軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

553話:入試手伝い3

午前の共通科目が終わると、昼の休憩。

そして錬金術科は午後一番に小論文があって、その後にお試しの実験問題だ。

僕たちが準備して待つのは、ラクス城校の端にある実験室。

出入り口から遠くて不人気らしく、入試ギリギリでも使用許可が下りた場所。

「さすがに思いつきで、使える部屋あるだけましかな」

「実験室が複数隣り合ってるのはいいな」

手持ち無沙汰に呟く僕に、ウー・ヤーが頷く。

錬金術科の外に新しく実験場所を作ったけど、利便性はちょっとね。

特に最近九尾の貴人相手にした時は、二カ所にわかれて作業してたから余計に思う。

連絡とか情報共有とかで、移動するために階段上ったり下りたり大変だったんだよ。

ちなみに配分は、僕たちのクラスは六人だから二人ずつに別れた。

後輩は八人で、ウィレンさん入れて三人ずつに別れて実験室に入ってる。

「今まで犯罪歴とかどうしてたんだろね?」

僕たちと一緒の実験室にいるウィレンさんは、刑罰を受けたかもしれない海人の受験生についてぼやく。

聞いてたイデスとショウシの二人が、令嬢らしく首を傾げた。

「そもそも犯罪歴のある方が高額な入学費を工面できるものでしょうか?」

「それに試験を受けるには紹介状も必要ではありませんか? 誰が口利きを?」

おっと、今初めて知る事実。

紹介状なんて必要だったのか。

うん、覚えがない。

けど心当たりはある。

何せ、そもそもアズロスって言う架空の人物を入学させたのは、ルキウサリア国王だ。

その辺りは全部丸投げさせてもらったから知らなかった。

けど今まで調べてばれるなんてことはなかったから、何かしら紹介状に関しても僕の正体がわからないよう偽装されてるんだろうな。

ちなみに配置がイデスとショウシなのは、海人の一人が女の子だから。

その上でショウシは文化圏が近いから、ちょっとチトス連邦の言葉わかるそうだ。

「おい、ウィレン。来い」

「あれ、ネクロン先生?」

小論文中のはずが、ネクロン先生が顔を出した。

急なことで、ウィレンさんも驚く様子だ。

「例の海人が盛大にインク零して着替えが必要だ。こっちの服に慣れてないとかで、着替えを手伝ってくれ」

ウィレンさんはネクロン先生と一緒に出て、残された僕たちは顔を見合わせる。

僕を見てたウー・ヤーが、思い出したように言った。

「そう言えば、アズもそんなことがあったな」

「あれ、僕みんなより後ろに座ってたのに気づいてたの?」

「受け答えと声で、あれはアズだったんだなと」

「あー、うん。書いてしまった後に急いで書き直したんだ」

僕もインクを零したと聞いて、イデスとショウシが目を瞠った。

「つまり、二つ書いたも同然で、合格をされたのですね。さすが留学に選ばれるほどの方」

「あの、女子会というもので、ワンダ先輩も同じことをしたと聞きましたけれど?」

言われて、足の悪い海人がワンダ先輩並みのおっちょこちょいの可能性が湧いた。

ショウシの指摘を聞いて、一気に僕たちの表情が引き締まる。

「…………アズのように、その時運が悪かっただけ、ということを期待したいが」

ウー・ヤーの希望的観測に、僕は今できる対策を指示することにした。

「うん、念のため椅子の間隔を可能な限り広く取ろう。あと、実験中は邪魔にならない程度に、教卓の前に立って不測の事態があったら対応するようにしたい」

「そうですね、巻き込みがあるかもしれないですもの。実験器具をひっくり返されることも…………」

イデスが具体的に考えて口にするのは、ワンダ先輩を想定してるからだ。

ショウシもこの一年で行事の度に一緒に作業すれば、パターンを覚えるらしい。

「手を突いてひっくり返すようなものは届かないところへ置きましょう」

「あぁ、入室も少数ずつ案内するか」

ウー・ヤーも被害を押さえようと段取りを考える。

そうして備えてたら、何故かウィレンさんが濡れて戻った。

「なんでお互い海人なのに、頭から水浴びちゃったんだろう?」

心底わからない顔で、魔法で水を散らしながら呟いてる。

どうやらこれは確定で、ワンダ先輩並みだ。

「…………あの手の人、他にもいるんだ」

思わず呟くと、みんな揃って頷く。

ウィレンさんは誰のことかわからず首を傾げた。

ただワンダ先輩の名前を出しても、就活生はネクロン先生が授業の受け持ちをほとんどしなかったから、イメージがないらしい。

