軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

531話:新しい錬金炉1

錬金術科に押しかけてた九尾の貴人に、ヴラディル先生が興味を引くよう呟いた。

「あー、実際温泉のある山脈に行ったことあるのヨトシペとウィーだな」

「「ウィーに話を聞きに行こう」」

目の前にヨトシペいるのに…………。

けどちゃんと興味は持ってくれたようだ。

さらにヨトシペのことももふもふ撫でて出ていくから、仲が悪いわけじゃないらしい。

僕たちとしても授業にもならないから去るのは止めない。

ただ気になることはあった。

「ヨトシペ、九尾の貴人に何したの?」

「ムッフィとトレビの装飾品、何個も握りつぶしたことあるだす。だからあーしに触られるの警戒するでげす。申し訳なかったどす」

「お前があいつらの金細工、彫金ぜんぶまっ平らになるくらい手延べして金の玉に丸めて投げたせいじゃないのか?」

ヴラディル先生がとんでもないことを暴露する。

え、何してるの?

「あれはムッフィとトレビが悪いだす。あーしが一年かけて作った故郷の織物捨てて、自分たちが着せたい服用意したでごわす」

偶発的な失敗は悪いという気持ちのあるヨトシペだけど、怒る理由がある時は別らしい。

どうやらその際に用意された金細工を、ヨトシペはい怒りのままに金の玉へと整形し、さらに投げつけたとか。

故郷離れた人が多いせいで、九尾の貴人の蛮行にクラスメイトたちは眉をひそめた。

さすがにヴラディル先生がフォローを入れる。

「あー、一応あいつらも善意での行動だったんだよ。贈り物してやろうっていう。ただ昔はガキで、価値の低いものにも思い入れが勝るなんてこと知らなくてな」

「つまり、九尾の貴人はヨトシペの怒りを恐れてるわけですね。…………ヨトシペ、追い駆けて色違い先生を困らせないようにしてあげたほうがいいかも」

「わかっただすー」

ウェアレルの援護に向かってもらうことにした。

たぶんヨトシペなら、僕がどれだけ口を出したかをウェアレルに伝えてくれる。

ネヴロフの故郷に送り込みたいっていう意図も察してくれるだろう。

「なんというか、本当にヨトシペはアズに懐いたな」

ヴラディル先生がしみじみと言う。

「やっぱり誤解から飲まず食わずのさらし者にされていたのを助けたせいでしょう」

改めて口にするとすごい出会いだ。

他にも理由はあるけど、インパクトで言えば出会いが勝る。

なんて思ってると、立て直したイルメがエルフの尖った耳を立てた。

「それで、アズ。わざわざネヴロフの故郷に送り込んで、どうするつもり?」

「うん、こっちの体勢が整うまで離れてもらおうと思ってね」

「つまり、またやって来る前提か。青いアイアンゴーレム諦めないと見たわけだ」

そう言いながら、エフィも想像できるようで溜め息を吐く。

ウー・ヤーは真面目な表情を作って、さらに先のことを聞いて来た。

「結局戻って来るなら、青いアイアンゴーレムが狙われる。そこはどうするつもりだ?」

「そっちも錬金術科でどうにかする間に、邪魔されないように別の興味を用意して、当人たちには好きに動いてる態で商人らしく活動してもらおうかなって」

僕の婉曲な言い回しに、ネヴロフはわかった時間稼ぎについて頷く。

「そうだなぁ、こっからだと移動だけで時間かかるし、俺としてはなんでもいいぜ」

「というか、アズ。あの竜人たちを金づ…………パトロンにするの?」

ラトラス、なってくれたらいいとは思うけど、言葉は選ぼう?

「できれば、錬金術自体のパトロンになってくれないかなって思ってる」

僕の意見を聞いたヴラディル先生は、忠告するように言った。

「売り込むネタは? 軽く見えるがあいつらシビアだぞ」

「なんか、うちの会頭と本当に同じタイプだなぁとは思ってた」

ラトラスがいう会頭はモリーで、僕も同じ感想だ。

やっぱり共通点あるって思うんだなぁ。

「僕たちが狙うのは、青いアイアンゴーレムの話に関してはのらくら逃げること。その上で別の錬金術の可能性を見せる。そっちに反応してくれれば、青いアイアンゴーレムに関しては、研究中何処かに売られる心配もないから、時間を置いて再チャレンジくらいに思ってくれたらいいなと」

