軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

557話:精霊と錬金炉2

実験室は冬休みで誰もいない。

学園自体は先生たちがいるから、出入りに鍵は借りてる。

「青トカゲはいつもの錬金炉として。人魚は?」

「何処かしら死角にいるから出てくるのを待つな」

僕が聞くと、エフィは肩を竦めてみせた。

相変わらず妙な恥ずかしがり屋らしい。

(背後、扉の上)

(あ、いた。本当に死角だ)

セフィラに言われて振り返ると、入って来た扉の上の枠に身を伏せて隠れてる。

逃げる幻影と違って、本体は見つかってもじっと動かない。

なんだか深海魚みたいだ。

「青トカゲ、ちょっと聞きたいことあるから出てきて」

話を聞くためのこっくりさん形式のシートを用意しつつ、僕が声をかけると、何故かエフィはあきれ顔を向けて来た。

「エフィ、何?」

「お前、よくそんな気軽に声かけられるな」

「え、だって、話聞くんだし」

「いや、それでも精霊とか、人間の範疇とも違う存在を呼びつけるのはどうなんだ?」

エフィは僕がおかしいと言う。

けど、声を聞いて現れた青トカゲは、手足を交互に動かして全く気にせず出て来てる。

のしのしというには軽い足取りで、ペタペタ言いそうな足を無音で動かし、机の向こうからやって来た。

(僕が気軽のは、たぶんセフィラ相手に慣れてるせいだけど)

(主人は相対するものに対して対応を変えるのは珍しくあります)

(そりゃ、TPOは弁えてるけど、弁える時と場合と人がほぼいないからね)

(テーピーオなるものの仔細を求める)

(タイム、プレイス、…………オケーションだったかな? 時間と場所と場合っていう単語の、頭文字を並べた略だよ)

不必要なところに反応する。

その上で、セフィラも別に対応変える必要を感じてないようだ。

そしてエフィは寄って来た青トカゲを指先で撫でてる。

これも精霊扱いじゃない気がするなぁ、なんて思いながら、僕はエフィに聞いた。

「それで、青トカゲのいる錬金炉に、他との違いって何かあった?」

「特にないな。見た限り同じ造りだ。表面の傷なんかもそれぞれ違う。その上で出力に違いがあるわけでもない」

エフィ曰く、何も外観の違いはないけど、青トカゲは今日も同じ錬金炉から出て来た。

「本人に聞いた?」

「なんて聞くんだ?」

「え、うーん? どうしてその錬金炉を気に入ってるの、とか?」

青トカゲは僕と目を合わせると、ちょっと首を傾げる。

それにエフィがこっくりさん用紙を横目に教えてくれた。

「こいつ、けっこう感覚的なことには答えないぞ」

どうやら聞いても答えないとわかってたようだ。

つまり、融通の利かないセフィラみたいな?

だったら聞きようはある。

「青トカゲがいつもいる錬金炉、ここにある他の錬金炉よりも優れてる点を一つ教えて」

聞いたらすぐに文字の上に移動を始める。

そして足をてしてししながら示した文字は、せいど。

「精度、か。もしかしたら内部構造で一番できがいいのかも」

「そんなことわかるのか。いや、通り抜けるみたいな動きするし、解体しなくても内部構造は見れるのかもしれないな」

エフィが透過能力に関して手を打って納得した。

僕からすれば今さらだけど、セフィラが何できるかも知らなければそんなものか。

少しずつ具体的な質問を重ねて、どうして青トカゲが錬金炉にいるかを聞き出す。

すると思わぬ答えが返った。

「いられる…………。どういうことだ?」

エフィわからず呟く。

青トカゲの返答は、居られる場所だったから。

他にも質問を重ねると、消える、なくなると答えが返った。

エフィはわからないみたいだけど、僕には心当たりがあった。

セフィラが似たことを言ってたんだ、かつてフラスコの中から。

もし同じだとしたら、別の疑問が湧く。

「今は平気なんだよね? けどそこがいいの?」

返事は肯定。

そうなると気になるなぁ。

「人魚のほうはいられる場所の拘りはないみたいだけど? 同じように、何処がいいってあるかな?」

言葉はないけど、窺いもせず、青トカゲは水と答えた。

該当するのは水道。

そうでなくてもここは敷地内に湖がある。

けどセフィラのフラスコ、青トカゲの錬金炉と同じことなら、もしかして生まれ?

