軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

524話:新顔4

テルーセラーナ先輩の用件は、クーラが言うとおり、今の就活生たちの進路について。

ただもう一つ、錬金術科が青いアイアンゴーレムを調べる件について。

「ずいぶんと重要な仕事を担っているようでして。その上で、詐欺の片棒を担がせようという浅はかな考えからの強硬だったようです」

僕は答えられる範囲で、伝聞を装った。

ゴーレムのことも、マーケットのことも、クーラから聞いてるんだろう。

けど王城に呼ばれたのは僕だけだから、詳しいことを聞きたかったようだ。

テルーセラーナ先輩は竜人特有の目で、じっと僕を見据える。

「ゴーレムが錬金術だと言うのは何処から?」

「帝国の第一皇子殿下だそうです。古い文献からの再発見だそうで」

その辺りは錬金術科としてクーラにも伝わってる話だ。

わざわざ僕に聞くことを不思議に思って目を合わせると、目が笑みに歪む。

「あら、第一皇子殿下から直接お聞きではないの?」

「まさか。寮の裏にお住まいですけど」

「謙遜しなくても、直接お声かけいただけるのではない?」

おっと、なんか切り込んできたな?

僕はばれるような何かしちゃった?

いや、ここは白を切ろう。

その上であからさまな嘘はやめる。

「直接のお声かけなんて、無理ですよ」

実際僕本人だからね。

やろうと思えばできるけど空しい一人芝居になる。

「そうね、あえて避けているようですもの」

おっと、そうきたか。

それは言われてもしょうがないと言うか、同時にいられないから事実そうなる。

「アズ、色々と符合すると思うのだけれど、これは偶然?」

テルーセラーナ先輩は半ば僕が第一皇子と関係があると確信して聞く。

ただ確実に同一人物とまでは想像してないようだ。

「逆に、あれだけ動きがないのに、どうもルキウサリアの内部では動きがあるの。誰か間にいないとおかしいわ。けれどそれらしい者がいない。だけれど、何故か王城に出入りしている錬金術科の子が一人いるのよね?」

「偶然ですねぇ」

確証はない推論、というか、事実を並べたら違和感があったってところか。

「お家のことをしている割に、アズは何処かへ手紙を出す様子もないし」

「そんなこと調べたんですか?」

「ほほほ、あなた便箋を買ったことがないでしょう? それに、寮にはいつも籠り切りで」

そういうところからわかるのか。

午前いっぱい潰してるはずなのに動きがない。

じゃあ、家のことは言い訳で、別のことをしてるんだろうと。

けれど寮からも出てないからそこでできることと言えば、すぐ裏の第一皇子の手伝いを何かしてるんじゃないかと。

「うーん」

「まぁ、悩むくらいなら言ってしまいなさいな」

テルーセラーナ先輩は楽しそうに促すから、だったら僕もばらしてみる。

「では、聞くと二度と国にも戻れないですし、お身内にも影響が出ますが聞きますか?」

はっきり言うとテルーセラーナ先輩じゃなく、クーラのほうが竜人の口を開ける。

これは威嚇かな?

それにテルーセラーナ先輩は手を上げて、僕を真っ直ぐ見た。

「できるつもり?」

「できなことは言いません。…………チトセ先輩は、帝都で今、第三皇子と第四皇子の家庭教師をしています」

知らなかったらしく目を見開くから、そのまま続ける。

「ヒノヒメ先輩は皇妃殿下のご友人になっていますよ」

「…………は、本当に捕まえられそうね」

「聞きます?」

「いいえ。国が動いていることであるなら、弁えのないことは致しません」

「それは残念だ。人手が足りないし、毒を専門にするテルーセラーナ先輩の研究は有用だと思ったんですが」

じっと見てたテルーセラーナ先輩は、溜め息を吐いて視線を逸らした。

「レーゼンに、あなたに任せればいいと言われた理由がわかったわ。私が見ている以上の力があるのね」

「いえいえ、僕は非力な学生ですよ。ただちょっと声をかけられる先があるだけです。もちろん、錬金術師として活動してくださる先輩方を応援しますし、後輩の先行きにも気をつけるつもりはあります」

