軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

530話:九尾の貴人5

午後から教室に行ったら、すでに九尾の貴人がいた。

行動が早いよ。

ウェアレルは別の授業の手伝いで、ヴラディル先生一人だと抑えきれなかったそうだ。

だから助っ人のヨトシペを、前日にもらった犬笛で呼んだ。

こっちも行動が早くて助かった。

「はい、では僕たち錬金術科の活動をご報告します」

僕はもういっそマーケットで使った道具を持ち出して、今の錬金術科について解説を始める。

ヨトシペがいることで大人しくなり、こっちが進行する形で進んでいく。

九尾の貴人は大人しく学習椅子に座ると、段取りなんてほぼない僕たちの拙い説明を聞いていた。

「おま、すごいな…………」

ひと通りマーケットでやった後輩たちの展示を使った説明が終わると、すでに絡まれた後のエフィが声をかすれさせて言う。

魔法学科からの編入という所に興味を持たれて、色々絡まれたそうだ。

すごいっていうのは、たぶん九尾の貴人を大人しく座らせたことだろう。

ウー・ヤーも疲れた様子のまま片づけをしつつ言った。

説明後の質疑応答は、ヴラディル先生に頼んでるから、僕たちは慌てて持ってきた展示物の片づけだ。

「正直、アズの対処の正しさにはいつも舌を巻く」

こっちはアダマンタイトに興味を持ったというところで、食いつかれたそうだ。

エフィと同じで、アダマンタイトを持つヴラディル先生との関りから絡まれたんだろう。

で、押し込まれて勢いに呑まれたからこそ、適当な解説の時間を作って相手を黙らせた僕のやり方が正しいと。

まぁ、相手に主導権取らせたら危ないのは昨日見たからね。

額に手を当てて疲れた息を吐くイルメは、どこか遠い目をした。

「過去、大陸の西まで船を駆って攻めて来た帝国の勢いを見たわ」

どうやらエルフの歴史には、ヘリオガバールと戦った記録があるようだ。

イルメの場合は、ヴラディル先生がエルフの血も入ってるから興味持たれたんだろうな。

うん、実は九尾が好きだな、ムッフィとトレビ。

「音ねー。私は舞台演出を考えるほうが燃えるわぁ」

「美しい声はわかるが、広く聞かせる意味はなんだ?」

音響関係の反応いまいちなのは、きっと大勢で鑑賞するなんてしないからだ。

聞く限り、文化的に偉い人に最上級なものを楽しむ権利があるみたいな感じで、大衆に対してアピールするような方法じゃ興味を引かないんだろう。

あとは効果を想像できてないし、どれくらい反響するかもわかってないから、価値を見出せてない。

そんな九尾の貴人に、ヴラディル先生は呆れてみせた。

「お前ら、本当に物が目の前にある時と反応に差があるな」

「あくまで想定の話でしかない。その上で実物がどれくらいというのが示されねばな」

「そうよぉ、理屈は通っても実践はできないなんてこと、よくあるじゃなぁい」

けっこうシビア。

けどその話の持って行き方はありだ。

「では、明日には一つ錬金術の成功例を、このラトラスがお見せしましょう」

「え、あ、あぁ。うん、そうだね。ちょうど冬の新作フレーバー出そうって話になってたんだ」

突然振られたラトラスはびっくりするけど、思ったより落ち着いてる。

僕に相談したいっていう無言の圧が、パシパシ叩いて来る尻尾で明示されるけど、ディンク酒だってわかったことと、押しの強さが店主を思い出してるからかな。

そう言えばモリーも物があるともう止まらないタイプだ。

あと商売にはシビアで、うん、けっこう竜人の血が濃いね。

「あら、明日は王城にいくつもりでいるのよ」

もちろん僕はそういう動きを止めるために提案してる。

そんなトレビに、ヴラディル先生が不機嫌そうに赤い尻尾を振った。

「そう簡単に王城に上がれると思うな。そもそも青いアイアンゴーレムって話なら、重要性から国王陛下に話が行く。万が一お目通りが叶っても、拒否されるの目に見えてるからな、トーレ」

僕は押しかけてるけど、普通そうだよね。

諦めないムッフィは、紺色の尻尾でヴラディル先生を突いた。

「ふむ、確認だがゴーレムの内部も全て青いのか? 研究というならいっそ解体して検めるべきだろう?」

「駄目だ。動いてる状態だからこそできることもある。それをわざわざ…………」

やっぱりヴラディル先生一人だと押されるなぁ。

学生程度じゃ相手にもならない押しの強さだ。

僕はヨトシペに合図を送った。

「まだ話しちゃんと聞くだす。話してる途中で別のこと話すのは駄目どす」

「正論…………だと?」

「ヨッティが…………」

何に驚いてるの?

