軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

549話:後輩からの挑戦4

求められて種明かしをすることになった。

当人の後輩はもちろん、横から見てた先輩たちからも要望されてる。

「台にしてた砂を元に戻す薬を、それぞれでばら撒いたんだ。そして風で砂を巻き上げてイルメの竜巻を強力に見せかけた。あとは、ウー・ヤーが固める薬を空中に維持して勝手に砂が吹きつけられるようにする。そうしたら、見た目だけは大きな壁の完成だ。実は薄っぺらだったんだよ」

ようは、糊の表面に砂を塗すサンドアートのようなもの。

それを魔法で空中に作ったんだ。

一カ所に集めるよう僕たちが誘導した後輩からは、壁と錯覚するように。

もちろん横から見てた先輩たちには薄っぺらいのはばれてた。

だからこそ、慌てて冷静な判断ができなかった様子に疑問もあったようで、実際に真正面から見た後輩たちは、口を揃えて本物の壁だと思ったという。

それを聞いて九尾の貴人は呆れたように言った。

「まさに詐術だな。実があると思った途端にこれか」

「けどここまでされると、虚実を操ると言えそうね」

「人が何を見て、何を思うかという心理ですよ。未知の現象に機知を当てはめる。その上で錯覚に本物の恐怖を生じさせる。戦意を失わせるだけですけど、効果は本物でしょう?」

僕の言葉に、実際に体験した後輩たちは頷いて見せる。

それを横目に、九尾の貴人はヴラディル先生に声をかけた。

「ずっと思ってたんだけど、この子だけなんだか違わなぁい?」

「聞けば留学に選ばれるくらいの成績で入学したと言うではないか」

「うっさい。成績優秀でも錬金術科にいて何が悪いってんだ」

うん、錬金術科に入るしかない学生って言う思い込みだもんね。

まぁ、僕たちの学年にいないだけで、先輩と後輩にはそれで入ってる人たちもいるから、ヴラディル先生の反論も弱いけど。

ウェアレルは僕に注目が行かないように、フォローを入れてくれる。

「彼らの学年は全員が錬金術をするために入っているそうです。その中でアズくんはこちらの文化圏の出身で、手慣れています。違うと言うなら文化圏と学年でしょうね」

それを聞いて、先輩たちも確かにって感じで頷いてる。

新入生の時には、けっこう人間の常識と違うことしてたりしたし、クラスメイトたちは僕に合ってるかどうか窺うこともしてた。

ウェアレルの言い訳がまるきり嘘ってこともない。

九尾の貴人は僕だけじゃなく、クラスメイトも合わせて改めて見る。

「そう考えると、竜人がいないのが惜しいな」

「離れるとなると、成長に期待かしらぁ?」

なんか獲物狙う目してない?

そんな目を向けられたアシュルとクーラなんだけど、これは人攫いされそうなの?

アシュルのほうは一応、テルーセラーナ先輩に言われてるウルフ先輩が庇う。

クーラのほうは女子のウィーリャとイデスが後ろへと引いていた。

「おいこら、本当、お前らさっさと出てけ。頼むから入試前に出ていけ」

ヴラディル先生が両手で九尾の貴人の背中を叩いてぞんざいに追い出しにかかる。

そして最後のひと言には本音が滲んでた。

それを見て九尾の貴人は、潮時を察して肩を竦める。

「いいわよー、錬金術も使い方だってわかったもの。魔法だって理論ばっかりの学者先生なんて何も生産的なことしないのと一緒ね」

「それを実用化してる例があると言うなら見物も一興。ファナーン山脈にはそう言えば行ったことはないからな」

行く気にはなってくれたけど、そもそも大陸を別つ山脈って行くもんじゃない気がする。

ただけっこう興味を持ってくれたようだから、頑張って山登りしてもらおう。

そんなことを考えてた僕に、ラトラスがそっと近寄って来た。

「なんか狙いどおりになった感じ?」

「本当に勝負だけで認めさせたな」

エフィは呆れぎみに遠い目をするのは、新入生時の魔法学科を思い出してるのかな?

