軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

544話:対決九尾の貴人4

人が決まれば、錬金術科全体で急いで必要な物造りに入った。

実験室では蒸留なんかの専用器具が必要な作業を進めてもらう。

教室では樽で作るポンプなんかの道具類の作成に当たった。

「え、アズは直接やらないのか?」

教室でポンプの調整をしてたネヴロフが驚くと、手伝ってたウー・ヤーも意外そうに僕を見る。

「一番切り返しが上手いのに、戦力を落とすのか?」

「そんなつもりはないよ。ただあんまり人数いても、このやり方だと意味もないし」

僕は教室で必要な術式を書いてる。

簡易な錬金法で、既存の魔法での理論じゃない、自然科学に即した内容だ。

それを見て、僕たちの教室で手伝っていたウィーリャが聞く。

「アズ先輩、それは何をなさっていますの? 大陸中央部の術式とは違いますわね」

「これは錬金法って言う…………帝国の第一皇子が今提唱してる錬金術に使われる魔法のことだね」

うん、アズは関係ないから誤魔化さないと。

何処で知ったかはなんて答えようか?

いや、錬金法に関わるゴーレム作成担当の卒業生ジョーに被せよう。

あとは錬金炉と交えればいいか、なんて考えながら説明をした。

ウィーリャは身体強化の魔法を使って、ポンプの加工を手伝いながら聞く。

「場所は指定されてしまったけど、魔法学科の闘技室なら僕たちも使ったことあって、足元砂なんだよ。だったら、動かせないかと思ったんだ」

「それで、どうしてそんなに魔法陣が必要っすか? スコップあればいいんじゃ?」

魔法で動かすなんて考えもしないで聞くのは後輩のタッドだ。

薬作りや手の器用な人員は実験室で作業に当たって、こっちは力が強かったり物作りが上手かったり、魔法が不得手な人が集まってる。

「砂は比較的動きやすい。だから九尾の貴人の足元高くできないかなって。もしくはこっちの足元低く。で、後は薬で固めれば足場になる」

「足場? 足元を不安定にするのか?」

ホースとポンプを連結し始めたウー・ヤーに聞かれて、僕は否定した。

「簡単に高低差が欲しいんだ。ラトラスがいたらわかってくれると思うんだけど。冷温の性質として、熱気は上に、冷気は下に行く。火炎放射を見たことあるウー・ヤーとネヴロフならわかるかな。放射した炎の先は何処に向かうか覚えてる? 上だ」

つまるところ、炎を操る相手が高い位置にいる限り、低い位置に炎を届けるのは余計な力、この場合は魔力を消費することになる。

「魔力を消費させることを目的にもしてるけど、もう一つ。錬金術師らしく、あえてその状況を作る。熱が上りやすいように、温度を薬で下げる」

エッセンスでの薬も使うって説明をしながら、後輩たちにも理屈を教えた。

聞いたネヴロフが想像するついでのように、尻尾をバサバサ揺らす。

「つまり砂押して山作るみたいな? だいぶ力必要だろ? あと、避けられるんじゃね?」

「だから動かす砂にあらかじめ砂を固める薬液混ぜておくんだ」

僕が応じると、タッドとウィーリャがさらに聞いてきた。

「避けられるのは、どうすればいいんすか? あからさますぎて警戒されそう」

「では、多く作ればよろしいのよ。あぁ、それを思ってそれだけの数を?」

「正解。一つだと警戒して乗ってくれないだろうから、攻撃とかに見せかけていっぱい造ってどれかに乗ってもらえればいいかなって」

僕は笑って手を動かす。

「乗ってくれたらあとは真っ向勝負。そこから降りるなんて竜人ならしないよ」

頷いてウー・ヤーは、僕の手元から完成した魔法陣を一つ手に取る。

「ちなみに術に水が入ってるのはなんだ、アズ?」

「波の動きを砂にさせようと思って。で、固めるために一度動きを止めるようにして、自然に高く盛り上がる形を想定してる」

波が堤防に当たって打ちあがるような動きをさせるんだ。

これは動かす最初の勢いと方向性を整えることに一番魔力を使う。

その後は余計な力を入れなくても勝手に盛り上がるため、制御に魔力がいらない。

ただ固めるのは必要だから、ちゃんと発動から一時的にも形を止めるためにまた魔力がいるんだけど。

平民感覚のあるタッドが、平民どころか農民よりも厳しい生活をしてたネヴロフに聞く。

「これ、先輩たちなら簡単にできるようになるんです?」

「いや、無理だぜ」

「いや、ちゃんと覚えればできるよ」

笑顔で否定するネヴロフに、僕が訂正して困り顔のタッドに取り成した。

けどウィーリャは、虎の顔で器用に呆れた表情を浮かべる。

「確かに魔力を入れるだけで属性は問わず。けれどそれとこれほどの術理を、今朝ことを聞いてから作るのはまた別のこと。できるかできないかで言えば、できないでしょう」

なんかタッドにやっぱりって顔された。

これは、錬金法だけどあんまりやらないほうがいいかな?