「錬金術科に前例がいるなら大丈夫、なのかな? まぁ、受かるかどうかは別問題だろうけど」

「あれはあれで、学業よりも才能が勝った例のような?」

ウー・ヤーはインクを零していながら合格してるワンダ先輩の能力を評価するような、そうでもないような。

ともかく僕たちは気をつけることや、受験生の移動に関して段取りを共有した。

そうして小論文が終わって移動してきた受験生を、実験室に少数入れて行く。

手の届くところに壊れ物を置かない、足が悪いため転ぶことを前提に最初からショウシが介助につくなど。

「…………って、気をつけてたはずなのになぁ」

僕たちの目の前には、並べた椅子を盛大に蹴散らしてこけてる海人の少女。

これがまた目を瞠る美少女で、赤い髪がさながら血のようだ。

まるで殺人現場ってだけでも驚くのに、双子のよく似た美少年も一緒になって倒れてる。

その青い髪の美少年が、ショウシを庇って一緒に美少女と椅子を蹴散らして転んだんだ。

介助役だったのに一人立ってる状態のショウシが、瞬きも忘れて固まってた。

「ともかく助けよう。他の受験生はまだ入らないで待っていてね」

僕たちは手わけして双子の海人を助け起こし、まずワンダ先輩系受験生少女を座らせる。

その隣に双子の少年も座らせて動かないように指示を出した。

そして椅子を並べ直して順次受験生を座らせる。

あとは実験をすることの説明に入り、そこからはスムーズに進んだ。

やっぱり動かないようにさせる、ワンダ先輩と同じ対処でよかったらしい。

そうして僕たちがやって見せるのは下方置換法。

空気よりも重い気体を発生させて瓶に集める設問だった。

「ここに、煙を入れて蓋をすると…………はい。境ができた」

僕は重い気体を集めた瓶の中に、さらに白い煙を閉じ込める。

すると空気よりも上に行く煙は、瓶の中で下にはいかない。

空気よりも重い気体がすでにあるから、煙と重い気体で層ができていた。

さらに瓶を慎重に上下さかさまにする。

すると、やはり重さの違いで、煙のほうが上に移動。

もちろん比較対象として、煙だけを入れた瓶も用意して見せた。

煙は瓶の中で渦を巻いた後は、瓶の中に滞留するだけ。

明らかに、重い気体と一緒に入れた瓶とは違う様子は見せられた。

「さて、君たちはこの現象をどう考える? 何故こうなるのか、僕たちが何をしていたのか、この瓶の中では何が起きているのか。そうした考えをそれぞれ書き出してほしい」

僕が設問を伝えると、ウィレンさんが回答時間や注意事項を伝える。

「最後に、これは受験の必須科目ではない。あくまで補欠や同点通過があった場合、どちらを取るかを考える際の目安とする。そのため白紙ですぐに席を立ってもかまわない」

ウィレンさんがいつもよりも厳しい感じで通達した。

まぁ、これが試験内容に含まれなかったのは、お試しでやってるからだ。

入試とか試験って、事前に問題内容が妥当かとか教師間で会議にかけられ、受験を行う学舎ごとに認可を取る必要があるんだとか。

つまり突然科目増やすなんてできない。

けど錬金術科で学生を増やすなり、力のある受験生を逃がさないなりの試行は、ルキウサリア国王も推奨してる。

だから今回、あくまで目安にするためのデモンストレーションって形式で受験にねじ込んでるそうだ。

(僕たちの時のお試しは、補欠入学の枠だったなぁ)

ルキウサリア国王が講じた錬金術科を再興するための方策を懐かしんでいると、セフィラが突然声をかけて来た。

(主人に問う。海人の受験生の身元は有用でしょうか?)

(…………つまり、また勝手に人の思考読んだんだね? 有用と言えばそうだろうけど、犯罪者でなければ聞かないでおくよ)

(刑罰を受けた犯罪者です)

断言されて思わず息をつめた。

気づかれないようにゆっくり息を吐いて、回答する受験生を監督するふりで視線を遠くに向ける。

(ワンダ先輩並みのドジをする犯罪者って、それ本当にやらかしちゃったとか?)

(当人たちは冤罪であると認識しています)

なんかもっと厄介そうだし、深堀すべきかどうか迷うな。

なんて考えてたらセフィラがさっさと教える。

(高貴な身分をかさに着て、才能豊かな身分の低い少女を虐げ、自らの婚約者に見限られた上で、あまりの醜悪な行いの罰として足の腱を切られ国外に追放されています)

(おぅ、え…………それ何処の悪役令嬢?)

思わず聞き返したら、悪役令嬢とはっていうセフィラの追及を受けることになってしまったのだった。