軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

535話:新しい錬金炉5

九尾の貴人に全力で絡まれて、ふらふらで教室に戻るイルメ。

僕も一緒に戻ったけど、疲労の度合いが違いすぎる。

「私は、あの方々の言動に、合わないわ…………」

「あー、うん。慣れないのは見ててわかったよ」

化粧関係で女子はひとまとめに絡まれたけど、中でもイルメやイデスという根が真面目なタイプは説明の段ですでに疲れ果てていた。

獣人のウィーリャや大人しいショウシは、言いたいことを言い返すか、ひたすら聞き役に徹することでそんなに消耗はしなかったようだ。

その間に教室でクラスメイトには、イルメが置いて行った地脈の記録をまとめ直してもらった。

今もその作業を続ける中で、エフィが手に持っていたペンを僕に向ける。

「逆に、なんというか熱心な? 特徴的な? 口調の方を前に、アズはどうして平気なんだ?」

「あれさ、なんで女のふりしてんだ? そういう文化なのか?」

あえて濁したところをはっきり聞くネヴロフに、ウー・ヤーが応じる。

「故郷には劇団で女を演じる役者が、常から女物を纏っていることもあるぞ」

なんか芸の道としてするという話に、ラトラスも聞いた話を教えた。

「何処の文化だったかな。病弱な子供が生まれると、性別とは逆の服着せて育てるって」

頷くからどうやらウー・ヤーの出身地でもあるらしい。

けど、あの貴人は違うと思うし、なんにしてもイルメの周囲には女装家なんていない。

あとパッションで押せ押せな人とかも、宗教家で僧兵抱えてるとかいう厳格な家なら、いなかったんだろうな。

僕は慣れないコミュニケーションで疲れたイルメを休ませて説明する。

「あっちは狙いどおり化粧品と、色合いに関しての話で釣れた。明日はワンダ先輩を卒業後に引き取るテルーセラーナ先輩も呼んで、この先の展望を聞かせる予定だよ」

「なんでそこで竜人の先輩呼ぶんだ?」

ネヴロフにラトラスが手を開いて見せた。

「だって、後ろ盾すでにいるなら相談しなきゃ。バッティングは駄目だよ」

「いや、そうか。別の国の姫でもあるからな。両者にいい顔するだけ危険だ」

ウー・ヤーがかち合った場合の面倒さに苦笑いすると、エフィが頷く。

「竜人には竜人、王族には王族か。扱いづらくとも対処法はあるんだな」

「いやぁ、テルーセラーナ先輩には、あとで謝っておかないといけないけどね」

勝手に名前出して、そっちに話持っていくよう誘導しちゃったし。

もちろんヨトシペも呼んで抑制は計るから、後輩を助けてほしい。

僕としてはこっちの提示できる錬金術を少しでも形にしたいから、巻き込みたいけどね。

「それで、どうかな? 錬金炉に入れ込めそう?」

僕が水を向けると、エフィが書き散らした紙の中から必要なものを取り上げる。

「下に水は問題ないのはわかったが、炉に入れる物を中心として概念化し定める兼ね合いと、結局水が炉の中から消えてしまうのがな」

「えっとな、そこは雨にできるんだよ。上に溜めて下に落として。で、ラトラスが言ったみたいに中で液を回す機構作ってもいいし」

手を動かしながら説明するネヴロフに、ラトラスが続きを引き取った。

「蒸留器の機構を入れ込めないかって思ったんだけど、それで世界を構成するには、地脈っていう大きな循環にしなきゃ。それに星が必要だけど、どう合わせるかがねぇ」

「その星の再現が難しいんだ。光で火とすると、下にも火があって、そうなると術式がおかしくなる。全く同じ術式組んでもかみ合いが悪かった」

ウー・ヤーが言うのは、天地を作るのに、地の上に地を作るせいでおかしくなるんだろう。

だからって、どうやって天の光を再現するかは僕もすぐには浮かばない。

どうやら天の運行や地脈という形の再現をどう術式にして炉に刻むかが難しい。

突然の思いつきでそう簡単に答えが見つかるわけもない。

天地が照応するからって、コピペを上下に刻んですぐに作れるわけもないようだ。

「何処の時期の天地を参考にするかでも違うのではないかしら?」

少し休んで回復したイルメが、気になるらしくて問題を提起する。

僕はじっと話を聞きながら、まとめてくれた星と地脈の記録を見比べた。

化石を作るための錬金炉、あれも天地が別の術式として刻まれてる。

ただ同じく時の経過を表す部分は共通で、ただ再現するだけじゃ駄目だろう。

同じ巡りっていう共通点、炉として真ん中に入れる素材を定義する何か、そしてその間を繋ぐための理論か、象徴になるもの。

「天と、地と…………人? なんだっけ」

思わず声に出すのは、大河ドラマで聞いた言葉。

