作品タイトル不明
514話:マーケット最終日4
テリーが去った後も大変だった。
大半はテリーの行列について去り、テント内はほぼ見慣れた顔ばかりになる。
けど人だかりに足を止めてた人たちは、テントの外で何があったんだとまだざわついてた。
それらに対応してると、さらに興味持った人が入ってきて、他にもグラスハープの音を聞いて、聞きたいという人も集まって来たんだよ。
「くぅ、もっと時間があれば売れましたのに…………!」
「それでも十分興味持ってもらってたと思うよ」
マーケットも終わってワンダ先輩が悔しがる。
トリエラ先輩は食べ物だから、その日に出す分しか作らず、材料が余った程度で済んだ。
ハンドクリームも今日一日でずいぶん売れたけど、半分近く在庫になってしまったのは仕方ない。
だって丸一日中止だったし、テリーがいる間は販売もできなかったしね。
悔しがる様子にキリル先輩が、隣の商業科のスペースに目を向けた。
「他の催しでも、同じようなことになってるんだろうな」
「そもそもこの一日もできるかわからなかったしねぇ」
答えるのはステファノ先輩で、商人系のロクン先輩とウルフ先輩が続く。
「隣の商業のほうでもさばききれなかったって聞こえたよ」
「他の出し物だと、中日が空いて集中力切れたとか言ってたな」
色々大変らしい。
僕も片づけをしつつ耳を傾けてると、そっと就活生のオルスが寄って来た。
「アズ、お前知ってるか? その、事件の、その後、どう、なったとか」
すごく言いにくそうで、目も合わない。
それに僕に聞くのもなんか違うと思うけど、一つ思い当たる話題はある。
「僕と一緒にルキウサリアの王城へ行った先輩は、そのままお城に保護されてるそうですよ」
ジョーとは言ってないけど、そんなんじゃないとか慌てるオルスは気にせず放置。
片づけの箱を持って、僕はテント内へ移動した。
そこでは展示物を片づける後輩たちや、持ち運びのために投光器やスクリーンを解体してるクラスメイトがいる。
「ネヴロフ、外の大きい木箱とかは僕じゃ無理だからお願いしていい?」
「いいぜって、アズ。箱一つだけしか持てないのか?」
失礼な、そこまで貧弱じゃないよ。
僕は箱を開けて、さらに小さい箱を次々ととりだした。
けっこう綺麗に収まって、箱のマトリョシカになってる。
けどその分重さで正直手が痛い。
「早く片づけて帰ろう」
「アズはまたお城に呼び出されたりして大変そうだったもんね」
ラトラスが猫耳を片方上げて同情的だ。
ようやく参加できると思ったら、誘拐未遂で連れ去られるようにお城に行ったしね。
その後戻らなかったしで、けっこう心配されてた。
そんな声を聞いて、エフィは首を捻る。
「本来名誉なことのはずなんだがな、城へ上がるということは」
「それは理由によるわ。アズの場合は名誉なんてないでしょ」
イルメが言うとおり、聴取になんて名誉はないね。
いや、身分が低いほうからすると、お城って足を踏み入れるだけで名誉になるのかな?
