軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話116:ウィーリャ

「お姉さま、お手紙が届いておりますよ」

「まぁ、ツィーチャ。あなたが使用人のまねごとをせずとも」

私はそういうのに、ツィーチャは長い毛に覆われた尻尾を上機嫌にくねらせる。

私たちは、デニソフ・イマム大公閣下がご用意くださった小さな一軒家で寝起きして学園に通っている。

そうまでして、ルキウサリアの学園の錬金術科に通わせたい大公閣下のご意向だった。

「大公閣下からですね。…………ツィーチャ、授業はどうです?」

私は爪で封を切りつつ、ツィーチャに尋ねてみる。

入学してからオリエンテーションがあり、そして授業が始まった。

私と同じく錬金術に興味もなかったはずで、不満を持っているかもしれない。

それでも毎日楽しそうに通う姿は、実際のところどうなのか不思議に思ったのだ。

「はい、全然わかりません」

「ツィーチャ…………」

「でも、魔法が使えないからって教室を追い出されることもないですし、できないことをやれと無視して授業を進められることもありません」

「ツィーチャ…………」

私は思わず、元気に答えるツィーチャの名前を呼ぶ以外にできなくなる。

ロムルーシは寒いので、子供を集めて教室を開き、燃料の消費を抑えることがあった。

私は令嬢としてほぼ家庭教師に教わったけれど、親類とは言え末端のツィーチャは教室へと通わされている。

そのせいで、魔法が使えないことで差別的な扱いを受けていたらしいことがまざまざとわかってしまった。

「あと、ナムーは私と同じなのに、全然気にしていませんの。なんだか下を向いてるのが損な気がしてきたのです」

ツィーチャの口から出てきたのは、同じ猫の獣人でラト先輩の親戚の新入生。

平民で色々と遅いし、周りもあまり見えてないようで、良く誰かにぶつかっている。

そんなナムーをラト先輩も心配しているけれど、ツィーチャには別の見方をしていた。

「先日、同じ学年にツィーチャのようなしっかりした子がいてくれて良かったと、ラト先輩がおっしゃっていましたよ」

「そ、そうですか? えへへ、ナムーにはそんなにいっぱい言われても覚えられないって言われるんですけど。言わないとやらないし、逃げ癖があるみたいで」

褒められることに慣れておらず、肯定されたからにはやる気を出す。

けれど私としては、ツィーチャも辛いなら逃げていいと言いたい。

そう思ってこちらに呼んだところもある。

私の入学当初では考えられない判断だ。

それでも、魔法が使えなくても錬金術はできると知ったし、魔法を越える手法が存在することもわかった。

そう思えたことで、ツィーチャを呼べるよう、デニソフ・イマム大公閣下に自らかけ合ったのだ。

「それで、大公閣下からはなんの御用なのでしょう?」

ツィーチャに言われて、私も開けたまま読んでいない手紙に目を落とす。

「いつもの定期連絡ですわね。ロムルーシで行われている橇のための道について」

「あ、それ私も見ました。けっこう速度出るんですよ」

「…………あれは、入学してすぐにロムルーシに留学された、アズ先輩の発案ですよ」

「えぇ!?」

教えたら、途端に毛を逆立てて声を上げた。

というか、やはり聞かされもせずこちらに来ているらしい。

私も命じられるままにこちらに来て、後からアズ先輩が大公閣下をお助けして、その知恵をもって貢献したことも聞いたのだ。

二年前に事件もあり、落ち着くには早いとはわかっているけれど、その辺り申し送りしておいてほしかったと思う。

「そのために、こうして経過報告や使用状況、またはそこから出てきた問題点について、アズ先輩に報告されます」

「報告されて、アズ先輩はどうなさるんですか?」

あの方の錬金術と発想力を知らないと、そうだろう。

関わったと言っても、本当に発案から整備方法まで全部提案してるとは思わない。

あの方の稀有さは言葉で言っても通じないし、何故か最初からビジョンが見えているような、遠すぎる視点もある。

歌劇など考えたこともないようなことを言っておいて、今までにない舞台を作る。

何もなさそうに見えるところに、新たな機軸を作ってしまう方だ。

「こちらには、報告した問題点について、解決策か改善案を求める言葉があります」

「え、あれ、色んな領主が視察に来たりしてて。すごく注目集める形になってるんですよ?」

そうした報告も届いている。

私は目を通して、必要分をアズ先輩にお伝えするということをやってきた。