天地人という言葉に込められた意味は、一度解説を聞いたけど思い出せない。

そんな僕に、ウー・ヤーが目を向けた。

「あぁ、兵法だな。天の時と地の利と共に人の和があってこそ戦に勝てるという」

「確かに天候と地形上の有利、そして兵たちの意識は必要だな。それは、使えそうだ」

エフィが言いながら書き出す術理は、天候という変化と巡りを表し、地の利は地形と地脈の巡りを表そうとしてる。

そして人という影響対象を想定して、力の収束を企図するようだ。

見る限り、確かに二つの術式を一つにまとめられそうな気がする。

それを契機に、僕たちは話し合いを加速した。

イルメが天を指して考えを語る。

「火と風が天に属すのだから、強弱を作るように盛衰を盛り込んで星の瞬きにするのは?」

「地脈は水でいいけど、そうなると上から火を焙る感じ? けど地はどうしようか?」

イルメの意見をメモしながら聞くラトラスに、ネヴロフが丸い耳を落ち着きなく動かしながら提案した。

「なぁ、どうせなら身体強化の魔法もどうにか入れられねぇ? なんか四属性ばっかりでさ、世界作るなら獣人の魔法も入れたいぜ」

言いながらそれぞれ思いついたことを書き散らしていく。

錬金炉に入れることは前提だけど、考えをメモにして共有もした。

その上で使えると思ったものを引っ張って、新たに考えをメモしていく。

僕はみんなの書き出す意見の中で、矛盾があったら指摘して、無理があったら訂正した。

そうして全体を眺めながら、どうしてもやっぱり天と地に二分する様子に違和感が僕にはある。

「天にも地にも四属性あっていいと思うんだよね。天の水は雨、地は天上の地。で、地の火は季節の寒暖、風は草木の移ろい。身体強化は名目上そう呼ばれてるだけで、術者の力を強めるものだ。そうなると、術自体は炉に入ってるわけで、だったら錬金炉の強化? いや、内部世界の摂理の強化に使えないかな?」

「あははは、全部盛か! いいな!」

僕の考えにネヴロフがスタミナラーメン見たいなことを言う。

エフィは困ったように笑った。

「簡単に言うな。だが、自然現象を入れることで世界を形作るようにするのはありか」

「あ、金属はどうなの? 錬金炉に使う金属を地属性にしたら天地でいいんじゃない?」

そんなラトラスの提案に、ウー・ヤーとイルメが頷いてから話を進める。

「そうなると、川の流れとして水を置いて、熱で蒸発したら炉の中で雨として落とす」

「密閉すると風の流れがだめね。一定の穴と蒸気となって消える分の供給を考えましょう」

みんなでワイワイ意見を出していくと、けっこういい感じにまとまりそうな気配がしてきた。

そこにヴラディル先生が教室にやって来る。

僕たちの様子を見に来たからには、もちろん僕たちも口々に説明を始めた。

「おぉ、本当に形にしようと…………あ、うん? これは…………」

ほぼ掻き散らしたメモだけど、一応形として説明したものも作っていた。

それを手にしたヴラディル先生が、未完成の説明図を、僕たちの話を聞いて行くうちに相槌もなくなる。

真剣な顔して術式と構成を見直す様子に、クラスメイトはまだわからない顔だ。

その上で、ヴラディル先生の質問には素直に答えていく。

「なんかヤバいもん?」

ネヴロフが素直に不安を漏らすと、他のクラスメイトも顔を見合わせた。

うん、ここはもう言ってしまおう。

僕も話してる内に、もしかしてとは思ってたんだ。

ヴラディル先生がこういう反応するなら、たぶん予想は間違ってないんだろう。

「これは世界の証明と言える術式になると思う。そして世界に人があるという前提において、世界への人の統合を形にしようとしてる術になりそうだと僕は予想してる」

僕の説明に、クラスメイトはわからない顔をした。

いや、イルメとエフィは遅れて気づいて顔が引きつってる。

まぁ、思想的なことだけど、それが可能になるのが魔法だ。

わかってないクラスメイトたちに、僕はもっと砕いて言った。

「つまり、すっごく簡易的な命の創造を表せそうな感じになってるんだ」

「待て、これ、大丈夫か?」

ヴラディル先生は周囲を見回して警戒に赤い被毛の耳を立てる。

多分捜してるのはセフィラだ。

当のセフィラはもっと違う可能性知っちゃった後だから無反応だけど、本来なら興味を持って現れてもおかしくはない。

けど僕の思考読んでるから、後で色々聞いて来るんだろうなぁ。

正直これ、予想の斜め上に固まりそうで、何ができる炉になるか僕も想像がついてない。

その上で、上手くいくかどうかは造ってみないとわからない状況だ。

ただ確実に形作ることができれば、全く新しい錬金炉になることだけは間違いなかった。