軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

493話:表には出せない3

なんだかクトルとの遭遇が、意図しない形でことが進んだ。

もう少し制御は…………いや、無理そうだ。

大人しくしてるだけましだと思ってないとやってられない。

暴れるのは帝国やルキウサリア以外でお願いしたいだけで、面倒見るつもりはないんだ。

そんなことを考えつつ、穏やかな学園生活…………とはいかないんだよなぁ。

「アズ先輩、これ、この説明であってる、ですか?」

「ポー、そこはあってますか、だよ。うん、説明はいいね」

「アズ先輩、こちらの図解は何かおかしい気がするのである」

「それは図の位置の前後が途中で入れ替わってるからだね、アシュル」

僕は後輩たちの教室で、指導に回ってた。

彼らは学年単位で展示を担当することになってる。

投光器は僕たちの学年が担当して、他へは適性ごとに就活生の手伝いに向かう形だ。

それで今僕は、その後輩たちの展示の監督をしてる。

舞台の音響関係はキリル先輩じゃわからないし、言い出した僕がってことで。

「先輩、清書が終わりました。こちらをどうぞご確認ください」

「クーラって、なんでも器用だけど逆にできないことないの?」

展示のためにクーラが書いた説明の台本を確認して、いい出来で思わず聞いた。

珍しくクーラが嬉しそうに竜人独得の目を細める。

魔法の腕は主人のアシュルに劣り、器用さだったら商人出身のタッドに劣る。

やる気の上ではポーやウィーリャに、教養の上ではショウシに劣るだろう。

クーラは上には上がいる状況。

けどある程度のレベルで全体できるし、器用さはないけど地道な集中力でこなす。

けっこういい人材だ。

ただし、すでに主人持ちだし、裏に支援者付きで、血縁者のやらかしの尻拭い中。

錬金術師にはならないだろうというのは想像がつく。

「テルーセラーナさまがマーケットにいらっしゃらない分、細かな報告を求めていらっしゃいます。また、我々竜人は寒さに弱いため、くれぐれもアシュルさまの体調に気を配るようにとのことです」

「あぁ、うん。わかった」

竜人で去年卒業したテルーセラーナ先輩の回し者がクーラだ。

アシュルは腹違いの弟で、国を出るきっかけがテルーセラーナ先輩の母親のやらかし。

それで錬金術科に入学したアシュルを支えるように指示されたのが、同学年にクーラ、一つ上に僕、そして最上級の就活生にエルフのウルフ先輩だった。

マーケットの報告はウルフ先輩のほうに投げよう。

本当、学園のほうも微妙に不穏さが漂ってるんだよね。

温める方法はカイロもどきで様子を見るとして、今は他の後輩の進捗だ。

「ウィーリャ、何をそんなに悩んでいるのかな?」

「アズ先輩。いえ、よりよいものにしなくてはなりませんが、その案が思い浮かばず」

虎獣人のウィーリャが太い尻尾を不機嫌そうに揺らす。

女性で大きさも違うけど、その様子は猫獣人のラトラスと似てる。

どうやら悩んでるで合っていたようだ。

「あの、円形劇場の図解よりも、もっといい展示はないかと」

意地っ張りなところがあるウィーリャに代わって、友人のショウシが答えた。

指す方向には、円形闘技場の模型を作ってるタッドとトリキス。

説明書きと模型、そして台本の説明、それらを使って音に関しての展示をする。

そしてウィーリャは実践を、投光器の合間にする予定だった。

簡単にテントの中で声を反射する壁を立てて、音の響きの違いを体感してもらおうというもの。

「音は聞こえるので良いとして、模型で視覚的に訴えるのはわかるのですが、いまいち大人しすぎて、こう、情熱が…………」

うーん感覚的。

歌手目指すような子だからかな?

それに対してショウシが考えて、ウィーリャの感覚的な言葉を補足してくれた。

「きっと、今しかできないことをしたいのです。それに、音楽科の方が来ることもわかっていますし。であれば、今後のためにも説明だけで終わるのも、もったいないのではないかと」

「つまり、錬金術が音楽にも使えると音楽科に認識して、今後も繋がりを持ちたい。その上で、今回の展示だけで興味関心が終わらず、来年以降も発展できる展示にしたいと」

随分と遠大な目標を確認すると、ウィーリャはラトラスよりも丸い虎の耳をピコピコ動かして頷く。

正直マーケットの趣旨とは違うし、どっちかというと音楽祭でやるべきことだ。

けどこの機会が次に繋がるようにしないと、来年の音楽祭で検討もされないと言うのはそうだろう。

「うーん…………。じゃあ、音についての体験的な実験を一つ加えようか」

僕が言うと聞いてた後輩たちが一斉にこっちを見る。

帝国貴族のトリキスが代表して聞いて来た。

「あまり時間がありません。この展示を形にした後には、それぞれバラバラに手伝いをしなければならないのです」

「うん、だからあり合わせでいいんだ。ちょっと待っててね」

作業続けるように言って、僕は一度教室の外へ。

(去年歓送迎会してもらったレセプションルームのようなところの食器って借りれるかな?)