ウー・ヤーとイルメは思いのほかあっさり上手くいったことに首を捻った。

「竜人の性質ってところだろうか?」

「ヘリオガバール独特かもしれないわ」

聞いてたらネヴロフに引かれてそちらを見る。

「なぁ、村に行ってくれるなら俺なんかできねぇ?」

「うーん、先生曰く口利きあるみたいだし、いつも通り手紙託すくらいじゃないかな」

残念だけど、ルキウサリアの国から転輪馬の貸し出しがあるし、ネヴロフ個人が動いて口を挟める猶予はあまりない。

そして今までとは違う道での動作試験と、人員の試走も込みだから忙しく打ち合わせがあるだろう。

帝国との間にはルキウサリアの駅があるから人員の交代込みだけど、他となるといる人員で回す形になるし。

それで馬と比べてどうかって言う記録が必要で、九尾の貴人を入試前に追い出すって言う名目ありきでルキウサリア国王も乗って来てる。

ドラグーンはあえて小山のように埋めて冬眠させて管理するとかも、そっちで話が行われるはずだから、いっそ今後は学園には顔を見せない可能性すらあった。

「あー、帝国軍かぁ。だったら領主さまに届くな。ラトラス」

「はいはい、また清書つき合えばいいんでしょ」

ネヴロフに声をかけられたラトラスは、絵も上手いから手伝いをしてる。

「はいはい、それではまずここの片づけをしましょう」

ウェアレルが手を叩いて、いつまでも続きそうな立ち話を止める。

すると、何故か九尾の貴人のおつきの人たちが道具を差し出してきた。

うん、前世のグラウンド整備でもおなじみトンボだ。

他にも熊手のようなもの、すこっぷもある。

道具を渡されて、僕たちは整備を開始。

そんな僕たちを眺めるように、九尾の貴人は用意されてた椅子で優雅に休憩だ。

まぁ、部外者だしいいんだけど。

楽器の人たちが今度は吹奏楽器で緩やかな曲を流し始めた。

うーん、気が抜ける曲調。

「そうだ、入試でお前らに頼みたいことがあるんだ。暇な奴は手伝ってくれ」

ヴラディル先生も一緒になって整備しながら、錬金術科に声をかける。

最初から九尾の貴人には頼らないのは、学生時代からの慣れかもしれない。

学生時代でも、自分で掃除だとか後片付けしそうにないように見える。

王族ならこれが当たり前なのか、皇子としてまともに扱われてない僕にはわからない。

「錬金術科の入試で、今までと違うことを入れてみたいとネクロン先生が言っててな。それで学生から手伝いが欲しいんだ」

「違うとは、具体的に何をするんですか?」

イルメに聞かれて、ヴラディル先生は、まだあやふやな内容を答える。

「調合か蒸留作業をさせてみようという話になってる。そのために補助が必要だろうとな」

「それは自分たちの試験の時にもやってみたかったな」

ウー・ヤーが言うと、苦笑するしかないヴラディル先生。

だってそもそも人員が足りないしね。

錬金術科と言えど、まぐれ合格を望む受験者がいるから、教師一人じゃさばききれない。

その上で器具や火を使うのには監督する人員がいる。

そもそも錬金術をやってない臨時の人員じゃ無理だ。

前世では小学校の理科で扱いを習うけど、この世界理科がないから錬金術師以外は薬師くらいしか経験者のいない試験内容になる。

「逆に、初心者も混じっているなら破損の危険があってできないだろうな」

エフィの想像に、ウェアレルも頷く。

「魔法学科の魔法薬の試験でも、毎回器具の破損はあります。なのでそこはもう入試に限らず、破損よりも負傷のほうが気をつけるべきことです」

で、ウェアレルがチラッと僕を見る。

「ただ、私としては蒸留は少々危険すぎるように思います」

「それくらいできなきゃ続かない、ってのがネクロン先生の考えだ」

ヴラディル先生に言ってるふりだから、ウェアレルに答えてる。

つまり、安全な錬金術はないかって聞いてるのかな?

それは僕の得意分野だね。

何せ弟たちに危険がない面白い実験を提供することを日々の楽しみにしてたくらいだから。

「破損や人員の手間を考えるなら、いっそ目の前で実験をして見せてはどうでしょう。その結果を予想させるとか、作った薬が何に作用するか三択から選ばせるとか」

「お、それは面白そうだな。いくつかのグループにわけて別の問題でも良さそうだ。けど魔法理論と結び付けられるとそもそも設問の意図がぶれるし、完全に錬金術ってわかるのじゃないと駄目か…………」

ヴラディル先生が応じつつ、設問内容を考え始める。

ウェアレルも緑の三角耳を立てて話に交じった。

「魔法学科でも適性や得意属性に応じて種類を用意しますから、ありですね。まずは実験室を押さえられるかを確認して、どの実験ができるかを考えては?」

先生たちであれこれ話し合い始めるから、僕は整備に戻る。

けどなんだか静かな後輩を見ると、口には出さないだけで動きが気もそぞろ。

こそこそ話してる声に耳を傾けると、どうやら下級生ができるってことを、今になって実感してるらしい。

そわそわと整備の手はとまってるけど、気になるなら手伝いに立候補すればいいのに。

ちょっと気になるし、僕も手伝いに手を挙げてみようかな。