軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話110:ウルフ先輩

俺はおしゃれな喫茶店の個室で、目の前の先輩に縋った。

「助けてくださいよー!」

「いってらっしゃいな」

「いってらっしゃいませ」

「いってください」

俺の目の前には、テルーセラーナ先輩、同じ竜人の後輩のクーラ、そしてキレッキレで、俺より商人向いてそうな人間の後輩アズがいる。

んでもって、みんな同じこと言う、味方がいない。

しかもアズが一番乗り気だ、なんでだよ。

「俺はしがない毛皮商の倅で、あんな押せ押せな王さまたちの相手なんて無理だって」

本当にただの商人の生まれでしかないんだ。

エルフの国の平民が親で、商売のついでにこっちの大陸中央部に移り住んだだけ。

学園なんて商人仲間からの話でしか知らなかったし、錬金術科程度ならいけるかもなんて冗談でした馬鹿話。

身内の中じゃ物覚えが良くて、だいたいのことはそつなくこなしてたから、正直持ち上げられて調子乗ったところもある。

実際必要な勉強ってのやってみたら、きつすぎてヤバくてビビった。

かかる金もヤバいから、やらせてみた親のほうが引っ込みつかなくて受験させられたし。

どっかの役人になれたらいいな、なんて甘い考えで行くところじゃなかったと知ったのは、なんでか入学できてから。

本当にあれはまぐれの合格だと思う。

「方々の審美眼は本物ともいうではないの。その九尾の貴人が同行を許したのであれば、認めさせる何かがあなたにもあったのでしょうね、ウルフ」

テルーセラーナ先輩も竜人の王族だけど、国が違うせいか、ちょっときついとこもあるけどけっこう寛大なお人。

毒調べるために入学したって聞いた時は、どんなヤバい人かと思ったけど。

それがクーラと一緒にアシュルが入ってから、親の尻拭いと弟助けようって言う気の優しさを知ることになってる。

錬金術もわからなければ、王侯貴族のお歴々との話し方すら知らない俺に教えてくれて、同じく指導してくれたレーゼン先輩ともども世話になったお人だし、手伝うのはやぶさかじゃない。

けど今回は違う気がするから訴えさせてもらう。

「あの人ら、ただ毛皮欲しいだけですって! 防寒着手に入れる伝手ができたラッキーくらいのもんですよ?」

可愛げのない後輩のクーラは、お貴族さま独特のこれ見よがしな溜め息を吐いた。

「少しは錬金術師として振る舞おうとは思わないのですか。お声かけいただけたからには、身を粉にしてお仕えし、己の力を示す好機を得たと奮起されては?」

「そんなお上に仕える心構えすらねぇんだよ、こっちは。あと、お前らが使ってた錬金術、俺たち知らないのもあったから。お願いですからそこら辺情報開示してください!」

俺は後輩相手に、恥も外聞もなく情けを請う。

だって、どう考えても興味持ったのそこだし!

いつもは堅苦しい話とか無理だから傍観してたけど、今回に関しては俺は身一つだ。

だったら防御に使える知識欲しいよ。

思ったより使えないなんて言われて、道端に捨てられるのは御免被る!

クーラが目を向けると、そこら辺の情報持ってるだろうアズが口を開いた。

「教えられるものと教えられないものがありますね。そして教えられるものはすでに教えてます」

「えぇ!? あの火力上げる薬とかさ」

「あれはエフィがまだ作成途中のものですね。作り方を広めるには早すぎますし、そもそも今現在作れると言えるのは、エフィだけなので」

「アズにもできないのか?」

正直できすぎる点で可愛げはない後輩だが、それ以上に頼もしいところもある。

できないことないんじゃないかってくらいで、今回の九尾の貴人やり込めようってのもこいつの発案だ。

「できなくはないですけど、相性の問題ですかね」

言葉を選ぶのは、技術隠すからか。

錬金術として広められるものはなんでもオープンにして、帝都の技術って言うのも俺らにも教えてくれてるから、エフィのほうに事情があるのかもしれねぇな。

このアズが教えるのは、同級生たちがやってたような不安定な実験じゃない。

もっときちんとした、安全と結果を担保する出来上がった技術だ。

完璧主義なのか、その辺りがまだだからってこともありそうではある。

「…………やり方確立したら教えてもらえる感じ?」

「抜け目ないわね」

テルーセラーナ先輩が呆れるが、けっこうマジだ。

だってアズのことだから、今火属性だけだけど、そこが確かになれば、きっと他の属性にも手を出す。

そうなると、エルフとして俺が使える風属性も、あの火炎放射みたいに格上相手に勝負できるレベルになるかもしれない。

そこはちょっと男として憧れるだろ?

