作品タイトル不明
520話:変える頃合い5
お忍びでやってきたテリーは、ルキウサリアに長居できない。
それでも今回は七日の予定で来ていた。
ただすでに五日を過ぎた今、七日目には帰るから、僕と話すために六日目の今日またテリーがやって来てる。
会う場所はまた晩餐室だ。
今日は午前中だから、僕も騎士たちに姿を見られながら移動した。
「ごめん、兄上。時間が押してるから用件だけになる」
「会いに来てくれただけでもいいよ。それで、どうしたの?」
僕はテリーに笑顔で答えた。
もちろん今日の予定を潰されたテスタの嘆きなんて、耳に入れるつもりはない。
帝都からの学者も一緒になって何か言ってたらしいけど、すでに昨日の内に伝達済みで無視だ。
そっちは今日でなくてもいいんだからさ。
「兄上の言った、東への派兵、考えてみたんだ」
「うん」
意を決して告げるテリーからは、緊張が伝わって来る。
まるで答え合わせのように慎重に言葉を選ぶ。
別に間違ってもいいし、これに正解なんてないんだけどね。
ただ結果を得るかどうかだ。
そこに必要なのは、テリーの納得感だと思ってる。
やって後悔するよりなんて言うけど、せっかくやったのに後悔するほうがモチベーション下がる人もいるわけで。
だったらテリーが選べばいいし、そのために悩むのが無駄になるとも思えない。
(なんだったら陛下に回してもいい案件だと思うし)
(皇帝が親征するには、敵の格が足りないことを懸念)
(だったら…………あぁ、僕が名乗り出てヘルコフに行ってもらうのもありだな)
なんて考えてたらテリーが絞り出すように言った。
「…………やってみたいと思う」
「正直危険だよ。まぁ、僕が心配するくらいのことはルカイオス公爵が整えてくれるだろうけど」
「うん、そうなると思う。けどその前に、私が説得をすることになるはずだ」
そのとおり。
僕も父を動かすつもりはあるし、有利な条件の提示はするつもり。
けどルカイオス公爵に、僕は直接交渉することはできない。
だからその辺りを動かすとなると、父かテリーが表に出ることになる。
「その上で、兄上のやり方を学びたい」
「それは…………前にも言ったけど、僕とテリーじゃできることややるべきことが違う」
「うん、兄上は人目を避けて、僕は堂々と見せつけるようにしないといけない。けど、それでも必要とする結果を手に入れるための行動を、兄上以上に教えてくれる人なんていない」
王道のテリーに、わざわざ外道なんて教えない。
だってそれは、王道ができない人がやるものだから。
王道を外さないと正面から太刀打ちできもしない弱者のやり方で、そんなの皇帝には不要どころか力不足扱いされる。
とは言え、やり方を知ってるのと知らないのとじゃ、対処に差が出るだろう。
その辺りは経験が必要だ。
そしてルカイオス公爵は経験があるんだろう。
けっこう複雑な過去持ってるみたいだし。
その上で、テリー周辺の人員の配置で試すようなことをしてる気配がある。
それとなく、予防接種的に弱く経験させるようなものだろう。
「うーん、こういう乱暴な手は、確かにルカイオス公爵じゃやらせないだろうね」
「…………なんだか、兄上は手の内をよく知ってるような言い方だね?」
笑って流す僕に、ユグザールだけが気まずそう。
まぁ、敵だからこそ手の内がよく見えるなんて言ってもね。
「それじゃあ、説得のために必要な情報を伝えよう。けど、今の状態ではシャーイーに関して情報提供してくれる協力者の正体は、何も言えない」
「うん、今隠れて動いてる状態なんだよね? そんな準備も整ってない状況で、ばれるようなことをしてはいけないのはわかる」
それは今回のことの経験かな?
