作品タイトル不明
532話:新しい錬金炉2
九尾の貴人対策と同時に、新しい錬金術を見せてパトロンってになってもらう。
そのために錬金炉の新作を僕は提案した。
「俺は他の様子見てからウィーの手助けに行くわ」
ヴラディル先生はそう言って教室を離れる。
講師のネクロン先生と助手のウィレンさんがいる今だからできる選択だ。
一人で対応してた時には、僕たちを自習にしても、離れられなかっただろう。
それはそれとして、僕たちには戻ってから課題を配布って形と、必要な書籍の読破が課題で残される。
その上で、自習扱いで今から錬金炉について話し合いだ。
「まずはイルメに理論を聞く。そこから何に使う錬金炉にするか。それによって素材や形も考案して行かないといけない」
「そう言うのって、用途を決めてからじゃないの?」
ラトラスが尻尾の先を揺らして聞くと、エフィが教える。
「卒業生の魔法使いに聞いたことはあるが、理論から実用を求めるのもありだぞ。結果が伴えばよくあることらしい」
錬金炉を造れる技師の元に出入りするウー・ヤーとネヴロフは、お互いに頷き合う。
「こっちとしては手探りだから、方向性はあるほうがやりやすいだろう」
「けど考え方を、炉の中に収められる形にしないといけないんだよなぁ」
あれ、けっこうネヴロフが理解してる?
なんにしても基盤にイルメが今まで調べた錬金術を当てたい。
僕の視線を受けて、イルメはエルフの耳を立てると咳払いをした。
「わかったわ。まず、前提よ。私の理論は精霊さまを理解するため、つまり世界を知ることを目的としてるわ。その上で大きく言えば、天と地の照応。別たれた天地の理に不可分の繋がりがあるということを証明しようとしているの」
大まかには収穫祭でやったことで、星の運行と地脈を調べることの結果を見るんだ。
すでにその成果をまとめたレポートは全員が見てるから話しはスムーズに進む。
理屈としては、天が動けば地に影響があって、地に影響がある時は天に異変が表れるってこと。
つまり、月食があったら凶作になるとか、凶星が明るいと戦の兆しとかの迷信に近い。
それが迷信にならないのが魔法があるこの世界だし、実際収穫祭で結果が出た。
イルメは続ける。
「天地の照応が魔素に影響することは見たでしょう。精霊さまは魔素から生まれるとも、マナの地は精霊さまの誕生に関わるとも言われるわ。だから実証できれば精霊さまがいる場所を特定できるかもしれないの」
イルメはそういう迷信紛いのことを事実にした時点で、僕も科学に偏った思考を改めなきゃいけないと思ったんだよね。
だから理論に関してはイルメを頼ることにしたんだ。
「なんにでも誕生と死には周期があるの。それも天地の照応に関わることはわかってる」
「そうなの?」
問いかけるラトラスに、ウー・ヤーが当たり前のように答えた。
「潮の満ち引きで人の生死に影響するという話は聞いたことがある」
「あ、俺は月の満ち欠けで出産の日決めないと、子供が上手く生まれないって聞くぜ」
「ネヴロフが言うのは、難しすぎない? 子供産む日って決められるの?」
僕の疑問に、同じ獣人だからかラトラスが答える。
「促進剤でも使って、母子ともに負担がないようにするんじゃない?」
僕と同じように、知らなかった様子で頷くエフィが魔法使いとして応じた。
「魔法で月が死の象徴として使われるのは知ってたが、そういうことから来てるのかもな」
イルメも他種族からの見解を聞いて、顎に指をあてると考え込む。
「月なら天で、いえ、潮の満ち引きは地? ちょっとわからないわね」
そう言われると僕の頭に浮かぶのは前世の知識だ。
月の満ち欠けと潮の満ち引きは関係があるし、天体の話だから分類は天になる。
けどここで言っていいかどうかは微妙で、魔法があるとどういう解釈か僕もわからない。
「イルメ、進めて。生死に天地が照応してるってことで合ってる?」
「えぇ、そうよ。生まれた時に占いのため星の位置を記録するのはみんなしているでしょう」
「「「いや、してない」」」
否定したのは僕とラトラス、そしてネヴロフ。
逆に否定しなかったウー・ヤーとエフィは、星を記録してるらしい。
「それって文化的なもの?」
「俺の場合は魔法使いとしての基本だな。魔法学科だと自分を占うために必要になるから、生まれた時は記録してなくても後から調べる」
「自分も占いのために必要なことだ。誕生時にあった星で生まれた子の将来を占う」
ウー・ヤーは文化だったけど、実用目的のエフィは僕とラトラスにいう。
「帝都で生まれたなら、天文官が記録して公開してるから、遡って自分の誕生した日の天体を調べられるぞ」
言われて興味は湧いたけど、僕たちはイルメに続きを促した。
「それで、天地が照応してるなら、星を知ることで、生まれた時の地脈も測れるのではないかと考えたの。それが今している私の調べよ。ルキウサリアには魔法の研究の一環で、地脈の動きを観測して記録に残されているからできることね」
その後、星の位置を記録することで魔力が増える時期とか、力がみなぎる時期とかを調べる占いの話をされた。
結婚に向いてる日、勝利を呼び込める日、財を成せる日とか色々あったけど、それと同じように地脈にも時期と効果があり、天地の照応で予測できるのではないかと。
イルメがやってるのは照らし合わせることと、地脈に関しての変化の書き出しだそうだ。
「天文官のような職がないから書かれる内容が個人の主観なのよ。今日は地脈にとろみがあるって、なんだと思う?」
すごく真剣に聞かれるんだけど、なんだろうね?