いや、ここは気にせず、錬金術について聞かせよう。

「錬金術科の成果ではありませんが、別の場所で活用される錬金術についても、ここでご報告します。ネヴロフ」

「え、俺? あ、皇子さまの話すればいいのか?」

言った途端、九尾の貴人が反応した。

うん、九尾のこと好きならそうだよね。

十年以上も緑尾の才人であるウェアレル側に置いてる、僕のこと気になるよね。

ネヴロフから山の上の温泉について話し、そこを拡張したいという計画も、僕が指示するまでもなく話し出す。

もちろん計画のための図を描くのはラトラスで、ネヴロフは相変わらず絵心がない。

ずっと手紙のやり取りをしてるのは、第一皇子の名で仲介してるから僕も知ってる。

九尾の貴人たちも、ワゲリス将軍の活躍は耳に届いてるようだった。

「立身出世の湯って聞いたのはそこまで注目を集めてるのね」

「ふむ、湯だけでなく蒸気浴もあるのは知らなかったな」

岩盤浴をちょっと誤解したみたいだけど、悪い印象はないかんじかな。

聞いてたヴラディル先生は、思い出したように聞く。

「そう言えば派兵のことを俺は聞いてたけど、お前らは?」

「知らないわぁ。ウィーったら薄情よね、もう。聞いたのは全部終わってからよ」

「宮殿を離れたなら迎えに行ってやってもと思っていたが思いのほか早い帰還だった」

なんか不穏な話が聞こえたぞ。

もしかして派兵で長引いてたら、ウェアレル攫われてた?

一年で戻れて良かったぁ。

「そうそう、ムルズ・フロシーズに行って聞いたんだけれどね」

「どういう経路でヘリオガバールからルキウサリアに来るのにムルズ・フロシーズなんて通るんだよ」

「はっはっは。友に会う目的は同じだ。問題ない」

突っ込むヴラディル先生に、九尾の貴人はどうとでも言い訳できると笑う。

どうやら九尾の聖人のところにも顔を出していたらしい。

というか話が逸れてるってことは、あんまり興味ないかぁ。

まぁ、派手さなんてないしね。

けど興味持ってもらわないと、青いアイアンゴーレムから気を逸らせない。

「アズ郎どうしただす? 押さないでげす?」

ヨトシペが聞くと、ネヴロフも丸い耳を動かして僕を見る。

「うーん、商売として何か美味しいとは思えない要因がありそうだなって」

「む、アズ郎は商家の出か?」

紺尾のムッフィが目を光らせる。

アズ郎って呼び方で、クラスメイトたちは出所のヨトシペを見るけど、今そこはいい。

ヴラディル先生は気にせず身分について教えた。

「アズは帝国の貴族だが、発想が豊かなんだ。商家の出はそっちのラトラスだな」

「あらそう…………それで?」

紫尾のトレビが試すように聞いて来た。

その様子が口調も相まって、初めて会った頃のモリーを思い出す。

ラトラスも感じたようで、怯えを見せずに話し出した。

「すでにサイポール組の件から四年経ち、今からの介入は遅いと考えます。それに主に動いているのは帝国の軍人です。そうなると余計にヘリオガバールの名は使えないでしょう」

「あぁ、そうか。ワゲリス将軍と紐づいてるからね。それにホーバートは今、利権関係でうるさくなってるって言うのも聞いたな」

確かにそこへ突っ込むのは、旨い話じゃない。

それに口ぶりから、ヘリオガバールには温浴施設はあるから目新しくもない。

どう切り込むかを考えてたら、ネヴロフがぼやくように言った。

「けどでっかい橋作るの、あの将軍さまだけだと無理って言われてるしなぁ」

「それはそうでしょう、あの規模を本当に造るつもりなら百年はかかる覚悟をしなくては」

呆れるイルメにエフィも頷く。

「予定図を見たが、そもそもあんな峡谷に作るのに何年かかる予定でいたんだ?」

「本来測量も十年がかりのところを終わらせてはいるがな。それで期間が半分となってもまだ長い」

ウー・ヤーが言うと、工期を半分にしたヨトシペが笑った。

「あーしもあそこはさすがに苦労したどす。本当に橋できたらすごいだす」

その言葉に、貴人の目が光ってることに気づいて、僕は囁くように聞かせる。

「大きくて派手に目立つ橋。しかもヨトシペが弱音を吐くレベルの峡谷。軍はホーバートとトライアンのファーキン組にも注視し始めてます。時機を見れば余計な口出しなし。今なら困った帝国の将軍にいい顔

ができるかも」

都合のいい方向に情報を聞かせたら、途端に竜人の目にやる気が灯ったようだった。