軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

618話:天才の後継3

教室には、僕、ウィーリャ、ツィーチャ、イー・ソンとイー・スー。

そしてネクロン先生がいる。

「人間が作ったはずの錬金術で、継いでる人間は一人だけか?」

「一応、ロムルーシにいたのは人間の錬金術師だったようですよ」

ネクロン先生は、僕以外に八百年前の天才の技術を継ぐ者はいないのかと聞く。

「だった?」

「僕が留学に行った時には亡くなっていたので」

その上で僕も、ネクロン先生に確認した。

「南は竜人に捕まったと聞いていました。その上で、中央へ逃げ帰ったとも」

「知ってるのか? 俺は逃げ損ねた人間が残した技術を継いだ竜人に弟子入りした」

「ちなみに、南から東に逃げた錬金術師は、チトス連邦に至ったそうですよ」

「で、帝都に残っていたのか?」

「さて、残っていたというよりも、継承を諦めた故に遺されていたと言ったところです」

どう説明しようかな。

考えて、僕は帝室図書館とは言わず、古本に仮託することにした。

古い本の中に、錬金術書とはわからない形で残されていたと。

「そういう暗号を解くのも、子供の頃からの趣味みたいなもので。読んでたら錬金術師が造った図書館の話が出てきたんです」

言ったら、反応したのはネクロン先生だけ。

ウィーリャとツィーチャは当たり前だけど、イー・ソンとイー・スーも錬丹術を作った仙人が錬金術師だってことは知ってても、その発祥と旅の原点は知らなかったから。

後輩たちの反応のなさに、ネクロン先生も目を向け、ちょっと残念そうに目を細くする。

たぶん、封印図書館について聞いてるのも僕だけだとわかったんだろう。

「…………やっぱり開いてるのか?」

「さぁ、何処にあるんでしょうね?」

ネクロン先生は封印図書館の封印について確認するけど、そこははぐらかす。

で、やっぱりっていうのは、ルキウサリアが錬金術に力入れてる現状からの推測かな。

「声がかかったのはアズロスたちの入学前。となるともっと前で、距離からして…………」

ネクロン先生は、封印図書館が開いた時期を考えようとし始めた。

それはそれで困るし、わかりやすく僕が入学体験に行った後からだ。

だから話を、わからない顔してる後輩たちに振った。

そっちはたぶん、ネクロン先生も無関係じゃないはずだ。

「イー・ソンとイー・スーのほうには、明確に竜人の国から渡ってきた錬金術師がいたんだよね?」

「我が国では錬丹術という。それを行う者は道士と呼ばれている」

「アズ先輩曰く、違う形で進化した錬金術の技術とのことでしたわね」

ネクロン先生はチトス連邦の話を聞いて、興味を引かれたらしく頷く。

「そうだろうな。土地が違えば材料も気候も需要も違う。だからこそ、根源的にそれほどの変化の可能性がある錬金術は、大陸中央部に残ってるはずなんだが?」

うーん、誤魔化されてはくれない。

僕のほうから、封印図書館に関わる情報取りたいみたいだ。

ここはひとつ現状でも言えることを伝えておくか。

「古い書籍での記録で、実在を証明する物品はもう残っていませんが。帝都はゴーレムを使って作られたという話があります」

「まぁ、それはあの人工ゴーレム? ツィーチャの話ではままならないものと聞きました」

「はい、お姉さま。侵入者を攻撃する野生のゴーレムと大差ないと言われています」

ゴーレムと聞いて、今度はウィーリャとツィーチャが反応する。

ロムルーシには錬金術で造られた電気式の、オートマタと呼べるものが稼働してた。

邪魔だから止めようとしたらそのまま壊れたし、電源に繋がる発電機も寿命だったからもう二度と動くことはないだろう。

だから後援者のイマム大公から、その辺り調べるよう言われてるのかもしれない。

その上で、ステファノ先輩とジョーが実演してみせたのは、魔力で動くタイプだ。

時代的に封印図書館より帝都醸成のほうが先だから、ゴーレム技術って実は帝都が先。

けどルキウサリアに残る録音機のつきゴーレムや、オートマタ、ロムルーシの地下にいたゴーレムは、確実に封印図書館関係となる。

「ネクロン先生は、ゴーレムに関しての伝えは?」

「…………あるな」

あるんだ。

これ、ゴーレムに関心強かったの、お金儲け以外にも師匠の伝承を確認したかったとかあるのかな。

ただ残念ながら、王城でやってる錬金術はゴーレムで、オートマタじゃない。

もちろん、ゴーレムから発展してオートマタは作られてるから、ゴーレムの作り方に習熟することは無駄ではないんだけどね。

「番人がいると聞いたが、アズは知っているか?」

