作品タイトル不明
閑話122:ディオラ
我がルキウサリアでも初めての催し、夜間の軍事行進。
夜のパレードが行われ、小雷ランプの真っ直ぐな光に揺れる影は大きく、不思議な空気感を作っていたように思う。
聖女教会という者たちが騒ぎを起こしたことで、取りやめも検討されたものの、厳かにしめやかに行う予定で許可がされた。
けれど実際はずいぶんと賑やかになり、歌い騒ぐ観衆は昼とはまた違った賑わい。
そんな中パレードを完遂した参加者たちは、騎士科の生徒を中心に、火を囲んで肩を組んで今度は自らのために歌っている。
「ふふ、賑やかですね」
「騒がしすぎますわ」
「騎士ならばこのくらいまだ大人しいのですよ」
楽しげな様子に目を細める私に、ウェルンさんは品がないと不満顔。
けれどユリアさんが言うには、大人しいらしい。
私たちは飲食のために用意された椅子に座り、打ち上げという生徒同士の交流を眺めていた。
「軍事に携わるお家なのですよね。騎士と近く交流がおありですか?」
私も王女として騎士は見慣れているけれど、こんな風に大声を上げる様子は見たことがない。
儀仗兵に近い立ち位置で、静かに控えていることが多い印象だった。
なのにユリアさんは、この騒ぎのさらに上を知ってる風だ。
「はい、魔法使いとして指揮する上では、騎士たちとの連携も必要ですので。それにレクサンデル大公国の貴族は自前の騎士団を持っています。行儀見習いとして従士、騎士となるべく勉強する者たちも屋敷に預かっていたのです」
ユリアさんは幼い頃からそういう関わりがあったため、目にしたという。
そして帝都に魔法使いとしての修行で行った後も、家に帰ればやはり将来のために家の騎士たちと訓練をしたと。
私は知らない世界で、ウェルンさんも興味深そうに頷く。
「何処も貴族は同じようなものと思っていましたが、同じような立場の貴族ばかりで集まっていただけだと身に染みますわね。それに、お国柄というのも入学して以来、感じるものがあります」
それは私も帝都へ行っていた時に感じたこと。
同じ文化圏だけれど、独得の雰囲気がある。
そして同じ王侯貴族と言っても、重要視するものが微妙に違う。
極端に言ってしまえば、我が国は学園という他国にはない強みを持ち、それを国の力として王族貴族も重要視する。
学園に寄与できる才能は得難いものと評価し、重んじた。
けれど帝都は伝統と血縁の力で支えられた巨木のようなもの。
縦横の繋がりは広く強固で、それがなければ帝国という巨大な社会構造を支えられないのも理解はできる。
「何を真面目に考えているのですか」
私が物思いにふけっていることに気づいて、ウェルンさんが呆れた。
ユリアさんも私に肩の力を抜くよう声をかける。
「お立場があるのでしょうが、そのお立場のある方々あれなのですし」
言って指すのは、錬金術科の方々がいる辺り。
もちろんその中には、アーシャさまもいれば、ユリアさんが思い寄せるハマート子爵令息もいる。
さらにはウェルンさんの婚約者ソーさんもいた。
他にもリーウス校の学生も数人おり、アーシャさまの正体を知らずとも、高位の貴族子弟が集まっているのはわかる。
見れば、何やらアーシャさまが説明をなさっているようだ。
それを受けてハマート子爵令息が魔法で炎を発生させる。
螺旋を描くことで熱風を起しているらしく、見ている方々の髪が揺れた。
「あれは何をしているのかしら? 見たことのない魔法のようですわ」
ウェルンさんに私は憶測ながら応じる。
「火の魔法で風を起こす実験とでも言えばいいでしょうか? 属性に拘らない魔法の運用を模索しているように見えます」
「つまり錬金術ということ?」
ウェルンさんに頷くと、ユリアさんが唇を尖らせる。
「エフィ、私に錬金術なんて見せてくれたことないのに…………。ちゃんと魔法、威力も上がってるじゃない。だったら教えてくれたって…………」
悔しげに仰るのは、それだけハマート子爵令息が魔法学科から錬金術科へ行ってしまったことに悔しさを覚えているからでしょう。
それは錬金術に負けたからこそ、より魔法を研ぎ澄ますためと知っていても、離れてしまった寂しさは癒えない。
「そもそも錬金術科に移ることも相談のひと言もないなんて、私そんなに信用ない?」
信用されていないのかと情けなくなる思いはわかる。
けれど、たぶんハマート子爵令息も転科するつもりはなかったのではないかと。