うん、もっと準備段階でわかるような猶予あったらと思うよ。
もっとレーヴァンから情報聞き出しておくんだったってね。
「協力者はまだ聞かない。後で教えてはくれる?」
「状況がどう転ぶかだね。あとは時期にもよる」
相手がハリオラータだし、誰が担当するかで対処も変わる。
下手をしたら暴走の恐れがあるから、テリーは知らぬ存ぜぬのほうがいいまであった。
「協力者とは言ったけど、できるだけ敵方にいるような形を模索してる」
そっちだったら何あってもいいしね。
シャーイー側が損害を被るならそれはそれで。
時期によっては身代わりが処刑されてる。
そうなれば少しは動きやすくなるだろう。
それと同時に今以上に手綱を引かなきゃいけない状況にもなる。
今対応を固定化してしまうと、たぶん失敗するんだよね。
「すでに、相手側に入り込んでるの?」
「まさか。そこまでは動く余裕がなかったから、計画段階だよ」
「そう…………だったら、兄上にお願いしたいことがあるんだ」
テリーが、無理なお願いをするような雰囲気を出してる?
え、弟の我儘?
何それ、嬉しい!
「伝声装置をちょうだい」
「…………それは、ここだけの話?」
思ったよりも色々問題のあるお願いに確認すれば、確かに頷く。
つまり、父にも誰にも秘密で伝声装置っていう連絡手段を確保しようとしてた。
いい目の付け所に思わず笑う。
「いくつか種類があるけど、そうだな。…………伝声装置については、僕と別口で陛下にお願いしてもいいかもしれない。そっちで許可が出た時のために、こっちでも根回しをしておくよ」
相手はもちろん、魔導伝声装置に繋がるルキウサリアの国王。
ルキウサリア側の情報技官は、すでに一度ロムルーシからの遠方通信を確認してる。
帝都ではしてないから、そっちの人員の訓練ってことで魔導伝声装置を派兵に使うことで、テリーの功績を上乗せできるかもしれない。
その上で、テリーに渡したことがある改良型やそれよりも大きな据え置き、一番小さい小型と三種類をまず提示した。
そして知らなかった学友のウォーと従僕のメンスにも、機能を教える。
「二つ一揃いで即時連絡可能な錬金術の道具だ。必要なものはこっちでも揃うから、作ったらレーヴァンにでも持たせてテリーに届けよう。どれがいい?」
「三種類ともっていい? それと、兄上に連絡できるものも欲しい」
「だったら、僕のほうで持ってる伝声装置を対応するように変えておくよ」
そこはまた新しく対応するスロットを作ればいい。
テリーのほうで切り替えのための操作ができる機構も考えないとな。
僕が考えてるとテリーがさらにお願いを続けた。
「兄上、それともう一つ」
「うん?」
そう言えば時間がないんだっけ、考えるのは後でもいいか。
僕は笑顔でテリーを促した。
「兄上の助けになる、人員を配したい。でも、すぐには無理だ」
「そうだね」
「けど、再来年には私が入学する」
「うん、早いものだ」
「そのために、ルキウサリアの状況を見る者を置こうっていう話がある」
「それは、帝室所有の屋敷に配置された人員では駄目なの?」
「うん、兄上と全く交流がないでしょ」
そういう報告は行ってるのか。
まぁ、全く寄り付かない僕と連絡取るわけもない。
ルキウサリアが気を使って用意した使用人たちで、この屋敷も十分回ってたし。
テリーが目線を向けると、なんでかメンスが一歩前に出た。
「それで、本当は今回様子見の予定だったんだ。様子を見て、改めて春に私の入学の準備のためという名目で、兄上とも連絡が取れる人を用意しようと思ってた。けど兄上の状況を知ったからには、このまま帰れない。そのために、メンスを兄上の側に置いていく」
「はい?」
驚く僕とは対照的に、当のメンスはすまし顔だ。
なんかそういう所は親のおかっぱに似てる。
「え、置いていくって、つまり?」
「兄上の従僕にして」
「えぇ!?」
「よろしくお願いいたします」
全くよろしくなさそうな無表情でメンスが言う。
「兄上、あの僕たちが使わせてもらってた小型は片方メンスに渡してほしい」
つまり、僕の様子をテリーに直に報告させるの?
というか、そう言うのこそ動きのある戦場に持っていくべきじゃない?
色々言いたいけど、テリーは時間を理由に帰る姿は、僕の断りを聞かないために思える。
そしておいて行かれるメンスは、急なことだろうに当たり前の顔で残った。
この不意打ちの提案と行動は、僕がメンスを見捨てないで受け入れることをわかってのことだろう。
本当に僕の弟は、よくできた子だ。