確かにそんな記録遺されても困る。
「わかっているのは地脈が活性化すると水量が増えるか、急流になったように感じる記述が一致していること。そして地表面では何かしら異常な現象が観測されているわ」
「それが人の身にどんな影響を与えるかは、今はいいか。理論として落とし込めるかどうかだな」
ウー・ヤーが何か言おうとして、話を先に進める。
ファンタジーな地元話なら聞きたいけど、その前にラトラスが肩を竦めてみせた。
「俺はよくわかってないから、どう貢献すればいいのかもわからないけど」
「けっこうフィーリング。何ができそうとか、応用として考えられることがあれば聞かせて」
そういう僕にネヴロフが思ったままを口にした。
「なんか地脈って水っぽいな。けど炉の中だから下って火だろ? だめじゃね?」
やっぱり錬金炉を理解してるからこその思いつきだ。
ネヴロフは錬金炉という形に落とすには、合わない理論じゃないかって言ってる。
聞いてエフィは僕を見た。
「何か考えがありそうだな。というか、最初から考えがあってイルメから話を聞いただろう?」
「水だってね、天地を循環してるんだ。天と地を設定できれば、熱と冷却で天地の循環は取り込めると思ってる」
僕の意見を聞いて、ウー・ヤーは指を鳴らす。
「水の冷湿、火の温乾と揃えるなら、天地に関わらず一つの理論として落とし込めるんじゃないか?」
「それ良い状態に保つような形の錬金炉になるかも。活用範囲は食材か素材の保存かなぁ」
僕がどうなるかを考えて言えば、ラトラスは笑った。
「つまり、それじゃアズは満足しないわけだ。俺としては、一番いい状態で売れるようにできるような錬金炉で十分だなぁ」
「いい状態かぁ。例えば一番活力がある状態とか、天地の照応で最も効果を発揮するような状態? 錬金炉の中でどんな変化があるのかは素材任せ? それはそれで興味があるな」
まぁ、売り出すには賭け要素が強いから、もう少し考えないといけない案だ。
理論を語り終えたイルメは、まだ考えるように顎に指をあてていた。
「私としては錬金炉の説明が欲しいわ。正直、ただの炉ではないことはわかるのよ。けれど魔法とも違うのでしょう?」
今度はこっちが説明する番になった。
基本的に世界を作り込み、そこで起きた現象を、炉の内部に反映することを説明する。
炉という閉鎖空間と、火というエネルギーと、後は世界を構築する理論を刻むんだ。
「それを天と地の世界で挟んで完成? 簡単に言ってくれるわ。魔法で考えると、絶対に術式になんてできないじゃない」
「挟む、そうか、そういう考えもありだね」
難しく考えたイルメに言われて、僕としても気づきがあった。
この世界では天と地は別の世界と考えられているんだ。
どう見ても星が浮いてるから、空が地上とは違うってことは化学が理解できない人たちでもわかること。
だから地上は人の住む世界で、天上は神の住む別世界だと言われる。
ただ前世の科学がある僕からすれば、同じ物理法則の中で存在しうる一つの世界っていう認識だった。
けどこの世界からすれば完全に分断されてるって認識で、それこそ魂にならないと天上の世界には行けないという。
錬金術でも魂や精神について研究するのも、もう一つの別世界を知る探求だったりする。
その辺りの理解の違いがあるし、今さら科学的な知識をなかったことにはできない。
僕が錬金炉を作るには、どうしてもこの世界の常識を持つクラスメイトを引き込む必要があった。