軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

614話:貴人戻る4

夏前にファナーン山脈に行っていた九尾の貴人たちが戻り、どうやら軍とはまぁまぁ縁を結んだらしい。

その上で温泉施設も評価したけど、構造がわからず錬金術科へやってきた。

連れて行ったウルフ先輩は、一応働きはしたみたいだけど、あまり役に立ったとは言えないようだ。

その理由の一つは、わからなくもない。

ウェアレルが絡まれ、ネヴロフも説明をするけど、語彙力と悪い意味での画伯な能力のせいで伝わらない。

ネヴロフに聞いたら、村の誰も絵なんて描いたことがないとのこと。

説明だって、やっぱり村社会で共通認識が確立した中で育ったために、適当なことを言ってもニュアンス伝われば理解できるようなことを言ってる。

そんな訳で、次に九尾の貴人が目をつけたのは、施設を作った第一皇子だった。

「もう! 第一皇子のガードが固すぎるわ!」

「引きこもっているとは聞いていたが全く駄目だ!」

何故か連日錬金術科の僕らの教室に来て、貴人たちが騒ぐ。

授業終わりでヴラディル先生もいるけど、張り合う始末だ。

「お前らがそう簡単に会えて堪るか。俺だって入学体験の時から機会探ってるのに無理なんだぞ」

それは初耳だ。

初めてルキウサリアに来た時からなんて、まぁ、たぶんウェアレルがあえて言わなかったしガードもしてたんだろうな。

入学体験の時のテンションを思えば、そうなっても仕方ない気もするし。

そのウェアレルも、九尾の貴人に遅れてやってきた。

たぶん僕の護衛目的だろう。

すごく顔が嫌そうだ。

「あなた方、突然学内を走るのはやめなさい。ヨトシペですか」

「ヨッティほどの速度など出るか」

ムッフィが何故か胸を張って言う横で、トレビは半目になった。

「もうウィーは早く繋ぎちょうだい!」

「お断りしているでしょう。しつこいですね」

このところよく見る言い合いに、ウー・ヤーはこちらの文化圏に対する疑問を口にする。

「皇子が社交していないのは想像できるが、他国の王族でも無理なのか?」

それに答えたのは、まともに貴族をしてるほうなエフィだった。

「そもそも何処の集まりにも顔を出さない。出しても専門家しか入れない学会や発表会だと聞いているな」

「そういうの知ってるのは貴族だから? それともエフィも接触探ってる?」

ラトラスが聞くとちょっと目を逸らす。

これは接触探ったことあるのか。

入学体験のこと気にしてないんだけどな、と思ったらネヴロフが声を上げた。

「お、今なら皇子さまにも勝てるかもしれないし、リベンジか?」

「違う!」

エフィが慌てて否定する。

僕も内心慌てた。

だって今の乗り、絶対ネヴロフも加勢するでしょ?

というか、違うのかってちょっとがっかりしてるクラスメイトもやる気だ。

そうなると僕が多勢に無勢じゃない?

い、嫌すぎる…………。

イルメはやる気に火がついてしまったのか、僕の手の内を探るようなことを言い始めた。

「けれど留学の名目で来ているのよね。それなら何かしら学習で、錬金術もやっているはずだし、どんな技術を手にしているのかしら」

「あぁ、色々やってるぞ。あの方は多才ってのを地で行ってる」

ヴラディル先生が言うんだけど、見れば遠い目してる。

いったいどれのこと聞いたんだろう。

というか、同じ顔してウェアレルも遠い目してる?