っていうか、できれば雷打ってみたい。

ヴィー先生のすげぇとは思ってたけど、それは一握りの才能でしかないと思ってた。

たまたま錬金術科は入れた俺じゃ無理だって。

んで、そこに同じ顔だけど、もう一人雷扱うウィー先生が現れたら、やっぱいいなって思うじゃん。

そりゃ才能だろうけどさ、二人目出たらもしかしてと思っちゃうじゃん。

しかも魔法の腕上げるためとかって、エフィ来て本当に火力上げるし、だったらもう、夢見たいだろ?

「うーん、種族的な差異がある場合を見るサンプルとして、手伝ってもらうことは可能ですけど…………」

「イルメ先輩がいらっしゃいます」

アズが言うと、クーラが俺の夢を断ち切る、ひどい。

「ウルフ先輩は、毛皮扱うの嫌なんですか?」

アズが様子を見るようにそんなことを聞いてきた。

「別に? そもそも俺が錬金術科に入ったの、錬金術だって言って、毛皮の色変えて珍しい毛皮だって詐欺してた奴がいたからだし。毛皮の色変えられるなら、詐欺しなくても売りやすくなるかもと思って?」

なんかもう上手くいかなくて、普通に商人名乗れる職考えてたけど。

あの詐欺師、地元じゃ笑い者にされてたけど、すごい技術持ってたんだなって今になって思うよ。

まぁ、そんな後ろ向きさ見透かされて、九尾の貴人にもパッションがとか駄目だしされた。

後輩に頼ったら、北とのやり取りのほうがましって言われるし、その上なんか勢いで九尾の貴人に売られた。

…………あれ?

俺が今助け求めることになってんの、このアズのせいじゃないか?

「詐欺とわかってて自分で使おうというくらいにふてぶてしく思えるなら、今回もそう考えればいいじゃないですか」

おう、なんかお上品そうな顔してとんでもないこと言い出したぞ、この後輩。

アズって育ち良さそうなのに、なんでこう思い立ったら右ストレートみたいな性格なんだ?

アクラー校〆るだとか言い出したのもアズだったって言うし、やる気のなかった後輩を錬金術で負かしてやろうって言うのもアズの発案だし。

いや、あれは俺らやる気のないのも含めて、はめてやろうって話か?

うん? この後輩ヤバいな?

「太々しいのはどっかの王さま捕まえて、ちゃちな詐欺で捕まった奴と同じ扱いなほうじゃね?」

「ご本人に聞かせられないわね」

「いえ、いっそ面白がりそうな気もします。アズ先輩は最初に連れ去られそうになってましたし」

テルーセラーナ先輩とクーラも、アズの言動には思うところがるようだ。

「もしかして俺、錬金術師欲しさにアズが攫われないための身代わり?」

「…………行って戻って来るのは確かなんですから、移動の足とでも思ってください」

「こいつ、否定しねぇ…………」

「そもそもラクス城校に入って、伝手も何もないまま商人になるなんて、校名の価値を一切生かせない形ですし。あの九尾の貴人なら通じますから、当てもなく商人するよりいいはずですよ」

アズがいうと、クーラが侍女っぽい澄まし顔で応じた。

「身にまとう一級品を側で見て、感じるものもあるかと。高貴な方に学ぶ機会です」

「錬金術師としても商人としても半端で展望がないのだから、一度大きなものに流されてみるのもいいんじゃなくて?」

テルーセラーナ先輩も容赦ない。

その上でアズが声を和らげて言う。

「いちおう、出発までにネヴロフと、実際行ったことがある色違い先生に注意事項は聞いておいたほうがいいかもしれませんね」

「うん、そう。そういうためになる助言は欲しい。ほしいけど、けどさ、結局俺送り出してくるじゃん、みんなして!」

この一年アシュル見守りで、なんだかんだ顔を合わせて足並み揃えてたのにさ。

そりゃ距離縮まるようなことはあんましなかったし、俺も面倒ごと嫌ったけど。

それでもなんかこう、声かけたら集まる感じになってたじゃん。

なのに揃って追い出しってひどくない?

「いっそ九尾の貴人を使えるだけ使って、帰って来てやるくらいの気持ちでいきましょう」

「俺、アズのそういうとこ、マジで無理だわ。あの人ら、押しが怖ぇんだよ」

「我儘な大人なんて、振り回すくらいじゃないと自分が痛い目見ますよ?」

うわぁ、すごい実感のある言葉が出た。

やっぱアズもお貴族さまなんだなぁ。

俺らみたいな身分ないほうからすると、そもそもお偉いさんに近づくのが怪我の元なんだけど。

あーあ、上から言われて逆らえないのは平民の常だ、ここは腹くくるしかないかぁ。