「まぁ、番人なら我が国にいたゴーレムがそう呼ばれてました」

ツィーチャの言葉に、ネクロン先生が確認を取る。

「国にあっただけで、それを作った錬金術師とお前たちは無関係って話でいいか?」

「そうなりますわ。けれど、ツィーチャが言うには、後続の錬金術師に向けてのメッセージがあったというのです」

そこは実際に見た僕が答えよう。

けど一言一句ってわけじゃないからセフィラにも手伝ってもらう。

「…………贖罪の旅は未だ最果てに至らず、しかしなおも贖いの使徒は誕生の地を目指す。後に続く者よ、過ちを忘れるな」

反応するのはネクロン先生に、イー・ソンとイー・スー。

だからあえて、無関係なウィーリャとツィーチャに声をかけた。

「これ聞いて、何を思う?」

「そうですわね…………何か、錬金術で間違いを犯した者がいたのではないでしょうか?」

「そうですか? 人間の宗教では、生まれながらに罪を背負うのでしょう? なら生きることの格言では?」

ツィーチャがけっこうおもしろい解釈をする。

罪を償う旅が人生であり、善行によって天国に行き神に許されるのが救済だという。

そして誕生の地は神の下っていう、けっこう詩的な解釈だ。

まぁ、たぶん授業でルキウサリアの宗教観を習ったばかりとかそう言うことなんだろうけど。

それはそれで面白いから、正否は言わず別の情報を投げる。

「僕が現地で得た情報では、ロムルーシにいた錬金術師は二人。そしてどちらも贖いの使徒t思われる人間でしたが、どちらもすでに亡くなって長い。そのせいで遺した錬金術が暴走するような形で害を及ぼしていました」

僕の言葉にイー・ソンとイー・スーが考え込んだ。

「うぅむ、二人もいたのは喜ばしいことだろうが、それで害となっては贖罪の意味もない」

「錬丹術で暴走? 作ったとしても手を離れてしまえば間違った使い方もあるとは思いますけれど」

起こりえる危険性として認識したらしい。

けどそんな説教する側だろう年齢のネクロン先生が、害になったなんて話を全く気にしなかった。

「それだけ調べたなら、どういうルートかはわかっているのか?」

「そこはちょっと待ってください。ウィーリャとツィーチャ、ここからはデニソフ・イマム大公にも言っていない、錬金術師だからこそ知れた話だ。聞いて報告すれば君たちは国許に帰るよりも、より錬金術を深めろと命じられるかもしれない」

それは帰国を念頭にしたウィーリャには酷な話。

けれど虎の顔で強く応じた。

「えぇ、よろしいですわ。聞く限り、贖罪の使徒と呼ばれるような錬金術師の一派が古くはいたということですわね? そしてその一派の流れをくむ錬金術師が今も知られずに残っている。そしてその足跡が故郷にはあった」

「それなら他人ごとじゃないですね、お姉さま! あれ、でも先生知らないみたいに?」

一派というには北の状況を知らないことに気づくツィーチャにイー・スーが答えた。

「えぇ、散り散りで、時も経っているのです。一派と呼べるほどの数もおらずにおります」

「だからこそ、こうして錬金術科に古き知恵を継ぐ者が集まるのは、道理だろうな」

イー・ソンがいうとおりかもしれない。

ネクロン先生も少し遠くを見て頷く。

「俺も生国では唯一の錬金術師に師事していた。そして俺が国を離れたからには、もう生国には残っていない。イー・ソンとイー・スーも同じような状況じゃないか?」

頷きが返るけど、僕が聞いた限り、イー・ソンとイー・スーは母方の血族の内、見込みのある者を弟子に取るって形で受け継いでいたそうだ。

状況としてそれはそれで特殊だと思う。

「お互い孤立していたんだ。それを繋げる線を見つけたのがアズということだろう」

ネクロン先生に指を向けられた。

「僕はそれを過去の錬金術から育った枝葉と呼びました。そしてその根は帝国にあったと思っています」

「人間の技術であるなら、そういうこともあるか。アズが根拠もなく言うとも思えない。千年も前の錬金術でも見つけたか?」

ネクロン先生は八百年前の天才を念頭に、切りよく千年と口にした。

封印図書館の蔵書を調べれば、帝国の書籍の写本や、帝国の錬金術を応用するという話が出てくる。

八百年前は帝国にも手本にされるほどの錬金術があった証左だ。

「残ってる記述の年代を並べた結果ですね。ただ千年も前だと実物は残っていないので、もう伝説としか言えない域です。それでも、贖罪の旅の終わりは果たされたので、それは伝えるべきだと思っています」

さすがにネクロン先生も驚いたけど、イー・ソンとイー・スーに説明が必要だ。

「残念ながら北回りで果たしたという情報を得ただけなんだ。南はわからない」

仙人と呼ばれた錬金術師は辿り着いたかわからないけど、その旅は終わってると伝えた。