けど魔力そんなに使わなくて済むから、僕としては使いやすい。

あとこれくらいやらないと、九尾の貴人には押し負けそうなんだよね。

そもそもウェアレルと並ぶくらいの魔法使いって想定だと、これでも全然勝負になる気はしてなかった。

願うのは、風属性のウェアレルほど自在に動くことがないようにというくらい。

さすがに滑空でも空飛ばれたらどうしようもない。

「と、いうわけで、僕はこの魔法陣の使い方を実践組に説明してくるね」

僕はポンプを作る教室から出て、校舎の外へ。

校舎内の実験室でも薬を製造してるけど、それとは別に、外に増設された試験場にある実験施設でも薬作りをしてた。

それと実際に九尾の貴人に相対するメンバーが、屋外実験場で訓練中なんだ。

今年になって新設された場所で、前世的に似ているのは、学校の野外授業で使用したキャンプ場の炊事場。

ほぼ吹きさらしだけど屋根と水場、火を使える場所も確保されてる。

「…………というわけで、下から真っ向勝負を仕掛けて誘ってもらいたいんだ」

「それは真っ向とは言わないのであるが」

僕の説明に、負けず嫌いな竜人の性質はちゃんとあるらしいアシュルが不満げだ。

けどそれを、元負けず嫌いのエフィが窘める。

「そもそも本当に真っ向から打ち合って勝てる見込みがない。それは勝負にすらならないんだ。知恵を使うのも実力の内だろう」

炎で真っ向勝負に持ち込むのは、アシュルとエフィだ。

その補佐にクーラとロクン先輩についてもらう。

道具の管理や錬金法の発動係は、僕のクラスメイト、イルメ、ウー・ヤー、ラトラス、そしてエルフらしく弓矢と風魔法を組み合わせて動けるウルフ先輩。

九尾の貴人二人に、八人がかりだけど、もちろん大人と学生の差があるから、二十人以上の全員で来ても問題ないと言われてる。

その慢心を突くためにも、全員はあえて出ない。

そして本当の仕込みを気づかれないように、比較的こそこそ動ける人たちに真っ向勝負の傍ら妨害もしてもらう予定だ。

「やる気はあっていい。けど、アシュル。勝つ気でいないと意味はないよ」

「…………承知した」

勝つ必要はないけど、勝つ気でいないと勝負にならない。

そんな僕の言葉に、アシュルは真っ向勝負じゃ勝てないという悔しさを飲み込む。

同じ竜人だからこそ体格差とか、魔法使いとしての差とかあるようだ。

その上で何やらライバル意識がほのかに持ったようで、けっこうわかりやすく下に見られるのは嫌いなのかもしれない。

その後僕は作れる薬の量を計算して、実働のほうは放課後に向けて休んでもらい、必要な道具の点検もして回る。

そうして動き回ってる内に、タイムオーバーで放課後がやって来た。

「なんというか、懐かしく感じるわね。この闘技室」

魔法学科を相手にした時を思い出すイルメに、ラトラスが不安そうに尻尾を揺らす。

「けど待ち構えてる相手の圧が違いすぎるって」

ラトラスも実働のほうなのに、すでに尻尾を挟み込みそうだ。

待ち構えてた九尾の貴人は、おつきに盛大な音楽を奏でるように指示を出す。

さらに堂々と立つ姿は完全に強者のそれで、軍歌みたいな曲調に合うな。

「うーん、僕が見てきた竜人って小柄だったんだなって今さら思う」

言っても純粋な竜人はロクン先輩やアシュルだけだけど。

性質的な竜人のモリーはハーフで人間と変わらないし、小柄でいいとは思う。

そんな僕の感想を聞いたヴラディル先生とウェアレルが、わかりやすい比較対象を教えてくれた。

「あいつが引き連れてる奴らも護衛兼務だから、竜人の中だと逞しいほうだぞ」

「そして一度何かの大会で優勝したという豪傑を連れてましたが、もっとすごかったです」

竜人の豪傑がすごかったってなんだろう?

けど、確かにおつきの人たちも細身なのに身長高いとか、九尾の貴人より筋肉質だとか、奇行と煌びやかさに紛れてるけど、確かに逞しい。

「さぁ、やるぞ!」

「遊びましょ!」

そんな逞しい人たちを従えながら、完全に子供相手ってことで、九尾の貴人は遊び感覚。

もちろん僕たちだってただで負ける気はない。

そもそも宮殿暮らしの時から僕は敵わない相手を敵に回してたんだし、今さら怯むつもりもなかった。