軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

512話:マーケット最終日2

今度は音響についての説明と発表だ。

ただし、僕たち学生は実演だけで、皇子への説明はヴラディル先生が請け負う。

この辺り貴族社会的な身分制度が適応された。

だってまだ学生じゃないテリーは、学外の存在で皇子だ。

学園内の平等とか適用できないし、矯正できない。

何よりこの錬金術科には、表向き皇子に話しかけられる身分の学生がいなかった。

だから責任者兼、テリーが発言を許すウェアレルの近い血縁者ってことでヴラディル先生がやってる。

「わからないところがあればご質問をどうぞ」

丁寧に話すヴラディル先生は、そうしてると本当にウェアレルと色違いだった。

「わかりやすい説明だった。それは全て学生が考えたものだろう?」

テリーが聞くと、ヴラディル先生は新入生たちを指して応じる。

「説明や展示はこちらの新入生たちが。ただ元の理論についてはあちらの学生が。帝都の出身であり、多く錬金術に関わる書籍を当たっているとのことです」

テリーがちょっと口元に力入れた。

僕は礼を執るふりで目を伏せて誤魔化す。

そんな僕の所作に後輩たちも続くんだけど、うん、ごめん。

ただの誤魔化しなんだ、そこまでしなくていいよ。

「そうか…………。その、書籍…………うん。私も兄上と違う音の実験を、したな」

ありがとうテリー、話を変えようとしてくれて。

書籍から帝室図書館とかわかるはずだからこそ、別のことを言ってくれたんだろう。

けどテリーが話す音の実験ね、やっちゃってるんだ。

夏に遊ぶ中でやった、日傘を使ったやつ。

同じことをやって見せた、ワンダ先輩と後輩のウィーリャが反応しちゃってる。

「それで中に金属の板を並べるのだ。音を跳ね返す方向性というのも、このテントで壁を作って音を増幅するということと同じなのだろう」

テリーの話に、誰も驚いたような反応を返す。

さすがに銅板張るなんて手間をかけた実験は、弟たち以外にはしてない。

だから別物だと思ってくれたようだ。

良かった。

テリーがある程度満足すると、次はテリー側の許された人が発言する。

まぁ、ここでも身分が発言の優先順位になった。

学友のウォーはともかく、従僕のメンスは喋れない。

あと優先されるのは生まれの身分よりも、ついてる官職の高い人だ。

そこはお仕事だからこれもしょうがない。

「ふむ、確かに手を打てば音が大きくなって返る」

「これは音楽科の発表ではなく?」

反響させるための板に手を打った上で、音楽科の学生がいることに目を向ける人たちもいた。

「この構造をまず音楽祭で錬金術科が実演をしました。そこから音楽科に理論の提出を学生が求められた経緯があります。そして今回、新たな楽器の演奏に当たり設置を行い、その際に音楽科からも協力を望む声があったのです」

