不機嫌に尻尾を揺らした。

「もう何回も危ない目に遭ってるのに、少しは安全を考えてよ。目の前の実験でやれるだけやるなんてしてちゃ駄目だって」

お説教は真っ当なものなんだけど、好奇心が逸ってるクラスメイトからはそっぽを向かれる。

「うんうん、ポテンシャルあるからね。やってみたくなっちゃうんだよ」

「もう、アズまでそっち側に回らないで。俺一人じゃ無理だって」

ラトラスは泣き言を漏らすけど、この実験って言い出したの僕で、最初から僕は向こう側だったんだけどな。

まぁ、本当に大事な役割だしもう少しラトラスにもやる気を出してもらおう。

「ラトラスって、三つ子の蒸留器の試作とか手伝ってた?」

声を小さくして聞くと、ラトラスは耳を立て応じる。

「いや、見たことはあったけどね。ただ、やり始めると荒れたり怪我したりはよく見てた」

「うん、上手くいかずに焦って怪我の元なんてよくある話だ。そういうこと知ってるからこそラトラスには重要なこの仕事を続けてほしいんだよ」

調子のいいことを言ったら尻尾で叩かれた。

「水蒸気もっと多く作るために大きくしようとか言いだしてるくせに。それして同じ失敗してたら、今度こそ怪我人出るよ」

ごもっとも。

けど今の四方メートルもない大きさの炉だと、小さいんだよ。

トロッコみたいなここにある鉄の籠なら動かせるだろうけど、僕が欲しいのは車列を動かす馬力なんだ。

どう説明するかで僕が考え込んでると、ラトラスは手を打った。

「はいはい、もう排熱したし水蒸気も溜め直し。一度休憩するよ。ここも温度が高すぎるから、倒れない内に体冷やそう」

冷静なラトラスの言葉に、僕たちも熱さを思い出す。

また揃って外に出て、空気の軽さに息を吐くと、みんなで頭から水を被ってクールダウンだ。

そんなことしてるから、工房近くには簡易の着替え小屋を作った。

周辺に資材を入れてた箱を並べて椅子代わりにして、思い思いに休憩する。

うん、皇子だったら絶対にできなかったことだね。

「蒸気を溜め直すには、時間がかかる。今日はもう実験は無理だな」

ウー・ヤーが残念さをにじませながらも、ラトラスの注意が効いたのか、安全第一にそう言った。

炉が赤熱したからには、そこが弱くなってる印で、点検は必須。

そのためには触らないといけないから、完全に冷ます必要があるんだ。

「うーん、もっと高温に耐えられる金属作るか?」

気の長いネヴロフの言葉に、エフィが突っ込む。

「何年かける気だ? それじゃ卒業制作に間に合わないぞ」

「そうね、今あるものを形にするところからよ。改良はその後ね」

さすがに学んだのか、イルメも今回はやりすぎたと反省するらしい。

だから僕も助言と共に方向性を示そうか。

「高温を出すよりも、効率的に熱と水蒸気を使う方向で考えよう。今あるものをより良く使うんだ。何せ、学生の僕たちが使える資源は有限なんだから」

焦ってあれもこれもなんて言ってられない状況を提示すると、ラトラスがまた手を叩いて注目を集める。

「じゃ、俺たちも学生として、活動すべきことをしないとね」

今やってる卒業制作は、学生のすべきことだと思う僕に、ラトラスは苦笑で続けた。

「後輩たちが、そろそろ音楽祭の手伝いしてほしいって言って来てるよ」

ラトラスに言われて、僕含めて全員が思い出したような声を漏らす。

任せきりにもできないし、先輩として、僕たちは応諾するしかなかった。