作品タイトル不明
521話:新顔1
テリーは帰って行った。
なんだかおつきの中には、僕に何か言いたげな人もいた気がする。
学者の雰囲気あるから無視してたけど、なんでか見送りに珍しく帝都の学者たちもいたし、うん、勝ち誇った顔は見なかったことにしよう。
あと帝都の学者のほうに、書記官も残されて行ったけど、そこは本人たちの日頃の行いだ。
報告くらいはまともな文章にして、送り返すことをしておけば良かったんじゃないかな。
なんにしても報告内容は僕じゃなくてルキウサリア側との調整になる。
増えた書記官も放置だ。
「本日のご予定を確認させていただきたく」
「メンス…………」
屋敷に戻ったら、すぐにメンスがそう言ってきた。
なんかついでについて来た帝都の学者たちは誰って顔してる。
うん、入学当初から僕の周辺の人員代わってなかったからね。
ダム湖に引きこもってる学者たちでも、騎士以外の新顔の見わけはつくよね。
「この後はルキウサリア側の施設を使った錬金術調査。午後からは学園に登校する」
「同行は可能でしょうか?」
「いや、駄目だね。皇帝陛下とルキウサリア側の許可が必要になる。あと、一定以上の技能も」
施設とか言ってるけど、実際は封印図書館のあるダム湖に行く。
そこにテスタが実験場作ったからまぁ、施設でも間違ってはいない。
「同行する方々をお教えいただければ」
「ここにいる学者たちと、護衛にヘルコフとイクトだね。御者と従僕はこの屋敷の者」
つまるところ、従僕だけどメンスに入り込む余地はない。
まぁ、皇帝陛下って父の名前を出した時点で、テリーにも秘密ってことはわかるだろう。
そこまで踏み込むことはしないらしく退いてくれた。
「では、お着替えをお手伝いいたします」
「自分でできるし、できないところは侍女一人でも大丈夫なんだけど」
そこも従僕としての仕事範囲だけど、基本必要としてないんだよね。
というか、いつまでも女性に手伝わせるのもって思ってるから、できるところは自分でしてる。
そこら辺も気を使ってメンス置いて行かれたなら、僕があまりにも成長期として鈍すぎる気もした。
けど本当に、最近は髪を整えてもらったり、僕では見えない背後や胸元やってもらうだけで、前から服自体は自分で着るんだよね。
「ノマリオラ」
「はい、弟君もご存じの範囲であれば手を出すことも可能かと」
「そう、じゃあ僕が行ってる間に教えてあげて」
言ってる途中で、ノマリオラの目が逸れるのに気づく。
僕の話は聞いてるけど、ついって感じ。
もちろんそんなことになる相手は一人、妹のテレサだ。
僕も目を向けると、慣れた様子で学者と話し、出発まで休める所へ案内してる。
そう言えば僕の影武者してたけど、ロムルーシ留学終えて帰ってからはほとんど交流なくってたか。
いや、たまに嫌々報告書持ってくることあるからその時には話してたはず。
「久しぶりにテレサとウォルドも連れて行こうか?」
「そのお二方に、資格があると?」
メンスがすぐさま突っ込んでくる。
まぁ、侍女見習いと財務官だから、おつきの従僕より変な組み合わせ。
けどもちろん資格はある。
「二人は僕が錬金術を教えてるんだ。だから向こうでも手伝いをした経験がある」
「錬金術の施設で?」
「錬金術もやる施設、かな?」
基本薬学だけど錬金術の実験もやってる。
そもそもはテスタの私財で作った実験場だ。
物理実験するのに小島だと色々やりにくかったんだよね。
さらには黒犬病のための実験をするには、除染室や隔離施設が必要だった。
錬金術に限らないけど、錬金術は関係する形で、封印図書館よりもわかりにくい位置づけの施設かもしれない。
「…………なんだろうね、あそこ?」
思わず首を傾げると、実態を知ってるヘルコフやイクトもなんとも言えない顔をする。
まぁ、あそこはテスタの管轄だし、僕が考える必要はないか。
僕がルキウサリアを離れても運営は続くだろう。
ルキウサリア国王のほうもそっちの報告上げさせてるし。
人里離れてるから、まだ表に出せない実験には使いやすいようだ。
「ともかく、まずは準備だ。ヘルコフ、ウォルドとテレサに同行のこと伝えて。ノマリオラはこのままメンスと一緒に僕の準備。その後に、通学のための手順を教えておいて」
「承りました」
ノマリオラとメンスは一礼する。
そのまま無駄口は叩かずに二階の寝室へ向かった。
準備をしながら、僕も聞きたいことを聞いてみる。
「ちなみに、父親からは僕についてなんて聞いてる?」
「何を言っても子供の戯言と聞き流されるので、遠慮するだけ馬鹿を見ると」
さらっととんでもないこと言ってる。
言われたからって父親の駄目な発言そのまま言う?