うん、表に出してヴラディル先生の耳に入る以上のことしてるもんね。

そんな九尾の才人二人の様子に、トレビは溜め息を吐く。

「その学会のほうにも席を用意させようとしたら、それも拒否されたのよねぇ」

「しかも学者側から繋ぎか接触のヒントを得ようとしても、強く断られる」

そこは、ルキウサリア国王か、テスタの手回しだろうな。

たぶん変なことあったら僕が行かないっていうから。

最近出たのは、小児ポーションの報告会で、使用感とか使用者の治療結果が戻って来てて、それでいくらか改良案を出し合った。

また次の報告会にもぜひ、なんて言われたし、それまでに僕がやっぱり行かないって言う可能性を潰したのかもしれない。

「もう確実に繋げるのは、ウィーしかおらん」

「なのにこのイケずー!」

「あなた方のような教育に悪そうな方々会わせるわけがないでしょう」

ウェアレルが言うと、ヴラディル先生ががっしり肩を掴んで迫る。

「俺はなんでだよ? 教育者だぞ?」

「あなた最初に入学しないと言ってるのに入学させたいと宣わっているのを、第一皇子殿下に聞かれてるんですよ? 留学中に会えると思わないことですね」

「ぐあー!」

ヴラディル先生が過去の行状を後悔して呻く。

まぁ、魔導伝声装置の実験中のことで、僕がいたことなんて見えてなかっただろうけど。

このままどうか、錬金術科の教育者を続けてほしい。

その上で、ここまで接触を図って来るのは気にもなる。

「ネヴロフは間接的にやり取りしてますよ。その時に案の訂正や相談もしてるじゃないですか。だったら、直接会うんじゃなく、問い合わせくらいなら許容されると思いますよ?」

僕が言うと、ウェアレルは耳を動かして考える風に装う。

けどヴラディル先生が駄目な方向の答えを返した。

「そんなの直接会って語りたいからに決まってるだろ」

九尾の貴人たちも、頷いて言う。

「あんなの作る相手、どんな顔してるか見たいじゃない。面白そう」

「しかし意に沿わぬとそれほど頑なか。その姿勢を崩すのも一興」

冗談のようにウィンクするトレビに、ムッフィはヴラディル先生を見て強気に笑う。

そんなことを言いつつも、ウェアレルに伝えるだけはしてもらおうと言葉を向けた。

「竜人の国での使用。そして竜人に合わせた仕様の変更を相談したい。もちろん設計に関しては報酬も用意しよう」

「帝国の皇子にそれで通じると思わないでください」

ウェアレルはぴしゃりとはねのける。

僕も金貨の入った袋で殴られるのは嫌なので、そういう交渉なら拒否だ。

そんなやり取りを聞いて、クラスメイトが言い合う。

「何に使いたいかで協力はありだよね?」

「お、そうだな。俺もそうだしな、きっとありだぜ」

「ふむ、そうなると錬金術の発展を推すか?」

「自分で考えたことへの助言程度ではないかしら?」

「お前ら、皇子相手ということがわかってるのか?」

エフィだけが気軽さに慣れない様子で、第一皇子の知恵を借りる算段に突っ込む。

九尾の貴人は、いいのかと言いたげにウェアレルを見た。

それにはヴラディル先生が、もうあきらめたように教える。

「学生は受けつけるんだよ、ウィーを経由しての回答だけだが」

「なんだ、それなら早い」

ムッフィが言うと、素早くトレビがネヴロフに近づく。

「ねぇ? ちょっと岩盤浴で知恵を貸してほしいの。もしわからないところがあれば、皇子さまに聞いて」

「子供を何に使おうとしてるんですか」

ウェアレルも呆れる。

けど僕が聞く姿勢なのを見て止めるのをやめた。

止めないと見て、トレビも続ける。

「あれ、湧いたお湯と煙を通すだけの設備だと聞いたわ。その熱水を用意できれば、後は床下から温めるだけだと」

「そうだな。あ、でもなんか気持ちよくなる石使わないと駄目みたいで、俺たちも色々試したけど、皇子さまが選んだのが一番だったぜ」

ネヴロフの言い方は不穏だけど、気にせずムッフィが聞いた。

「では、その熱水を作るための炉と窯に配管を繋げるような施設を考えられるか? 竜人が火を焚くことで、維持できるように」

「竜人を使うなら魔法ですか? 確かに薪の節約にはなるでしょう。でも何故わざわざそんな労働を?」

僕が聞くと九尾の貴人たちはなんでもないように答える。

「竜人は火を扱う。それは当たり前で、こちらと違ってなんの取り柄でもない。その上で火を出せる程度の力ではどこにも雇い口がない者は一定数いる」

「既存の湯屋はすでに担い手が決まっていて、新たに仕事のない者を雇い入れる余裕はないわ。だったら、新しく作るしか仕事を与えることはできないの」

ただ問題は、既存のものを増やしたところで食い合うだけだという。

「それに我らが作れば凝り固まった風習に縛られず、どのような身分でも雇える」

「目新しいもの、私たちにしかできないものならなおのこと文句は言えないのよ」

どうやら貴人たちの目的は新たな雇用創設のようだ。

しかも相手は竜人としては当たり前のことしかできない人。

つまり困窮側の人への就職斡旋。

宮殿でもコネや血筋で職業は決まる。

だからなんの後ろ盾もないと努めることも、勤め続けることも難しいのは知ってた。

そんな状況を小王と呼ばれる側が改善しようと動き、そのために竜人の国にはない技術を求めてる、か。

うん、そういうことなら僕も協力は吝かじゃないね。