その辺りは宮殿住まいだったから感覚がわからない。
ウー・ヤーは投光器のリールを巻き直しながら、僕に笑って見せる。
「これだけ協力しているのだから褒賞でも欲しいところだろうな」
「いやぁ、何処も忙しそうだから無理じゃないかな」
だいたいが僕がやったことの尻拭いだし。
基本的に上からの命令は絶対の上に無給だ。
上の人が気を利かせることはあるし、気の利かせ方は人による。
たまにある反乱の理由が、その土地の統治者がケチだったせい、なんてこともあるそうだ。
ただ少なくとも僕はもらうほうじゃない。
命令する上の身分だし、仕事を増やした分払う側だ。
けど、所属する国が違うからね。
下手なことはできないからには、僕も文句言わず対応するくらいしかできない。
「アズ先輩、この板って何に使うんですかー?」
呼ばれて振り返ると、ネヴロフが持ってきた板を指して後輩のポーが聞いてる。
「それは掲示した紙を挟むのに使うんだ。巻いて置いておくと、長さから折れる可能性もあるからね」
音の反響を説明するために掲示された図説の紙は、一メートル以上ある。
巻き軸があればいいんだけど、いいものがなかったから、板二つに挟んで汚損防止をして保管するんだ。
聞いてすぐに竜人のアシュル、人間のトリキスとタッドが板に手をかける。
「来年も使うのであれば、なるほど、保管を考えねば」
「それで言えば、最初から板に張り付けておけば良かったな」
「けど来年また同じよりも、新しく作ってみたい気もする」
積極性が出て来てるなと思う。
後輩たちはあまり錬金術に対する方向性がなく、言われて動くばかりだった。
それがこうして興味とやりがいを口にするようになったのは良いことだ。
箱から箱を取り出してる僕に、ウィーリャが聞く。
「こちらの模型を入れられる箱はございまして?」
「あぁ、その幅は難しいな。ちょっと解体することはできない?」
僕が言うとイデスとショウシが模型を見下ろした。
「来年には、収納を考えて準備する必要がありますね」
「うぅ、来年も新しく、今年以上のもを?」
気弱なショウシの言葉に、後輩たちが一斉に黙り込む。
そこは本人たちの頑張りに期待したい。
もしくはクラスメイトたちがやってることの何かが、発表可能な域になることにも期待だ。
ともかく僕は片づけを急いで、暗くなる前には帰れるよう努める。
冬の今日、暮れは早く夜がやって来る。
だからみんな急いではいるけど、それでも手間がかかる中、ヴラディル先生が言った。
「アズ、何か急ぎの用事があるなら帰っていいぞ」
テントも解体したところで、そう声をかけられ、ありがたく受け入れる。
僕は錬金術科のみんなにひと言謝ってから、帰り支度を始めた。
たぶんマーケットが中止されてた中、僕だけ王城に呼ばれてたから休むようにだろう。
もちろん休む暇もなく、僕は学園を出て寮へ、そしてそのまま屋敷へ。
「あ、お帰りなさいませ、ご主人さま。すでにいらしています」
「できうる限りのもてなしをもって、お待ちいただいております」
僕を出迎えたのは侍女見習いのテレサと侍女のノマリオラ。
すでに第一皇子として身繕いするための準備も万全で待っててくれた。
着替えて髪も染めて、僕は一階の晩餐室へ足早に向かう。
ただし今回は、騎士たちがいる広間は通らない。
事情を知る使用人たちの手引きで、使用人が使う通路から晩餐室へと入った。
「兄上、お帰りなさい」
「ただいま、テリー」
そこにはテリーが待っていた。
今日のマーケット最終日の視察の後には、こうして話す時間を取る約束をしていたんだ。
マーケットの視察を終えたテリーは、その後は王城に護衛を引き連れて帰ったとか。
そこから改めて、僕を訪ねて屋敷に正面から入る。
表向きは普段いる騎士たちを出迎えと称して追い出し、その間に僕は晩餐室でテリーを待っているという体裁だ。
実際は学園でアズロスしてたからいないんだけど、そこら辺の事情もテリーには事前に伝えてあって、怪しまれてはいないという。
それで今までずっと、テリーは僕と話してるっていう体裁で、ここで待ちぼうけにさせてしまってたわけだ。
「待たせてごめん」
「ううん、色々話を聞けてあまり待ったという気もしない」
色々を話したのは、ヘルコフとイクトのどちらか両方か…………。
まぁ、二人とも経験豊富だからね。
学園に勤めるウェアレルはたぶん遅くなるから、テリーが帰るまでには帰ってこないだろう。
ただテリーも王城に戻る必要がある。
だから話せる時間は長くはない。
それでも僕は前のめりにテリーへと聞いた。
「テリーどうだった? 楽しんでもらえたかな?」
「うん、とても。あの投光器は双子が喜ぶはずだ。去年の物語も見たかったけれど、グラスハープというのは不思議な音で面白い。あれは何処までが兄上がやったの?」
「いや、ちゃんと錬金術科の学生の成果だって」
「でも発端は兄上だよね?」
やっぱり完全にばれてるか。
「それに、私も知らないこともあったし。どうしてエメラルドの間ではしなかったの?」
教えてもらえなかったことに不満を覚えたらしいテリーに、僕はマンパワーが大事ってことを説明するところから始める。
「そもそも錬金術って、一人でやっても時間がかかるんだよ。だから仲間が必要なんだ」
そんな話から僕とテリーの語らいは、次から次に転がっていった。