もう問題点の報告書は別になって届いてるから、そこはアズ先輩に直接渡すほど。

そうして、渡す度に苦笑される。

きっとアズ先輩も、公共事業化し始めてる案件に、何処まで関わるべきか悩んでいるのだ。

私も他国の、しかも学生にここまで頼っていいのかと苦笑を返している。

「一応、アズ先輩は発案者としてこれらの結果を独自に活用し、新たな錬金術として発表することを許されてはいます」

「あ、えっと、先輩方がやっている、自分の錬金術を深めるというものですか?」

「どうなのでしょう? アズ先輩はやることが多岐にわたるので、今何をしているのか」

私は錬金術で音響に興味を持ち、それを深めることを考えている。

または舞台を彩るための仕掛けに関しても最近は、手先の器用な先輩たちに教えていただくこともあった。

けれどアズ先輩はそんな私に助言しつつ、導きつつ、私以外にも同じようにしている。

クラスメイトのトリキスが病の考察で詰まった時にも助言し、竜人のアシュルやクーラが出せないほどの火力を放つこともして見せ、さらに上の先輩方相手にも手を貸すのだ。

「あら? 水道?」

私は手紙を読み進めて、出てきた内容に声を漏らす。

内容は、宮殿の塔の一つで上階へと水を送る水道が復活したというもので、そんな話を私にする理由はわからない。

さらには随分と事細かな工事の様子まで報告されている。

「いえ、そう、報告ですわね。これもアズ先輩が関わってらっしゃったのでしょう」

「え、その宮殿の塔でって話、ロムルーシ大公閣下からお褒めの言葉と褒賞出るって、国を出る前に聞きましたよ、お姉さま」

言われて、私は耳と尻尾を立ててしまう。

「な、な、なんですって? それは本当ですの?」

「はい、これでまた私たちの大公閣下が認められると、大人たちが喜んで話していたので」

まさか、ロムルーシの国主に褒賞されるほどの成果だとは思わなかった。

そんな功績にアズ先輩が?

私は報告書染みた内容に目を走らせる。

すると、地下に埋まった水道設備を、とある理論に基づいて稼働させようとしたけれど上手くいかず、掘り出したとのこと。

結果、長年の放置で内部に泥が溜まり想定した動きをしなかったと書いてある。

「理論…………。その出所が、アズ先輩ということなのね」

「そうなのですか?」

ツィーチャが不思議そうに耳を振ると、嬉しそうに言った。

「けれどそうして認められるなら、今までのように若いからと言ってデニソフ・イマム大公閣下が悪く言われることもなくなりますね」

「えぇ、そうね。二年前から、大公閣下の統治は良い方向に進んでいますもの」

「はい! 仲が悪く諍いの絶えなかった氏族たちも、その場での殺し合いではなく、次の大会では土をつけてやると言い合う形になっていて平和です。今ではそこで力を見せられることで、無闇に争うよりも相手を認めることを覚えているとか」

ツィーチャは、私がロムルーシを離れている間の様子を語る。

私も心躍る大会のことは今でも覚えていた。

ただ、こちらに来てからその大会を催すに至った話も聞いて、驚いたものだ。

ヨトシペさまの実力は本物で、尊敬していたけれど、その後に聞いた無知のためにやってしまったことは、大公閣下の当時の心境を思えばさらし者もやむなしと思える。

「それも、アズ先輩が関わっていると言えば、ツィーチャは信じる?」

「そうなのですか? お姉さまがおっしゃるなら。けれど、アズ先輩はよくそれだけなんでもこなしますね」

ツィーチャはちょっと、盲目的なまでに私を信用しすぎているかもしれない。

虐められていたのを助けたり、魔法が使えないからと言って笑わなかったためだろう。

ただそんな当たり前のことをする者が、私以外にいなかったのは悲劇だ。

けれど、いまいちアズ先輩の図抜けた活躍が伝わっていないような気もする。

「…………こうしたことも、大公閣下に訴えて、次に錬金術科に人を送る場合は、申し送りをしていただけるようお手紙しましょう」

「はい! うん?」

反射的に返事をして、なんの話かとツィーチャは首を捻る。

ラト先輩はしっかり者と言ってくださったけれど、私からすれば、今までにない環境に浮かれてる妹分でしかない。

「ツィーチャもしっかりお勉強しましょうね」

「はい!」

返事だけはいいのだ。

けれどこれは、わかっていない。

私たちは将来、アズ先輩が見せた錬金術のきらめきを示すよう求められることを。

もちろん私も、音響効果を詰め込んだ劇場を作る野心はあるのですけれど。

それでも未だに、アズ先輩に届くビジョンは見えなかった。