学園には例年になく王城から人員が入ってるため、私も得られる情報は多い。
結果、ハマート子爵令息の転科には、テスタ老が噛んでいると知った。
きっとアーシャさまの学園での様子、錬金術科での行いを知るため。
あの方の熱意と手管と押しの強さは知っているので、押し切られたのだろう。
「はぁ、真面目に取り組む横顔は、素敵なのですけれどね」
今度はウェルンさんが見つめる先には、同じように魔法を使い風を起こすソーさん。
ハマート子爵令息以外、炎を螺旋状にできない中、ソーさんは緩く渦を巻くような動きにはできていた。
魔法には集中力が必要で、助けるために呪文が使われる。
けれどどう見ても呪文などない試行。
だからこそ、普段そつなくこなすソーさんも、真剣な表情で取り組んでいた。
「こちらを一瞥もしないのはいかがなものかしら?」
ウェルンさんの恨み言にユリアさんも大いに頷く。
「結局は男同士で遊ぶことに熱中するのです」
それはわかる。
けれど同時に、アーシャさまはお忙しいことも知っている。
私が知れるのは一部でしかない。
それでも格段に王城へお呼びすることも、関わる人員も、屋敷から必要書類を往復させる動きも見えている。
何やら父である陛下周辺の動きを見るに、また新たな事業の気配もあった。
そこに私も手を出せればいいけれど、今はただの学生。
手を出せるように学びを深めるか、兄が戻らない今、後継者として国のために寄与することで我を通すか。
けれど、アーシャさまは帝都へ戻られるのだから、引き留めも難しい。
何より邪魔をしたいわけじゃない。
道はいくつもある。
だからこそ私が望む中で、周りにも祝福されるような道を求めてしまう。
そうでなければきっと、アーシャさまは頭から考えてもくれない。
「難しい顔をなされて」
「あら、またですの?」
「まぁ、お恥ずかしい」
ユリアさんは心配してくださるけれど、知っているウェルンさんはアーシャさまのほうを見ている。
「ご一緒に、今日の夜間パレードをなさって…………どうでしたの?」
前半は小声で、知らないユリアさんに配慮するウェルンさん。
言われて思い浮かぶのは、酔った方の乱入で助けられた時のこと。
熱くなる頬を押さえて、私もアズロスとしてのアーシャさまがばれないよう話題を選ぶ。
「楽しい時間を過ごさせていただきました。お仕事で城へ出向いていらっしゃるのはわかっているのですが、ついついもう少しと足止めを考えてしまうこともありました」
「件の皇子殿下、そんなに王城へ出入りなさっているのですね」
ユリアさんは複雑な表情だ。
少し腑に落ちない顔なのは、アーシャさまの擬態に騙されているせいでしょう。
ウェルンさんは苦笑して、私のほうを見る。
「それだけではないでしょう? 焚火に照らされる以上にお顔が赤いようですもの」
「じ、実は…………人通りの多い所で、私がぶつかりそうになった時に、か、肩を抱いて庇ってくださって」
「「まぁ」」
先ほどのことだけれど、誤魔化していつとは言わない。
その上で、ウェルンさんもユリアさんも声を高くした。
どちらも自身の肩を触れて想像を膨らませる。
きっとそれぞれ、思う相手に置き換えているのでしょう。
微笑ましいような、私自身その時の感触を思い出すと落ち着かない気もする。
「それで?」
「どうなりましたの?」
勢い込んで先を促されてしまって、すぐに頬のほてりは冷めてしまった。
「すぐに、離れられました。ですが、危なくないよう立ち位置を変えてくださったのです」
気にかけられてはいる。
けれどそれはまだ、私が望む段階にまでは至っていない。
つまり、意識されているかわからないのだ。
ウェルンさんもユリアさんも同じく思ったらしく難しい声を出す。
「紳士としては、無闇な接触をしないのは好感が持てますけれど。すぐに離れるというのは、意識もしていないせいかしら?」
「ですがそれは、あまりにも素っ気ないのでは? 少しは労わっても。あ、でも逆に意識しすぎて照れてしまったなんてことも」
そんな言葉に、つい期待を持って頷いてしまった。
そうであったなら、なんとか意識をしてもらえるよう触れ合う機会を探したい。
そこから私たちも気づけば、お互いに思う相手との距離の詰め方を相談する。
後日、アーシャさまに会った時に、楽しんでいたようで良かった、話しかけるのは遠慮したと言われてしまうことになるとも知らずに。