作品タイトル不明
592話:道を作る2
王城へ行く予定を前日に入れて、翌日には許可されるってけっこう早いんだとは思う。
それでも時間調整の結果午前が余ったから、僕はその間に帝都へ送る錬金術の準備をしていた。
「ユグザールに送るもの、これで大丈夫かな?」
僕の前にはいくつかのゴーレムの設計図と、睡眠、麻痺、幻惑、興奮などの薬とそれぞれの解毒薬のレシピを並べていた。
それを見てウォルドは笑顔で頷く。
「十分に、心強い対策ではあるかと」
それを聞いてヘルコフは、ちょっとの不満を交えて言った。
「種族違う俺らじゃ、どうも基準が厳しいらしいからなぁ」
「レーヴァンがずいぶんうるさく言ったからには、取り上げられるよりはいいだろう」
イクトが言うとおり、やりすぎるなってことは帝都のレーヴァンから言われてる。
ユグザールは元宮中警護で、そこからテリーの騎士になった人物。
だから能力知ってるかと思って、レーヴァンに連絡したら釘刺された。
あと、ゴーレムを装備させるようなことは現実的じゃないとも否定されてる。
「ゴーレム使い捨てになるから、防具くらいと思ったんだけど」
「石を体中に巻きつけて動くのは、鍛えた騎士と言えど難しいかと」
苦笑するウォルドに、レーヴァンも同意見だった。
けど、ヘルコフは平気だし、イクトは使い方次第って意見。
で、結局実戦慣れもしてないユグザールだからってことでレーヴァンの意見を採用してる。
結果、ゴーレムは使い捨てでその場で一度きりの効果のものを検討した。
ユグザールが使うけど、作るのは弟たちだ。
自衛のためのものだし、自分で作ってもいいと思う。
テリーが忙しくても、伝声装置は送ったし、双子も作り方教えられれば、核だけでも作れるはずだ。
「まぁ、石の塊抱えて移動しろなんて無理なのはわかったよ。あと、準備に忙しいテリーに、全部のゴーレムの素体作りやらせるのが難しいのも」
ゴーレムは素材そのものの大きさがあるから、複雑な術式の組み合わせで稼働してる。
それをできるだけ単純化して弟たちでも作れるようにした。
つまり単純な動きだけの使い捨てが限界だったとも言える。
「ゴーレムは、素体を作った者しか起動できないのが強みであり弱みかと」
ウォルドが言うとおり、テリーでもユグザールでも、使わせるには作らせる必要がある。
「そうなんだよね。それに作りやすく単純化するだけ、一度の起動には耐えるけど、その後自重で潰れるようなものしかできないし」
そもそも起動したら、石の壁が立ち上がるようにした盾も、元は壁にできるだけの量の石を用意する必要があった。
行く先に都合よく素材があるなんて楽観はできないし、テリーの移動時常に持ち歩かせるわけにもいかない。
だから据え置きを想定した石の盾が、ゴーレムの機構を使って自立生成される形。
実戦経験豊富なイクトは、盾よりも別のゴーレムを評価した。
「ですがこの、周囲の素材を吸収して形作る性質を利用した、穴を掘るものは場合によっては有用かと」
「まぁ、そもそも第二皇子専属の騎士が何かする場面なんて相当な不測の事態ですし、使わないのが一番ですよ」
ヘルコフが言うとおりなんだけど、もっとかっこよく弟の力になりたいんだよね。
「ゴーレムってけっこう融通きかないから、やっぱり単純作業か使い捨てかぁ」
壁以外にも、小さな投石機に組み上がるものを送るつもりでいる。
これは木製ゴーレムで、重量と比例する力は落ちるけど、その分耐久が上がるのが特徴だ。
金属のゴーレムの案では、ユグザールの装備に潜ませること前提だ。
けど、ゴーレムに加工した後に、武具なんかに加工はできない。
武具をゴーレムにするには一度分解して作り直しだから意味がない。
最初から武具の形になるように指示するのは、術の困難さから人間が持てる重量に留めるのが無理だった。
「金属はできて針を刺す程度だし。こんなの暗殺者向きすぎて、騎士に持たせるなってレーヴァンに怒られたし」
「あいつたまにまともなこと言うんですよね」
口の悪いレーヴァンを鼻で笑うヘルコフに、イクトも頷く。
「腕輪型にしたものを棒状に変形するようにして無手の対策程度とは言え、ないよりましでしょう」
「あの、本当に使わないのが一番で。それに仕込まれた雷撃の魔法は、たぶん表に出せば相応の注目と説明を求められるもののはずです」
ウォルドが言うのは、最初に思いついたスタン警棒。
ウェアレルはもちろん、セフィラとも協力して作ったんだ。
仕込むのは錬金法を元にした新しい魔法で、腕輪型にしたゴーレムは単純に棒状に変形するだけ。