(届け出を提出することで設備を借りることができます。付属物の貸し出しも可能です)

何処で得た知識なのかわからないけど、ありがたく従って僕はレセプションルームに向かう。

ちょっと往復に時間を取られながらも、目的のものを両手に持って戻った。

「え、あれ? ワイングラスなんてどうするんですか?」

戻った僕の手を見て、タッドが目を丸くする。

両手で持てるワイングラスの数は四つだった。

もっと欲しいけど見せるだけならこれでいいと思う。

僕はワイングラスを机の上に置いて、その中に魔法で水を注ぐ。

(知ってても初めてだし、上手くいくかな?)

(説明を求める)

セフィラも興味津々だ。

僕は指先を濡らして、水を入れたワイングラスの縁をなぞる。

もちろん適当にやっても何の変化もない。

だから水の量を調整して、何をしようとしてるか説明した上でセフィラにも手伝ってもらいながら準備を進める。

ある瞬間、空気がかすれて震える音がワイングラスから鳴った。

思ったよりワイングラスの縁をなぞる指の感覚にもコツがいるな。

コツを探りながら、不安定な音を少しずつ明瞭な音へと変えて行く。

「音の発生源は、こうして擦ることによる振動。それがグラスの中で共鳴して増幅し、音として認識される。水は音の安定のために必要だ。水の量を調整することで音階を変えられる」

前世でいうグラスハープだ。

実際やったことはなかったけど、ハープというよりもオカリナに近い音に聞こえる。

説明しながら、さらに別のワイングラスに水を入れて調整してると、ウィーリャが耳も尻尾も真っ直ぐ立てて寄って来た。

「な、なんですの! 今の繊細で美しく、儚い音は!」

思ったより気に入ったらしい。

「楽器を、今作った!?」

ポーもこっちに駆け寄って来て大興奮なんだけど、ガラスだから落ち着いてほしい。

「いや、この現象はワイングラスがこの形になった時から知られたものだよ。口をつけて縁についたワインを拭ったら音がするって記録は昔からあるんだ」

ただし、それを深く考える文章は錬金術にしかない。

またガラスの食器を使えるのなんてお金持ちだ。

だから一般的ではないし、錬金術として認知もされてない音の研究の一種として、僕はこの世界で一度だけ目にした程度。

もちろんこうして楽器にする発想なんて、前世由来だ。

僕は四つのグラスに水を注いで、別々の音階を作る。

「あ、ほら。音を鳴らすことで水面に波紋ができるの見えた?」

「摩訶不思議である。音が水を揺らしている」

「大変耳に心地よく響きます。今まで聞いたこともない音が」

アシュルが言うのに賛同してる風だけど、クーラ自身も気に入った様子でうっとりした。

「なんというか、先輩方が頼るのもわかるな」

トリキスはそう言ってくれるけど、最近は頼られないというか、僕がいないせいで参加もしてないんだよね。

「天才っているもんなんだなぁ」

「わ、私たちも、学べばきっと、先輩のようになれます」

タッドが他人ごとで言うと、ショウシがけっこう前向きに返す。

ショウシ、日本人的な謙遜もあるけど、同時に日本人的な好奇心の強さもあるらしい。

後輩たちも錬金術の面白さをわかってくれたならいいことだ。

…………なんて話じゃ終わらないんだよね。

「時間がないはずだな? だったらなんで大きくした」

「いえ、その、そんなつもりじゃ…………」

僕はその後、大幅な予定変更のせいで、キリル先輩に怒られることになった。

グラスハープはクーラが勇んでワイングラス集めて、音階にして、琴ができるというショウシが曲にする。

そしてウィーリャがワンダ先輩も呼んでさらに音の幅を広げていった。

結果、当初の予定よりも時間を取ってグラスハープの演奏を激推し。

そのしわ寄せが、総監のキリル先輩にかぶさってしまったのだった。