あの人魚は水の中で生まれて、一定期間そこから出られなかった、なんてことがあるかもしれないのか。

「平気だと言うなら本題に入るべきじゃないか?」

僕がさらに聞こうとしたらエフィに止められた。

精霊のことやセフィラの発生は気になるけど、確かに今日は錬金炉についてだ。

さらに聞きたいのは、魔法使いに天啓を与えたり、錬金術を助けるという精霊の力が本物かどうかの検証も図る。

「謎の素材の提供や、質問に気まぐれだが答えてくれるのは、伝説にある霊感を与える精霊と合致するとも言えるわけだが」

「やっぱり気まぐれなところが使い勝手悪いよね。本当に助けてほしい時に助けてくれるか。現金な話だけど僕たちはそこが気になる」

エフィに頷きつつ、僕は青トカゲにこっちの思惑を赤裸々に話す。

そもそも思考読まれてる可能性大だからね。

気にして言わないだけ無駄だ。

というわけで取り出したのは、錬金炉に使おうという術理のまだ清書してないもの。

何せ、ここに来る前に外の実験場で書き足して手を加えてたんだ。

だいぶ整理できてない内容なのは、僕たちもわかってた。

「今日はこれについて聞きたいんだ」

「わからないだろうが、説明するから聞いてくれ」

エフィが言うと、青トカゲはそのままエフィ見てる。

紙のほうは見てないけど説明を聞いてる雰囲気はあった。

天と地を作ってその間に人間を設定することで、命を扱うような錬金炉を造りたいって言う話だ。

そう簡単にできるものじゃないことはわかってる。

けどこういう誰も答えを知らない実験や検証は、方向性だけでも欲しいというのが正直なところ。

本当に世界の真理に通じる精霊なら、ヒントくらいは出してほしい。

「って、うん? 人魚も来た」

「さっきから様子窺う度に近づいて来てたぞ」

僕が机の縁に隠れてるのに気づくと、エフィはいつの間にかだるまさんがころんだみたいなことを人魚としてたらしい。

未だに僕は人魚の行動わからないんだけど、エフィは慣れて来てる?

「ちなみに人魚、喋ったりは?」

「しないな。口を開いてるのも見たことがない」

「青トカゲみたいに食べる物とか?」

「それが今のところ見つかってない。青トカゲのように属性に沿ったものを出すと、見ていない間に寄って来るんだが、特に変化はない」

「違う精霊だから、アプローチも違う手を考えるべきかな。少なくとも、青トカゲのように目の前に出すだけじゃ駄目なんだろうね」

興味を示して寄って来るだけ、間違いではないんだろうけど。

なんて話してたら、セフィラが青トカゲが動き出したことを教えてくれた。

そして文字を踏んで示された言葉は、予想外なもの。

「…………瓦礫の山」

「それほどひどいってこと?」

呟くエフィに続いて僕が聞くと、青トカゲは無邪気に肯定してきた。

これは、九尾の貴人より手厳しい。

青トカゲは次に、真理の探究と、肯定の言葉を示して見せる。

「えーと、方向性は間違ってないけど、本来作りたいものがバラバラのぐちゃぐちゃで見る影もないってことかな」

「よく今のでそれだけの解釈ができるな?」

「錬金術師の暗号見慣れるとね。それで言えば真理の探究なんて誉め言葉の域だと思うよ」

「…………たぶん、小難しい言葉を指す時は、この人魚のほうの意見だ」

エフィ曰く、どうやら喋らない人魚はそれでもコミュニケーションの意志があるらしい。

その上で青トカゲを通じてたまに、こうして言葉を示すそうだ。

「僕としては違いがよくわかるねって言いたいけど」

「それも慣れだな」

言ってから、エフィは自分の額を片手で覆い、呻くように呟いた。

「…………何に使えるんだ、この特技?」

「えー、錬金術には使えるよ」

なんか改めて、謎の青トカゲと謎の人魚の見わけやコミュニケーションができるって言う状況に疑問を覚えてしまったらしい。

今のところ有用なんだから、悲観する必要はないと思うんだけどね。

僕の適当な慰めに、エフィは半端に笑う。

真面目に受け止めてないみたいだけど、たぶん魔法にも応用できるから頑張ってほしい。

「ともかく術理は精霊も理解できることは確定だね。その上で助言っぽいものも引き出せた」

「言い伝えどおりと言っていいのか微妙なラインに思えるがな」

けっこう的確な表現だと思うんだけどね。

僕たちも何ができるかわからずにやってて、それでもうっすら完成形を模索してる。

そんな手探りな僕らは、精霊の能力検証も兼ねて、あれこれ試行錯誤しながら精霊の知恵を借りることにした。