対の腕輪は木製で持ち手として人力で合体させることで、腕輪二つに仕込んだ未完成の魔法陣が完成して、魔力を流すと小さな火傷を作れる程度の電撃が起きる。
この二つの魔法を合わせることで発動するって仕組みは、地伏罠やユキヒョウ先生たちが作った元の魔法から得たものだ。
「使わないほうがいいけど、あって邪魔にならないならいいよ。それじゃ王城で陛下に報告と、受け取りの仲介をお願いしないと」
ユグザールは第二皇子の騎士で、周囲が僕と取り持つことはしない。
だからここは皇帝である父を経由して、テリーの守りのための錬金術を届けてもらう。
ついでにロムルーシで形になったレールを、帝都導入に関しても相談するつもりだ。
そもそもインフラなんて、僕個人でどうにかできる規模のものじゃない。
お金も人員も資材も無理だから、まずはできる人に発案するんだ。
そして現実に関しては父に任せる。
そうじゃないと、うるさい大人に握り潰される可能性もあるからね。
「いちおう、ロムルーシからの情報紛れさせる細工もしたし」
レールはアズロスが関わる技術で、使う許可もアズロスが貰ってるもの。
だからある程度アズロスとして、レールの別の実用を示さないと皇子の僕は使えない。
そこは重量のある物を定期的に運ぶ必要のある場所知ってたから、ちょっと関係者の錬金術科を巻き込んですでに案を放り投げておいた。
実用化したら、それを視察って形で一度皇子として見ましたって形式を作る予定…………だったんだけど。
「第一皇子殿下、お時間を…………いえ、少々こちらに関してもご説明いただき、その後に国王陛下とご相談願いたいのですが」
いつもの魔導伝声装置の管理官が、すごく言葉に迷ってそう切り出した。
送るものについては後から難癖も困るから、伝声装置の記録に残るように内容は選んだ。
名目上は錬金術の成果の一部を送って見てもらうって形で、その実ユグザールへの仲介は、錬金術の伝声装置で伝えてある。
「ゴーレムの小型化…………」
「あ、言ってなかったっけ」
レーヴァンには見せたけどそっちから回ってない?
まぁ、小さい分おもちゃ程度の動きしかしないし。
伝わってないなら小さくした分性能も矮小化してるって辺りもわかってないから、ルキウサリア国王へ報告案件にされたのかも。
「それに、新たな道…………」
「そこはロムルーシ留学での報告にちょっと書いてたものだよ」
管理官が遠い目してる。
「はい、そう、はい…………。それとまた別に、鍛冶工房よりの報告に関して聞き取りを行いたい旨のご相談が、本来はあったのです」
どうやら、元から呼び出し予定だったらしい。
そして鍛冶工房って、技師の大親方からか。
「あぁ、使うにあたって錬金術科の学生として、世に出した実績が欲しかったから。工房のほうで使うように言ったんだけど」
提案したのは、ただの金属運搬の方法。
レールを挟み込む形の車輪をロムルーシ側から拝借したくらい。
その上で、溶鉱炉に運ぶのは決まった道だから、そこにレールを敷くよう言っただけ。
それを聞いたウー・ヤーとネヴロフが、金属を積んだ車輪付きの籠を、輪をつけて蒸気の回転で巻き取って動かそう、なんて言い出したのは止めたけど。
ブレーキなんて考えてないから、勢いと重さで加速した末にクラッシュするのが目に見えてたんだ。
「あ、そうか。蒸気で回転させるなら、レーンのほうがいいって言った機構もあったね。そっち?」
蒸気の力を回転に変えるのは、ネヴロフの故郷でもやってたこと。
だからこそ、止まることは考えてないし、止める前提なら動かし続ける機構である必要はない。
だったら蒸気による回転を効率的に使うために、ずっと回し続ける機構を作ればいい。
というわけで、レールとは別にレーンを回し続ける機構を提案した。
前世だとベルトコンベアだったけど、こっちではゴムは手軽には手に入らない。
だから金属の板を繋ぎ合わせてキャタピラのようにしたものだ。
そこの上に重い金属乗せれば、回転と一緒に勝手に運んでくれるっていうもの。
歯車を組み合わせれば人間の力でも手回しで使えるし、一番の利点は自動化できるってくらいのもの。
「あれはまだ重量の試験もしてないし、実用化には早いんだけど」
「そうしたお話を、どうぞ陛下にお願いします」
どうやらどっちもらしい。
けどこうして言って出ないってことは、大親方はちゃんと赤炉については黙っててくれてるようだ。
もちろん僕も表に出せるものに関しては、錬金術の再興のために出していく所存だった。