「ちょっと、確かにヴァオラスの扱い雑だった自覚はあるけどさぁ」
「はい、父もそうされるだけのことをした自覚はあると申しておりました」
「あ、うん。別に今さらそれで責めるような大人げない真似はしないよ」
「私の歳の頃からすでにそうした心持ちで対応されていたと聞いています」
えーと、メンスは今十一歳かな?
ってなると、僕の行状が父と妃殿下にばれた後か。
ばれた頃にはメンスの父親のおかっぱも、僕の実態には気づいてたし、そういう見解も持つのはわかる。
「…………そう言えば、恨み言の一つもないことになんか悔しそうな顔してたことあったな」
あれはちょうど今のメンスと同じ、僕が十一歳の派兵の時だ。
「相応の才覚をもって立ちふさがらなければ、障害として認識もされないようだと漏らしていたこともありました」
「いやぁ、小さい頃はヴァオラスもけっこうな障害だったよ?」
普通に父と会う時間短くされるのは困った覚えがある。
メンスはじっと着替える僕を見て、さすがにちょっと迷った末に結局聞いた。
「何故、許したのですか?」
「別に。許すも許さないも僕に裁量のある相手じゃないから。陛下が信を置いて僕の所へ同行するなら、それなりに陛下の味方をする数少ない人物なんだろうと思っただけだよ」
納得できない顔だ。
だからけっこう家では話す様子のおかっぱの息子へ、僕は同じようなことを聞いてみることにした。
「メンス、父親のことは好き?」
ちょっとたじろぐけど、答えようと口を開く。
「好き、なほうだと思います。少なくとも、嫌いではありません」
「うん、僕は父が好きだ」
言ったら、メンスは目を瞠った。
そして、それ以上おかっぱに対する質問はない。
まぁ、好きな父親が信頼してるならそれも許容って話だ。
父への信頼でおかっぱを許容してる。
だからなんで無礼なことし続けた父親をってメンスの問いには、それが答えになった。
派兵の時に言ったとおり、おかっぱが父の味方であるならそれでいい。
「さて、準備はこれくらいだよ」
「お持ちになる道具などは?」
メンスはもう仕事に切り替えたらしい。
子供ながら偉いな。
「だいたい向こうにあるもの使うけど、こっちから資料持ってくこともある。その時にはウォルドにまとめてもらって、ヘルコフに持ってもらうから大丈夫」
僕は片づけのノマリオラとメンスを残して出ようとするんだけど、なんだか納得した様子で頷くメンスが視界に移った。
「まだ何かヴァオラスから言われてることでもあるの?」
「年少者に対しては確実に甘いため、真面目に勤めれば排除されることはないと」
「思ったより好き勝手言ってるな?」
というか、父親を売るような真似してるけどいいの?
それも真面目に勤めてるアピール?
それ知ったおかっぱ大丈夫?
なんかまた諦めた顔して天井見つめることにならない?
まぁ、僕がこのこと言ったら余計にダメージ受けそうではあるけど。
そこはもう家庭内の話ってことでいいのかな。
うん、おかっぱの教育の成果だと思っておこう。
「じゃあ、僕は行くけど、昼には戻るから」
「いってらっしゃいませ」
メンスは歳の割に慣れた様子で礼を執る。
宮殿でテリーに会っていた時は、大人以外を連れていたことがないから僕は知らない。
けどメンスはけっこう長く、宮殿にいたのかもしれなかった。