「それは、錬金術科に入った者は、アズ先輩の匙加減だと?」

クーラが警戒ぎみに聞いてくる。

「いや、それはないから。実際、今の就活生で関わったなんて言えるのは…………ステファノ先輩くらい?」

「あぁ、色の研究をしてはどうかと、青いアイアンゴーレムで」

テルーセラーナ先輩が考え、また僕に竜人独得の目を向けて来た。

「あなたは、卒業後は?」

「帝都へ」

「ルキウサリアには残らず? あなたなら、ヴィー先生が教員として求めそうだけれど」

「それは考えたことなかったですね。でも、家のこともあるので戻るのは入学時からの決定なんです」

「…………毒の研究を、できる伝手があるのかしら?」

「姫さま」

テルーセラーナ先輩をクーラが止める。

もちろん行く先はテスタの実験施設だ。

隔離施設があるから、毒物の実験ができなくはない。

ただネロクストという国のお姫さまだからテルーセラーナ先輩自身他国に永住は難しい。

そもそも国での結婚が決まっていた身で、今以上の滞在も難しいはずだ。

それでも挑むように僕を見ていた。

「…………アシュルが、錬金術師になりたいようなら、栄達を約束してくれて?」

「なかなか難しいお願いですね。アシュルは興味がある程度で、錬金術師になりたいわけではなさそうですし。そこはちゃんと本人から了承を得なければなんとも」

「では、聞いてちょうだいな」

そうきたか。

幼少期に国を追われたアシュルに負い目のあるテルーセラーナ先輩は、学園生活を支える一環として、何やら伝手があるなら使えって言いたいらしい。

そこで、僕から何の見返りもなく受けるはずがないとわかっていて、言ってる。

「…………卒業年になるので、ご期待には沿えません」

「そう、ここが引き際かしら」

「引き際? それもヒノヒメ先輩の助言ですか?」

「えぇ、無理強いをすればよろしくないと」

けっこう最初も強引だったけど、あれはまだ無理強いの部類ではなかったのか。

なんとなくテルーセラーナ先輩の線引きに首を傾げつつ、話は終わって一緒に店の外へ。

僕は身分下の扱いだからお見送りの形なんだけど、どうも外の様子がおかしい。

「なんだか騒がしいですね?」

外に出て、テルーセラーナ先輩の馬車がいるはずがいない。

その上、なんだか通りが騒がしい。

クーラは空気を嗅ぐように顎を上げた。

「何やら、得も言われぬ芳醇な香りがいたしませんか?」

「あら、本当。ずいぶん高い香を振りまく方がいらっしゃるのね」

人間より嗅覚の鋭いらしい竜人の二人が反応する。

「僕としては、なんだかシャンシャン音がするんですが?」

あれだ、前世でストリートパフォーマンスしてた時に一度見たチンドン屋。

あれに似た、金属音と太鼓の音がする。

匂いや音に惹かれて僕たちが見るのは同じ方向。

通りの向こうで人々も動いてて、どうやら逃げるようにして道を譲る様子。

(なんだろう?)

(ドラグーンが来ます)

(へぇ、あの…………はい!? あのドラグーン!?)

突然聞こえたセフィラに報告に、僕は魔物の名前を一度聞き流そうとしてしまった。

だいたいそんなのがいたらパニックになるはずだ。

けど逃げる人はいても悲鳴は聞こえない。

どころか陽気な音楽が聞こえるって、それはそれで異様だ。

そうして道の向こうに見えたのは、かつて遭遇したドラグーンよりふた回り小さな姿。

その上で、金属装飾や布で飾られ、手綱を引かれた魔物というには飼いならされた様子。

「あれは! まさかヘリオガバールの? どうしてここに」

驚くテルーセラーナ先輩には、街を闊歩するドラグーンに心当たりがあるようだ。

ヘリオガバールと言えば、大陸南の竜人の国の一つ。

そして僕も気づく。

飾り立てられたドラグーンの上には神輿のようなものが乗ってることに。

どうやら魔物に騎乗して音楽や香を振りまいて練り歩く何者かがいるらしかった。