ヴラディル先生はウェアレルっぽい口調崩さず語る。

まぁ、錬金術だって言っても信じてもらえないの、これが初めてじゃないもんね。

小雷ランプだってそうだ。

今となっては魔導伝声装置の改良に使うっていうことで求められてるけど、最初はね。

あと、錬金法関係でも既存の魔法理論と比べて下に見られるし。

だからヴラディル先生もここでお偉方には、反発するだけ無駄だとわかってる。

けど面白くないのは面白くないんだろう。

赤い尻尾がブンブンしてる。

それをウェアレルが見つけてやめろっていうみたいに睨んでやめさせた。

それで通じるってやっぱり兄弟だなぁ。

「…………音楽科とはこうした音の響きというものを研究するのだろうか?」

おっと、僕と目が合ったテリーがなんか言い出した。

これは、音楽の領分ではあっても、音楽科が考えつくことじゃないっていう、つまりは錬金術科への擁護だろう。

楽しんでほしいんだけど、難しいかなぁ。

別に気遣いは必要ないよなんて、この雰囲気だと無理かなぁ。

「それでは次に」

僕が悩んでると、ヴラディル先生が次に移った。

それで緊張が高まるのは、音楽科も一緒だ。

何せ今からグラスハープを演奏する。

皇子に披露はさすがに音楽科でも緊張するらしい。

それでも着々と準備は進む。

僕も手伝いというか、なんか演奏に巻き込まれてるんだよね。

「閉じちゃ駄目なんですかね、テント」

ヴラディル先生が説明してる合間に、後輩のタッドがこそっと聞く。

手の構造上、グラスハープは人間が適してた。

中でも結構センスがあるタッドが主軸になるからこそ、マイナス要素を除きたいんだ。

予定になかった後輩のトリキスも、僕と同じく音楽経験があるってだけで参加。

帝国貴族のトリキスは、皇子がいる所で私語なんてしないけど、タッドと同じ思いだってことは読み取れた。

「警備の関係上だからね」

テントは入り口全開で、外の守りの人員も見えるし、その人員を見世物のように眺める人たちも見える。

ただ音の反響を強めるためには閉じたい。

そもそも風の流れがあると反響が乱れる。

けど警備のために皇子を不特定多数の中に、警護から見えない状況には置けない。

しかも身分違いな平民も混じってるんだから、何をするかわからないと警戒された。

全員がテントに入るっていう形も、最初は検討されたんだ。

冬だからって言ってなんとか言いくるめようとしたけど、結局閉じるのは駄目だった。

「集中しろ。スティフも」

貴族出身で人間ってことで、キリル先輩も駆り出され、世話焼きで注意される。

注意されたステファノ先輩も大公家の出身で、教養はあるから頭数に入れられた。

ただ芸術家肌でも音楽じゃなく絵画方面に特化してるから、あまりやる気がない。

ただその分緊張感もなかった。

「あれくらいとまではいかないけど、肩の力抜いていいよ」

「はいぃ」

本来の演奏者の一人の後輩ショウシは、震える息を吐くように返事をする。

ともかく人数増やして元の音を大きくすることにした。

そのために錬金術科で音楽ができる学生は駆り出されてる。

同じく突然の参加になったクラスメイトのエフィは顔が固い。

「エフィも緊張してる?」

「いや、皇子が、こっちを見ているのが…………」

おっと、僕はそ知らぬふりで準備を続ける。

多分見てたの僕だ。

そしてチラッと目を向けたら、すごい期待の目してるぅ。

うん、これはばれてるな。

グラスハープなんて新楽器を作ったの、僕だってばれてる。

一応ヴラディル先生が専用の曲作ったというところ説明してるから、ちゃんと後輩の頑張りも聞いててほしいな。

いや、楽しそうな目してたからいいんだけどね。

「お静かに願います」

ヴラディル先生のなけなしの注意。

けど人数多いとどうしても音立つし、開いてる入り口から外の音が入るのは止められない。

テリーには楽しんでほしい。

だからできる限りいい音を聞かせたい。

そのためにできることは、と考えて、僕は始まる直前イルメに声をかけた。

「せめて風を入り口から外へ流してほしいんだ。できる?」

「…………先生にも頼むわ」

イルメがすぐに意図を察して、その上で判断できる大人を巻き込みに行く。

しかも先生と言って巻き込みに行ったのは、説明役してるヴラディル先生じゃなく、今は立ってるだけのウェアレル。

うん、いいか。

九尾って呼ばれるすごい魔法使いだしね。

ヴラディル先生と並ぶ腕だし。

(セフィラ、ばれないように援護ってできる?)

(元家庭教師ウェアレルを援護する限りは可能と判断)

うん、イルメに気づかれると絶対魔法の制御間違える。

僕はセフィラに頼んで目の前のグラスハープに向き直った。

僕は付け焼刃の演奏で、弟に恥ずかしいところ見せないよう頑張らなくちゃ。

それぞれに少しずつ音を出したり、手を翳して演奏の手順を確かめたり。

そうして緊張の中、ヴラディル先生からの説明が終わった。

「どのような音楽が聞けるのか想像もできない。とても楽しみだ」

そう言ったテリーは、社交辞令じゃなく、本気で楽しみにしてくれているようだ。

僕は小さく息を吐いて、弟のために密かに気合を入れた。