そして九尾の貴人が距離を取る間に、こっちも邪魔されないよう守りの体勢を整えたい。

「それで結局、アズは錬金術として何を売り出すつもりなの?」

イルメが、言うからには考えがあるんだろうって水を向ける。

九尾の貴人をパトロンするためには、現物がないと駄目なのはわかった。

ネヴロフの故郷に向かわせるのは、現物を提示するための時間を稼ぐ意味合いもある。

僕はネヴロフを見て、考えていたことを口にした。

「新しい錬金炉を造れたらいいと思うんだ」

「え、マジで? 新しいのとか作れんの?」

驚くネヴロフに続いて反応したのは、ヴラディル先生だ。

「ネヴロフが解体して弄ってるのは聞いてるが、できそうなのか? 技師自体がもう一人しかいないし、連綿と続く技術を継承することを重視して、錬金術の道具の研究なんかは長くされていない。どういう造りなんてことも知らずに作ってたらしい。その辺り、第一皇子殿下に説明されて初めて知った部分もあるとか」

技師のほうから、ヴラディル先生にも情報が回ってるらしい。

さすがに僕の正体は言えないだろうけど、錬金炉について理解してるのは教えたと。

そしてヴラディル先生が聞いた限りでは、今までとは違う造りで動くものは造れない。

けど、ようやく幼い頃から気になってた錬金炉の中を知ることができたんだ。

だったら理屈がわかるし、落とし込めそうな理論はいくつか覚えがある。

ただそのためには僕一人じゃ無理で、協力が必要だった。

「まず、素材を変えて考えよう。今ある錬金炉は、もっとずっと火力も出せない頃に考えられたものだ。使える金属には限りがあったはずなんだよ」

工房出入りのウー・ヤーも、錬金炉を触った経験から想像できたようだ。

「確かに金や銅といった昔ながらの金属だ。青銅が使われることもあるから、合金でも行けそうだな」

「炉の形だって、効率的に熱を加えるためだけど、それも今ならもっと別の形を取り入れられるんじゃないかと思ってる」

金属を変えることでさらに広がる可能性を語る僕に、エフィは基本的なことを確認した。

「詳しくないが、錬金炉は錬金術の思想を内部に反映するんだろう。何を基盤にする?」

わからないっていう割に理解がしっかりしてる。

この理解が王城の魔法使いにはまだないんだよねぇ。

頭固いのか、いっそ負けたっていう根本的な考えの転換がないせいか。

いや、それとも受け入れる柔軟性?

いっそ青トカゲみたいな説明のつかないものへの探求でもなんでも、ショック療法的な?

「ん…………?」

取り留めもない愚痴交じりの考えに、何か閃きかけた。

けどその前にネヴロフに声をかけられる。

「今の世界の形を入れるってんなら、大親方とやってみたけど駄目だったぜ」

「やったんだ。けど、うん。そうだろうね。わかってることが多い分、情報を入れすぎたんじゃないかな。ある程度単純化しなきゃいけないんだと思う」

言って、僕はイルメを見る。

「それで協力をお願いしたいのは、イルメだ」

「私…………? もしかして、収穫祭でやったような天地の照応?」

「そう、疑似的に天の運行と、地脈の流れを落とし込めないかと思って」

ただそこで待ったをかけるのはヴラディル先生だ。

「流れを考えるのはいい。だが錬金炉は機構として、動くことや変化が起こることが前提のはずだ。だからこそ一方通行な動きじゃ駄目だったはずじゃないか? それで言えば地脈は相性が悪いかもしれない」

「へぇ。錬金炉って、先生でもそんなに難しいんだ? そこに目をつけるのはやっぱりアズだなぁ」

ラトラスの変な感想に、ヴラディル先生が大いに頷いた。

「正直難しい。技師も、理屈は丸覚えだと言っていた。それでも教えてもらったことはあるんだが、俺もきちんと理解したとは言い難いな。だから錬金炉を組むことができたと聞いて、ネヴロフには驚かされた」

どうやらヴラディル先生も錬金炉は造れないようだ。

けっこうな技術必要かな?

「理屈だけでも作れたら、数百年の衰退の中で初めての前進になる。アズ、やれるのか?」

ヴラディル先生としてはパトロンはすでに国がいる。

けどそれはルキウサリアの話で、錬金術全体ではない。

僕としては帝国に錬金術を復興させたいし、それ以外の地域でもそうだ。

だからここで終わらせるつもりはない。

「やりますよ」

はっきり受け負えば、それ以上大人として引き留めるような言葉は向けられなかった。